幕間1 動き始める歯車
クレスとバルバトスの戦闘が終わり、クレスが宿へと運び込まれたちょうどその頃。
イルミス中央広場に位置する神樹、その最奥部で戦闘の一部始終を見ていた人物がいた。
壁には魔石が見てとれ、所狭しと苔や雑草、色とりどりの花まで咲いており、中央には円を描くように点在する魔石で出来ている柱が立っている。
その中心にある台座、もともとは小さな木が生えていた場所に白いワンピースを着た少女が座っていた。
その少女は足をぶらぶらさせるのを止めると台座から飛び降りる。といっても少女の身長から考えても台座はギリギリ足がつかない程度だったので、飛ぶほどではないが。
「クレス君の力はまだまだ未熟だ。それこそ今は石ころ程度の力。だからこそバルバトスに圧倒的なまでに差を見せつけられた」
少女の声は中性的であり、見た目の幼さとは対照的に大人のような落ち着きが感じられる。
「それも仕方ないことではあるんだけどね。バルバトスの方にも実力はあるのだし」
短く切り揃えてある髪の毛を弄りながら、転がっている石ころを蹴飛ばす。
「でも、君の能力はそんな程度の力じゃない。君の能力は12人の王と同等なのだから」
ここにはいない人物の将来を思い浮かべ、1人楽しく微笑む。
「13人目の王、君はどんな軌跡を辿るんだい?」
その言葉と共に少女は光に包まれこの地をあとにする。
その少女がいなくなった事が合図となり、神樹が内部から腐り始める。
クレス達が出発して何日か経った頃、突然跡形もなく崩れ去った。
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天上世界のとある都市。
1人の悪魔が通りで隠れもせずに姿を見せていた。自らの角や青白い体の色を見られても一向に構わない、そんな風に。
しかし、その悪魔を見ても誰も逃げたり恐れたりはしない。それどころか恭しく挨拶する。
それもそのはず、この都市には悪魔しか居らず、その悪魔はこの都市を治めている人物なのだから。
「バルバトス様、お帰りなさいませ。既に王候補者、及びその配下の準備は済ませております」
背後から音も立てずに近づいた女に驚くこともなく、さも当然のように振る舞う。
「そうですか、ご苦労でした。して我らが王は?」
労いの言葉をかけられた女の悪魔は恍惚とした表情を浮かべ答える。
「サタン様は現在敵軍の王との戦闘を継続中です」
「またですか。あの人は凝りないですね。兵には戦闘の2キロ圏内に入らないよう指示を出しておいてください」
女の悪魔その言葉の意図を計り兼ね、危うく首を傾げかける。自らのの主人に対してそのような事できようはずもなかった。何せ相手は同類さえも手にかける悪魔なのだから。
「了解致しました」
またしても音もなく去っていく悪魔には見向きもせず、先日の戦いを思い出す。
「クレス・ハザード、貴方はいつかこの手でたっぷりと」
微かに笑みを浮かべ、自らの城へと歩を進める。
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『ーー演者は揃い、幕はあがったーー』
少年の新たな門出と共に天上世界、地上世界共に止まっていた歯車が動き始める。
動き出した歯車は、時を刻む歯車。
そして、運命が記された歯車。
『ーー演者は全てのモノーー』
12人の王とその配下は動き出した歯車と同時に、各々の行動を開始する。
ある者は鎮圧を。
ある者は侵略を。
また、ある者は復讐を。
そして、ある者はーー破壊を。
それぞれの王の内に秘めたる想いは違えど、想いはぶつかり合う。
片方は潰え、片方は更に激しく想いを高める。
王の想いはやがて、生ある者と生なき者、その全てを滅ぼす。
最後に残る事を許されるのはただ1人の王のみ。
文明も生物も全てが滅んだあとに王だけが残る。
『ーーあがった幕は誰にもおろせないーー』
たとえ全ての王がその未来を拒んだとしても、時の歯車はそれを許しはしないだろう。
王達は求める。自らの想いを叶える事を。
その過程で王と戦う事も辞さない。
敵が王ならばまた、自らも王であるのだから。
いずれ王は民を焼き、天を割り、大地を砕き、世界そのものを破壊し尽くす。
それでも止まりはしないだろう。
『ーー演目は繰り返す時ーー』
何故なら、全ては歯車に記された時なのだから。
誰も知りはしないのだから。
全ては遥か昔から繰り返されているという事を。
全ては遥か昔に仕組まれていたという事を。
『ーーさあ、終末の開演だーー』




