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暁の姫君と黄昏の守護者  作者: zzz
【序章】
4/79

Act.3 [目覚め]

 



 それは古い古いお伽噺。



 むかしむかしから始まり、今もまだ続いている物語――。





 *******************







 ――むかしむかし、この世界は偉大なる3人の神により創られました。


 神様たちは強大なるその力で大地を造り、海を満たし、自然を育て上げました。



 そこに人が産まれ、動物が放され、神様の代わりに世界を見守る神獣が作られたのでした。



 世界は平和でした。


 世界は光り輝いていました。



 しかし光が当たれば影が出来るように、世界には何時しか闇が生まれてしまったのです。



 闇は世界を蝕みます。



 人が闇にのまれ、魔人と成り果てます。

 彼らは破壊が好きになり快楽的で享楽的かつ残忍な性格に変貌してしまいます。


 動物が闇に染まり、魔物へと成り果てます。

 彼らは本能のままに殺戮を繰り広げる生きた厄災となってしまいます。



 闇は世界を乱していきます。




 それに抗うために様々なものたちが力を合わせ戦いました。

 人種も種族も関係無く、闇に対抗するために仲間として、戦友として、傷付いても辛くても守りたい人たちのために戦いました。



 それは長く辛く苦しい戦いでした。




 戦いに大地は軋み荒れ果てます。


 海は血で暗く穢れ、自然は涸れ果て不毛のものと化し世界は歪み悲鳴を上げます。




 それは世界の崩壊を示していました。



 しかしそんな時、空を覆う暗闇を切り裂くように一筋の光が世界へと差し込んだのです。



 それは暁の欠片。救いの光。



 ――――光は1人の少女でした。



 世界の崩壊に心を痛めた神様が遣わせた1人の少女。

 召喚という術により異世界から喚ばれた1人の少女。


 彼女は暁の神子として世界に迎え入れられます。



 彼女が荒れた大地に涙すれば忽ち大地は芽吹き、新しい命を実らせます。穢れた海は浄化され、自然はあるがままの姿に戻り闇は少しずつその力を弱めていきました。



 やがて少女は世界に根付きます。



 世界に降り立ったその時から片時も離れず守り続けてくれた愛しい人と、世界を見守りながら末長く幸せに暮らしたのでした。





 *





「――おしまい。」




 穏やかな口調で語られた話が終わる。



 それはこの世界のお伽噺。


 寝物語の定番である話――【暁の神子と闇】は私の大好きなお話だった。


 時が過ぎるのも早く、私が生まれてからもう半年は経とうとしていた。今生の私の名前は《ルイシエラ・ロトイロ・ヴァイス・アウスヴァン》なんて長い名前で、まぁ前世の名前が入っているのはとても嬉しいけれど…。

 名前が長いことで分かるかもしれないけれど、貴族の家に産まれたみたいです。しかも貴族の中の貴族と言われ王族の次に偉い公爵家。


 なんでも初代国王とは兄弟で血が繋がってたり、数世代前には王族が降嫁してたりとか由緒正しいやんごとなきお家で、しかも私にもその血がきちんと流れていて私の瞳はその降嫁してきたお姫様にそっくりらしい。

 ちなみに今の私の見た目は深紅の髪に朝焼けを連想させる赤みがかった薄紫の瞳。日本では考えられなかった色彩を持っています!



 正直、私の世話をしてくれるメイドさんらしき人たちを見ても結構目に優しくない色を持つ人が多く(赤、青、緑とか信号か!?と突っ込んでしまった。)目が痛くなることもしばしば。

 でもこの人々が持つ“色彩”はそれなりにこの世界では意味を持つらしい。




 まぁ、その辺は置いといて……





「ルシィ?どうしたのかしら、眠くなってしまった?」




 そう言って私のことを覗きこむ美女。


 薄紫の髪に紺碧の瞳。穏やかに細められた目は優しく私を見つめ、どこか儚さを纏う美女がなんと私の母親なのです。

 しかも北国の生まれらしく雪のように真っ白な肌に映える薄紫色はとても神秘的で微笑みすらもどこかミステリアスな危ない色気があります。そっちの気は無いですが余りの美しさに頬が赤くなるの止めることができません!!




「いい子…。ゆっくりおやすみなさい。」



 さらりと撫でられたのは私のまだ少ない髪の毛。少し濃いめの紅は彼女の指を滑り小さなベビーベッドの上に散らばります。どうやら生まれ変わった私は前世に比べて身体的に丈夫みたいで今までまだ熱を出して生死の境をうろついたりはしてないようです。前世は生まれてからずっと小さいベッドに無菌室での療養を余儀無くされていたので嬉しい限りです!


 それは兎も角、女神さまからの祝福か分からないけれどまだ生後半年の私ですが、どうやら色々とチートと思える能力を持つことが判明しました。


 まず一つ目に、生まれ変わって前世の記憶と意識をそのまま持っている事。

 まぁこの辺は女神さまに言われたまま、“私”の意識を持ったまま生まれたいと望みましたし、あって当然のものですが。普通の人は持っていないのでチートとも言えますね。まだ自分の部屋しか見れてないですが、生まれ変わったこの世界はどうやら中世のヨーロッパぐらいの文明みたいですし。ラノベにありがちな知識チートと言えるでしょう。


 そして二つ目に、どうやらこの世界には魔法などのファンタジー要素があるらしく私の目には妖精というか精霊と言っていいのか周りの人たちには見えていないものが見えちゃってます。

 まるで小さな人間のような姿に羽を生やしているのもいますし、ただの光の玉のような存在もいます。たぶんこれも普通の人には見えない部類のものだと思いますしチートと言ってもいいでしょう。

 でもこれは母さまには見えているみたいですね。今も私の髪の毛を引っ張って悪戯している小さな妖精さんにやんわりと注意してます。



「あぅ、あーう!」


「あら、ルシィどうしたの?」



 そっとつままれその辺にポイっとされた妖精さんに驚きつい声をあげてしまいました。でもまだまだ赤子の私に明確な言葉を発することは出来ず、ただの喃語(なんご)として口から出ます。動くものに反応してしまう身体が恨めしく思いますがついつい手は妖精さんの方に伸びてしまいました。見た目こそ赤子ですが中身が成人近いものとしてこの身体に引きずられる意識は少しばかり恥ずかしいです。




 眠そうな様子から一転。妖精を追って手と目を動かす私に母さまが覗き込んできます。美人のドアップに妖精の事など忘れて黙る私。美人パネェっす。




「どうしたスーウェ」


「あら、あなた。今日は早いのですね」




 不意に聞こえた男の人の声に母さまが後ろを振り向きます。


 残念ながら寝ころぶ私からは見えない位置にいるようですが、母さまが部屋のドアの方に向かったのでやっと見えました。


 そこには私とは少し違った色見の赤が目を引く美丈夫がいました。


 私は赤が濃くなった深紅に対して男性の赤は鮮やかな、それこそ燃え上がる炎のような赤い髪に太陽のような黄金の瞳。まるで熊のような大柄の体躯は母さまと並ぶとリアルで美女と野獣でした。

 彼こそ私の父親であり、この国一番の騎士。【紅蓮の獅子】と中二病くさい二つ名を持つ《ガウディ・ヴァルバロス・アウスヴァン》私たちがいる国【ジゼルヴァン王国】の三大公爵家の一つ。アウスヴァン公爵家のご当主様本人です。


 本来ならば王城の方の屋敷にいるそうですが、今は私が生まれた事もあり育児休暇を無理やり奪い領地に引っ込んでいるみたいです。それで良いのか?将軍……と思わないでもないですが、いつも遅くまで執務室で缶詰状態の筈が私のお昼寝タイムに部屋に訪れるのは珍しく、母さまも嬉しそうにしながらも驚いているようです。……美女の嬉しそうな笑顔プライスレス。



 案の定、最愛の妻である母さまの笑顔にデレデレに表情を崩す父さま。正直、きりっとした表情は凛としてカッコいいのに今の顔はちょっと引くぐらいです。





「ああ、やっと残りの仕事をアイツに押しつ――任せてな!当分の仕事は無いんだ」



 え、今押しつけた。とか言おうとしてなかった?


 え、いいの?それで良いのか!?将軍んん!?



 言い直してたけど言い直せて無かったよ!




 母さまもそれを分かってか少し苦笑してます。



「もう、悪い人ね」


「しかし折角の育児休暇に仕事を送ってくる奴が悪い」


「まったく……」



 父さまも母さまも私のベッドの横に並んで話していますが、正直娘の目の前でいちゃつくのは止めてください。切実に。

 ほら!今も母さまの腰に手を回さない父さま!!目のやり場に困るから止めて!本当に!


 いくら生後半年の赤ちゃんでも情操教育上止めてください!!












 *




 始終ラブラブのいちゃいちゃしていた両親が部屋を去り、今は私一人。



 ちなみに部屋は貴族のお屋敷らしく、見た目に優しいアイボリー調の壁紙に所々庭に咲いていたという花が部屋を彩ります。カーテンはレース状の可愛い物で、隅々に置いてある置物はシンプルだけど一目で品の良いものだと判るようなものがあります。しかも赤子の部屋だからぶつかっても怪我をしないようにガラスなどの細工ものではなく木工の置物で端々にまで住む人間の事に気を配ってある部屋でした。


 そんな部屋にぽつんと私一人。……寂しくなんてないんですから!

 いや、嘘です。正直寂しいです。今までいちゃラブしていた両親が騒がしかったからかしんっとした耳に痛い静寂が寂しさを助長させます。前世でも見舞いに訪れた家族や友達、看護婦さんが周りにいたため実は寂しがり屋な私です。



「うーぅ」



 いつもなら世話役のメイドさんもいたりしますが今日はまだ来ません。



 暇だよー。寂しいよー。と唸っていると窓からふわりと優しい風が入ってきました。




『どーしたの?子猫ちゃん?』



 くすくすと耳を優しく擽る笑い声。



 声なき声が聞こえました。





 ちなみに私のチート能力二つ目は視えるだけではなく、話もできます。

 私が持つ先ほどの情報もすべて彼らから教えてもらったものです。



「うーうー!」


『相変わらず寂しがり屋なんだね~』



 くるくると風が木の葉を纏って私の目の前で踊ります。

 次の瞬間にはふっと散った風に、ベッドの柵に腰を下ろす小人さんならぬ風の妖精さんがいました。


 薄緑の髪に翡翠色の瞳。彼は他の妖精さんたちとは異なりその背に羽はありません。でも彼は自らを妖精と名乗り、風と共に世界を巡り噂などを集めるのを趣味としているらしいです。

 らしい、というのは私も彼から聞いただけだから。そんな彼を私は“翡翠さん”と心の中で呼んでます。……まだ喋れないので。


 でも彼はそんな心の声を聞けるらしく。私が喋らずとも答えてくれます。



『今日は珍しく将軍様の仕事が早く終わったみたいだね』



 そうなのです。しかも人の目の前でいちゃラブしやがりまして。



『まぁ、少しは大目に見てあげなよ。将軍だってやっと終わったんだからさ~』



 しかし子供の目の前はいけないと思うんですよ!



『まぁ、キミだから良いんじゃない?』



 なんですかそれは!理由になってません!




 断固抗議する!と騒ぐ私に翡翠さんはまたくすくすと笑います。




『相変わらずキミは面白いねェ』



 むむむっなんかはぐらかされてる?




『まぁ、気にしない気にしない。それよりも面白い話をしてあげよう』


 明らかに話を逸らした!!




『今日のお話はとあるパン屋のお話――――』




 そう言って翡翠さんは今日もお話をしてくれます。




 世界中のお話を。ありふれた日常の物語を。


 普通ならば私のような赤子を見た事は無いでしょう。


 まだ生後半年なのに言葉を解し、大人顔負けの言葉を(心の中でですが)操る私ははっきりいって異端な存在です。仮令それが女神様に生まれ変わらせてもらった人間だからと言っても。

 でもそれを知る筈のない翡翠さんはただ笑って色々な話を聞かせてくれます。この世界の歴史を、この世界の常識を。


 まるで全てを知っているかのように、もしかしたら女神様が彼を遣わせてくれたのかもしれません。私がこの世界でやっていけるように。

 女神様は言いました。私の力が必要なのだと。声なき声で「この世界を助けて」と。翡翠さんからもたらされるお話を聞いて私なりにこの世界を考えました。そして薄々とこの世界がどんな世界か、理解していきます。



 でもまだその結論を決めたくは無いのです。だから見て、聞いて、考えます。





 取り敢えず、赤子の私にはまだ何もできないので、今日も翡翠さんのお話を子守唄に寝ようと思います。















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