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crimson cage 【side:KING】 百舌鳥   作者: 蜜熊
第5章:琴鳥
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十漆日目ー②

となれば可能性はただ1つ。檻の内と外を分ける境目に、犯人はいる。


蕨と一緒に盗み見た瞬間の防犯カメラ、あそこにヒントは映っていた。


鳥のように見えた影は見たことがある白いここの作業着、そしてその鳥を唯一追いかけるように顔を上げて1人空を見つめていた視線がそこには映されていた。


脱獄を見てみぬふりをしていたのか、それともあらかじめ決められていた自由時間にそいつが何をしていたのかを知っていたのか。


それを知らなければ、真実には辿りつけない。


前を走る奴はどこに向かって走っているのかわからないが、ちらりと見えた空がだんだんと近くなっていることがわかる。

通り過ぎにすれ違う囚人達は俺を見ても相変わらず関心がないようにすぐに視線を外しているが、遠くから駆けつけてきた刑官はそうでもないらしい。


何とか俺と先を走る奴を捕まえようとする意志をぎらつかせていて、その1つが目の前で閉じられようとしている檻を操作しようとしている。


「邪魔するな!!」


大声で叫んでも俺の気持ちは通じずに、目の前が黒い無機質なものが落とされようとしている。


落とされる前に隙間から逃げていく奴が通り抜けざまにちらりと俺を見て、焦りながらもどこかほっとしたように口元を緩めるのが見える。


「ふ、ざけんな!」


がらがらと落とされる檻と後ろから迫ってくる気配に、動きを止められたと舌打ちする。


あと少しで捕まえられると思ったのに逃げられてしまう。このまま逃げ切れることは狭い檻の中では困難だろうが、真相を知らない仲間であれば簡単に逃がしてしまうかもしれない。


(くそっ)


「……?」


前の檻に八つ当たりしていると、何故か周りが静かになっていることに気が付く。

顔を上げれば、いつの間にか周りには黒い作業着を着た奴らがぞろぞろと集まっていて、刑官達の顔が焦りに歪んでいる。


「な、何だお前ら」


「…KINGの命令だ」


(KING?)


意味がわからないでいると、また周囲に不思議な気配がしたかと思えば黒い奴らが一斉に天井を向いている。


もしかしたら俺には聞こえない何かでKINGがこいつらに命令しているのかもしれない。そう考え着いたときには言葉が出ていた。


「おい、誰かこの檻をあげろ」


俺を見つめている無数の視線は相変わらず何を考えているのかわからない無表情で無関心なものだったが、言葉は通じていていたようで閉ざされていた檻が上がっていく。


「そこの侵入者は止まれ!おい!お前らどけ!!」


「……」


「……」


声がだんだん遠くなっていく。周りはどんどん黒色に染められていき、その先に細い道が出来ている。


その道を進んでいけばいいと導かれるままに再び走り出せば、上にあがる階段のところに張り紙らしきものが貼り付けられている。


「これ…」


瞬間に見えたものがはっきりと1枚の静止画としてクローズアップされていたものは、俺が感じたものが確かなものだと証明していた。


見えた映像で俺が不思議に思ったものは夜空に消えて行く白い影じゃなかった。


空を見つめる視線と、その鳥のような人を見つめる視線。近いのに決して交わらない視線が、異様で不思議だったのだ。


間違いなくこれは2人の関係性を示す証拠になる。


(仲間だとしたら…どうしてこいつはあんなにも悲しい目をしていたんだ)


瞬間だったし、はっきり映っていたのは一瞬だったから、最初は気のせいだと思っていた。


少なくとも檻の外にいる奴が中にいる奴にそんなことを思うのはおかしいと思っていたし、所長の対応と、最初に見せられた事務的な姿に、固定概念が出来上がってしまっていた。


こいつらの間にはどうやっても相容れない溝があって、だからお互いに無関心なんだろうと。


托卵の際に中にいる囚人も刑官も、これから死ぬかもしれない奴を見つめていた瞳と表情は一様に無関心で無表情で、だから俺も自分の考えが正しいと思っていた。


四隅を取れば勝てると思い込んでいたオセロと同じように。


だけどアップで映っている表情は間違いなく何かを悔いているような顔をしていて、空を飛んでいるように見える影をうらやましそうに見つめている。


そしてその顔は、さっき俺から逃げて行った奴と同じものだった。

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