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暁の姫君と黄昏の守護者  作者: zzz
第二章
61/79

Act.60 [それぞれが進む岐路]

 


 ――それは一体誰が導いた未来なのだろうか……?



 誰もが予想も、予測も、考える事さえしなかった未来――それを彼女は見事掴み取った。


 過去、現在、未来の“何か”が見守り、導いたその道の先。



 彼女が突き進むその道には一体どんな未来が待っているのだろうか。



 全ては不確定のものに溢れた未来。


 彼女はその中の“何”を掴み取り、そして導くのか。


 女神ルーナはそれを見極める為にも星屑の未来を見据える。



 全てがハッピーエンド。――そんな有り得ない未来が現実となる事を期待と祈りを込めて……。




 そして時は《ルイシエラ・ロトイロ・ヴァイス・アウスヴァン》が七歳となってから……願いの星屑が一つ、瞬いた。






 ********************




「ふぐっ!」


「お嬢様、目で見るのではなく感じて下さい」




 ――目の前の地面に顔面からダイブし、間抜けな声が口端から零れた。


 じゃりと頬を細かい石や砂が傷付けるのを感じながらも手足に力を込めて立ち上がって形振り構わず走る。


 そんな私の後ろから同じ様に走りながらブンブンと風を切って何かを振り回すのは完璧執事なはずのゼルダさん。



 どうも、七歳の誕生日を目前にしている私こと、ルイシエラ・アウスヴァンです。



 今は生死をかけて(私的には)追い回されています。背後のゼルダが振り回すのは身の丈ほどのハンマー……そうハンマーなのですよ!

 でも一応怪我をしないように柔らかい素材で作られ、まぁそれを見た瞬間色からしてもピコピコハンマーじゃん!と内心突っ込んだ私がいます。

 流石に音まではしなかったですけど……。


 そんな大人サイズのピコピコハンマーを手に持つこれでこそ執事!ってな感じのゼルダとのコラボは笑ってしまいました。まぁその後あの極寒な眼差しで見つめられたのはトラウマになりかねないですけどね!



「お嬢様、足元が疎かになってますよ」


「っ!」



 足元に引っ掛けるように振り回されたピコピコハンマーを避ける為にもその場で跳躍します。



「甘いですね」


「ぬぅ!」



 空中に逃げてしまえば逃げ場はありません。それを指摘されぽんと背中にハンマーが当たる感触。


 チラと背中を見れば服に赤いインクの跡がありました。


 嗚呼!これ洗うの大変なのに!



 そう思いますが今の私はほぼ全身に赤い斑模様が。



 背後のゼルダを見上げればニッコリと笑うゼルダさん。ぽんぽんと手慰めにハンマーをイジり、彼は無情にも追いかけっこを再開します。




 ひぃぃ!と悲鳴は口から出ることなく喉奥に引っ込んでいきます。



 ゼルダが振り回すハンマーを避けて、走って、時にはジャンプし受け身を取って転がればゼルダは良くできましたと言わんばかりに頷きます。



 そんなじゃれ合うような追いかけっこですが、これはれっきとした鍛錬でした。

 これは攻撃を予想し、見切る訓練で、攻撃が当たった証としてハンマーは判子の様にインクが付いているので服にインクが付くという……。



 五歳の誕生日を迎えてから私自身、体調を崩す方が珍しい、となるほど身体は丈夫になりました。


 以前まで頻繁に体調を崩していたのは私の身体が、自らの魔力に慣れていなかった所為でもあるので身体が成長した今はそう寝込む事も無くなったのです。


 そうなればいざ始まったのは戦闘の訓練です。



 しかしまだ幼い身体に過酷なものは合わないだろうと、最初は体力を付ける目的で走り込みを、そしてある程度体力が付けば今度は攻撃を避ける訓練を。

 私自身、自分で言うのもあれですが、華奢な体躯なのでまずは筋肉を付けるより素早さを武器にしましょうとゼルダに言われました。


 そしてこの魔眼を活かした攻撃を見切る力を付けるためにこんな訓練をしています。




 傍から見ればギャグのような絵面でしょうが、こっちとしては真剣……というかマジで命が掛かってると思ってます。

 いざ攻撃を私に当てる瞬間は力を抜いて手加減してくれるゼルダですが、あの怪我なんてしなさそうな柔らかい素材で出来てるはずのピコピコハンマーが地面に当たった際、ドゴッォ!と大きな音を立ててクレーターが出来たのを間近で見た私は一気に血の気が引きましたとも!


 それからは死ぬ気で逃げてます。あれが頭とかに当たれば……そう考えればそりゃあ死ぬ気で走りますとも!



「お嬢様?考え事をしている余裕があるのですか?」


「っ!」



 エスパーなゼルダに指摘されぎくりと肩を揺らします。


 そうしている間にも右から左、振り抜かれたハンマーを避けますが、目の前を通り過ぎるはずのハンマーはいきなり掬い上げるように下から上へと曲がり慌ててもう一歩後ろへと退きます。


 チッと前髪を掠っていくハンマーに冷や汗が止まりません!




「お姫さん頑張れー」


 背後からやる気なさげに掛けられる声。

 チラッと背後に目を向ければそこには木の根本に腰を下ろしこちらを見ているヨルムが。


 ゼルダが稽古をつけてくれている間は暇なヨルムは眠そうに欠伸を噛み殺しています。



 応援するならもうちょっとちゃんとしてくれないかな!?



 眠さを隠さないヨルムにイラッと来ます。




 しかしそんな事を思っていればヒュッ!と風を切る音。

 自分の身に迫るハンマーの気配に頭を下げ避けます。



 右、左、上からと振り下ろされるハンマー。

 時折入るフェイントも集中して見切り当たらない様に避けては走り、ジャンプしては転がって受け身を取ります。



 それからどれ位の時間が経ったのでしょうか。

 時間の事など忘れ、目の前の事に集中していた耳が拾う草木を踏み締める音。



 それに気を取られ、避ける動作に一瞬遅れが生じました。


「っ!」



 目の前に迫る影に息を飲みます――が。


「――失礼します。そろそろお時間です」


「おや、もうそんな時間ですか」




「ッツ!!!」



 ぴたり、鼻先数センチで止まったハンマー。


 一瞬遅れて風が顔に吹き付けてきます。

 あれだけ力を込めて振り回していたにも関わらずぴたりと空中で停止するハンマーは流石としか言えませんが、あと少しで顔面直撃だったのを思えばどっと冷や汗なり様々なものが吹き出します。

 カチカチと鳴るのは私の歯です。マジ、あぶねぇっ!!



 スッと静かに下ろされたハンマーを見て余りの恐怖に腰が抜けて地面に崩れ落ちました。




「本日のここまでに致しましょう。お嬢様は一度お着替えを、ベルン、ヨルム、後を頼みましたよ」


「「はっ!」」



 う、う、うぅぅう……こ、怖かったぁぁあ!!!




 血の気が引いた顔で震えていれば、あれだけ動いたにも関わらず息切れは勿論汗すら掻いて無いゼルダがピコピコハンマーをベルンに手渡しながらこちらを振り向きます。



「お嬢様、朝食後は一度反省会を。その後は領内についてお話をさせて頂きます。午後からはお休みのご予定です」


「わ、分かりました……ありがとうござい、ました」



 立てないなりに顔を上げて挨拶します。それに返礼をして屋敷への方に進んで行くゼルダを見送り……半泣きで地面に横たわります。



「あ、危なかったぁぁあああ!!!」


「大丈夫か?姫さん、間一髪だったなぁ」

「お嬢様大丈夫ですか?」



 ヨルムとベルンが私に近付き顔を覗き込んできますがそれに返答する気力など皆無です。


 土と草に塗れ赤インクだらけの服。



 髪の毛も勿論汚れ草が絡まっています。

 避けている間は気付かなかった疲労と切れる息に疲れ果てていれば目の前に差し出される手と水の入ったコップ。


 それぞれが私を介抱してくれますが、私としてはヨルムの手は叩き落したい衝動に駆られます。



「ヨルム、暇なのは分かるけど欠伸ぐらいは我慢してよ」


「ええ、オレだって頑張って姫さんを応援したんだけどなぁ」


「ヨルム……お前そんな事してたのか」


 差し出された手を取り身体を起こし、水を飲んで喉を潤します。

 ベルンが呆れた表情でヨルムをジト目で見ますが当の本人はどこ吹く風。


 この様子ならいくら言ってものらりくらり躱す事を身を持って知っているので、私もベルンも小言を言いますがそれ以上は言いません。

 互いに目を合わせ深いため息を一つ。



 それがヨルムの良いところでもあるんですけどね!




 *




 花咲く庭園は日の光を燦々と浴び、美しく色鮮やかに咲き誇ります。


 麗らかな春が過ぎ、輝く太陽が一番照り付ける夏が過ぎ、そして今や束の間の陽気にこの季節に咲く花々が最後の彩りを添える秋。

 凍てつく寒さに入る前の鮮やかな紅葉とこの季節にしか咲かない特別な花が庭園を彩ります。



「そういえば、お姫さん今日の午後はどうするんだ?」


「うん?今日もいつも通りに湖の方に行くよ」


「ああ、リカルドに会いに行くのか?」


「うん、たぶん今日が最後……だしね?」



 そんな庭園を見下ろせる廊下を足早に歩き食堂へ。

 既に朝食の時間に少し遅れてしまっているので急がなくてはいけません。


 足は駆け足で、でも慌てている事を顕にしないように優雅にスカートの裾を捌き、表情はにこやかに。

 振り返る事なくヨルムの問い掛けに返し、廊下の角を曲がれば静かに廊下の隅で待機する彼に表情を緩めます。



「ネロ!」


「おはようございますルイ様」



 スッと静かに一礼する彼に同じく朝の挨拶を返します。



「おはよう。もしかして待ってた?」


「いえ、お迎えにあがろうと思っていたのですがちょうどお声が聞こえたので」


「そう、もしかしてもう父様と母様が待ってるかしら?」


「いえ、ご当主様はいらっしゃいますが奥様がまだですので大丈夫ですよ」



 真っ黒な髪と瞳を朝日に照らし彼は少し微笑みます。

 私がネロと名付けた転生仲間の彼も同じ時を過ごしてその姿は初めて会った時よりも成長しています。


 今の歳は大体十二〜十三歳ほどでしょうか?

 ネロ自身自分の正確な歳は分からないそうなので大体、としか言えませんがどうやら初めて会った時は栄養が足りないのと過酷な生活により成長が芳しくなかったらしく、私の一つか二つ上かと思っていたのが我が家に来てからは十分な食事と休息を取った彼はめきめきと背が伸び年相応に成長しました。


 数年前まで同じ位の背丈だったのに……今やネロを見る時は見上げなければなりません。


 ネロの胸元までしかない自分の背に男の子の成長は凄いなぁと思いながらもその背丈を私にも寄越せ、と願望を心の中で呟きます。

 だってそうすればそう簡単にベルンやヨルムにおんぶや抱っこされずに済みそうですし!



 そんなネロはパリッと糊のきいた白いシャツに黒いベストを身に纏い身嗜みも綺麗なものです。

 無造作に、整える事もしていなかった髪の毛も短く切り揃え、簡単に整えてありぱっと見精悍な少年執事そのものです。


 そんなネロは今や私付きの従僕で、将来は私専属の執事を目指して日夜ゼルダから厳しい指導を受けています。



「――それでは、お嬢様。お手をどうぞ」



 くすり、と笑いを零しながら差し出された手。 

 いたずらっぽく笑う彼に私も笑みを浮かべます。どうやら食堂までエスコートしてくれるようで。




「ふふっ、宜しくお願いするわ」



 その手に自分の手を重ねてくすくすと笑います。



「んじゃ、ネロ坊が来たならオレは一旦下がるよお姫さん」


「うん、ありがとうヨルム。ベルンに引き継いで後は休んで。あ、でも今日の午後は森に行くからルーナに動きやすい服の用意を、頼んでいい?」


「勿論。仰せのままにってな」



 そう言って別れるヨルムを見送り今度はネロと共に食堂へと向かいます。



「一応リカルドには手紙を出しておいたよ」


「ありがとうネロ!お陰で擦れ違わずに済むわ」



 トコトコと歩きながらネロに言われた言葉に破顔します。

 他の人がいる時には使用人として丁寧な言葉遣いをしてくれるネロですが、こうして二人の時は砕けた口調にしてくれて嬉しい限りです。

 それに元々前世で妹さんが居たからか面倒見も良く、気配りも細かいのでさり気なく手を回してくれる事も多く助かります。


 ちなみに少し前にネロにリドを紹介したのですがどうやら二人は相性が良かったらしく、私がいなくても仲を深めているみたいで……ネロもお使いなどで赤獅子騎士団本部に行く事もあるので順調に友達として仲が良いそうです。

 まったく羨ましいことですけどね!


 けしからん!と思いながらも二人の仲が良くなることは歓迎します。やはり友達というのはかけがえのないものですから。



「ネロも今日は一緒に行く?」


「いや、オレは止めておくよ。今日は二人で楽しんでおいで」


 そう言って微笑ましそうに笑うネロに少し恥ずかしくなります。



「リカルドもルイと二人の方が嬉しいと思うし」


「そうかな?」



 リドもネロが居たほうが嬉しいと思うけど?と首を傾げますが、ネロは笑うだけで何も言いません。



 ――あともう少しでリドはこのリーベ地区から居なくなります。


 リドも十二歳になり王都の騎士学校に入ることが決まったのです。出発は来週から。


 たぶん今日を逃せば私はもう会えることは出来なくなってしまいます。

 それを知っているネロは二人だけで会っておいでと送り出してくれました。



 ゼルダにも、ヨルムとベルンにも許可は貰っているので、ならば。と心置きなく会おうと思います。




 餞別として渡すプレゼントを握り締め、喜んでくれるかな?と不安と期待を込めて窓から空を見上げます。




 今日は雲一つない秋晴れの日。



 門出には丁度いい日でしょう。











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