Act.20 [受け止めた覚悟]
――その背にはどれくらいの責任があるのだろうか。
――その肩にはどれほどの命を乗せているのだろうか。
足を踏み出したその先はどれだけの苦難と悲運が待ち構えているのだろうか……。
でも、それでも先に進むと覚悟を決めたその瞳に俺たちは惹かれたのだ。
*********************
「お嬢様、少しよろしいですか?」
「うん?」
それはある日の午後。
お昼ご飯を食べてお腹一杯で少し眠くなり始めていた食後の時間。ゼルダからの呼び掛けに今まで読んでいた本から顔を上げ入口を見ました。
そこには相変わらず隙の無いゼルダの姿。そしてその後ろにはいつも私の護衛をしてくれる二人の姿がありました。
ちなみに彼らと直接話したのは翡翠さんと共にピクニックに行ったあの日だけです。
彼らはあの日と変わらぬ姿で黒いローブ姿にフードを深く被り、顔には上半分を隠す仮面を付けておりその表情を窺う事は出来ませんでした。
しかし久々に彼らの姿を見た気がします。最近は姿はおろか気配さえもなく、違う人が居たようなので護衛を交代したのかと寂しく思っていましたが……。
あの誕生日以来に会う二人に少し心が浮き立ちます。元々小さな世界で生きていたのでやはり小さな頃から知っている人に会うのは嬉しいし安心するものです。でも、いつもならば物影から出て来ない二人が真昼間の私の私室に来るとはどうしたのか。
そんな疑問符を浮かべて首を傾げる私にゼルダは一歩こちらに歩いてきます。
コツっ
「お嬢様。お休み中申し訳ありませんが、彼らがお嬢様にお話があるようなのです」
聞いて頂いても?と尋ねるゼルダに反射的に頷きます。
もちろん。何かあったのならば力になりましょう!
出来る事は少ないですけどね。
そんな思いで出来るだけ姿勢を正し、彼らを迎えます。
「どうしたのですか?」
問い掛けは目の前の二人に向けて、ゼルダは彼らに譲るように一歩引くと私の横に控えます。
スッと音もなく私の前に跪く二人。気軽に言葉を発することの出来ぬ緊迫した雰囲気に私の心も人知れず気合が入ります。
「ルイシエラ様」
「どうか我々の忠誠を受け取っていただきたい」
「―― へ?」
どういう事?と間抜けな声を上げます。いきなり言われた言葉を脳が受け付けないのか、疑問符を浮かべますが彼らは低頭したまま言葉を続けました。
「風の精霊王に及ばずともこの忠誠をルイシエラ様へ」
「その手となり耳となり貴女様にお仕えしたいのです」
真剣そのものの二人。
その表情は見えなくても彼らの様子でその言葉が本気のものだと分かります。
しかし何故?と心の中の自分が首を傾げました。彼らは元々私の護衛ですがその忠誠を捧げるに値するほどの何かを見せた覚えは無いですし、そんな器量は無いと自分でも思います。それに加え彼らの主はアウスヴァン家当主の父様の筈です。今の発言は父様に対する二心と取られてもおかしくありません。そんなことをすれば命すら危ういというのに。何故こんなことを?そう思いますが一応ゼルダがここにいて、仲介した以上は父様もこの事を知っているのでしょう。
でもだからと言って流石にこればっかりは私の一存では決められません。彼らが本当に本気でそう望んでいたとしても……。
「お嬢様」
無言の私に無言の彼ら。そんな緊迫した時の中、何気なく呼ばれた声にいつの間にか俯けていた顔を上げました。
振り向けばそこには安定のゼルダの姿。彼は安心させるかのように優しい微笑みを浮かべていました。
「彼らの実力は私が保証いたしましょう」
――いやいやいや、そういう問題ではないと思うんだけど!
「お嬢様の懸念も御尤もですが、お父上のガウディ様からは既にご了承を頂いております。元々彼らはある事情により成り行きでこの公爵家に身を寄せていた者たちです。雇用こそはしておりますが本来ならば自由の身。どうぞお嬢様の御随意に」
貴方はエスパーですか?
こちらから問いかける前に答えられ疑問は解消されました。でも既に外堀を埋められている気がするは気のせいですかね?
うん!気のせいですね!!気のせいなのは分かったのでゼルダさんそんなドヤ顔で笑みを深めないでください!!
正直怖いですから!
それは兎も角、ゼルダから目を逸らし彼らを見つめます。
何が彼らの琴線に触れたのは分かりませんが彼らは“私に”忠誠を誓いたいと言ってくれました。その事はとても嬉しいのですが、そうなると何かしらの契約を交わさなければなりません。
実はこの世界では騎士の忠誠やちょっとした約束事でもとても重い制約が存在します。
精霊や妖精が存在し、魔法がある世界だからこそかもしれませんが、約束や誓約、契約などは前世に比べてこの世界ではとても神聖なものとされ、小さな約束でも場合によっては重い罰が下るのです。
特にその名を懸けて誓った約束事は反故した瞬間に代償として命を奪われる事すらあり得ます。
約束事を司るのは誓約の神ともいわれる狭間の神【トワイライラ】
ただの口約束でも正式に宣言したモノは“誓約の理”と呼ばれるものによって縛られ、違えた場合は神からの罰が下ります。
代償は様々ですが体の欠損はもちろん魔法が使えなくなったりすることもあるそうです。
それ故にこの世界の者達にとって約束事とは神によって結ばれる尊いものと考え、神聖なものとして捉えているのです。
特に騎士やそれに準ずるものが行う“忠誠の儀”は唯一、神に言葉を捧げ、その信義が問われるただ一つの儀式。その忠誠心が問われ、神に認められれば祝福として一つの加護を貰えるそうです。
しかしその心に少しでも疑心や迷い、偽りがあれば、神に嘘を言った代償に生きたまま神罰の炎に焼かれるという恐ろしい事態になります。ただ現在はそんな儀式は行わず、ただ簡略化した式で賄っていると聞きましたが……。それ故に本当の意味で忠誠を捧げた騎士は数少ないそうです。
それらを踏まえながらも考えるのは彼らの命。
流石にそんな命を懸けた契約などはしないつもりですがそれでも私は主として彼らの命を考えねばなりません。
それは守られる立場だからではなく、命令する立場として。今まで彼らは父の命令で私の護衛をしていたことでしょう。それ故に私はその護衛である彼らの命を対等に扱ってきました。しかしもし忠誠を受け入れ、彼らの主となった時。もしかしたら私は状況次第では彼らにその命を散らせという非情な命令を下すかもしれません。だからこそ――私は彼らの命を背負えるのでしょうか?彼らの主として、道を違えずにいられるでしょうか?
私は……
どうすればいいのかと思考の渦に迷い込みます。
正直、本音を言えば彼らが私に仕えたいと言ってくれたのは本当に助かります。
身体は病弱となり、頼りの翡翠さんも居ない今、少しでも少しでも力が欲しいのです。
武力だろうが、知識だろうが。例えそれがどんなものだとしても。
ゼルダが保証する程ですから彼らの実力に文句はありません。でも、果たして私は彼らが主だと見定めるほどの人間なのかと自問自答します。自分を卑下するのは良くないことだと分かっていますが、どうしても考えてしまいます。
――私は彼らが命を張ってまで守る価値があるのだろうか、と。
ああ、こんな事を考えてはいけません。でも心の片隅でどうしてもチラつく本音。
そんな出口の無い思考の中。引き上げる二つの声。
「――ルイシエラ様」
「我らを疑うのも最もだと思います」
「我らはただ影であるべき。そう教えられてきました」
「しかしどうしても我らはお嬢様の隣に立ちたくなったのです」
「この血に流れる卑しき血すらも忘れるほどに」
「この恥ずべきおぞましい身体すら厭わぬほどに」
そう言って徐にその仮面とローブを脱ぎ始めた二人。
露になるその姿に目を瞠ります。
「な!」
きらりと光ったのは光沢のある暗緑色の鱗。
ふわりと風に漂うのは茶褐色に染まる毛先。
間抜けでしょうが、ぽかんと口を開けて固まります。
そこには獣人と呼ばれる獣の部位を持つ二人の青年の姿がありました。
初めて見る彼らの本当の姿。
そして初めて見る人間種以外の人種に驚きを隠せません。
しかし驚きに固まる私に何を思ったのか、二人は表情を曇らせ下を向きました。
「このような姿、お嬢様に見せるべきでは無いと思いますが」
「どうか本当の我々を知っていただきたかったのです」
先程から随分と自分たちを卑下する二人。
おぞましいものだと、恥ずべき姿だのと交互に口にし俯きますがそんなの知りません。知るつもりもありません!
「お嬢様?」
ゼルダの声も右から左へと通り抜けていきます。
はた目には驚いて固まっている私が見えているでしょうが、心の中はもう一人の自分がじったんばったん興奮に悶えているところでした。
(ちょっ!!!けも耳萌えぇぇぇ!!鱗触りてぇぇぇ!!)
少しでも言葉を発せば、心の自分が良からぬことを口走りそうになります。
「お嬢様?」
二回目のゼルダの呼びかけにびくりと肩を揺らします。
OK、OK、落ち着こうか自分。
みんな置いてけぼりだから、私一人興奮しすぎだから。
邪念よ去れ!と念じます。そうしないと今すぐベットから降りて二人をモフモフ&ナデナデに走り出しそうです。
ふと視界に入るゼルダの姿。
――それを見た瞬間、興奮状態が一気に冷めました。
(怖ぇぇ!!)
にこりと笑いながら首を傾げるゼルダ。その笑顔が真っ黒に染まっている気がします。ぞくりと背筋を駆け抜ける悪寒。
マジでゼルダさん怖いです。
私が悪かったです!と理由もなく土下座したくなります。
本当に彼らが下を向いてて良かったです。じゃなきゃ涙目でガダブルしてる情けない私が見られることでしょう。
そんな怯える私を見て、切り換えるように咳払いを一つ。
「こほん。お嬢様ご覧の通り彼らは人間種ではありません。以前世界情勢の一つとしてこの世界には六種類の人種がいる事をご説明致しましたが、覚えておりますかな?」
「え、うん。」
唐突に始まったゼルダからの問い掛けに、内心動揺しながら頷きます。
大丈夫!大丈夫!覚えてるよ!ちょっと危ういけどね!
ゼルダからの疑惑の眼差しから目を逸らしました。
――ゼルダ曰く。
この世界には人種は六種類に分けられ、
一番数が多く、知能が高い人間。
身体のどこかに獣の一部を宿した獣人。
人間の体に異形の形を持った亜人。
妖精の血を引き魔法に長けた妖人。
他種族を圧倒する絶大な魔力を操り魔大陸に住まう魔族。
霊体が魔力を帯び、実体化した霊人。
この六種類の人種がそれぞれの大陸に住んでいます。
国ごとに住む人種は異なりますが、基本的にこのイリス大陸の中でも大きな国といえば我が国ジゼルヴァン王国、タナシュト公国、ルーディン連合国の三つです。この三つの国は三大国家と呼ばれ、あとは幾つかの中小国家が点在しています。
しかしこの三大国家は人間が中心となっており、特にタナシュト公国は人間至上主義国家で亜人、獣人は迫害対象となっています。
悲しいことに我が国ジゼルヴァン王国も他人種に対し排他的なところはあるそうです。
現在は国王が主導し人種差別の撤廃運動を行っているそうですが、戦乱時代の差別格差の名残がまだ続いているそうです。
「それ故に、彼らは裏の世界で生きることを余儀なくされました。闇の住人として幼い頃からその手を汚してきたことは間違いありません。しかしだからといってその未来の選択肢を狭める理由にはならないと思うのです」
ゼルダは私から二人に目を移しました。その目にはどこか優しげな光が宿っているようにも見えます。
「勿論、お嬢様に仕えるにあたり様々な試練を課しましたが彼らはその全てをクリアしここに居ります。」
「……」
「こう言ってはなんですが、お嬢様。彼らの忠誠を受け取るかは別として、どうか彼らのその努力を認めていただきたいのです」
私からは以上です。と言葉を締めくくるゼルダ。
改めて二人に目を向けます。
ここ最近、二人の姿が見えなかったのはその試練のためにでしょうか?
ふらりと、何かに導かれるようにベットから下りて二人に近づきます。
息を飲んで体を揺らしたのはどちらだったのか。何かに動揺する二人でしたが気にせずに跪いたままの二人に私も腰を下ろし彼らの顔を見つめます。
二人は地面に目を伏せたまま。こちらを見ることはありません。
無言で固まる彼らと無言で二人を見つめる私。
右の彼は蛇の獣人なのでしょうか?今までは仮面に隠されていた頬に浮かぶ暗緑色の鱗。今は下を向いているために見れませんが先ほど見た時にはその目は爬虫類の特徴的な縦に割れた瞳孔をしていました。
僅かに見えるその手にも所々鱗が見えます。どうやら全身に鱗があるわけではなく、人間の皮膚に混ざって鱗があるみたいです。
左の彼は熊の獣人でしょうか?まず目を引くのは緊張にかピクピクと震えるその頭上の丸い形の獣の耳。触りたい欲求をなんとか抑えます。
そんなけも耳からなんとか視線を下ろせばそこには人間と同じくもう一対の耳がありました。しかしその耳の先は尖っています。手は毛深く、鋭い爪が見えました
残念。肉球ないんだ……。
はっ!いえいえ全然残念じゃないですから!!
ちょっと心の呟きが漏れてしまったようです。
いけないいけないと、頭を振ります。
よく見れば彼らには無数の傷跡がありました。真新しいものや、すでに古傷になっているものなど大小さまざまに刻まれています。それに加えて彼らの顔は血の気が無く、真っ青です。
彼らの過去にどんなことがあったかなんて知りません。でも私の想像を絶するほどに辛い日々を歩んできたのでしょう。
彼らに残され傷跡。自分たちを卑下する言葉。
全てが悪意を持って彼らの心の奥底にまで傷を付けられてきたのでしょう。
気が付けば何かに恐れているような、怯える気配を滲ませる彼らについつい涙腺が刺激されます。
バカか自分は。
どうしてもっと彼らのことを気に掛けなかったのかと自分を罵ります。
彼らは自分たちの居場所が無くなるかもしれないというのにその本当の姿を見せてくれました。
ゼルダのあの言いようからして世間ではまだ獣人など人間以外には居場所の無い世界なのでしょう。そんな彼らにとってここはやっと見つけた居場所かもしれないのに、もし私が彼らの姿に驚きだけではなく僅かでも恐怖などの感情を浮かべたのならば彼らはここから追い出されてしまうかもしれません。なのにも関わらず彼らは全てをさらけ出してまで私に忠誠を誓いたいと言ってくれているのです。
そんな彼らに私は何を返せるのでしょうか?
私は。
「お嬢様!?」
「ルイシエラ様!?」
ぎゅっと握り締めるのは彼らの手です。それぞれ固く握られた手を奪い、繋ぎます。
驚く彼らですがそれすら無視して私は言います。私の全てを。
「私はとても弱い人間です。力さえも非力で人の顔色を窺って生きる卑怯な人間です。人の命の上に立つ立場でありながらぬくぬくと何も知らない顔で平穏な箱庭で笑う甘ったれな人間です。」
「でも、私は力が欲しいのです。強欲だと言われようとも、傲慢な振る舞いだとしても私は力が欲しい」
そうです。私はこれからに向けて力を付けなければならないのです。
それがどんなものだとしても。だから。
「私は、……私は前世の記憶があります」
「お嬢様!」
ごくりと喉が鳴る音が聞こえます。ゼルダの窘める声も聞こえますが私は止まりません。止める気すらないのです。
「これから私が進んでいく道は茨の道だと思います。辛く、険しくて、とても苦しい道だと思います。でも、それでも私は歩みを止めることはできないのです。」
勿論止まるつもりもありませんが。
「それでも貴方たちは私に忠誠を誓いますか?」
彼らが真摯に向き合ってくれたように、私も彼らと対等でありたい。そんな思いから告げた言葉でした。
しかし。
「……ならば、その道を切り開く剣が必要でしょう」
「その身を守る盾もまた」
ぎゅっと逆に握り返された両手。その手は力強く、何も迷う気配もありません。
「「我らがその剣となり、御身を守る盾となりましょう」」
顔を上げた彼らとやっと目が合い。その覚悟の強さに惹かれます。
眩しいほどの彼らの思いが流れ込んでくるようです。
「ならば私は貴方たちの主として、その命。その思いを受け入れましょう」
二人が胸を張れるくらいの主として。
そう思い、彼らの命を背負うことを覚悟して言葉を発します。
これで終わりだと思い、ほっと安堵の息を吐き出したのも束の間。
――スッと音もなく立ち上がり、抜かれた二本の剣。
「え?」
突然の二人の行動に固まります。
理解不能のまま戸惑っていれば二本とも彼らの足元に突き刺さり、蛇の獣人の彼はぶつぶつと何やら呟いているではありませんか!
低く、まるで蛇が発する声のように空気を震わせる言葉。それに呼応し、二本の剣からは光が走り、床には魔法陣が描かれます。しかもよく見ればその魔法陣はトワイライラの紋章ではないですか!
ちょっ!これって!!
明らかに何かの儀式の準備に慌ててゼルダを振り向きます。
そこには嬉しそうな表情のゼルダの姿。
いやいやいや!止めようよ!何嬉しがってんの!?
SOSを込めて見ますがゼルダさんはまるっと無視。
そうしている内にも事態は進み、魔法陣は出来上がり目の前には再び跪く二人。
「「我らは名も無き、寄る辺無き民。今ここにルイシエラ・ロトイロ・ヴァイス・アウスヴァンに忠誠を誓う」」
「その御身を守る盾となりて」
「その御身を脅かす敵を屠る剣となりて」
「「信念を支える忠義を今ここに!」」
その力強い声に呼応するかのように強まる光。
「ちょっ!」
「「我ら流浪の獣。祖先の英霊に今ここに誓う」」
ばきっと音を立てて目の前に差し出されたのは……二人の長い牙でした。
最早顔色なんて無いような私。差し出された牙を呆然としたまま無意識に受け取ります。
トワイライラの魔法陣が一段と強く光ったと思えば、熱く感じたのは手の平の二本の牙。
一つは細身で僅かに長く、牙の先にはちょっとした穴が開いてます。完璧に蛇の牙です。もう一つは太めで僅かに短めな牙。緩やかに湾曲したそれは完璧に肉食獣の牙でした。
そんな二本の牙に見る見るうちに刻まれていく花咲く蕾に照らす月と太陽の紋章。紛うこと無きトワイライラの紋章でした。アリガトウゴザイマス。
宣誓の言葉にこれが刻まれたということは……。
これが忠誠の儀なんでしょうね。こんちくしょう騙された!!
「おめでとうございます。お嬢様」
「ゼル……」
ニコニコ顔のその顔面に拳を叩き込みたくなります。
知ってて止めなかったな!!裏切者!
紋章が刻まれたと同時に魔法陣も無くなり、部屋はいったん静寂を取り戻します。
私の目の前には依然として二人が跪いたまま。私の言葉を待っているのでしょうか。
流石に忠誠の儀は予想外で度肝を抜かれましたが、彼らが私に忠誠を誓ったことに偽りはありません。えぇ、えぇそうですとも。この儀式が完成するほどに彼らも本気の覚悟だったと思えばいいのです。そう、そう思えば……。
当分、この騙し討ち的なのは恨むけどね!
「これから…よろしくね」
「「はっ」」
一人はニヤリと、もう一人は少し申し訳なさそうに笑みを浮かべる二人。
ちなみに二人には名前が無いそうで、成り行きで私が付けることになりました。
蛇の獣人の彼はヨルム。熊の獣人の彼はベルンと名付けました。
意味は内緒ですとも。
まぁこれからよろしくお願いします。
「もちろんです。お嬢様」
「任しとけって姫様」
敬語はいらないといった瞬間から適応するヨルムにどつくベルン。コントのような二人の会話についつい笑みが零れました。
どうやらこれから騒がしくなりそうです。




