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暁の姫君と黄昏の守護者  作者: zzz
第一章
46/79

Act.45 [守られた約束]

 



 ――殺せ!



 それはどこからか聞こえる怨嗟の声。



 ――殺せ!



 馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返すその声に辟易する。



 ――殺せ!



 空回る恨み辛みの念に嘲笑う。



 ふざけるな。

 人の心を、想いを決めつけるな。

 何を言われようとも、何を見せられようとも、絶対思い通りなんてなってやらない。


 ()()がオレの理性を、心を、強くする――。

 優しい世界を知っている。

 残酷な現実を知っている。



 だからこそ、ただの怒りで、ただの悲しみで思い通りになると思うな。



 かけがえの無い繋がりを知っている。

 大切な、愛しい感情を知っている。



 それこそが、――オレを形作る精神こころの支え。




 *********************




「――平和ねぇ」



 ぽつりとつい言葉が漏れた。

 目の前には知り合いなのかほっとした表情を浮かべる獣人の少女と見た目日本人っぽい少年。


 暖かな日差しに照らされた部屋の中で、それはとても穏やかな光景だった。

 この子達をどうするべきか、悩んでいたのも思考の彼方。唯々平和な雰囲気にこちらものんびりとしそうになる。




 ――いやぁ、この前の一日だけでも内容の濃い一日だったからなぁ



 私にとっては昨日の事みたいだけど、約一週間前の一日を思い出す。

 しんどい風邪を引きやっとベットから抜け出せたと思えば昼頃から突撃してきたティリスヴァン公爵家一家。

 闇堕ちしかけていた同じ祝福者のレイディルを救えばまさかの魔人と堕骸盗賊団の登場。


 それに加えて闇堕ちした妖精の叫びを受け止め、重傷を受けながらも知り得た情報を父さまに伝え、ベルンとヨルムを少女の為に向かわせた所まで良かったのですが……夜中に目覚め、父さまやベルン達を出迎えればまさかの穢れた闇を纏わせていた騎士団員たち。

 唯でさえ無理していたのに無茶を重ねて闇を祓い、昏睡状態に陥る私。


 いやぁ、本当に濃い。内容が濃いわぁ。



 そうしみじみ思います。

 その所為か、この穏やかな雰囲気にぼーっとなりますが軽く頭を振って思考を切り替えます。



 平和ボケするのも良いですがまずは片付け無ければならない事がありますしね。





「――さて、色々聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」



 感動の再会に水を差して申し訳ないけど、時は金なり。時間は有限。

 決めることはさっさと決めとかないと困るのは彼女たちなので声を掛ける。



「あっ!え、あぅ」


「君は……」



 こちらの事をすっかり忘れていたのかハッと我に返る少女に警戒の眼差しも隠しもせずこちらを睨みつける少年。

 言葉にならない声を発しつつもじりじりと少年から距離を取る少女に苦笑する。


 いや、怒ってないから大丈夫よー



 少女はアルビノなのか、美しい白銀の髪と真っ赤な瞳をしていた。

 全体的に色素の薄い色は決して魔力の属性だけではないのだろうと思う。血管さえも薄っすらと見える白すぎる肌にちろりと見えた腕はまるで木の棒の様に細かった。


 先程は無我夢中で抱き着いてしまったが抱き潰さなくてよかったと心底安心する。



 そんな少女から傍らの少年に視線を移せばこちらを見つめる瞳と目が合う。

 黒は闇を宿す色。今や禁忌の色とも言われているが、彼のその色は決して穢れたものではなかった。

 そんな白と黒を纏う少年少女に精一杯の笑顔を向ける。

 内心警戒心バリバリだわぁーと思いながら。



「こんな格好でごめんなさい。ついさっき起きたばかりで、まずは二人の事情を聞きたいの」



 どうぞ座ってといつの間にか用意されていた対面の二つの椅子を指し示す。

 彼等と私の丁度中間辺りの両脇にはベルンとヨルム。後ろにはゼルダが控えていた。



「ああ、そう言えばゼルダ。皆は?」


「今は人払いをしておりますので、他の者は余程の事がない限りは来ないでしょう。そうそう、料理長、ルーナ、フォグの三人が今回の事に関してルイシエラ様に言いたい事があるようで、――どうかご覚悟を」


「え゛!ちょ、な、なんで料理長まで」


「さぁ?」



 ずっと見てては座りにくいかと、戸惑う二人から手元のカップに手を伸ばして尋ねた答えに手が震えた。

 ルーナさんはまだ判る。私付きのメイドだし、今回は無理が過ぎたと自分自身思っているからたぶん自分を大切にしろとかそんな説教だと思うけど何故に料理長!?

 百歩譲って副料理長のミレイヌさんとかならまだ納得できるんだけど!?


 いつも飄々と柳のような男を思い浮かべて頭を振る。え、なんか嫌な予感バリバリなんですけど。

 しかもフォグさんも、とかって完璧正座でのお説教コースだと思うんだけど。



 それ程まで屋敷の皆に心配かけたと言われればそれまでだけど、余りの顔ぶれにブルブルと手が震えカップの水面にさざ波が立つ。

 いや、落ち着け自分。もしかしたらそこまでひどくないかもだし!み、みんな優しいからだ、大丈夫だと、お、思う。



 誰に言うのでもなく心の中で自分に言い聞かせます。



「お嬢様」


「甘んじて受けるんだな」



 ベルンとヨルムから生暖かい目で見られました。

 くそっ味方がいない!




「……いや、うん。今回ばかりは大人しく皆に怒られるよ」


 えぇ、薄情な二人に期待なんてしないもんね!



 ちょっとやさぐれつつもお茶に口を付けます。

 ふんだっ今回確かに無茶したけど頑張ったのに……いーもん。いーもん!リドに会ったら褒めてもらうんだから!



 ぐちぐちと心の中で文句を呟けばスッと細まるゼルダの目線にサッと目を逸らした。

 ゼルダのエスパー能力は割りと本気でマジなやつだと思う。



 そうしてお茶を飲みつつもぼーっとテーブルを見つめます。


 お茶は嗜好品の紅茶などではなく薬草で作ったお茶のようで薬っぽい苦味を感じましたが、蜂蜜を加えているらしく優しい甘さと香りに独特の苦味や香りを気にすること無く飲み干しました。美味しい〜


 そう言えば一週間寝込んだ上に内蔵にダメージを負っているんですものね。じんわりと身体を温めてくれるお茶が五臓六腑に染み渡ります。




「ほら、大丈夫だろ?お姫さんはお前たちに危害を加えやしないぞ?」


「それにお嬢様のお陰で今のお前たちがいるんだ。その態度は流石に失礼だぞ」



 のんびりとお茶を飲む私に警戒しても無駄だと言わんばかりの声。

 ベルンに至ってはいい加減にしろと苦言を呈する程です。

 二人に促されおずおずと対面の椅子に腰を下ろす彼女たちににっこり笑いかけます。



 さてさて、本題の前に話を聞かねばなりませんからね。


 と、その前に。



「そう言えば自己紹介がまだだったよね?もしかしたらもう聞いて知っているかもしれないけど、私の名前は《ルイシエラ・ロトイロ・ヴァイス・アウスヴァン》――この名に置いて貴方達の身の安全を保証するわ」




「え」

「な、なんで……そこまで?」



 正式に名乗った名前はトワイライラの誓約が掛けられます。例え一方的なものだといえど約束として口にした言葉は名と共に魂に刻まれます。

 流石にこの意味を理解しているのか、息を飲む二人。


 ベルンやヨルム達も驚いているみたいですが口を挟むことはありませんでした。




「ふふっなんでだと思う?」



 問い掛けには問い掛けを。意地悪でしょうがクスリと笑い優雅にお茶を一口。

 そんな私を鋭く睨む少年は静かに口を開きます。



「……オレ達に何をさせる気だ」


「――そう来るとは思ってなかったわ」



 というか、私よりかは少し上でしょうが子供が言うことじゃないと思うんですけど。

 別に恩に着せようとか、利用する為では無かったのですが……。


 現状をきちんと理解し、その上で考えて欲しかっただけなのに荒んだ目をしながら拳を握る少年に同情します。

 そうしてまるで猫が毛を逆立て、警戒し、威嚇するかのようにしてこなければならなかった今までの生活。それは確かに良いものではなかったのでしょう。

 しかし今は私の名において身の安全を約束した状態。その対価は口にしなかったので名の誓約を知っているならば理解してくれても良いのに……。

 それでも拭えぬ疑心暗鬼の心。人を疑わなければ生きて来れなかったそれに少しだけ悲しくなります。



「心配しなくても何もしないし、させないわ。ただ……ただ、知っていて欲しかっただけよ。貴方達はまだ子供で、守られるべき存在なのだと。まぁ同じ子供の私が言えたものじゃないけど」



 苦笑を浮かべながらきっぱりと口にします。

 目の前の二人よりは確実に年下であろうとも、私は精神年齢ならば成人越えてますし、それに“持っている者”としての務めと義務は僅かながらも理解しているつもりです。偽善だろうが、同情だろうが、彼等を守る理由が私にはあるのです。


 それは彼等がこの地で生まれ、そして生きているから……。

 我がアウスヴァン公爵領の領民として、民を守り導くのが私達領主の務めであり、義務です。

 まだ幼い私ですがそれでも公爵家の一員として、きちんとその辺の意識は持っているつもりです。


 それを踏まえれば彼等を助けたことは何ら特別な事ではありません。

 それを非難したいのならばすればいい。だけどこの世界で共通の意識として『子供は守られるべきもの』というものがあるので私は決して間違ってはいません。




 だけど……訝しげにこちらを見る少年の隣。

 震える肩を隠しもせず、ぎゅっと握り締められた膝の上の手の平。



 少女は着ていた服に皺が寄るのもお構いなしに固く握ります。





「な、んで……」



 なんで、どうして?と呟く言葉は小さく、ぼそぼそとしたモノでしたがそれでも部屋に静かに響きます。

 俯いていた少女が目を上げれば――虚ろに淀んだ瞳。感情を削ぎ落とした能面のような表情。



 嗚呼――、あの子が助けてと、あんなに叫び望んだ訳が、今、解った気がします。




 ぎゅぅうと徐々に込められる力と共に感じる高まる感情の気配。

 荒くなる呼吸は感情を押し込めようとしているのか、静かに深呼吸をしようとしますが、早くなる呼吸はそう簡単に静まりません。



「なんで、か。そうね、それは貴女に、貴方達に生きていて欲しいと願った存在がいるから、かしら」



 そう、あの妖精が、そして私が……生きて欲しいと、助けたいと思ったから。


 正直、彼等のような存在なんてこの世界にはごまんといます。前世の日本のように戸籍がしっかり管理されているところなんて逆に珍しいですし、人の生死なんて紙のように軽い所だってあります。日常的に人が死に、奴隷のように弱者は扱き使われ虐げられる事など普通の場所だって……。

 彼等はとても運が良かった。一番はそれに尽きるでしょう。

 ここが奴隷などの存在を許さないアウスヴァン公爵領であり、そして悲劇的な事件があった村の生き残りで、そして妖精が心を傾けた少女がいた。

 それが一つでも欠けていれば私もまた彼等に対してそこまでの庇護を約束はしません。


 私だってまだ子供であり、いくら次期公爵としての勉強などを学んでいる身でも、アウスヴァン公爵家の令嬢だとしても、そこまでの権限はまだ無いのですから。

 しかしゼルダ経由ではありましたが父さまから許可を私は貰いました。それもまた一つの幸運でしょう。

 父さまがこの件は自分で片付けると決めてしまってたら私の意見など通ることは万が一にも無かったかもしれないのですから。


 でも今、全ての采配は私が握り、彼女たちの身の安全も私の一存で決めれる状態です。

 だからこそ、私の全てを懸けてあの妖精の願いを、そして私の望みを叶えようと思ったのです。





 そうして言葉を選びつつ告げた私。

 しかし少女の感情は抑えられること無く、爆発しました。




「――なんで、なんでっどうして!?そんなっそんないみないことするの!?そんな、むだなことするの?!かちないのに!いきているいみなんてないのにっどうして?なんで?わからないっわからないよ!」



 感情の発露と共にぶわり、膨らむ毛並み。

 それは怒りなのか、慟哭なのか、虚ろだった真っ赤な瞳に苛烈な程の強い光が宿ります。


 でも、紡がれた言葉は悲しい言葉でした。



 なんで放おってくれなかった!?と叫ぶ声。

 死を願い。憧れる言葉。




「お、おい」


「っはなして!さわらないで!どうして、いきているかちがないのにっし、しにたかったのにっ!」




 余りの興奮状態に落ち着けと少年が手を伸ばしますが手酷く払われた手。それに傷付いた表情をする少年。

 同じ言葉を繰り返し、叫ぶ少女。「死にたかった」と何度も何度も涙ながらに叫ぶ言葉。

 それは本当に、願っていたのでしょうか?



 あまり喋ることも無かったのか、舌っ足らずで縺れる言葉を必死に繰り返します。

 何故自分を助けた!?どうして死なせてくれなかった!?とその言葉しか知らないと言わんばかりの叫びに、流石の私もぷちりと来ます。



 最初こそは少女の激情を受け止めようとした私ですが、少女の言葉は私にとっては何を置いても許せない言葉でした。

 生きたいと願っても死ぬしか無かった前世。女神ルーナのお陰で記憶を持ったまま転生という形で今の生がありますが、それでも志半ば、若く死んだ前世に未練は少なからずありました。あの世界でしたかったことは沢山、あるんです。

 転生させてもらったことに後悔はありません。ですが、それでも……思う所は色々あります。


 今生だって将来死ぬ運命を知っています。それを回避するために必死に考えて考えて行動しているんです。

 そんな風に「生きたい」と願い望む私の前で「死にたい」と口にするなんて……それこそ喧嘩売っているようなもんですよ!


 この世界の広さを知らないくせに、もっと美しいものがある事を知らないくせにっ……そんな簡単に命を捨てるような言葉吐かないでよ!!





「――いい加減にしなさい!」


「っ!」



 カッと頭に血が上っているのを自覚します。でも堪え切れない怒りに少女を睨みつけます。



 価値が無いですって?生きてる意味がないですって?


 そんなのっそんなの勝手に決めて諦めないでよ!!




「お、お嬢様落ち着いてください」


「おいおい姫さんあまり興奮すると体調が……」



「二人は黙って!」



 心配してくれるのは嬉しいけど今はいらない!


 ぎっと睨み怒鳴ればぴたりと口を閉じる二人。

 私は怒髪天付いたまま椅子から飛び降ります。




「ひっ!」


「――誰が、誰がっ!貴女にそんな事を言ったの?!貴方に、価値が無いですって?意味がないですって?無駄だと?!そんな訳無いでしょう!勝手に自分の価値を捨てないでよ!」



 ぶわりっ私自身も怒りに何かが膨れ上がるのを感じます。

 唸るように言いながら近づけば血の気が引いた顔で小さな悲鳴を上げる少女。

 今の私は目を釣り上げ、怖い表情をしている事でしょう。



 でも抑えようとも思えない怒りは少女に対しては勿論ですが、何よりその言葉を少女に吐いたであろう周囲の人間に向けて高まります。

 少女の死にたいと願った言葉に嘘は無いでしょう。でもそれはどこか薄っぺらい、誰かに言わされている感がありました。

 聞いた言葉を繰り返し唱えているだけのような、その意味を本当に理解しているのか?と思うような、それはたぶん少女が心の底から願ったのではなく暗示の様に繰り返し聞かされてきた言葉なのでは無いかと思います。




「今まで貴方がどんな環境で生きてきたか知らないけどっ!もしかしたらそれは全て周りが貴方に投げつけてきた言葉かもしれないけど、価値っていうのはね人に決めつけられるものじゃなくて自分で定めるものよ。どんなに他人が貴方の価値を決めてたって貴方自身が自分の価値を見出さなきゃそれこそ意味の無いものよ!それに助けて無駄だって?そんな訳無いでしょう!少なくても私や、そこの少年にとって貴方を助けたことは決して無駄では無いわ!」



 矢継ぎ早に喋った所為で息が切れます。荒い呼吸をしながらも脳裏に思い描くのは前世でお世話になった人生の先輩たちです。



「知っていた?命って言うのは決して自分一人だけのものではないのよ。人と関わり、世界の中で生きていく限りその命は貴方だけのものではなく、私やそこの子の命と同然よ。だからこそ人は互いを守り、守られ、関わって生きていくの」



 だからこそ、どんな事があっても自分を捨ててはいけないよ。と優しく諭してくれた人がいました。



 前世の私は産まれた時からずっと病院住まいで外に出ることなど殆どありませんでした。

 両親には想像も付かぬ苦労をさせてしまったでしょう。お互い共働きで忙しい中、少しでも時間を作って病室に顔を出してくれる日々。

 体調は悪化しても良くなることはありませんでした。産まれた時から既に余命を宣告されている中、弟が産まれたのを機に自分は両親にとって要らない子なんじゃないかと悩む事は多かったです。

 だからこそ焦燥感にかられ病室を抜け出したり、食事を抜いてみたり、自分の命の価値について私も考えた時期がありました。

 もう十分愛してもらったから、育ててもらったから、そんな気を使ってもらう価値など自分には無いのだと口にした時もありました。

 その時の周囲の反応はそれはもう、烈火の如く怒り狂って非難轟々。でも今ならみんなの気持ちが分かる。

 それはふざけるな!と叫びたい程の怒りと悔しさ、そして悲しみです。






 けほっと咳き込めば近寄ってくる配下二人を手で制します。



「……価値が無いですって?“あの子”が望み、そして私が願ったその命に価値が無いなんてもう誰にも言わせないわ」



 ぎしり、一気に喋り怒鳴ったせいか肺が軋みます。ですが、胸を張り堂々と告げます。価値が無いのだと嘆く少女に。

 無意味な命なのだと叫ぶ少女に、そんなに価値が欲しいならあげましょう。この世界で最も高価な価値を!




「――聞きなさい。例え世界から疎まれ忌み嫌われる獣人でも、華の妖精がその生を望み、平穏な人生を願った貴方の命。この国、ジゼルヴァン王国の三大公爵家が一つ。アウスヴァン公爵家の一人娘、私が……ルイシエラ・アウスヴァンが助けるに値するのだと」



 女神ルーナの祝福者が、大国の王族の血すら引き、王位継承権すら持つ人間が助けたいと願った誇り高き命なのだと、告げます。

 その言葉が彼女にどれくらい響くか分かりません。しかし見張った大きな目に涙が溜まるの見えました。



「生きている意味なんて後で幾らでも探せばいいのよ。“生きたい”と少しでも貴方自身が望めば、それだけでその命には大きな価値があるのだから」



 彼女がここにいるのがその証拠です。

 だってそれが意識してなのか無意識なのか定かではありませんが、それでも生きたいと思ったから、彼女はあの祠に身を隠し、ここにいるのだから――。



「で、でもっじゅうじんで、こんなけがれたからだでっ」


「あら、獣人が何?彼等は誇り高い獣の血を引く種族よ。それを立派だと思いはしても卑下する気はないわ。そもそも立派な獣人を護衛にしている私にその言葉こそ無意味ね。それに汚れたって……まさかあの村でっ!?」



 え、ちょ、それって!?



「いや、姫さんそれは飛躍しすぎだから。たぶんその見た目のことを言われてたんじゃないか?」


「え?そうなの?」



 どうやら私の思考の先が分かったらしくヨルムの突っ込みに安心します。

 危ない。危ない。人の趣味思考に文句は言えないですが人道外れちゃ駄目。YESロリータNOタッチですよ。



 ていうか、汚れたって見た目?え、滅茶苦茶綺麗で可愛いのに?




 怒りが静まり、凪いだ心地で少女の瞳を見つめます。



「汚れてるってどこが?とても綺麗で可愛いのに、そいつらは目が節穴なのね!」


 絶対!確実!100パーセントそうだ!




「え!?な、なんでどこが?!」


「だって雪のように真っ白な髪に血のように鮮やかな真っ赤な瞳。とても綺麗じゃない」


「え、お、おぞましいでしょ!?」


「悍ましい?変な事言うわね。――あぁそういうこと?それで“けがれてる”ね」



 ゆっくり歩み寄りさらりと髪を撫でれば絹糸のようなさらさらと手触りの良い感触。

 あらやだ。クセになりそう。



 驚愕の表情を浮かべたまま固まる少女を気にせず髪を手で梳きます。

 確かに血は穢れだと扱われる事もあります。前世でもそういった考え方がありましたし、理解はします。

 でも。



「血は命そのものでしょう?」


「え?」


「貴方の赤は血を表す色。そして血は命を表すもの。貴方の瞳は命そのものを宿した瞳――ほら?凄く綺麗じゃない」



 血があるからこそ、命がある。鼓動を刻み、生を謳歌し、人を生かす源。

 そんな素敵な色を宿した瞳を綺麗と言わずなんと言えばいいのか私には分かりません。



 あんなに価値が無いと叫んだ少女ですが、はてさて。見れば見るほど価値なんてありまくりではありませんか。




 ふわり、優しく少女の頬を両手で包みます。

 私より背が高いので少し背伸びしますが、それでも触れる頬は温かく、命の温もりに溢れています。




「私はこの色が大好きよ?それにほら、色合いは違うけど、一緒でしょ?」



 同じ“赤色”ね?とお揃いを喜び破顔します。

 私の髪の毛だって赤色を宿しています。少女の瞳の色よりは濃く深い色合いの深紅ですが、それでも一人ではないのだと言いたくて髪の毛を示せば伸ばされる腕。潰される私の身体。



「むぐっ」



 ぐっ!い、意外に力強いな!


 獣人だから弱いとは思ってなかったですけど、それでも今度は私が抱き潰されそうです。

 でも、ぐずりと聞こえた啜る鼻声。震える身体と嗚咽に止めようとしてくれたベルンとヨルムを止めます。



「もう、大丈夫。――よく頑張ったね」


「あぅ、うぅぅ!ひぐっ」



 ヨシヨシと背中を撫でれば一際震える身体。



「もう、我慢なんてしなくていいんだよ。――生きて、良いんだよ」


「う、うわぁあぁぁああん!!!」




 ぎゅうっと力強く抱き込まれ怪我した背中が痛みますが我慢。我慢。

 耳元で泣かれて耳がキーンっとしましたが我慢。我慢。




 今までずっと苦しくても辛くても、頑張った子を褒めてあげないと。








 そうして部屋には暫しの間、少女の泣き声だけが響き渡りました。










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