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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~ル・ガル滅亡の真実
662/665

神の掌の上

~承前




 ――この星の物は永遠なる飢えに苦しめられる


 者ではなく物。エイダンは間違いなくそう言った。

 その言葉の違いにカリオンはハッとした。


 あのヒルダを分解する為の膨大なコストにより全てが迷惑を被る。

 もちろんそこには、愛するリリスの存在も関係している。


 そう考えれば、自分自身ならどうするのかなど考えるまでも無い。



 ――――手段など問うてはおらぬだろうな……



 そう。間違い無くそこには傲岸な支配者としての思考が介入するだろう。

 如何なる犠牲も必要なものだと割り切るくらいのことは平気でしかねない。

 それがやがて、暗愚の帝と謗られることになろうとも……だ。


 ただ、ハッと気が付いた事もある。

 イナリは、いや、イナリが化けていた葛葉御前は些事い構わぬ振る舞いだった。

 つまり、真なる支配者とは愚直に結果だけを求めるのが当然なのかも知れぬ。


 不意に見上げたカリオンは、その視界にイナリを捉えた。

 冷たい眼差しで地上を見ている存在は、エイダンを捉えていた。


「そなたは…… いや、そなたもこの世の者では無いな」


 空中に漂っているイナリの声音は驚くほど穏やかだ。

 神の領域にある者ならば、異なる物が見えるのかも知れない。


 黙って事の成り行きを眺めていたイナリは、遂に介入しようとしていた。

 圧倒的魔力の持ち主故に、その力の使いどころが難しいのだろう。


「あぁ、その通りだとも」


 エイダンは静かにそう返答した。

 凍り付く様なイナリの眼差しを受け、平然としながら。


「本来の歴史ではそなたが召喚したより上位の存在の差配により、私は幾度も転生に次ぐ転生を重ねる事になった。より良い未来を再構築する為の事なのだが、その為に随分と様々な者を犠牲にしたよ」


 カリオンを横目にエイダンはそう言い放ち、薄く笑みを浮かべた。

 本来の歴史にも興味があるが、今もっと重大な文言が出てきたのだ。


「エイダン。より上位の存在とはなんだ?」


 どう口を挟もうか考えたカリオンだが、どうしてもこれは聞いておきたかった。

 そう。イナリから見ても上位の存在が居ると言う驚愕の事実をだ。


 そしてそれは、カリオンだけで無くリリスや九尾ですらも驚く事実。

 このヒトの男が世界や歴史や様々なものをどう改変したのかを知りたいのだ。


「やはり知りたいかね。まぁそれも止むをえまい。かいつまんで言えば、本来、ここではリリスがあの化け物と同化するはずだったのだ」


 エイダンの浮かべていた笑みがフワッと消え去った。

 そして、苦み走った険しい表情でイナリを見てからリリスへと視線を落とした。


「分離していたウィルケアルヴェルティは再統合し、あの化け物を……ヒルダを封印しようと試みた。だが、力及ばず多くの九尾が砕け散り、リリスが助勢に加わるも全く太刀打ちできなかった。そして、最終的にイナリが召喚したのはこの世界の創造主だった」


 エイダンがそう言い放った時、イナリは明確に表情を変えた。

 不快さとか不機嫌さと言ったネガティブではなく、疑念と狼狽のミックスだ。


 だが、同時にそこには諦観をうかがわせる脱力が見え隠れしていた。

 つまり、薄々は感づいていたのだろう。ヒルダには勝てない……と。


「この夥しい分岐は……そなたの仕業か」


 不意にイナリの周囲へ幾つもの光の珠が浮いた。

 その中では細々とした何かが動き回っていた。



 ――――あり得た未来……か



 カリオンは瞬間的にそう判断した。

 世界線などと言った複雑な概念を理解するほど科学的な知見がある訳では無い。

 だが、過去の歴史を眺める時、複数の選択肢が存在しえたのは解る。


 そして、それらを俯瞰的に眺め、仮に別の選択を行ったならば……


 指導者として国家を導く者ならば、常にその可能性を考えていた。

 だからこそ我が事のように世界線の概念を理解したのだ。


「その通りだ。今回のこれだって私には5度目の挑戦だからな!」


 それが何を意味するのかは説明されるまでもない。

 過去幾度となく繰り返した失敗を糧に、新たな可能性を求めたのだろう。


「なるほど。どれ一つ取って見ても、最後は押し切られておる」


 空中に浮かぶヒルダは勝利を確信したように笑っていた。

 人間の考える笑顔ではなく、バケモノらしい醜悪な顔でしかないのだが。


 だが、そんなヒルダが見下ろすエイダンもまた笑っていた。

 笑っていたというよりも脱力しリラックスしているというべきだろうか。


「異なる世界、異なる宇宙から私はここへアクセスしてきたのだよ。全てはあれを倒す為に! 復讐に燃える昼と諦観の夜を幾万と越えてやって来たのだ!」


 エイダンがヒルダを見上げそう叫んだ時、ヒルダはおそらく笑ったのだろう。

 6つの眼がそれぞれ別々に動き、タコかイカかと言った口ひげが動いた。


「……ならばこの別の世界を先に消して進ぜよう」


 イナリは幾つか浮かぶ光の珠に手を伸ばした。

 だが、その指先が正に珠に触れんとした時、イナリの手が何かに弾かれた。


「これは……」


 イナリが驚きの表情で珠の1つを覗き込んだ。

 そこに見えたのは理解不能な程に眩い何かだった。


「そんな……バカな」


 驚愕の表情を浮かべエイダンを見るイナリ。

 エイダンはニヤリと笑ってからカリオンを見た。


 目は口ほどにものを言うと言うが、カリオンの眼差しは驚愕に染まっている。

 そんなカリオンを見るエイダンの顔には『知りたいんだろ?』と書いてあった。


 カリオンは眼で続きを促していた……


「この国の多くが困り事を抱えた時、相談を持ちかけられるのが太陽王だろう?」


 過去幾度も経験した難しい裁定や判断・決断、評定事を思い出したカリオン。

 それを見て取ったエイダンは空を見上げていった。


「イナリだって同じだ。かの存在が手に余す事象もある。そんな時に無理を言う存在が居るのさ。如何なる世界でも一緒なのだよ。上には上がいる。どんなものにも必ず共通する一大原則だ。そうだろ?」


 自信たっぷりにエイダンがそう言うと、イナリは少し困った様な顔になった。

 恐らくは痛い所を突かれたのだろう。イナリとて万能では無いと言う部分だ。


 ただ、そうだとしても九尾のキツネであるイナリだ。

 キツネの国を守る守護者としてのプライドもある。


 キッときつい表情となったイナリは、それでも冷静な声音で言った。


「……そなたは知っているのか」


 落ち着いた声音と丁寧な言葉使い。しかし、その裏には明確な狼狽がある。

 驚きを隠せないと言ったイナリを余所に、エイダンはヒルダを睨み付け言った。


「知っているも何も――


 睨むだけで無く、スイッとヒルダを指差して傲岸な笑みを浮かべた。

 そこに滲むのは圧倒的な力を手にしたであろう勝利者の笑みだ。


 ――私はその存在の導きでここに居るのだ。そう。この宇宙を作った存在による干渉により……だ。イナリミョージン。そなたすらも生み出した創造神――


 その後、エイダンは何かを言ったらしい。

 だが、その言葉をカリオンが聞き取ることは出来なかった。

 ヒルダが心を削るような声で雄叫びを上げたからだ。


 何かが破裂するような、擦れ合わさるような、或いは、何かを引き裂くような。

 形容しがたい声が大音量で辺りに響いた。


「あぁ、解っているさ。お前も解っているのだろう。全てを見てきたのだろう。幾度も現れる私を見る都度に、お前は解っていたはずだ。今回は危ないと!」


 エイダンは空を指差してそう言った。同時に、その指先から何かが迸った。

 一直線に伸びる糸の様な光がヒルダを貫いた。


「#Q$D%K! V&X*rr##+*%+#~$!!」


 理解出来ない言葉をエイダンが叫んだ。

 それこそがヒトの世界の言葉だとカリオンは直感した。


 遠い日、父ゼルが謡ったヒトの世界の歌。

 ゼルの妻だったリリスの母エイラがそれを通訳してくれた。

 あの歌そのものの言葉が流れて来たのだ。



 ――――何が起きるのだ?



 息を飲んで空を見上げたカリオン。

 ヒルダはその光から身を躱そうと動いている。


 だが、そんな活動が一切無駄だという事を直後に皆が知った。

 空に向けて銃を構えていたヒトの兵士たちが腕を空に突き上げた。



 ――――なんだあれは!



 右手首と肘の間が大きく膨らんでいた兵士たちだ。

 そこに何が入っているのか、少しばかり疑問だった。

 だが、その回答は余りにも単純かつ明瞭な物だった。


 巨大な針。或いは杭とでも言うのだろうか。

 剣の柄程の太さな棒状のものがヒルダに向かって撃ち出された。

 巨大な弾丸にも見えたそれは、突き刺さった後で更にめり込んだ。



 ――――え?



 まるで意思があるかのように、その棒はグルグルと回転しながら突き刺さった。

 そしてそのままヒルダの身体の中心へ向けてめり込んで行き、そこで爆発した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!!!」


 ヒルダが可聴域帯を外れる周波数で絶叫した。

 カリオンを含めル・ガル国軍の者たちが耳を押さえて蹲った。


 超高周波による絶叫は、それ自体が攻撃だ。

 事実、不敗のヴァルターが剣を落として片膝を着いていた。



 ――――なんだこれは!



 心臓が早鐘を打ち、頭の中心が爆発するような痛みを発した。

 何が起きているのか理解出来ないが、命の危険を感じるレベルだ。


 だが、苦しむイヌを横目に、ヒトの軍勢は平然としていた。

 それを見れば嫌でも解る。このエイダンが連れて来た集団は最強なのだと。


「さぁ! まだまだ行くぞ! お前のそれは我々には効かないからな!」


 エイダンの両手がヒルダに向けられた。

 その指先全てから光線が伸び、ヒルダを指していた。


 どんな手段を使っているのか全く理解出来ない事象が目の前にある。

 ヒトの世界の高度な技術はまるで魔法だとカリオンは思った。


「さぁ、喰らえ!」


 エイダンがそう言った時、ヒトの兵士の幾人かが丸太の様なものを持ち出した。

 今まで気が付かなかったが、恐らくはどこかに収納されていたものだろう。

 その丸太状のものを肩に担ぎ、ヒルダに向かて発射した。



 ――――バカな!



 丸太の先端部がヒルダに突き刺さり、そこで前方に向かってのみ爆発した。

 爆弾状の兵器はル・ガルにだって存在するが、指向性の爆圧を出すものはない。


 事実、ヒルダの身体を構成していたものが次々に抜け落ち始めた。

 そして、抜け落ちたものは上空に浮かんでいた黒い雲に吸い込まれた。


「事象の地平と我々は呼んでいる。この世界へ存在し続ける限界点だ」


 エイダンが言うそれは正直いえば理解の範疇を越えた。

 だが何が起きているのかは聞かなくとも解った。


 あの黒い雲には全てを引き付ける力があるのだ。

 この世の全てを吸い込んで飲み込んでしまう空間の穴だ。

 その穴に向かって全てが吸い込まれている。城ですらも吸い込まれている。


 それを生み出したヒルダは、己自身がそれに吸い込まれようとしていた。


「……なるほど。よく考えたな」


 イナリが感心したように言った。

 そう。圧倒的な力を持つヒルダの弱点だ。


 ヒルダの魔力は無尽蔵で、別の世界の力をこちらで顕現させている。

 ならばその力自体でヒルダを分解してしまえば良い。倒せばよい。

 恐らく、エイダンはそう考えたのだろう。


「さすがに聡明だな。神の水準にまで実力を高めた存在は伊達では無いな」


 エイダンが言い放ったその言葉に九尾達が顔色を変えた。

 イナリに対し、神水準ではあるが神ではないとエイダンは言い切った。

 その言葉の威力は九尾達には受け入れがたいものだった。


「貴様。世迷い事を言うでない!」


 九尾のひとり。コウアンが厳しい声音でそう指摘した。

 しかし、そんな言葉を他所にエイダンは再びヒルダを指さした。


「さて、そろそろ仕上げと行くか。お前をどう分解してやろうか考え続けて来たのだよ。過去何度か良い所まで言ったのだが、毎回失敗した。その反省を踏まえているからな!」


 ヒトの兵士が行う圧倒的な攻撃は着実にヒルダを削っている。

 次々と爆発する攻撃兵器の威力はまるで冗談のレベルだった。



 ――――これ程の攻撃力とは……



 唖然とするカリオンは様子を眺めるだけの傍観者になっていた。

 いや、カリオンだけでなく、この世の者すべてが唖然としている状況だ。


「さぁ、そろそろ切り札を使ったらどうだ?」


 エイダンは煽るようにそう言った。

 幾つもの爆発でヒルダはすっかり小さくなっている。


 圧倒的な魔力で立ちはだかった強敵だが、物理攻撃には弱いらしい。

 超自然の力では対抗出来ない存在故に無敵だったのだろう。


 だからこそ、エイダンは強力な物理攻撃を選択した。

 あのヒルダとて、神の摂理からは逃れられないのだろうから。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


 ヒルダが何かを叫んだ。口らしい口が見当たらないが、それは声だ。

 何かを伝えようとする意志の発露。そして、感情の発露でもある。

 そう。言葉の意味は伝わらないが、意志と感情だけは伝わるのだ。




     オ マ エ タ チ ヲ ユ ル サ ナ イ




 だからなんだと言われればそれまでだが、それでもヒルダはそう伝えてきた。

 しかし、それを伝えるべき存在は、ヒルダをして異次元の存在だった。


「そうだ! それだよ! それで過去幾度も苦杯を味わった!」


 エイダンが嬉しそうに言ったそれは、ヒルダの超回復だ。

 幾多の爆発で失った身体が次々と再生されていった。

 失われた四肢や翼がモゾモゾと膨らんで生えてきたのだ。


 そのあまりのグロさにコトリが『ヒッ!』と悲鳴を上げた。

 過去幾度も修羅場を経験している筈の彼女とて、悲鳴を上げる始末だ。


「それでは回復してしまうでは無いか」


 様子を伺っていたイナリですらもそう言った。

 先ほどまでのボロ雑巾姿だったヒルダは、すっかり回復していた。


「あぁ、そうだとも。リジェネレーター(再生者)は倒せないさ。だがな」


 エイダンは再び両手から光線を放ってヒルダを捉えた。

 そこに向かってヒトの軍勢が再び猛攻を加え始めた。

 今度はありとあらゆる兵器が同時に使われた。


 強力な兵器の効果はヒルダを粉砕し、先ほどよりも酷い姿だ。

 ヒルダは尚もその身体を再生させ、今度は先ほどより一回り大きくなった。

 緑の鱗状な皮膚は見るからに厚く硬くなっているのが見えた。


「どれ程回復したとて。いや、回復力があったとて、質量保存の法則からは逃れられないのだよ。もちろん、熱力学第二法則や細胞分裂の限界を司るテロメアの軛からもな」


 ヒトの軍勢は実体系の爆発兵器だけで無く、先ほどの光線兵器も使った。

 硬く厚く強靱な筈のヒルダを包む鱗は瞬時に消え去り、肉の身体が見えた。

 そこへ爆発系兵器が叩き込まれ、ヒルダは痛みに絶叫した。


 ジクジクと黒い血を流すヒルダ。エイダンはそれを見て満足げだ。

 如何なる存在であろうとも、全ては創造主の御手の上。


 あの聖導教会はそう説いていた。

 カリオンは初めてその教えをありがたいと思った。



 ――――こう言うことなのか……



 ……と。


「お前は再生すればするほど全てを失っていく。圧倒的再生力こそがお前を殺す道具になるのだ。自分の力では制御出来ないその能力こそがお前を蝕む毒であり、魂を殺す刃となる」


 エイダンは大きく目を見開き、両手を広げてそう言った。

 ヒルダは再び失った肉体を再生しようとしているが、明確に異変が起きた。


「……なるほど。考えたな」


 何処か満足げにイナリがそう言った。

 恐らくイナリには何が起きてるのか理解出来ているのだろう。


 ヒトの世界の高度な学問をもっとゼルに教わるべきだったとカリオンは思った。

 だが、今は現実に意識を集中せねばならない。ヒルダを倒さねばならないのだ。


「さぁ、もっと回復しろ! もっとだ! 死にきるまで殺してやるぞ!」


 エイダンがそう言うとヒトの軍勢は更に攻勢を強めた。

 手持ち兵器を総動員し、ヒルダは次々に被弾した。


 両腕両脚が根元からもぎ取られ、その身体には大穴が開いた。

 表情が読み取れなくなる程に頭部へも被弾していて、アチコチで骨が見えた。


「はっはっは! 良いぞ! そうだ! それで良い!」


 ヒルダは尚も肉体再生を行ったらしい。

 その結果、異変が拡大し続けた。


 千切れた腕の先に翼が生え始めた。

 脚の付け根辺りにもう一つの頭が生まれていた。

 本来翼があった辺りには、イカだかタコだかの脚が伸びている。


 本来あるべき所にあるべき身体のパーツが生えてこない。

 それどころか、あり得ぬ所に生えてきたそのパーツが勝手に動き始めた。

 左足辺りからにょきりと伸びた長い腕が背中に出たイカの脚を引きちぎった。 


「お前だって生物だ。故に細胞が癌化するのだよ。遺伝情報エラーだ。どれ程に強靱な肉体であっても、その再生には一定の限界がある。恨むなら創造主を恨め!」


 エイダンの言葉が踊っているとカリオンは感じた。

 積年の恨みを果たすべくやって来たのだろう。

 その目的が果たされようとしているのだ。



 ――――さぞ……たのしかろう……



 素直にそう考えたカリオン。

 その直後、ヒルダが再び叫んだ。


「■○■○●■■■●■◇■○■■■■●△●□■□■」


 何を言わんとしているのかは解らない。

 だが、ヒルダは何かを叫んでいた。


 そしてその直後、再び可聴域帯を外れる周波数の絶叫が響いた。

 今度は高周波と共に低周波がやって来てカリオンは衝撃波に突き飛ばされた。

 思わずタタラを踏み、片膝を付きつつ見たのは、辺りに転がるル・ガル兵だ。


 目や耳から血を流し、フラフラと立ち上がった国軍兵士達。

 彼等と同じく、カリオンもまた強引に立ち上がろうとした。

 強い目眩と耳鳴りと、そして意識が朦朧とした。



 ――――バカな……



 フラフラとしつつ立ち上がった時、何処からか聞き覚えのある声が聞こえた。

 それがイナリの声だと気が付いた時、イナリは再び鈴を鳴らしていた。

 軽やかな鈴の音が聞こえた後、再びイナリの声が響いた。


「なるほどな。では、幕を引いて進ぜよう」


 ……と。

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