8 魔族の脅威
老人の口から紡がれる詠唱。詠唱が終わると、巨大な炎弾が打ち出される。それと同時に相対する人物も詠唱を終え、目の前に氷の壁を作り上げ、炎弾を防ぐ。
「さっきから、防御する気しかないみたいだが。なぜ攻撃してこない?」
グレムの言うとおり、グレムの魔法はバルバトスの魔法で完全に相殺、又は防御されている。しかし、その魔法の数々は攻撃をする気がないものばかりであった。
「理由は1つしかありませんよ。貴方ほどの術者に防御以外出来ませんから」
「食えん奴め。なら、そのままじっとしておれ」
グレムが忌々しげに睨み付けると、当の本人は寧ろ恍惚とした表情を浮かべる。
「もっと苛烈に攻め立ててくださっても一向に構いませんよ?」
バルバトスはこれ見よがしに自ら隙を作る。
その行動に対して怒りを覚えるが、自分の隙を無くすためにも冷静に対応する。
「貴様には付き合ってられん。早々に終わらせる」
グレムの使える魔法の中でも、とりわけ威力が高く、バルバトスを抜くことができる魔法の詠唱を開始する。
「其は火龍の顎、紅蓮を創りし刃、其は火龍の逆鱗、紅蓮を纏いし怒りーー」
グレムの右手に光が、熱が収束していく。
「それを待ってたんですよ! やっと、ぶつかれる!」
バルバトスの顔は丁寧な言葉遣いとはかけ離れ、凶悪なものへと変貌していく。
「我が名はバルバトス。我は狩人。王を伴い、彼の者を狩るものなり」
詠唱も終わり、右手を標的へと向け、魔法を発動させる。
「ーーブレイズ・ハウンド」
グレムの右手から放出された光が目を封じ込める。周りの草花が凍りつくまで奪った熱は、発散と同時に周りの空気を瞬時に温め、衝撃波を生み出し、地を焦がし障害物を破壊しながら、バルバトスへとその牙を向ける。
「これは、素晴らしい⁉︎ 」
バルバトスへと向かっていた暴虐の牙は、寸分違わず急所へと当たる。
直後、グレムは目を疑う光景を目にする。
「••••••ですが、狩人を倒すには不十分です」
魔法が直撃したにも関わらず、その体は何処には傷が見当たらない。それどころか、バルバトスの周りの草花は魔法の影響を受けてはなかったかのように、元気なままだった。
「なんて奴だ••••••」
目の前の光景から、言葉が出てこない。
「こんな程度で終わりでは無いですよね? グレム殿」
目の前の敵の強大さに今更ながら焦り始める。
アリス、クレス、すまない。こいつの相手は少し厳しい。そっちはなんとかやってくれーー
そして、再び詠唱を開始する。
ーーバルバトスとグレムが戦闘が再開される、ちょうどその時。
アリスとクレスは別の脅威を発見する。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※
バルバトスをグレムに任せた後、2人はすぐに神樹へと着いた。
「これが神樹。なん、だよな?」
クレスの目の前に広がる光景の中で、神樹と呼ばれるような木は1つしか見当たらず、当にそれが神樹であるのだが、聞かずにはいれなかった。
「確かに、お祖父様の話と同じ。だけど、これは」
2人の目の前にある木は一般的に大樹と呼ばれるような大きさであり、形状も特別なところがない、ただ一点を除いて。
「まさか、木の真ん中に穴が空いてるとは思わなかった」
その大樹は、その太い幹の中心辺りに大きな穴が空いていた。その穴は縦長の楕円形といった形で、ちょっとした巨漢も入れるような大きさであった。
「この穴の中ってことで間違いねぇんだよな? しっかし奥が見えん。暗過ぎるというより、深すぎるのかな」
穴の中は、夜中ということもあり、光が奥まで届かないということを考えても、余りにも暗過ぎた。そこには闇が広がっており、中を覗いたクレスを震え上げさせる。
「クレス、先に入って。多分下に落ちるはずだから、運があったら生き残れる」
「お前、人を殺す気かよ。もし深かったら死ぬじゃん。こういう時はなんか投げ込むんだよ」
理不尽な物言いに提案をして、とりあえず死の危険性を取り除く。
「その手があった。じゃあ岩落として、耳を澄ませよ」
「それだけじゃ音が弱い。鈴かなんか持ってないか?」
「これでもいいなら」
そういって、ローブの内側から紅い紐の付いた鈴を取り出す。
アリスの取り出した鈴と近場にあった手頃な岩を繋ぎ合わせ、穴の中に落とす。
はたして、音はすぐに聞こえてきた。
「••••••この程度なら大丈夫そうだ。じゃあ、降りるか」
「ん。その前に注意して欲しい。中に入れば多分敵がいる」
「分かってる。グレムのこともあるし、とっとと行くぞ」
穴のふちに縄をひっかけ、そのまま飛び降りる。予想どおり地面はすぐに訪れ、2人とも胸を撫で下ろす。
暗闇が辺りを支配し、進めないので、アリスの精霊を光源代わりにする。神樹の穴の中はちょっとした洞窟になっていた。道なりに進んでいくと、開けた場所に出る。
「ここが、例の果実がある場所か?」
「お祖父様の話だと多分そのはず。なんだけど、果実がどこにあるかは聞いてない。そこに行けばわかるとしか聞いてない」
「あいつ、手抜きしやがったな。お前もそこは聞いとけよ」
も文句を言いながらも辺りを見渡す。
その場所は公園ぐらいのわ広さはあるだろうという程、広く感じられた。地面には色々な草花が生えており、壁には水晶と思しきものまで見える。本当に此処は何なんだろうか。中央には背の低い木が数本あった。そして、そこに人がいるのを見つける。
「⁉︎ まずい、隠れろアリス!」
「急にどうして••••••あれは、人と魔族? やっぱりいた」
「だな。ひとまず、今からどうやって奴らを相手にするかだ。果実はあそこってことで間違い無いな」
さきほど出会った魔族とアリスの精霊の言うことから、接敵は予想されていた。相手はまだ気づいてないみたいだし、何事もやるなら今のうちだ。
「作戦通りでいいか?」
「ワタシは大丈夫。アナタこそ平気?」
「もちろんだ。フォローは任せたぞ」
クレスの言葉に了解とうなづく。
「果実は俺が」
「魔族はワタシが」
2人は意志を同調させ、敵を欺く行動を起こす。




