12 果実と中身
洞窟の中を走る音が鳴り響く。
クレスはユグドラシルの言葉を信じ、洞窟の奥へと急いでいた。
「クレス! なんでそんなに急いでるの? 何があったのか聞かせてよ!」
「この先に進めばどうせわかる。今は話してる時間が惜しいんだ」
「だからって!」
アリスが叫ぶが、それ以上取り合わない。
「••••••わかった。絶対にあとで教えてよ、何があったのか」
アリスは仕方なくといったように、一度は保留する事にしたらしい。
「わかってる。グレムのとこに戻ったらちゃんと話す」
その言葉を最後に、2人とも黙々と走り続ける。
やがて、先の方で光が見え始めた。周りの魔石は光がほとんど無いために、突然の光に2人とも一瞬目を隠す羽目になったが、その光を見て「やっと」と思ったのは無理もないことだろう。
洞窟を抜けると、再び広間のような場所に出た。
「••••••遅かったじゃないか、2人とも。いや、むしろ早いのかな。どうも気持ちが急いてしまうよ」
広間に入るやいなや、唐突に声がする。
聞き慣れない不審な声に、アリスは臨戦態勢をとるが、クレスがそれを手で制す。
「クレス?」
怪訝な顔でくれの顔を見つめるアリス。クレスの方は声を発した相手の事をしっているようだった。
「ユグドラシル、なんでお前がここにいるんだ?」
クレスの言葉に驚くアリスを尻目に、ユグドラシルとクレスは話を続ける。
「あれ、行ってなかったっけ。ここで待ってるからって」
「果実があるのは聞いたが、お前がいるとは聞いてないぞ」
「そうだったか。ごめんねぇ、僕って自己完結するタイプだから許してね」
おどけて見せるユグドラシルに、クレスが腹を立て始める前に、アリスが口を挟む。
「ワタシを置いて話を進めないで。さっきユグドラシルって言ってたけど、それってどういう事?」
「ああ、それはなーー」
「そうだった、君には名乗ってなかったね。初めまして、僕は神樹の管理を任されている、ユグドラシルというものだよ」
クレスが答えようとすると、それは自分で言うべき事だとユグドラシルが言葉を遮り、自己紹介を済ませる。
「神樹を管理? それってどういう事?」
アリスの質問に、回答を用意していたかのように答える。
「それはね、ある種の選別。君たちに分かりやすく言うと、適正審査のようなものをする事だよ」
ユグドラシルは2人の様子を見て、話を先に進める。
「クレス君の適正審査は先ほど終わったところだから、あとは果実を渡すだけだね」
そういって、虚空から何かが出てきた。
「もしかしなくても、それがか?」
虚空から出てきたものは、ユグドラシルの手の上で、熟れた果実のような物へと変化していく。
「そうだよ、これが君に授ける果実、『大罪』の果実さ。果実は本来、製作者以外にとってはブラックボックスそのものなんだ。それは内容が、名前から推察する事が困難だからでもあるんだけど」
その先を話すべきかを悩みながらも話を続ける。
「この果実の場合は、製作者がブラックボックスにすれば危険だと判断した果実なんだ」
ユグドラシルの言葉に疑問が湧いてくる。
「それはどうしてそう判断したんだ? 異能を授ける果実なんて基本的に全部危険な物じゃないか。なのにどうしてそれだけ?」
「この果実は、食べた者だけでなくその周りの人物、使い方によれば最悪世界中を破滅へと誘う異能を授ける」
今度ばかりは2人して驚愕する他なかった。
「異能の名前は果実と同じく『大罪』。その能力の大まかな力は、災厄と破壊。同じに聞こえるかもしれないけど、そういうテーマなんだ。僕からはこれ以上は言えない」
最後にと、クレスに質問をする。精神世界と同じように。
「君は本当に力が欲しいのかい?」
ユグドラシルの説明に困惑していたクレスも次第に落ち着きを取り戻し、ユグドラシルに同じ言葉を返す。
「もちろん。俺は力が欲しいから神樹に入ってきたんだ」
あの時と同じように、一瞬ため息が聞こえた。しかし、今度は気がしたのではなく、本当に。
「••••••君には何を言っても無駄だね。仕方ない、でもこれだけは覚えていて欲しい」
ユグドラシルは短い時間ではあるが、クレスに見せたことのない真剣な眼差しで付け加える。
「使い方を誤るな、異能に呑まれるな、自分と周りを信じろ」
そして、果実をクレスへと投げつける。
「わかった。お前の忠告ぐらいは守ってやるよ」
そしてクレスも返事を返す。ユグドラシルとは違って笑顔で。




