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暁の姫君と黄昏の守護者  作者: zzz
第一章
31/79

Act.30 [力の片鱗]

お待たせしました!

 



 凛として澄んだ色を湛える瞳。


 力強い意志の輝きはとても親友に似た色を宿していた……。



 その小さな身体に大きな力を宿した少女はその背負う責任の重さを自覚しながらも大丈夫と笑う。


 朗らかに、楽しそうに、無邪気にほほ笑むその表情にどうしてか、“彼女”を思い出した――




 ***********************




「しかし、ルシィこれからどうするんだ?」



 父さまに促されて見た先。


 そこにはうねる奔流を湛える魔力。その渦巻く力の中心にレイディルはいます。

 時間が経てば経つほど、レイディルを取り巻く魔力は濃く、濃密な気配を宿し今や普通の人の眼にも見えるほどのモノとなっていました。


 この魔力に干渉するのか?と言外に問われた言葉に少し考えて頷きます。

 すると、肯定されるとは思ってなかったのか父さまが眼を丸くする様子が見えました。



 確かにこれ程目に見える魔力に干渉するとなると手段が限られているでしょう。

 しかもあくまでそれは自分の魔力をきちんと使え、尚且つレイディルと同等の魔力を持っている場合です。今の魔法を使えない私では到底干渉など出来るとは思えない。というのが父さまの考えだと思います。

 でも私は“魔眼まがん”持ちの祝福者であり、風の精霊王の契約者。


 私自身の力は限られているとはいえ、やりようは幾らでもあるのです!





 ——“魔眼”とはそのまま“魔力を視認できる眼”だと言われています。

 その為、私の眼はその存在自体が魔力で出来ている精霊、妖精が見えますし、人の魔力もまた視る事が出来ます。


 お蔭で侵入者なども気配を幾ら消そうとしても視る事が出来てしまうのです。

 勿論、魔法を宿した道具――通称魔道具などで魔力を消すことは出来ますが魔力とは本来世界を形作る根底の力であり、人を生かす血と同然のモノです。生きている限り人は魔力を帯びていますし、また魔力を発するものです。それは不文律の理。

 一時的とは言え感じられないように消した魔力さえ私の瞳は見破り、見透かします。


 それ故に“魔の眼”そうこの眼は古くから呼ばれていました。



 しかし魔眼の本領はそれだけではないのです。


 魔力を視れるということは、その魔力の属性、力、そしてこれから何を行うのかも予測し見抜けるという事。


 そしてこの眼にはレイディルを取り巻く魔力の流れを、そしてその隙を見出すことが出来ます。




「ゼルダ……その、お願いなんだけど」



 ちらりと見上げたゼルダの表情はとても険しく、苦い笑みを浮かべていました。



 隙があるならばそこを通り抜ければ良いだけの事。それが出来るほどの力は持っていると自負しています。伊達にゼルダのスパルタ特訓や教育を受けている訳ではありませんからね!

 でも幾らどうにか出来る力を持っていても自分勝手に行動することは出来ませんのでゼルダにお伺いを立てます。

 良い?と上目遣い+首を傾げておねだりポーズ。



 ちなみに父さまに対して絶大な効果を発揮するこの仕草。しかし意外にも意外!ゼルダにも実は効果があるのです!!



「ダメ?」


「……無理だけはしないとお約束頂けますか?」


「もちろん!」


「ならば、宜しいでしょう」


「ありがとう!」



 仕方ないと言わんばかりのゼルダから許可を頂きました!

 呆れたように少し表情を和らげるゼルダ。そんな柔らかい表情にそんな場合ではないのに胸キュンしてしまいます。


 くっ!相変わらずゼルダは私のツボを心得ているとしか思えません!寧ろゼルダの存在が私のツボですけどね!


 はッ!というかゼルダに悶えている場合じゃありません!折角ゼルダからお許しを頂いたので行動に移さねば!



 ゼルダが差し出してくれたのは小さなナイフ。


 子供の手でも扱えそうなそれは一見ペーパーナイフのように細く、小さなものですが、それは確かに人の命を奪える刃物です。

 良く手入れされているのか、刃の先の煌めきが私の顔を映し歪みます。



「ルシィ?」


 何をする気だ、と言わんばかりの父さまから笑顔を向けながらも一歩ずつ、ゆっくりと離れます。

 止められたら意味が無いですからね。



 一歩一歩、父さまから離れて行くのと反対に確実にレイディルに近づいて行きます。


 私の背中に突き刺さる父さま達の視線。それにぐっと背筋を伸ばし足に力を込めて立ちます。

 ここで不安なんか見せては駄目です。折角希望を望んだ彼らを失望させる訳にはいかないんですから!




「ふぅ――力を、貸して……」



 私の目の前にはいつの間にかヨルムとベルンが立ちはだかります。

 レイディルの発する魔力の波から守る様に立ち塞ぐ彼らに感謝しつつ腰を下ろし手を付くのは荒れ果てた大地。

 ゆっくりと閉じた瞼、その裏に思い描くのは先程まで見事なほどに咲き誇っていた花々。穏やかに吹き抜ける秋の風。

 命のきらめきを、輝きを放って生きていた“彼女たち”




「まさか——ルシィっ!止めろ!」


 父さまの声が聞こえます。でももう、止める気なんてさらさら無いんですよ!!



「っ!」


 一瞬で終わらせるために勢いよくその手の平に刃を滑らせ、深く、大きく裂きます。痛みにちょっと涙が滲むのは仕方ありません。

 だって本当に痛いし……。




 ボタボタと手の平から溢れ出す血は真紅。

 鮮やかな色をした私の血液は大地に染み込み、そして風に煽られ波紋を描く血溜り。


 手の平から伝い落ちる血を見ながら囁くように言葉を掛けます。それはこの世界の欠片への呼び掛け――



「《さぁ――この声に応えよ――。大地の精霊、風の精霊。血の代償に力を乞い願い給う。意志ある姿なき者達よ……》」



 紡いだ言葉が織り為すのは、小さな祝詞のりと。そして大きな呪文です。


 瞬間――眼を開けていられないほどの突風が庭を吹き抜けます。魔力を纏うレイディルですら顔を庇う仕草をするほどの強い、強い風です。そして――




≪その声に応えましょう≫

≪その願いに応えましょう≫



 すぅと空中から現れたのは二人の美女。


 茨の草冠を頭に乗せ、ダークブラウンの髪に桃色の瞳。その形は森の賢者の姿。

 風に舞う新緑色の髪に浅黄色の瞳。その形は風を揺蕩たゆたう旅人の姿。


 半透明の彼女たちは私が呼んだ精霊です。



「馬鹿な」とか「どういうことだ!?」と騒ぐギャラリーは無視して彼女たちと眼を合わせます。

 その瞳はどちらも私を案ずる色を宿し、浮いていた二人は私にかしずき、頭を垂れます。



『我らが王の愛し子よ。王の姫君よ。(わらわ)は名を持たぬ流離(さすら)い人。貴殿は童に何を望む?』

『女神の愛し子よ。祝福の姫君よ。(わたくし)は名を持たぬ根付く者。貴方様は私に何を願いになられますか?』



 風の精霊が、大地の精霊が私に(ひざまず)き、問い掛けます。



「……」



 ――正直……ここまで高位の精霊が来るとは思ってもみなかったので内心動揺しまくりですけど何か?

 めっちゃ硬直してますけど!?頭抱えたい程ですけどね!!


 母さまと一緒にやった時はここまで位の高い奴は来なかったのに!



 私が行ったのは精霊への呼びかけです。精霊術師が行う初期の術で、本当はただの放出魔力を術の媒体に使用して行う術なのですが。私の場合は使えないのでその代わり血液を媒体に使いました。

 術の練習の時は周囲にいた精霊達が応えてくれたので、今回もそれを意識してやったのですが……。



 どうしてこうなった。




 しかし今は丁度良いと自分を納得させます。こうしている間もレイディルの魔力はどんどん膨れ上がっているのですから。





「あの子を止めたいの。力を貸してくれない?」



『『仰せのままに』』




 すっと指差した先。頭を抱えるように立つレイディルの姿に二人の美女は声を揃えて頷いてくれます。



 さぁ――反撃の開始です!




 *



 それは眼を疑うものだった。


 突風に紛れ現れたのは美しい二人の精霊。


 しかも精霊の中でも人の言葉を介し、人の眼に映るその姿は精霊の中でも高位に位置するものしか出来ない。


「ガウディ……これは」

「俺も初めて見るぞ」



 エヴァンスは初めて見る高位精霊の姿に息を飲む。その人ならざる美しさもさることながら、その自身から発する濃厚な魔力の波動は人の身ではあり得ぬ力。


 精霊を怒らせば災いが襲う。それは世界中に浸透する過去の教訓。


 特にいにしえの時代。一人の精霊王がその力一つで国を滅ぼした事実は幾ら時代を過ぎようとも人々の記憶に根付く恐怖だった。


 だからこそ精霊は尊い存在だと神聖化さえされている。その人知及ばぬ強大な力。神に等しき能力。

 それはこの世界を創った三柱神がそうあれと望んで創り上げたからこそ。



 それは兎も角、まだ幼いルイシエラがこんな高位の精霊を呼ぶなんてと絶句する面々。

 幾ら祝福者だといえど、風の精霊王の契約者だからなのか?答えの無い疑問が次々と思い浮かぶ。

 だが、ルイシエラはそれが当然とばかりに高位精霊を前にしても毅然とした態度を崩すことは無かった。




 そして彼女が動き出す――






 *




「《――大地は芽吹き、地を這う鎖は檻を作り上げ全てを拒絶する!》」



 力を込めて大地を押し出します。私の言葉に反応して荒れた大地は草が芽を出し、蔓はレイディルを中心に放射線状に地面を這い吊り魔力が満ちる空間とそうでない空間を隔てます。



 精霊術の基本は魔法と同じく呪文をトリガーに発動します。しかしその呪文にいうなれば定形文=決まった呪文がありません。全ては呼び出した精霊にどれだけ自分の想像イメージを伝えられるか。

 翡翠さんや父さまのアクヴァ様のように正式に契約を結んだのならばそう言った呪文などの行動は必要としません。文字道理、以心伝心となるので。

 しかし今回の様に契約を交わさずに代償を払って力を借りるだけの場合は呪文が必要となります。


 魔法の呪文と異なる点はいくつか。一番はその呪文が詩のようにというかポエムと言うか、抽象的かつ具体的にイメージしやすい単語や言葉を入れる点です。


 魔法及び、魔術の場合は力ある単語とその現象を表す言葉。そして誰が命じているかをきちんと入れねばなりません。

 しかし精霊術の呪文は起こしたい現象への過程とそのイメージをしやすい言葉を重ね合わせ、繋ぎ合わせて紡ぎます。



「《風は巡る、巡る、神の吐息。吹き抜ける風は世界を巡り大地に種を運ぶ担い手。隔てた壁をも崩すその力は神の片鱗》」



 風で蔓の結界を補強し、“大地”と“種”の単語で繋がりを強固にします。

 そして全体の強化に“神”を繰り返せばルイシエラ流結界の完成です!


 言葉遊びな感じで紡いでいく呪文。



 ……前世で罹ってしまった中二病もまさかの強制的な再発です。



 は、恥ずかしくなんてないんですから!








「お姫さん!俺たちは――」


「ヨルムはそのまま結界の維持!ベルンは私と一緒に!」


「はい」

「おう!」



 父さま達と私たちの間にはいつしか強固な結界が張られていました。

 獣人では本来扱えない筈の魔法を使えるヨルム。そして魔術師として有名なエヴァンス様による二重の結界です。


 これでもう逃げ道も閉ざされたも同然ですが、反面それだけ私の事を信じてくれたからこそだと思ってくすぐったく思います。

 三歳の祝福の覚醒以来、弱くなってしまった身体。色んな心配や苦労を父さまには掛けてしまったでしょう。それでもずっと直接関わりは余りなくても勉強に術の練習など見守ってくれていたのを知っています。リドに会っているのだって知っている筈なのに黙認してくれているのも。


 でも、ちゃんと“私”を見て信じてくれた事に心の底から力が湧いてくるのを感じます。



「ごほっ!」


 けほっと吐き出した手には赤い血。

 口から吐き出した所為でねちょっと粘着質なそれをゼルダに貰ったハンカチで拭きます。


 この後は絶対部屋で軟禁だなぁと思いつつも口端が上がるのを感じました。



 心配そうにこちらを振り返るヨルムとベルン。でももう止める言葉を言わない二人にその信頼が嬉しく思います。少し前ならば絶対実力行使してまで止められていたでしょう。でも初めてそれで喧嘩してそして初めて仲直りして、二人は私がきちんと「大丈夫」と言った言葉を信じてくれるようになりました。

 勝った!と思うのと同時に心配ばかり掛けていることに心苦しく思いますが、まぁそれは諦めてもらいましょう。無茶はしても私は勝てない喧嘩はしませんし無謀な事はしないと二人は分かってくれている筈なので。



 ベルンを従えレイディルへとゆっくり歩み寄ります。

 レイディルが放つ魔力は私の結界に阻まれ、結界内で暴れ回るそれはまるで私には繭のようにも見えました。

 魔力の流れは白く糸状に空中に軌跡を描いていきます。ぐるぐると渦巻き状にレイディルを取り囲む魔力。


 たまに地面の石を弾き飛んでくるのをベルンが難なく弾き返してくれます。



「あぁあああああああ!!!!」



 近づけば近づくほどに頭を抱え、そして絶叫しだすレイディル。


 全てを拒絶し、全てを投げ出した子供。


 でもそこまで至るに彼も色々な葛藤と苦悩があった事でしょう。でもそれを同情しても共感はするつもりはありません。

 似た境遇の私だからこそ。私は、していけないのだと思います。



「だって、見えてないんだもん」


「お嬢様?」



 ぽつり呟いた言葉は小さくベルンに尋ねられましたが首を振って誤魔化します。


 ぐるぐるぐるぐる、巻いて巻いて魔力の殻に閉じ籠ろうとするレイディル。その意思は心の奥底に眠っています。でも、でもその彼の周囲に満ちる一つの気配。


 知らないとは言わせません。気付かないと言わせません。



 彼の暴走する魔力を瀬戸際でずっと抑えてくれている存在を。


 彼をこの世でもっとも大事に思ってくれている人の存在を。





「《巡る、巡る、風は大気に満ちて全てを吹き飛ばす――》」



 ゴォ!と風がレイディルの魔力自体を押し避けます。



「《絡まった運命の糸は女神の悪戯。(ほどけ)()けば見える宝――》」



 しゅるしゅると魔力の流れが遅くなっていきます。



「《さぁ、祝福しよう……神に愛された愛し子よ――その力を宿した子よ!真実を見極めし(まれ)なる人よ!》」



 パッと一瞬だけ止まる魔力の流れ。


 ――今!



 そう思った瞬間、抱き上げられる身体。

 ベルンがその大きな体躯からは予想できないほどに俊敏にレイディルへと駆け寄ります。



「くっ!」



 一気に距離を詰め寄る私たちに向けて放たれるのは魔力の飛礫つぶて

 ベルンが捌き切れないそれに苦しい声を漏らします。



「ベルン――」


「なっ!?それは――」


「大丈夫!私を信じて」



 一定の距離を置いて近付けなくなってしまった現状に埒が明かないと、これからの行動を耳元で囁きます。

 しかし驚愕も露わに反論しようとするベルンの口元に人差し指を当てにっこりと笑います。



「……はぁ、無理はしないでください」


「うん!」



 笑顔の私が絶対折れないことを知っているベルンは早々に諦めてくれました。

 また喧嘩はしたくないですからね!




「ご武運を」


「ありがとう」



 お互い囁き合い願うのはお互いの無事。

 一度強く抱き締められたそれにベルンがどれほど心配しているか察します。それでも私の我が儘を聞いてくれたベルン。


 「ありがとう」とは口に出さずともぎゅっと一度強く抱き着いて感謝を伝えます。



 絶対あの子を助けてみせるから!





「はぁ!」


 気合を入れてベルンが一歩、力強く駆けます!


 それに対するは魔力の弾幕。

 逃げる隙も与えないと言わんばかりに空中に散りばめられたそれは見た目はキラキラと美しいのに反して威力は地面が抉れクレータが出来るほどえげつないものです。


 しかし、ベルンが振るった拳の先。


 その剛腕で振り下ろしたのは足元の大地。

 瞬間――爆発音と間違うほどの大きな音を立てて抉られる大地。


 そして弾け飛んだ瓦礫が魔力の弾丸を相殺していきます。




 それを横目で見つつ、荒れ狂う魔力の中を走ります。

 ぜぇぜぇと苦しい呼吸を無理して飲み込みレイディルの死角に回り込みます。

 折角ベルンが囮になって眼を引き付けてくれているんですからこのチャンス無駄にするつもりはありません!





「お嬢様!」


「え?っきゃぁあ!」



 しかしベルンからの制止の声に反射で立ち止まった先。

 真正面から吹き付けてくる魔力の奔流。



「いっ!」



 びりびりと肌を突き刺す波動。咄嗟に庇った顔。腕には魔力の刃で無数の切り傷が出来ていきます。



「このっ!いい加減に目を覚ましなさい!」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れれぇぇええ!!!」


「ぐっ!」



 狂ったように叫ぶレイディルの声に合わせて濃密に叩き付けてくる魔力は重く、そして鋭い。

 頬に、ドレスに、赤い一線が刻まれていく。



 でも、怯んで堪るか!!



 ぐっと下がりそうになる足に力込めて踏み出します!



「はぁぁあああ!!」



 怖くない怖くない怖くない!



 身体に走る痛み、無意識の恐怖に震える身体を意志の力で抑え付け目指すのは頭を抱えて蹲るレイディル。



『風の子らよ!』


『大地の子らよ!』



 二人の精霊が私の後押しをしてくれます。

 風が私の身体を押し、大地が隆起し、私とレイディルの距離を縮めます!



 そして――



「いい加減っ!眼を覚ませこのあほんだら!」



 ぶんっと振るった小さな拳。


 三歳児の力なんてたかが知れていますが、それでも色々な想いを込めて振るった握り拳は確かにレイディルの頬を打ち付けます!


 今までの大人しい言葉遣いも忘れて口走った言葉は前世の素が見え隠れしました。

 ……後でゼルダの説教が怖いです。




 振り抜いた瞬間に心に冷や汗がぶわっと浮き出ましたがもうやってしまった後の祭り。



 取り敢えず、ゼルダのいる方向は見ないでおこうと思います。




「お嬢様!」


「姫さん!!」




 ベルンとヨルムの声に咄嗟に一歩、後ろに飛び退きます。





「っやっと、スタート地点かな?」



 無事着地して目を向ければ、先ほどまで私が立っていた場所を飲み込む黒い円形のそれ。



「――くくっくくくっ!」



 ぞわっと鳥肌が立つのと同時に聞こえ始める乾いた笑い声。

 殴られた体勢のまま俯き肩を震わせるレイディル。



「ベルン、ヨルムは下がって」


「しかし!」



 さっとこちらに向かってくる二人を制止します。



 何故?と問いかけるベルンにレイディルから眼を離さないままに手を振り拒絶の意を示しました。




 びりびりと痺れる感触は先ほどの魔力の奔流よりも濃厚な魔力の気配。

 どれ程濃く、純度が高いのかと内心愚痴ります。




 私も同じくらいに濃く高純度の魔力ですがそれはあくまで魔封病のお蔭で体内に蓄積されているからこそ。

 命の水と呼ばれる血液だからこそ、その純度を保てるのです。



 血に宿らぬ魔力はそのまま外に流れ出て本来ならば薄まるはずなのに……



「規格外だっつーの」



 ぼそり、またまた素が飛び出します。


 それくらいに動揺しているのだと思って頂ければ幸いです。



 ――さぁ、どうやら元凶さんのお出ましのようです。



 どこかで第二ラウンド開始のゴングが鳴った気がしました……。



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