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暁の姫君と黄昏の守護者  作者: zzz
第二章
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Act.69 [火花散る双璧]

 




 ――ひとつの光があった。


 暗闇を照らし、導く、道標たる灯りが。



 かつては輝かしくあったその燈火(ともしび)は……やがては闇に染まり、闇に紛れ、いつしか小さな種火のみ。




 それが再び燃え上がり、輝く日はいつなのか――



 それはまだ誰も知らない……。






 ************************





 ――ネロが退室した部屋に残されたのは私と父様とゼルダの三人です。


 静かに怒りの気配を漂わせる父様と一歩引いた姿勢のゼルダ。一触即発な雰囲気を漂わせる二人を見上げて途方に暮れるのは私です。



 二人は睨み合いながらも暫し沈黙し、口火を切ったのは――父様からでした。







「――話は聞いた。魔獣との契約を持ち掛けたそうだな」


「はい」


「代償は話したのか?」


「……」



 代償?


 初耳な言葉に目を丸くして父様を見上げれば、それで察したのか父様は深ーい溜め息を吐きました。



「代償とは魔獣契約における媒体であり、魔獣自身を縛る鎖であり、枷だ」



 ――代償にも様々なものがあり、魔獣に己の肉体の一部を与える事でその拘束力の強さが段階的に異なるそうです。そして相反するようにその枷の強さで魔獣自身が発揮できる力も変わる、らしく。


 拘束力が強ければ強い程、魔獣は自分の力を十全に使え、逆に弱ければ弱い程その発揮出来る力は弱い、とか。


 代償は魂が一番で、順に表せば魂>瞳>血>手指>爪、髪の毛など。その代償の部位は魔力を宿すか否か。つまりは含有魔力の保有量が関係するそうです。



「……既にルイシエラはこの魔獣と仮契約まで至っている。それをお前は何のつもりで持ち掛けた?」



 仮契約?

 知らない単語ばかり出てきて首を傾げます。


 それに気付いた父様がちょくちょく説明してくれるのに申し訳無く思います。

 すみませんねぇ、話の腰を折って。



【仮契約】とは、契約の前段階の事らしく、魔獣と契約者を繋げる絆が出来た状態の事を指すそうです。


 その状態の場合、魔獣は全ての力が封じられて普通の動物よりも弱い脆弱な存在になります。それは契約や約束事を司る狭間の神トワイライラによって為されるそうです。


 ――魔獣の強みはその強大な魔力です。穢れた所為でその魔力が暴走し狂気に染まり破壊の限りを尽くす彼ら。

 その穢れを祓った魔獣は知恵あるものとして人々に重宝されます。契約により絶対に契約者を裏切らず、その魔力を理性で操るのですから人を傷付ける事は無いですし魔獣の種類によっては立派な労働力にもなり得ますしね。




 そこまで考えて改めて父様の言葉を整理します。


 えぇと、つまりは“仮契約”により狭間の神トワイライラによって魔獣は力を封印され、契約者が代償としたものによってその力は解放される。ということでしょうか?






「お嬢様の盾はいくつあっても足りないと思いましたので……」


「そうではないだろ?」



 納得に一人うんうんと頷く私の頭上でバチバチと火花が散っています。



「魔獣の契約には心身共に負担が掛かる。それを知らぬお前ではない筈だ」



 えーと、喧嘩なら他所でやってくれませんかね?



 未だかつてないほどのバトルをする二人にちょっと思います。

 いつもは心配顔やデロデロと私や母様にだらしない表情しか見せてなかった父様が公爵としての真剣な表情でゼルダに告げます。


 正直、父様が怒る理由は何となく理解出来ます。

 ついこの間まで今生で一番生死の境を彷徨ってやっと目覚めたのですから、また負担を掛けさせる契約を行わせるのは余りに納得できないのでしょう。

 しかも私が望んで、ではなくてある種断れないようにしながら促すやり方は私も納得出来ませんしね。


 でもゼルダもゼルダです。

 何故そんな事をしたのか、言えばいいのに頑なに口を噤む彼は本当にゼルダらしくないです。




「ですが、また今回と同じ様な事が起こるかもしれません。ならば絶対に離れぬ事を契約と為せば、今回の様な事態は避けられるでしょう」



 冷静に言葉を吐くゼルダ。

 その言葉は過保護が行き過ぎた故のものだと言えるかもしれませんが……それで納得する程私も父様もゼルダの事を知らないつもりはありません。




「……言わぬつもりか?」


「既に理由は述べたではありませんか」





 ピキッと父様のこめかみに怒りの皺が寄るのを見て慌てます。




 へい、へい、へーい!!


 ストップー!!!




「そこまで!父様もゼルダも落ち着いて下さい!」



 つーか、ここでいきなりバトルとかマジでやめて!


 大陸最強とその師匠のガチバトルなんて誰も止められないんだからね!




 いざ戦闘になれば止められない事間違い無しなので始まる前に制止の言葉を叫びます。

 プルプルと震える子犬を守る様に抱えて二人をベッドから見上げれば、私の叫びにハッと理性を取り戻してこちらを向く二人。


 お互いヒートアップして完全に私の存在忘れてましたよね!?


 そんな事を心の中で叫びながら口から出るのは溜め息です。


 お互い頭に血が上っていたのに気付いたのか、気まずげに顔を逸らす二人を眺めながら私は再び溜め息を吐きゼルダに向き直りました。




「……えぇと、まずゼルダ。ゼルダにもゼルダなりに私の事を考えてくれているのは分かります。ですが、私もゼルダの言葉には疑問があります」


「お嬢様……」


「既に仮契約はしているのでしょう?ならば、この子との正式な契約は急がなくてもいい筈です。なので今回は見送る事にします。異論は認めません」



 悲しそうに目を伏せる彼に良心が痛みますがぐっと堪えます。

 ゼルダの心配も分かるし、私の事を思って契約を持ち掛けてくれているのは分かりますが、言うべき言葉も噤む彼の言う通りにするのはちょっと納得がいきません。

 きちんとした理由を教えてくれるのならば兎も角、何も言わぬつもりならばこちらもしてもその提案は素直に頷けるものでは無いのですから。



 ゼルダの悲しそうな表情を振り切り、今度は父様に向き直ります。




「それと父様!」


「な、なんだ?」


「まずはその怒りを抑えてください」



 さっきからピリピリ痛いんですよ!


 ただでさえ緊迫感のある空気に父様の怒りのオーラが混じった部屋の空気は最悪です。

 殺気ほど痛くはありませんが肌がひりつく感触を覚えるほどのそれに訴えます。


 胸に抱いた子犬もさっきからプルプル震えて仕方ありません。







「さっきも言いましたが、この子との正式な契約は見送ります。でもこの子は私が飼います」


「いや、あのなルイシエラ……」


「これも異論は認めません!仮契約ならばこの子に危険はないのでしょう?力が封じられた状態なのですから見た目通りただ子犬同然の筈です」



 違いますか?と尋ねればその通りなのか父様は否定しませんでした。



「衰弱していたのも私が側に居ることで元気になるならばその方が良いでしょう。それに無意識とはいえ助けた命です。無闇に命を奪う事だけはしたくありませんから」



 これは決定です!と二人に宣言する。



「いや、でもな……」

「お嬢様……」



 尚も納得いかなさそうな二人に冷めた目で睨み付けます。



「お互い主張を譲らないのであれば、これが妥協点であると……私は思いますけど?」



 口元は弧を描いても笑わぬ目元。

 怒りが宿るその瞳に見据えられ、いい歳した大人二人は己の過ちに今頃気付いたように口元を引くつかせた。



「それに……当事者を除け者にして話を進めないでくれませんかね?」



 静かに激怒の気配を漂わせるルイシエラにガウディは血の気が引いた顔で慌てた。それは愛する娘に嫌われたくない!という親バカな心から、だが……。




「……そうよねぇ?」



 ギィィイと部屋の扉がゆっくりと開いて、一つの声が聞こえた。



「……絶対、安静の、ルイシエラの前で、何を、して、いるのかしら?」



 ヒュウと肌を撫でる冷気。

 一言、一言、噛み締めるように言葉を吐きながらその人物はゆっくり、ゆっくりと殊更ゆっくりと足を進めながら部屋へと入って来た。



「スーウェ……」


「……奥様」



 その声に振り向けば薄紫の髪の毛を怒りのオーラに靡かせ微笑む母様が。



 あ、これ、激おこだわ



 微笑む表情とは裏腹に肌をチクチクと刺す冷気に思います。



「ガウディ、ゼルダ」


「お、おぅ」


「はい」


「ちょっと良いかしら?」



 こっちに来い。と手招きして二人を呼び寄せる母様。



「大人の話は大人だけでしましょうか?」



 ガシっと二人の襟元を掴んで引き寄せる母様はとても強かったと言っておきましょう……。



 青褪めた顔で引き摺られるままに部屋を出て行く二人を眺め……私は朝と同じ行動をします。




 手と手を合わせて……南ー無ー




 合掌して見送ります。



「く〜ん」



 何それ?と言わんばかりに鳴く子犬を優しく撫でてその顔を覗き込みます。




「――今日から宜しくね」



 頭から手を撫で下ろし身体に触れれば、こちらこそと言うように鼻先を寄せてくれる子犬。


 湿って冷たい鼻に少し驚きましたが、そのふわふわでモコモコな毛並みに酔いしれます。




 嗚呼やっぱり、もふもふは正義ですよね!




 誰に言うでもなく心の中で叫び、私は暫しの間うっとりとしていたのでした……。





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