1 邂逅
ーー目を覚ました少年は自分の状況を確認しだした。
首が痛い、寝違えたか?
目を擦ってみると、コブがあるのかと思うほど異常に腫れていた。
何かしただろうか? 覚えていない、何もかも。昨日の記憶がない。何故だ?
「••••••というかここどこだ?俺の住んでた村か? 何が起きてーー」
立ち上がろうとして、ふと地面に手を突くとそこには母親の亡骸があった。
「・・・っ⁉︎ 母さん、なんでーー」
周りを見渡せばそこには母親の亡骸と同じように地面に横たわった状態の村人たちがあった。
「••••••そうか。怪物が村を襲って、それでみんな殺されて。俺は、母さんに」
「こんな、こんな事って。俺は、何も!」
少年は嘆き悲しみ、泣き叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
少年の叫び声を掻き消すように雨が降り始める。
そして少年の黒髪もまた、雨に洗い流されるかのように白へと変色していく。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※
「みんな、ゴメンな。こんな簡単に済ませちゃって。ちょっと村を出ることにしたんだ。すぐに戻ってくるから、その時にちゃんと弔うから」
少年は村人たち一人一人の亡骸を簡単に弔うと、母親のもとへと近づく。
「母さん、助けに来れなくてゴメンな。俺、絶対にあの怪物を殺すから。それまで待っててくれよ」
そう告げると、少年はいつもの服装でいつも使っていた道をいつもとは違う思いで、行くあてもなく歩いて行く。
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「・・・ここどこだろ。結構歩いたと思うけど、首都まではそれほど遠くないはずなんだけど」
村をでてから半日は経っているだろうというのに、周りは見渡す限り平原が続き、いたるところに怪物が通ったであろう痕跡を残していた。
「おかしいな、方向音痴じゃないから迷わないはずなんだが。それにしてもここの平原って割と広いんだな。」
遠くの方で緑の中に小さな黒い点が見える。
「なんだあれ? ヒトか、それとも獣? ••••••いや、それはないか。あんなに小さくないはずだし」
近寄ってみると確かにヒトのようだった。よくよく見てみると自分とあまり年が変わらないぐらいの少女だった。
黒いフード付きのローブにくるまっていた様で、近づけばキレイな長い銀髪が見えた。
自分と同じように住んでいた場所を怪物に襲われて1人で逃げてきたのだろうか。
「••••••とりあえず息はあるようだし死んでないな。そのまま置いてくのは後味が悪いし目覚めるまで待つか」
ーー10分後
そう直ぐには目覚めないだろう、という予想に反し少女は目覚めた。
髪が銀髪ということで、この辺りの人間ではないだろうと思っていたが、瞳の色も碧色でいよいよどこの出身かわからない。
「だいじょうぶか? 君、ここで倒れてたんだけど」
「••••••」
「えーと、もしもし?」
「••••••」
返事が無い。その上、さっきから変な奴を見るような目で見られている。••••••あらぬ疑いを掛けられてそうでなかなかに怖い。そして非常にやりにくい人種みたいだ。
「うーん、どうしようか。とりあえずここにいたのは何故だ?」
「••••••名前」
「へっ?」
見当違いの返しに不意を突かれて変な返事になってしまった。
「だから••••••名前」
「俺の名前か?」
少女はコクリと頷いてその先を促してくる。
「俺はクレス・ハザード。君は?」
「アリス」
「アリス、か。ヨロシクな」
変わった奴だ。表情から感情を読み取るのは得意なのに、全くわからない。感情が顔に出ていない様は、能面ののそれのようだ。
「ところで話を戻すけど。君はここで倒れてたんだけど、だいじょうぶか?何かあったのか?」
「倒れてた? ••••••違う、寝てた」
何てことを言いだすんだ、こんなとこで寝てた?
「寝てたって、こんなとこで寝てたら危ないだろ。肉食獣とか、••••••怪物とか」
「怪物?」
「君は見てないのか、あの巨大な獣に似ても似つかない奴らを」
「彼らは怪物じゃない、彼らは神よ。ワタシの世界の」
『神』、アリスと名乗る少女がいった言葉にクレスは、強い反感を覚えた。
「••••••あれが神だって言うのか。冗談じゃない、奴らは」
ふと、クレスは少女が自分のことを見つめてきているのに気づいた。どうしたのか聞こうとすると、急に眉をひそめそれまで感情を読み取るとこができなかった顔に、明らかに困惑しているのが見て取れた。
「••••••どうしたんだ?」
「アナタには強い感情がある。『うれしい』とか、『悲しい』じゃない、もっと別の••••••『怒り』?」
「••••••っ⁉︎」
「アナタは何に『怒り』を感じている?」
クレスは自分の心を落ち着けるために自分に言い聞かせる。
••••••落ち着け、たまたまだ。偶然に決まってる。そうじゃなきゃこの子はいったい。
「もしかして『怒り』の相手は••••••神、なの?」
「だったらなんだって言うんだ」
「今のアナタには無理ね、絶対に。アナタには力がない」
自分に力がないことぐらいわかってる! それでも、村のみんなや母さんのために!
クレスは言い返そうとした、しかし少女の言葉に言おうとしていた言葉は出てくることはなかった。
「ワタシなら、いえワタシたちならアナタに力を与えることができる」
「それは、どういう?」
「ついてきて」
少女はそう言うとトコトコと、都市のある方角とは違う方向へと歩いていく。
「ちょっと、待ってくれ。力を与えることができるってどういうことだ」
「言うの忘れてたけど、ワタシはアナタと同じではない」
少女・アリスは天を指差し続ける。
「ワタシはこの世界とは別の世界から来た」