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暁の姫君と黄昏の守護者  作者: zzz
第一章
26/79

Act.25 [信頼と信用]

お待たせしました!

 



 いつもいつも自分に問いかける。


 これでいいのか?これであっているのか?と。



 支えたいと思った。守りたいと思った。でもどうやって支え、守ればいいのか答えは無く。いつもいつも手探り状態で周囲の眼を必要以上に気にしていた。


 でも、本当に見なければならない事を思い出させてくれたのは他でも無い俺たちの大切なお姫様だった。





 ********************




「それで喧嘩したのか?」


「うん!だって酷いんだから!いくら私が小さいからってそんな何も知らない子供じゃないんだから!」



 守られるだけは嫌だって言ったのに!と声を荒げます。


 私の隣には灰色の髪に鮮やかな橙色の瞳の少年。

 彼はこの世界の元となっている乙女ゲーム【払暁のファンタジア】の攻略対象の一人です。

 大地を支配し、武を司る神イカリスの祝福持ちで最年少で王都近衛騎士団の団長に抜擢される若き天才なのです!

 しかも王子やその側近である魔術師の剣の先生でもあり、若いながらもその実力は計り知れません。


 ゲームでは旅をする一行の兄貴分で、ヒロインである暁の神子の保護者役でした。


 一人孤独な暁の神子。彼女の不安や寂しさに気付き寄り添ってくれるのは酸いも甘いも経験した大人の騎士団長。

 くぅ~!!攻略難易度は勿論高く、一度でも選択肢を間違えれば違う攻略対象者のエンドに入るという鬼畜仕様。他の友情エンドもバットエンドもそれぞれ難易度が凄く高かったです。

 で も ! 暁の神子一行の中でも大人な分そのエンドはなんて言うんですか……こう大人の色気満載でネットとかでも騎士団長の人気は高かったです。

 しかも明らかにキャラデザの人も騎士団長好きでしょ!!と思うほどに気合入れて描かれていました。

 お陰でスチル見たさに徹夜を繰り返して寝込んだのは良い思い出です。



 それは兎も角、今私は未来の騎士団長――【リカルド・ルーガ】の隣に座り先ほどまでの出来事を愚痴っていました。

 側近であるヨルムとベルンの頑固さを切に訴え、捨て台詞を吐いて逃げてきた事も伝えます。

 それを聞いてリカルド――リドは仕方ないなぁと言わんばかりの苦笑を浮かべています。

 ちなみに愛称は本人からそう呼んでくれと言われました。狂喜乱舞してどさくさに紛れて抱き付いた私は悪くありません。悪く無いったら悪く無いのです。



「でもその二人もルイの事が心配なんだよ」



 ぽんぽんと小さい子にするように頭を撫でられます。

 もう!一々そんな何気ないスキンシップに心の中の自分が悶えて悶えて仕方ありません!!



 私の我が儘を聞き入れてくれて対等に話してくれるリドに萌えが萌えて萌えるんです!!




「……分かってるもん。分かっているけど……」


「ああ、そうだな。ルイも信じて欲しいんだろ?」



 リドの言葉に頷きます。その間にも慰めるように頭を撫でられ、でもそのお蔭か素直に心の中にずっと溜まっていた思いを口に出来た気がします。


 膝を抱えて項垂れる私。リドはただ優しく慰めてくれます。



「ルイは優しいんだな……それに強い」


「え?」



 どういう事?と首を傾げます。そんなリドから向けられるその目は眩しい何かを見ているかのように細められ、どきりと心臓が音を立てました。



「普通の令嬢なら守られるだけで満足するものだが。……誰だって怖いことや辛いことに向き合うのは勇気がいるから」


「そ、そんな事……」


「強いって言っても色々な強さがある。その中でもルイの強さは誰でも持ってて、そしてやがて無くしてしまうような強さ」


「?」



 上手くリドの言うことが理解できません。やがて国の最強の一角を担う彼の言う“強さ”とは一体?

 確かにひとえに「強さ」と言っても色んな強さがあるでしょう。父さまのように武力や戦う意味での強さ、何があっても挫けぬ心の強さ、豊富な知識を扱う強さなど色々な意味を含むます。でもリドが言いたいのはそんな強さでは無い気がして……



「リド?」



 くすりと笑みを溢したリドに益々首を傾げます。一人楽しそうな彼。笑うのは全然良いんですけど。寧ろ笑ってくれたら心の自分が悶えますから!

 説明くらいはしてくれても……




「いや、ルイはその強さを持って信じているのに彼らはどうなのかなって」


「うーん?」



 だから明確な説明を求む!!




 そんな私の表情にリドは誤魔化す様にいきなり髪の毛を掻き回し始めたではありませんか!


 ――ちょ!髪の毛が!!

 ただでさえ猫っ毛で毛先が跳ねやすい私の髪の毛。いつもはルーナさんが上手く編み込んだりして整えてくれるのですが今日は珍しく下ろしたままなのです。お蔭で大人しかった髪の毛は絡まりつつ広がり酷い有様。



「ひどいリド!」


「ははっ!凄いな」


「もう!これどうするの!」


「悪い悪い」



 なんて事しやがる!と口汚く叫びます。勿論心の中だけですが。

 幾ら責めても悪びれない彼にムッとして口を尖らせます。でも心の中はきゅんきゅんして仕方がありません!

 悪いと言いながら私の髪の毛を直そうと手を伸ばす彼。でも、その目は私ではなくその先を見ているようにも感じられました。








 * * *





 ――ムカつく。


 それが初めて“戦神の愛し子”の姿を見て思った感想だった。


 灰色の髪に橙色の瞳。首元にはいくさを司る神イカリスの紋章。それだけで彼がアウスヴァン公爵家に身を寄せている祝福者であることは容易に分かった。このジゼルヴァン王国にいる三人の祝福者の内の一人。


 戦う為だけに産まれて来たと謳われる戦いの天才。


 その実力は最近になって益々頭角を現し、まだ子供と言える年齢にも関わらず今や赤獅子騎士団の中でも上位に位置する。

 そんな彼と主人でもある少女の仲睦まじい様子を見ていると苛立ちに胸糞が悪くなる気がした。



「おい、流石に抑えろ」


「うるせぇ」



 宥めるベルンの言葉に言葉少なに返す。

 笑いながら彼女の髪に触れる少年。端から見れば子供同士のじゃれ合いだと微笑ましく見えるだろう。

 だが馴れ馴れしく彼女に触るなと心の内の怒りで頭に血が上っていく。それに反比例して滲み出る殺気。

 それは確かに少年――リドへとピンポイントに向けられていた。



 少女――ルイは少年に向けて笑う。


 無邪気に、嬉しそうに、彼が自分を害することなど微塵も疑わない熱心な目で彼を見つめ、彼の言葉に喜色を露わに破顔する。



 ムカつく



 ヨルムは再び心の中で呟いた。


 そうこうしている内にも、いつしか地面から立ち上がり帰路へと足を向けるリド。

 やっとかと吐き捨てる思いに、聞こえてきた言葉は火に油を注ぐかの如く怒りを燃え上がらせるには十分な言葉。




『情けないな』



 無音で口の動きのみで語られた言葉。それに怒りが燃え上がり衝動のままに振り被る左手。しかしその手は大きな硬い手によって動きを封じられた。



「ヨルム、いい加減にしろ!今はあいつに構っている場合じゃない」


「……分かってるよ」



 苛立ちは最高潮に達し、燃料となって怒りを燃やす。だが、どれほど抗っても離れぬ戒め()

 ベルンは厳しい表情を隠す事なく、リドを見ながらも感情のままに動くヨルムを抑えた。


 だがベルンもまた二人のじゃれ合いを見て怒りとそして悲しみを抱いていた。


(嗚呼――いつから彼女は俺たちに笑顔を見せなくなったのだろうか)


 心の中で呟く問いかけに答える声は無い。


 それはリドを見送るルイの笑顔を見てふと浮かんだ言葉だった。

 楽しそうに笑うルイ。段々と屋敷では見せなくなった心からの笑顔にいつからその笑顔を自分達には向けてくれなくなったのか……。


 軽い喪失感を思い知りながら俯けた顔。しかしそれは確かに呼ばれた言葉に驚きに上げた。



「――ヨルム、ベルンもういいよ」


「!」

「気付いてっ!?」



 どきりと心臓が跳ねる。

 意識してなかったとは言えないが、それでも確かに気配は消していたのにも関わらず呼びかけられた名前。

 何でと驚きを露わにする二人にルイは苦笑を浮かべた。



「ここは私の友達が多いから」


「精霊ですか?」


「うん。妖精さんもね」



 その言葉に納得する。ここは精霊、妖精に満ちた神域。

 魔眼を持つ彼女ならばそれらと意思疎通を行うことは息をするように簡単な事なのだろう。




「それで?どうしたの?」



 諦めて木々の影から姿を現す。だがルイが二人を振り返って見る事は無かった。

 今しがた去って行った少年の姿を惜しむかのように彼女はずっと遠くを見つめる。


 それに隠しようがない苛立ちと悲しさが胸を占める。

 嫌われてしまったのだろうか?もういらないと言われるのだろうか?と捨てられる恐怖に震えるが……それでも俺たちは……。



『しっかりしなさい』




 不意に聞こえたのは情けない後輩の背を押した一人の先輩の声。


 嫉まれていると思った。恨まれていると思った。他の先輩方を出し抜く形で彼女の護衛に就いたことを。騙す形で忠誠の儀を行い、彼女が断れない状態にしたことを。

 だけど、あの人はそれを抱えつつも先輩として道を指し示してくれた。

 年上の人間として、()()を信じられなかった俺たちを鼻で笑う様に……。




「――ルイシエラ様」


「どうしたの?」



 ベルンは勇気を出してルイの名を呼んだ。今まで忠誠の儀をしたあの時以外にその名を口にしたことが無かったが……。

 恐れ多いと思っているからこそ、尊敬をし、その忠誠心を捧げたからこそ相棒のヨルムからは生真面目だと言われるがそれでもそう簡単に名を口にするのも憚れ、今の今まで呼ばなかった名を口にする。


 そんなベルンに何を思ったのか、声は平静を装ってもぴくりと揺れた肩は誤魔化しようが無かった。

 ルイもベルンが滅多に名を呼ばないことを知っていた。それ故に突然呼ばれた名に動揺が隠しきれず揺れた身体。その両手を組んで伏せた目は一体どんな感情を宿していたのか。

 しかしベルンは僅かに動揺するルイを見つめつつもどうか、どうかと願いを口にする。




「――どうか、私たちにもう一度チャンスを頂けないでしょうか」



 跪いて下げた頭。大きな体躯を縮めて許しを乞うベルンにやっとルイは彼らと目を合わせた。



「それで?」


 だが、ルイは冷静に言葉を返す。彼らの真意を見極めるために。

 ただ言葉だけの反省はいらない。促されるだけの理解もいらない。ルイは彼らに知ってほしかった。信じてほしかった。


 自分の覚悟を、自分の成長を。これから環境はどんどん変わっていくだろう。歳を重ねれば重ねるほどに命の危険も増すし、利用し利用されるそんな損得で動く関係を繋がなきゃいけない場合もやってくるだろう。

 そんな時。今回と同じように彼らはルイを閉じ込めるのか?汚いものは見ないように、聞こえないように、目を逸らし、口を閉じ、耳を塞ぐのか?


 この世界は決して綺麗事だけで出来ている訳ではない。誰でも聖人君子みたいに人を思いやって優しい言葉ばかり吐く人間だけじゃない。……そんなのどんな子供でも分かっていることだ。

 誰だって嘘は吐くし、騙し騙され、弱いものは淘汰され強いものだけが生き残る。


 確かに二人の言う通り、部屋に閉じ籠り皆に守られ慈しみられ綺麗事の世界で生きることも出来るだろう。それぐらいの財力、権力、立場をルイシエラは持っている。

 だけど、ルイシエラが――ルイがそれを望むかどうかと問えば、答えは否。


 ルイは知っている。


 人間の汚さを。欲望の為に、身勝手な願望の為に、人がその手を汚す瞬間を。

 親が子を殺すことを。子が親を殺すことを。親友を、恋人を、自分自身を殺すことを。



 いつかは関わり合う上で、相容れない相手だっているだろう。どうしても気に食わない相手だって。

 殺意を向けられるかもしれないし、逆に殺してやりたい程憎らしい相手だって出来るかもしれない。


 二人の言う通りに屋敷に閉じ籠ればそんな煩わしいことから解放されるだろう。

 誰だって怖い思いはしたくないし、面倒くさい事だってしたくないのだから。


 でもそれで成長できるのか?強く、なれるのだろうか?



 ルイは強くなりたいと望んだのに……。



 綺麗な世界しか知らず、耳当たりの良い言葉ばかりを述べられ、周囲には都合の良い人間ばかり。そんな虚構の箱庭に住まう純粋無垢なお姫様。……まるで良く出来た人形のようで反吐が出る。



 何かあれば事あるごとに危ないからと、部屋に、屋敷に閉じ込めて何も知らなくて良いと、危ない事はしないようにと「守るため」と免罪符代わりに口にする言葉を盾に閉じ込めて理想を押し付ける二人。


 二人が胸を張れる主人になろうと思えば思うほどルイは二人の言葉をきちんと聞いてきた。その真意を探りながら……。


 本当にそれは危ないのか、危ないならばどこまでその危険は及ぶのかも考えながら。危険だと言われてもルイほどの立場ならば周囲にも影響を及ぼしてしまう。自分が安全な場所に居れば居るほど危険な魔の手は周りの人間に襲い掛かるのだから。それを良しとする人間ならばそうやって安全に守られた場所で二人の言うことを従順に聞いていられるけど、ルイはそうじゃなかった。

 自分の為に他人が傷つけられることを良しとしないルイ。そんなルイだからこそ、二人も命をかけて忠誠を誓ったはずだった……なのにも関わらず。この現状。


 しかしルイは二人に怒りを抱いても二人を自分の護衛から外すことは一切考えていない。

 それは二人を信じているから……二人の成長と、そして理解を。



「ヨルム。ベルン。」



 二人の名前を呼ぶルイ。その瞳は静かに二人の姿を映す。

 感情の見えぬその眼に喉を鳴らしたのは誰なのか。


 ルイの問い掛けに返す答えを持たぬ二人。そんな俯く二人にルイは仕方ないなぁと言わんばかりに苦笑を浮かべた。



「貴方達はどうしたい?」



 それはこれからの事。ルイは二人を護衛から外すことは考えていない。しかし二人はどうなのか?その真意を分からないルイにとってチャンスをくれと言われても、どういう“命令”を与えれば良いのか分からなかった。

 ルイもまた二人の主人として、まだまだ未熟であり初めての配下に戸惑いを抱いているのは隠しようも無い事実。

 ルイにとって当たり前として思っている事でも二人にとってはそれがルイからの恩恵であるという。言葉にしないが故の微妙な意識の違いが三人を見事にすれ違わせている。


 ルイは二人を信頼し、その命を預けた。

 それは二人のその力を信用しているがために。


 二人はルイを尊敬し、その心を捧げた。

 それは自分たちの力を預けるに足る人物だと信用しているがために。



 お互いがお互いを裏切らないと信じているが、二人はルイに隠し事をされたことに傷つき。

 ルイは二人にその「大丈夫」と言った言葉を信用されないがために傷ついた。


 それは本当にちょっとしたすれ違い。

 しかし当人たちにはとっても大きなすれ違いだった。





 ルイは答えを返す様子の無い二人を見て内心頭を抱える。

 今まで悩んだ時は答えを導いてくれる“誰か”がいてくれた。その誰かは今やその胸元で眠りについているが……ここまでこじれてしまえばお互いしこりが残りそうな予感がした。


 だから下手に何かを言えばこの関係すらも壊れてしまうとルイは怖くなる。やっと手に入れた繋がり。配下と主人の間柄でもルイはこの関係が気に入っていた。だから仲直りしたかった。でも……。


 どう言えば、どう伝えれば正解なのか。前世も合わせて成人は越していても限られた交友関係しかなかったルイに仲直りの方法は限られている。しかも知っている方法もそれは今の現状にはそぐわないだろう。それは分かる。



 どうしよう……。そんな思いで見上げた空。



 こんなある種緊迫した雰囲気にはそぐわないほどの快晴が恨めしく思えた。

 ふわり風が髪の毛を撫でていく……



『――もう少しキミは我儘になってもいいんだよ?』



 それは今は居るはずの無い翡翠の言葉。

 幻聴だと分かるがルイは確かにあの時の翡翠の言葉を思い出していた。


「欲しがれ」と口にした彼。あの時はただの物欲の事かと思い言葉を返せば堪えきれずに噴き出した翡翠。

 それに失礼な!と思わなかった訳ではないがそれでも翡翠のあの眩しそうに破顔した表情は忘れられないものだった。


 (嗚呼、翡翠さんはこういうことを言っていたのかな?)



 ルイは先ほどまで緊張していたのを一変。くすくすと笑みを溢した。

 それに眼を丸くするヨルムとベルン。


 叱責の言葉を覚悟していたからこそいきなり笑い始めたルイに驚いた。

 肩の力を抜いて笑うルイに狼狽する二人。




「いや、あのね翡翠さんが言ってたの……私はもっと欲しがっていいんだって」


「「?」」


「私にはその権利があるんだって……その時はただの洋服とか宝石とかの物の事なんだと思ってたんだけど、これもその中に入っているのかな?って」



 ルイの言葉に疑問符を浮かべるが、ルイは久しぶりに満開の笑顔を二人に向けた。



「ねぇ、二人とも」


「はい」

「おう」


「私ね二人の事が大好きだよ」



 ぶはっと二人から変な音が聞こえた。しかしルイは動揺に狼狽える二人を気にせず言葉を続ける。

 強欲だと自分で言ったルイだからこそルイは望む。二人の成長と信頼を。



「だから何があっても二人を信じているし、二人の力が欲しいの」


 それはこれからの未来を変えるために。そして()()()()()()()にも。




「二人の忠誠を受け取ったのは、別に流されてという訳じゃないの。私自身が二人を欲しいと思ったから。だから離れることは許しません!そして――私の力となり耳となり眼となることを二人に命じるわ」



 おもむろに立ち上がりびしっと二人を指さすルイ。



 その力は私の為の力なのだと語るルイ。

 二人は決してルイをルイ()()を守るためのモノじゃないと言外に宣言する。



 ぽかんと呆ける二人にドヤ顔のルイ。



 そんな二人の脳裏に過ったのは情けない後輩の背中を押した先輩の言葉。



『――お嬢様を甘く見ないで頂戴。あの方はアンタ達より遥かにお強い方よ』



 守られるだけを良しとしないからこそ忠誠を誓った。その心の強さに惹かれて。光り輝くその瞳に魅せられて。


 でもふらりふらりと風のように、嵐のように目的の為に突っ切ってはあちらこちらに気まぐれで好奇心のままに行動するルイに二人はいつしか守りたいと思った心ばかりを先行させてしまった。

 誓った時には確かにあった彼女を信頼する心を見失っていた。彼女なら大丈夫だと思っていたのに、心配だけを彼女に向けてしまっていた。


 向けるべき心はもっと他にあったのに。




 ヨルムは跪いた体勢のまま彼女の右手を取りその小指へと唇を寄せた。


 ――その手は彼の牙を受け取った手。


 ベルンもまた跪いたままルイの左手を取り唇を寄せる。その行動は騎士を彷彿させる仕草だった。



「ルイシエラ様」

「今再び忠誠を誓いましょう」


 ベルンの言葉に反応するかのように仄かに灯るのはルイの胸元に下げられた二本の牙。

 薄く描かれたのは忠誠を表す紋章。トワイライラの紋章。



 それは二人の心の強さを、思いの強さを表すかのように再び鮮やかに濃く描かれた。





「私も強くなるから。二人が胸を張れるような主人に、まだまだ未熟で世間知らずな私だけどこれからも宜しくね?」



「「はっ」」



 ルイの言葉に返るのは強く確固たる意思の返答。



 無事仲直りが出来て笑い合う三人。

 今再び強く結ばれた絆を祝福するのは神域に住まう精霊達。


 そしてルイの胸元で揺れる二本の牙と一つの黒い石もまた仲良さげに風に揺られ揺らめいていた……――。





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