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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~ル・ガル滅亡の真実
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ドリー錯乱

~承前




 ガルディブルク城から2リーグ。

 小さな駅逓だけがある街道の中継点でル・ガル軍は休息中だった。

 獅子とネコの連合軍に対し、ル・ガル軍団は騎兵による突撃を行ったからだ。


 そこで得られた新たな知見は、やはり騎兵は歩兵に強いと言うこと。

 獅子の側の大規模な魔法攻撃も騎兵による連動攻撃には弱いと言うこと。

 連射が効かないのは銃もそうだが、長い詠唱と高い集中力を要する魔法も同じ。


 つまり『打ち寄せる波の如し』はこんな局面でも有効だ。

 そしてそれ以上に大きな教訓は、兵科の違いは有効性を武器にしろと言うこと。

 戦はじゃんけんの如しと言われる様に、相手の兵科に対し不利で挑むのは愚か。


 つまり、機動力こそが騎兵の武器なのだから機動力で勝てと言うことだった。


「スペンサー卿!」

「おぉ! 若王! 不肖ドレイク・スペンサー。ただいま帰還いたしました!」


 最後にル・ガル陣地へと戻ってきたドリーをキャリが出迎えた。

 既に薄暗い駅逓が沸き返り、多くの兵士が拍手でスペンサー騎兵を出迎えた。


 そんな中、全身に返り血を浴びたドリーは、興奮冷めやらぬ様子だ。

 すわ戦闘となれば、どんな冷静な人間だってアドレナリンが迸るもの。

 ことにこのスペンサー一門となれば、もはや狂を発したレベルなのだ。


「凄まじい戦闘でしたね」


 指揮台で眺めていたキャリは、そんな評価以外に言葉が無かった。

 勇猛果敢で大胆不敵。何より言えるのは、戦の上手さだ。


 魔法は連射が効かないと見るや、遠慮無くドリーはそこへ飛び込んでいった。

 銃だって連射が効かないが、そこは経験を積んだル・ガル軍にも対策がある。

 円を描くように馬を走らせ、射撃するや否や後方の騎兵に射角を開けるのだ。


 その結果、疑似的に機関銃のような連続攻撃が可能となっていた。

 しかもその円環状の騎路は騎兵の意志で移動するのだ。

 猛烈な射撃を浴びせ防御担当兵を根絶やしに出来る。


 大盾を持った防御兵が怯んだ時、そこはもはや騎兵の独断場だった。

 銃を背中に担ぎ、槍を持ってそこへ突撃する。

 あとはただ、鏖殺するだけだった。


「太陽王と共に散々と走り回った結果ですな。自分は王の父君が指揮された戦も参戦しておりますゆえ、その辺りの経験でしょう」


 わずかに謙遜して見せたドリーだが、その顔には満足げな色が見える。

 押しも押されもせぬ戦巧者の誉れを独占する自負と自信を見せていた。


「若王。太陽王は何処に?」


 小さな駅逓故か建物は小さい。

 そんな建物を指差したキャリは『一休み中です』と応えた。


 久しぶりに騎兵を率い出撃した太陽王は存分に敵を屠ったと言う。

 カリオンの『馬の上手さ』を知らぬ若い騎兵は大いに驚いたとか。


 また、それだけでなく、縦横無尽な行動はさすが武帝の後継者。

 ドリーが戦巧者なのは論を待たぬとして、それを上回る手際を見せた。



    ――――――さすが太陽王だ!



 そんな声が若い世代を中心に沸き起こり、ただ者では無いと多くが再認識する。

 ビッグストン始まって以来の好成績で卒業したひとりの騎兵として面目躍如だ。


「さようでありますか! まずは王に帰還の挨拶をと思いましたが……」


 ドリーが言うそれは、率直に言えば戦の後始末の相談だった。

 はっきり言えば負け戦だ。とてもじゃないが勝ち戦とは言えない。

 戦力の減耗は著しく、弾薬の消費は洒落になっていなかった。


 だが、じゃぁ負け戦かと言えばそれも微妙だろう。

 実際の話として、獅子とネコの連合軍は後退せざるを得なかった。

 正面戦力となる魔法軍や白兵向けの武装兵に犠牲者が多いのだ。


 最大限好意的な見積もりをすれば、痛み分けなのだろう。

 どちらがと言う事では無く、双方に手痛い犠牲を払っていた。


「そうですか…… ただ……」


 キャリが少し表情を曇らせた。

 そんな様子を少し不思議がったドリーは『ただ?』と問い返す。

 すると更に困った表情のキャリは、一言漏らした。


「眠ってしまったんですよ」


 思わず『は?』と問い返したドリー。

 キャリは『えぇ……』と困惑気味に応えた。


「ここへ帰還した後、色々と指示を出した後で椅子に腰を下ろしたら、そのままスッと落ちるように眠ってしまいました。疲れてたんでしょう」


 段々と老い始めているのは皆が知っている。

 この数年は昼食後の午睡も日課だった。


 だが、血で血を洗う戦闘後の興奮状態で眠れるのはやはり異常だ。

 ドリーが怪訝な顔建物へと入って行くと、駅逓局長の私室にカリオンはいた。

 長椅子の上、片隅に座ったリリスの両脚へ頭を預け、横になっていた。


「……………………」


 声を掛けようとして、一瞬だけ言葉を飲み込んだドリー。

 眠っているのはカリオンだけでは無くリリスもだった。


 ヒトの姿に身を窶しているが、その中身は帝后のままなのだ。

 常にカリオンに寄り添い献身的にサポートしている彼女もまた疲れている。

 その穏やかな寝息は深い睡眠を示していて、相当な疲労を感じさせた。


 起こすべきか、寝かしておくべきか。流石のドリーも逡巡した。

 カリオンはパッと起きるだろうが、リリスには恨まれるかも知れない。

 今は『夫』であるカリオンを独占しているのだから、彼女にも幸せな時間。


 だが……


「……陛下」


 ドリーの内心にはリリスへの嫉妬が少しばかり芽生えていた。

 男が男を巡って女に嫉妬する。その異常さにドリーは気付いていない。


「陛下」


 もう一度静かに声を掛けたドリー。カリオンはまだ眠っている。

 油断しきった表情をベビーフェイスなどと言うが、今は正にそれだ。

 いつまでもそれを見ていたいとすら思ったのも事実。


 だが、同時に今は一刻を争う状況だ。

 撃退した獅子とネコの軍勢が逆襲に来る可能性だってあるのだから。



  ――――――起こそう



 ドリーはそう決断した。そして、カリオンの肩へそっと手を伸ばした。

 その刹那、カリオンは目を覚ました。僅かな気配に反応したのだろう。


「……おぉ ドリーか! ご苦労だった」


 少し胡乱な表情をした物の、すぐに正気に返ったカリオン。

 程なくリリスも目を覚ましたらしいが、うたた寝程度では回復もままならない。


 その姿を見れば疲労の2文字は誰だって拭えぬだろう。

 カリオンのそばで魔術的にサポートしてたのだ。


「ただいま戻りました…… 陛下()()()もお疲れで……」


 カリオンやリリスの顔を見れば解る事がある。

 両眼は窪み、目の下には少しばかりのくまが出来ている。

 寝ないで物を考え、眠気を押して行動した結果だろう。


 王の責務とは言え、その重責を思えば頭も下がる。

 この場面で『やって当然』などと言える者は、少しばかり人間性が足らない。


「あぁ、済まんな。歳は取りたくないものだ。まだ百なのになぁ……」


 帝國歴306年生まれのカリオンだ。本来なら働き盛りの100才と言える。

 イヌの生涯は凡そ250年を数えるのだから、中年の入口あたりだろう。


 だが、マダラに生まれた者は総じて加齢が早いと言われている。

 100を越えれば黒い毛並みに白髪が交じり灰色に見えるもの。

 カリオンも正にその状態で、今はロマンスグレーの頭髪だった。


「それだけ困難な道を歩まれているのです。家来のひとりとして恥ずかしい限り」


 無私の忠誠を見せるドリーのスタンスは常に一定だ。

 そんな自分に酔っている……と、口さがない者は陰口を叩く。

 だが、それすらも賞賛の言葉になる時だってあるのだ。


「そなたの忠勇もまた余の誉れぞ」


 こんな場面では家臣を率直に褒める。

 昔から続くカリオンのスタンスだが、ドリーは満足だ。


 スペンサー家の者達はどれもが熱い忠誠を捧げることが多いもの。

 このドリーの場合は、その熱さが常軌を逸しているレベルだった。


「して、今後はどうしましょうか」

「……うむ。それなんだが」


 椅子から起きあがったカリオンはリリスに手を差し出し引き上げた。

 膝枕をしていたのなら足だって痺れているはずだろう。

 小さな声で『ありがとう』と囁くカリオンにリリスが笑みを返す。


 幼い頃から共に育ったというル・ガル一番のおしどり夫婦。

 そんなふたりの姿に、ドリーはやはり何処か嫉妬を覚えていた。


「先に城へ返したウォークへ色々と指示を出した所だ」


 リリスはお茶を用意しカリオンへと差し出した。

 こんな状況でも暖かい物が飲めるのはル・ガルの余裕その物だ。

 城まで僅か2リーグとあっては補給の経路が安定しているのだろう。


 ホッと息を吐いてお茶を楽しんだカリオンは背中を伸ばしつつ首を回す。

 柔軟体操と言うほどでは無いが、ストレッチで身体を解すのは疲労に効く。


「では、攻勢に出ますか?」


 喜色を隠そうともしないドリーの言葉にカリオンが苦笑いする。

 そこへジダーノフ家のボロージャが入って来て話に加わった。

 程なくレオン家を預かるポールもやって来た。


 攻勢


 その言葉が意味するところは簡単だ。

 攻撃は最大の防御という通り、敵を押し返す算段をドリーは期待した。

 戦争狂とかでは無く、戦う事自体がスペンサー家の役目だからだ。


「いや、攻勢に出るほど余力がないと言ってきたよ。まぁ、ル・ガルの現状を思えば財政的に難しいのは仕方が無いのだがな」


 何気なくカリオンが言った言葉だが、ドリーは少しばかり表情を変えた。

 それを見ていたリリスが異変に気付き、ジッとドリーの目を見た。



    ――――あれ?



 恐らくそれは、誰も気が付かないレベルの物だろう。

 もっと言えば男には気付かないレベルな表情の、目の変化。


 だが、目は口ほどにモノを言う。そして雄弁に語る。

 リリスはドリーの内面がどうにか変容していると直感した。


「はい、お茶」


 さりげなくお茶を差し替えるフリをしてカリオンに振り返らせたリリス。

 カリオンは少しばかり油断した風で振り返り、リリスを見た。


 そして、それに気付いた。

 リリスの目がチラリとドリーを見てから僅かに目を細め、カリオンを見た。

 その眼差しに怪訝な色が混じっているのは何かの警告であり、警戒だ。



    ――――ん?



 何を言いたいのか一瞬把握しきれなかったカリオン。

 リリスがいつもよりゆっくりお茶を注ぐのを見てハッとした。

 考える時間を作ってくれているのだ……と。


 ただ、少しばかり頭が疲れていたカリオンは気付けなかった。

 致命的な一言を漏らしてしまったと言う失態をだ。


「陛下。ウォーク殿は……なんと?」


 ドリーの声音が少し変わった。その時点でカリオンも気付いた。

 それは、致命的レベルの失言だったと言うことに。


 ここへ後退する最中、ウォークを城へと送り返した。

 色々と指示を出してあるし、向こうで準備もしている。

 だが、少なくとも何かしらの連絡を向こうから送る方法は無い。


 それ故に、たった今まで夢の中であれこれ相談をしていたのだ。

 ウォークはその中で、もはやどうにもならないレベルであると告げていた。


 だが……


「ん? 余は何かおかしなことを言ったか?」


 あくまで平静を装いカリオンはそう言葉を返した。

 ドリーが何を聞きたいのかは解っている。


「いや、ウォーク殿が言われたという……財政の件です」


 ドリーの声音に猜疑心が混じっていた。

 いや、混じったというより、その物だ。


 いつ連絡を取ったのだ?と言わんばかりの言葉がドリーの口から出た。

 つまりそれは、ドリーから疑われていると言う事だろうか。

 カリオンは一瞬の間に様々な可能性を考慮した。


「何を聞きたいのだ? 先に市民会議の報を余の元へ持って来ただろう?」


 あくまで平静を装ったカリオンだが、その声音に僅かな変化が混じった。

 誤魔化している。或いは、謀ろうとしている。そう疑われるものだ。


「先に? あぁ、あのフィエン郊外の……」


 いきなり姿を現したウォークにドリーも少なからず衝撃を受けた。

 だが、それ以上に衝撃的だったのは、ル・ガルが財政的に破綻寸前と言うこと。


 少なくともスペンサー家の者ならば、飲まず食わずの手弁当でも馳せ参じる。

 しかし、国民会議の面々はもうやめてくれと泣き言を送ってきた。

 それだけじゃなく、官僚を差配する男までもがそれに賛同した。



   ――――――何をやっているのだ!



 ドリーは内心奥深くでそう思っていた。

 例え生活がままならぬ事態であろうと、国難には協力するものだ。

 国民を包み守る強力な鎧としての国家を国民が支えずしてどうする。


 そんな思いがグルグルと駆け回っていた。

 いや、駆け回っていると言うより、思考の全てを染めていた。


 そして……


「ウォーク殿も苦労してられるが……些か覚悟が足りませぬな。国難を前に狼狽えているようでは宰相足り得ませぬ」


 ドリーの言葉には侮蔑や嘲笑と言ったものではない何かが混ざっていた。

 そしてそれは、カリオンには嫌と言うほど経験があるものだ。


 どこか病的な迄の忠誠を見せるドリー。

 だが、最近は本当に病気なんじゃないか?と不安になるレベルだ。


 自己暗示に陥った精神的に盲目状態とでも言うような滅私の振舞い。

 しかしそれは、一歩間違えば狂信とも呼ばれる状態だ。

 そして概ねそんな時は冷静な判断が出来ない。


「ドリーは妬いてるのか?」


 軽口を叩いたカリオンはゆっくりとお茶を飲み、一つ息を吐いて間を作った。

 そして、静かにリリスへとカップを返し、その時にチラリと彼女を見た。


 その眼差しの先。リリスは露骨に警戒している様だった。

 いや、警戒と言うより探っている様にも見える。



     ――――――何かがおかしい



 それはカリオンにも解る。

 だが、何がおかしいのかは解らない。


 そんな状態で何かを言おうとしたとき、伝令の若者が息を切らせてやって来た。

 若者が浮かべる表情を見れば、悪い知らせではない事が見えているのだった。


「報告です!」


 元気な声でそう切り出した若者は、カリオンの姿を見ながら続けた。

 どこから走ってきたのかは解らないが、少なくとも強行軍をしたのは見えた。


「近衛将軍のジョン・レオン様が発見されました! 手傷を負われてますが命に別状は無いとの事です! 現在は『あぁ、もう良い。早く良くなれと伝えてくれ』


 ニヤリと笑ったカリオンは嬉しそうにもう一度カップへと手を伸ばした。

 少し冷めた茶だが、それでも格別の味がするのは間違い無い。


 何故なら、つい今し方まで、夢の中でジョニーと話をしていたからだ。

 酷く窶れた姿だったが、まだまだ元気一杯でハイテンションだった。

 後退する友軍の最後尾に付いた彼は、敵を誘導して荒野を駆け回ったのだ。


 そしてその結果、自分自身が現在地を見失い、荒野を彷徨った。

 ビッグストンで学んだ騎兵にあるまじき事だが、要するに迷子になったのだ。


「現在地は聞かなくとも良いのですか?」


 不思議なことをドリーがたずねた。

 何かを探るような声音に、今度はカリオンが露骨に警戒感を示した。


「何故だ?」


 いつもより少し低い声。そして少しばかり不機嫌そうな態度。

 普段の太陽王なら滅多に見せない姿だろう。だが、今は必用だと直感した。



     ――――――ドリーが変よ……



 リリスの顔にそんな警戒が張り付いている。

 それを見て取った時、カリオンの耳にあの鐘の音が聞こえた。

 シウニノンチュの大鐘楼に下がるノーリの鐘だ。


 それは間違い無く碌なことじゃない。

 碌な事どころか明確な危険が差し迫っている可能性が高い。


 カリオンの表情から柔和な部分が一切消えた。


「ドリー。 余は予てよりそなたに話していなかったことがある」


 普段の穏やかなカリオンでは無く、まるで戦に赴く時の様な緊張感が漂う。

 その身から発せられる威の圧力は並の者なら怖じ気づくレベルの物だ。


 ただ、それを受ける男は、間違い無くル・ガルで一番の武闘派だ。

 敵の威圧こそ無情の歓びであり、強い敵と相まみえる事は本願。

 何より、心底惚れた男が発するその威は、恍惚感すら覚える程に。


「是非お聞かせくだされ!」


 何を期待したのか、ドリーは喜色でそれを望んだ。

 カリオンが秘密を打ち明けてくれるなら、それはもう神に抱かれるが如しだ。


「うむ。実はな…… 余は、余には鐘の音が聞こえるのだ」


 そう切り出したカリオンに対し、ドリーは小さく『は?』と返した。

 唐突にそういった所で誰も理解しないだろうが、生まれ持った天性の才覚だ。


「余はシウニノンチュで育ったのだが、あの街の大鐘楼の『ノーリの鐘ですな』


 カリオンの話を遮るようにそう言ったドリー。

 他ならぬ太陽王の話を遮って口を挟んだ不敬だが、カリオンは笑うだけだ。


「そうだ。あの鐘だ。実は……余は幼少の頃より何か大きな事態が切迫するとあの鐘の音が耳に響くのだ。祖父であるシュサ帝の戦死より少し前。父ゼルが越境当賊団の前に斃れた時。他にも様々な場面で余は警告を受けてきた」


 カリオンが極めつけに幸運な理由。

 ドリーはその鐘の音こそがヒントだと思った。


「危険を前に事前対処をされたわけですな」


 何処か嬉しそうにそう言うドリー。

 王府の中でもろくに知る者が居ない秘密を打ち明けてくれた事が嬉しいのだ。

 太陽王の手下の中でも自分が特別であると言う優越感にドリーは酔った。


「まぁ、そうとも言える。そしてこれは、余に魔法を手解きしたウィルケアルベルティによれば、余が生まれついて持った魔力による物だろうと言うことだ。その為か、余にはある程度事前に結果が予想できるのだ」


 解るか?と言わんばかりのカリオン。

 ドリーは少し怪訝な顔になっていた。


「それだけでない。時には……まぁ、色々と条件はあるが、余は他人の夢に入る事が出来る……いや、それは正しくないな。表現が違う。正確には他人の夢と繋がれるとでも言うのだろうか。まぁ、最も正しい表現をするなら、妻であるリリスの夢に繋がってからだが――『やっぱりそうか!』


 遂に夢の秘密をカミングアウトしたカリオン。

 淡々と説明していたのだが、唐突にドリーがブチ切れた。


「おかしいと思っていた! 何故だと長年疑問だった! 何故! 何故だ!」


 ドリーの顔に猛烈な怒りが浮かんだ。その双眸に炎が沸き起こっていた。

 どう見ても普通じゃないとカリオンが思った時、ドリーは剣を抜いて叫んだ。


「手前の思いを! 我が生涯を! ここまでしたのに! なぜ裏切られた!」


 ……と。

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