24 失われる炎と新たな剣
今回ちょっと多めです
グレムの患部に手を重ねて置き、精霊への祝詞を唱える。
「光の精霊よ、汝の光で彼の者の傷を癒したまえ。……ライトヒール」
アリスの光を司る精霊の癒しの光が照射され、グレムの傷が癒されていく。
光系統の精霊術や魔術の行使は他の系統のものよりも体力の損耗が激しい。その分、効力には期待ができる。
しかし、その効力をもってしてもグレムの傷を癒すことが出来ず、一回の行使における行使可能時間の限界を迎えてしまう。
グレムの傷は多少改善されたとはいえ、尚も危険な状態であり休憩している暇はない。
アリスは時間をかけ何度も何度も術を行使し、なんとか生命維持が可能な状態まで回復させることに成功した。
「ハァハァ……終わった」
もとより消費の激しい光系統の術を長時間重ね掛けし続けていたために、座っているのも大変となったアリスはグレムの横に倒れこむ。
神樹の内部における術の行使、バルバトスから逃げる際、そして今。アリスの疲労は肉体の限界を超えており、徐々に瞼を閉じ眠りに落ちていく。
「クレス、絶対に…」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※
『炎』を発動させてから大分時間が経ち、アリスとグレムもそれなりに遠くに逃げたのを感じ取ることができた。
しかし、最初のだましうちでバルバトスの様子が変わってからは攻撃を全て避けられ、むしろ反撃を喰らうばかり。
『炎』を使っている間は『炎舞』を発動させることが出来ないため、超速移動も出来ない。だからと言って、『炎』を解除すれば体が無防備になり一度でも攻撃を喰らえば死に至るだろう。しかし、『炎』にも発動可能限界が存在するため、それほど長くは保たない。つまり‘‘詰み’’の状態なのである。
「ハァハァ、くそっこれじゃあ逃げられねぇ。どうしたら良いんだ」
自分の左手の甲を見る。
最初に見た時はよくわからない模様だったけど、今確認して漸くわかった。
これは模様なんかじゃ無くて穴だ。自らを飲み込み破滅へと導く穴。大きく暗い色をいた穴は周りの明るさのせいで更に暗く見える。
限界以上に能力を使って体を酷使すれば、この穴に生命力を飲み込まれてしまう、そんな気を起こせる。
ここまできて漸く気付かされた。詰んでいるとは思っていたが、終わっていると考えても間違っていない。
「……だったら諦めるってわけでも無いんだけどな」
考えろ。
アリスとグレムは町まで下りてるはずだ。今は頭から消し去れ。目の前の獲物だけに集中しろ。
クレスの頭の中が急速にクリアになっていき、バルバトス以外のことが排除される。
考えろ。
奴はなぜこうなった?
奴になぜ攻撃が通った?
奴に攻撃が通らなくなったのはいつからだ?
ーーそうか、そういうことか。
「なあ、バルバトス。一つ答えてほしいことが有るんだが、答えてくれるか?」
「……」
バルバトスからの返事は無い。だったら仮説を実証すれば良いだけだ。
「壁よ」
クレスは炎の玉を作った時のようにバルバトスとの間に壁を作り出す。バルバトスの視界から少しでも消えるために。
そしてその行為は、バルバトスの悪手を引き出し時間を稼ぐために一番効率的。
バルバトスは神光で壁を切り裂くが、それはクレスに当たることはなかった。何故なら
「誰がずっとそこにいるかよ」
風の浮力を一時的に解除し地面へと自由落下していたからだ。そして、この行為も壁同様時間稼ぎ。
「……」
バルバトスはクレスの行動の意図を掴めなかったが、殺せば同じと判断したのか神光をクレスへと伸ばす。
「残念、もう遅い。イラプション、壱の型・炎舞」
クレスの炎の体が元に戻り、周囲に幕が広がる。
そして、神光の不可視部分がクレスの頭を跳ね飛ばす直前、超速移動により回避する。
「ふぅ、危なかった。あとちょっとで当たるとこだった。でも、これで攻撃出来る」
両方の手に炎が集まり、武器が形成される。
左手には弓、右手には矢が。
弓に矢を添え弦を引きしぼり、バルバトスへと放つ。
バルバトスはそれを少し横にずれることで避ける。
しかし、クレスは周りの魔力が枯渇し無い限り、無限にも近い量の矢を放つことができる。そのうえ矢を一本ずつ放つのでは無く、2本もしくは3本を炎で一つにまとめて放っているため、一発一発が重たい。その分当てるのは至難の技だが、クレスにはもとよりこの矢を当てるつもりは無い。むしろ一本ずつでも当たるとは考えてい無い。
その間にもバルバトスはクレスへと近づき神光を振るう。
「やっぱり速いけど、慣れてきた」
バルバトスが神光を振るうのを見計らい、バルバトスの後方へと移動する。
「もらった!」
そして、右手に持つ矢をバルバトスの背中へと突き刺す。
ぶすっという音とともにバルバトスの背中から赤黒い血が吹き出る。
「やっぱり」
バルバトスの体は恐らく、悪魔化した時に極限まで高められるけど、そこからは少しずつ脆くなっていく。だから途中から神光を使い始めた。だったら、このままいけば勝てる!
しかし、すぐにクレスのその希望は潰えてしまう。
ぶしゅう。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
クレスはバルバトスと距離を取ったが、その際に右腕を肩から切り落とされていた。
ぷしゃー
「なん、で。」
傷口から大量の血液が飛び散っていく。その傷はクレスの意識を刈り取るのに充分すぎるほどのダメージであり、能力が解除されるのも当然の結果だった。
クレスは能力が強制的に解除されたことにより自由落下していく。
「トドメ」
バルバトスはクレスに完璧な止めを刺そうと神光を振り下ろす。
「させないよ」
しかし、それを止めた者がいた。バルバトスの右腕を切り落とすというオマケ付きで。
「⁉︎」
バルバトスは反射的に距離を取る。
「ダメじゃ無いかと思ったけど、案外間に合うもんだね。傷よ塞がれ」
クレスを支えるように持ち上げていた男は剣を鞘に収め、傷口へと触れる。すると、クレスの傷口は先ほど出来たばかりとは思え無いように塞がっていく。しかし、もとに戻すことまではでき無いのか、腕は戻らない。
「すまないけど、僕の持ってる『加護』じゃ腕をもとに戻すことまではでき無いんだ。それに出て行った血もね。と君に言っても意味ないか」
そう言って地面へと降り立ち、クレスを木にもたれさせる。
そこで漸く我にかえったバルバトスが口を開く。
「貴方は『剣聖』、ですよね?」
その問いに男が答える。
「僕はヘルムズ・シグ・カレイド。ただの剣士だよ」
そう言って男は鞘から剣を抜き放つ。




