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crimson cage 【side:KING】 百舌鳥   作者: 蜜熊
第3章:人形
22/40

?日目

珍しい。そう思った。


「でさーでさー!オレの頭を拭いてくれてさ」


奥まったデスクに座る主に聞いて欲しいと言わんばかりに付き纏っている男の声はうれしさを隠しきれず、あれこれと身振り手振りをしながら事の顛末を話し続ける。


下にいる法の中の小鳥は懲りずにこの檻に入ってきた。


それは想定範囲内であったが、いささか早かったとも取れる。普通はもう少し、この危険な場所に対して躊躇いを覚えると言うのに。


その危険をも理解出来ない無鉄砲な人間なのか、それとも危険を知りつつも真実を知るために飛び込んできた果敢な人間なのか。


「そうそう、ゲームはクリアしてきたよ」


「……」


男が言うゲームは2つの意味がある。1つ目は部屋の“ゴミ掃除”。しかし、その点に関してはきちんとゴミを掃除するよう普段から厳しく躾けられているし、男が過去1度も失敗したことがないから、その点に関して心配するものは誰もいない。


もう1つ、これは前に顔を合わせたとき、主が男に提案したものだろう。


「ばっちりだっての!『みたらし』にも次からはおっさん同伴でくんなって言っておいた」


「…?」


男の言葉に初めて椅子に座る人物が反応を示す。


「あ、あいつ、『みたらしだんご』って言うんだって。おいしそーおいしそー」


「…ダンゴ…」


若い男の声とは別方向から声がする。


声の主は暗闇にすっぽりと隠れてしまっていてどこにいたのかはっきりしないが、出所は思ったよりも近かった。


「今度お土産持って来いって言っといた」


今頃下に戻った小鳥は色々と考えている事だろう。しかし、『人形』に明確な意思はないことを知らない。


土産は純粋に、主と自分が退屈しないように何かをせがむ子供と同じで、見返りに何かを与えるからと言った汚い気持ちは含まれていない。


だから人形は、王が何かを命令すれば躊躇うことをしない。


人の急所である頭を曝け出せと言われても、相手の自由にしろと言われても、それが王の命令である限り絶対なのだ。


しかし、今人形は自分の意思を持って小鳥の話をしている。それが珍しい。


「何か、何かさ。もずについて知らないかって聞かれた」


「……」


百舌鳥、それは部屋の主が今回の騒動で下に住まう巣の鳥達に助言を与えようとしたきっかけでもある言葉。


この一件は元々下の者達に影響を与えるはずのモノではなかった。しかし結果として下では正体不明の連続殺人事件として恐れられるものに膨れ上がってしまっている。


上で処理すべきものが下へ流れて悪影響を及ぼす。あえて理由をつけるとしたら、予定調和から外れた“ゴミ処理”だ。


「だからKINGが手伝ってあげるって言ってたって言ったら驚いてた」


手伝う、それが王の意思である限り人形はそれに逆らわないのは当たり前だが、自らその提案を買って出るとは、本当に珍しい。そう、暗闇に隠れたもう1人の部屋の人物は思う。


だからこう問うてみることにした。


「DOLL…」


『気に入ったの』と。


YESNOの返事は返ってこなかったが、口調を聞けば全てがわかる。


「お前も遊びたいの?でもダメー。みたらしはオレと遊ぶんだからな」


そして遊ぶという言葉と同じ口調、同じ表情で続ける。


「だから邪魔したら殺すよ、『BOOKブック』」


王から与えられたことは人形にとっての価値全て。だから人形にとって遊ぶことも、殺すことも、等しく同じこと。

それがたとえ人形と同じく名前を与えらえた同じ永久欠番であっても同じこと。


暗闇に隠れた人物はそこまで考え、結論を出し、それ以降の思考を放棄した。


彼らにとっては自分で決断する明確な殺意はない。が、純粋さが究極の殺意へと変わることを知る者は、おもちゃを全て使いこなすたった1人しかいないのかもしれない。

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