15 契約の儀・続
人形の攻撃をギリギリのところで躱して、岩から剣を抜こうとする。しかし、思ったよりも奥まで刺さっているのか、なかなか抜けない。そうこうしている内に、人形が岩まで戻ってくる。攻撃を躱し、距離をとって誘き寄せる。人形が斬り伏せようとするが、また躱して岩まで戻り、剣を引き抜こうとする。しかし、剣は抜けずに人形がまたちかづいてくる。
クレスはそれを何度も繰り返していた。それを見ているものとしてはそろそろ飽きがくる。
「奴はなぜゆえ剣に拘る? それも岩に突き刺さっておる剣を。人形から奪えば良いではないか。」
遠く離れた岩の上でひとり呟く審判者。退屈そうな顔をして、その双眸は対象を常に捉えている。
「そろそろ飽きるではないか。早く終わらさぬか、小僧。其方の身体能力はすでに測り終えた。じゃが、試練は形式上、中断が出来ぬ」
仕方ない、と立ち上がり、その手に人形のものと同じ剣を出現させる。
「干渉はあまり好まんのじゃが、早く次に進ませんといかんからな」
クレスの前からいなくなったときのように消える。
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「くそっ、なんで抜けねぇんだよ! あの人形もさっきから邪魔だし、剣に専念できねぇじゃんか」
「苦労しとるみたいじゃな」
岩に駆け寄り、剣を抜こうと手を伸ばしたところで上から声が掛けられる。
「テメェ、急に消えやがって。今度は何しに来やがった。嫌味でも言いに来たのか?」
相手の顔をおもいっきり睨みつける。
「そうか、ならばこの剣は要らぬと見える」
剣をクレスに見えるように目の高さまで降ろす。
「⁉︎」
「無駄足だったようじゃが、致し方あるまい。これは何処かに捨ててくるかの」
「待て、待ってくれ! その剣、俺によこせ!」
「ふん、最初から人のことを睨みつけ寄ってからに。よかろう、其方に与えてやろう。その代わり、全て倒せ。試練では一体だけだったが、其方は全てだ。いけるだろ?」
「全部か、きついけど、なんとかしてやるぜ。剣さえありゃ余裕だ」
顔を不敵に歪め、手を剣の柄へと伸ばす。
「健闘を祈るぞ?」
「祈られなくても大丈夫だ」
柄を握りしめ、近づいてくる人形と相対する。
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「これで、ラストォォォ!」
振り下ろした剣が人形を頭から両断する。がしゃん、という音とともに、人形の体が崩れ落ち、砂へと変化していく。全て倒し終えた証拠なのか、自分が持っている剣や、周りに散乱している剣も全て砂になっていく。
「ふぅ、終わった。すげぇ疲れる」
「お疲れのようじゃな。大したことでも無かろうに」
目の前が霧がかったと思えば、この契約の中でよく見た姿が現れる。
「テメェ、そろそろ人の格好じゃなく自分の格好に戻れよ」
「そうじゃな、元の姿に戻るとするか」
母親の姿が少しずつ歪んでゆく。と同時に、妙齢の女性の姿が目に入る。
「ふぅ、この姿になるのも久々ゆえ、何ともしっくりとはしないの」
「••••••」
体の線は細過ぎず、目鼻立ちも整っている。長い黄金の髪に、青緑色の瞳が映え、その容姿は見惚れてしまうほどだ。
「ん? もしや、我の姿に見惚れておるのか? 其方にも可愛いところがあるものじゃな」
楽しそうに口に手を当て、子どものようだとからかう。
「うるさい。そんなことよりも、次の試練って何なんだ?」
「つれん奴め、まあ良い。試練よりもさきに我の名を名乗っておこう。我の名は、カルマ。覚えやずとも良いがの」
「かるま? 何か変な名前だな」
そう言うと、何故かわからない余裕に満ち溢れていた瞳が揺れ、心なしか、気落ちしているようだった。
「••••••そう言うな、これでも傷つく。それと、次の試練が最後だ。第3の試練、其方には過去と向かい合ってもらう。せいぜい気を張っているがよい」
カルマは、指を目の前まで持ってくると、軽快な破裂音を響かせる。すると、周りの景色がみるみるうちに変わっていく。荒野のそれだったものは、見覚えのある、しかしもう戻らないと思っていた場所へと変わる。
「其方が向かい合うべき『過去』は、この『過去』じゃ」
カルマはそう言い残し、現れた時同様に消える。
残されたクレスは、自分の生まれ故郷に1人佇む。




