10 洞窟の中で
穴の中は、少し入ったところですぐに横に折れ曲がり、まるで小さな洞窟のように成っていた。神樹の内部構造がどうなっているのか、いよいよ考えるのもバカバカしくなる。
「これなら精霊術使わなくて済むな」
「うん。そろそろ精霊術が解けそうだったから、落とさなくって良かった」
よほど疲れることだったのか、息が上がり、顔も苦しそうに歪めている。
「少し休むか? アリスに倒れらたら俺1人じゃどうすることもできないからな」
「ん、大丈夫。心配されなくても、いつもこんなだし、クレスよりもしっかりしてるから」
アリスの今の状態を見れば、それがいつもの憎まれ口ではなく、ただの強がりだと分かる。
やっぱり休もう。グレムには悪いけど、アリスのことを考えると仕方ないだろ。
「アリスの言うとおり、俺の方が疲れてもう歩けないから休ませてくれ。体力が無いと果実を食うのも儘ならないんだろ?」
アリスは驚いたかと思うと、すぐにどういう意図なのか考え、最後は申し訳なさそうな顔をして了承した。
「••••••わかった。じゃあ少しだけ」
しばらくして、アリスの顔色がマシになってきたのを見計らい、洞窟の奥へと進み始める。
「ところでさ、下でも思ったんだけど、ここってなんで明るいんだ?」
洞窟は広場と同じく、あちこちに水晶があるような構造になっており、光源らしきものは見当たらない。
すると、アリスは何を今さらというふうな顔で答える。
「たぶん、水晶自体が発行している。恐らくこの水晶は魔石の一種だと思う。••••••付け加えると、魔石っていうのは魔力を吸収、発散ができる石のことで、魔力を発散する時に発光したり、発熱したりするの」
どうせわからないだろうから説明してあげる、と言外にほのめかされた気分だ。実際そうなんだろうけど。
それからも洞窟は続き、さらに水晶の発光現象も見る見るうちに無くなってきた気がする。アリスによれば、水晶自体が少なくなってきているかららしいけど、俺はそれだけじゃない気がする。
不意に変な声のような物が聞こえてきた。
「?」
「どうしたの、クレス?」
「••••••うめき声みたいな。いや、それも違う。よくわからないけど、音が聞こえた気がしたんだが。アリスはなんか聞こえたか?」
「さっきから音らしい物は、ワタシたちの足音ぐらいだと思うけど」
そう言うと、アリスはついに頭がイカれた? などと言い出す。そんなわけねぇだろ、とクレスが返すと同時にそれは聞こえてきた。
ーーお前は、誰だ?ーー
「っ⁉︎」
今度こそ、はっきりと聞こえてきた声にクレスは立ち止まり、あたりを見回す。誰もいないことがわかっていても。
「本当に大丈夫? さっきから挙動がおかしいのだけれど」
アリスは本当に心配そうにクレスを見ている。だが、当の本人はそんなことには構っていられない。
ーーお前は、誰だ?ーー
再度聞こえてきた声に、今度は怒鳴るように答える。
「俺は、クレスだ! お前は誰なんだ、どこから話しかけてやがる!」
「クレス? 誰と話してるの?」
アリスはいよいよ不審に思い始めるが、そんなことは知らない。今はこの声のほうが大事だ。そんな気がする。
ーー我は、アイテール。お前は、なぜ進む?ーー
再び聞こえてきた、アイテールと名乗る声に、若干戸惑いながらも少し冷静になり、声の問いに答える。
「俺は力が欲しい。そのために果実が欲しい。それじゃ不服か?」
ーー確かに、この先には果実があるーー
声に耳を傾けていると、次第に周りのことが気にならなくなった。
ーーだが、お前に力を得る覚悟と資格があるのか?ーー
「覚悟はある。資格は正直、俺にはわからねぇ。でも、だからと言って諦めるつもりもない」
そこは、クレスとアイテールと名乗った声だけの世界となっていた。
ーーでは、力の業を持つことはできるのか?ーー
「業? そんなもん、知ったことか。何が何でも、俺にはやらなきゃならないことがあるんだからな」
ーー面白い、お前には興味が湧いてきた。せいぜい楽しむがいいーー
その声が聞こえてきたと同時に、意識がなくなっていく。完全に意識を失う直前、誰かが自分の名前を呼ぶ声がした。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※
ここは、どこだろうか。自分はどうなっているのだろうか。何が、どうなっているのか。何も見えない、何も聞こえない、何も喋れない、何も臭わない、何も触れない、何もかも感じない。
そのうちに、自我も消えかけてくる。
誰だ。自分は誰なんだ。思い出すこともできない。思い出すって何を。自分って何のことだ。わからない。何もわからない••••••
そして、突然声が聞こえてきた。
ーー起きろ、クレス君。君はいつまでそうしているつもりだい?ーー
消えかかっていた自我が形を成していき、それに合わせて五感も回復し、急速に意識が覚醒していく。そして、自分が人の形を成していないことに気がつく。
ーーやっと、お目覚めか。もう少し愉しみたかったんだけど、アイテールが後でうるさいからね。クレス君、で良かったよね?ーー
目の前にいるそれは、こちらの返答は気にしていないようで、話を続ける。
ーー君にとっては初めましてかな。僕は、ユグドラシル。君らには、神樹なんて呼ばれているものだよーー




