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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~ル・ガル滅亡の真実
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予想外の出来事

~承前




 ――――これは一体どういう事だ?


 目の前で繰り広げられる光景を前に、カリオンは言葉を失っていた。

 カリオン自ら近衛連隊と国軍の合計3万を率いての王都出発から1週間。

 ル・ガルの迎撃軍はフィエン郊外の広大な荒れ地へ陣取っていた。


 言うまでも無く、ネコと獅子の連合軍を待ち構え殲滅する為だ。

 予備攻撃として徹底した転送爆弾が送り込まれ大戦果を上げていたはず。

 だが、現状では敵の連合軍に押し込まれつつあるのだった。


「陛下! 後退を! どうにもなりませぬ!」


 金切り声でそう報告してきたヴァルターのマントは焼き切れていた。

 それは、唐突に襲ってきた巨大な炎の奔流による一撃の結果だった。


 重層的な殺し間を作ってネコと獅子の連合軍を待ち構えていた筈なのに。

 継続的に転送爆弾による嫌がらせ攻撃は続いていた筈なのに。


 獅子とネコの魔道兵は初手からとんでもない一撃をぶち込んできたのだ。

 ル・ガルの銃兵が2割近くもいきなり持って行かれる程の大ダメージだった。


「敵側の戦力はどうなっているのだ!」


 少しばかり声を荒げたカリオンだが、そこへやって来たのはジョニーだ。

 近衛将軍と呼称される通り、近衛師団責任者として1万少々を率いていた。


 だが、戦線本部から少しばかり前進した場所に位置する近衛師団本隊は壊滅。

 虎の子の40匁弾を放つ先込式の小銃はそっくり失われたらしい。

 まだ動ける者全員に後退を命じたジョニーは、その足で本部へ来ていた。


「どうにもこうにも! 数が減ってねぇ! 思ってたより効果がねぇ!」


 事前の報告では敵軍の残存戦力は5万に満たないと観測されていた。

 キャリの手下にあるロナの遠見術でも、転送爆弾の効果は大だったはずだ。


 最初に行った嫌がらせ攻撃により、敵側は重層的に防御の為の魔術を使った。

 だが、それが悪手となり、次々とその強力な防御魔術の開始点が襲われた。

 いきなり現れて大爆発する魔術転送爆弾は防御不能の一撃だから。


 しかし、どんな手段を使ったのかは解らないが、敵側は全滅していなかった。

 それどころか、こちらの攻撃を全て無効化しつつ前進し続けてきたのだ。



     ――――――何らかの対策をされた!



 誰もがそう直感したが、何を行ったのかを解析するのは後だ。

 先ずは戦線を立て直しつつ敵を撃退せねばならない。


 だが、そんな事を悠長に行えるほど余力がある訳ではなかった……


「……何故だ?」


 カリオンすら驚くその報告。

 魔術を使った攻守一体の攻勢は完全に無効化されたようだ。


 戦線の最前列で殺し間を構成した銃兵は猛烈に撃ち続けている。

 だが、撃っても撃っても敵が減らず、後から後から湧くように後詰めが来た。


 こうなってしまった場合、銃火器というのは非常に都合が悪い代物になる。

 銃身が過熱し、暴発の危険性があるだけで無く、そもそも当たらなくなるのだ。


「陛下! 陛下! 解りました!」


 息を切らして走ってきたのは、あのロイ・フィールズだった。

 王都より持ち出した国軍参謀のひとりで、当人もやる気十分だった。


 意気軒昂な者は不思議と生き残る。


 そんな格言がある位なのだから、ロイは迷わず戦線へ飛び出していた。

 絶対に生き残る。そして手柄を立てると心に誓って。


 だが、そんな格言など鼻で笑う勢いの大攻勢だ。

 そもそも論として、勝ち戦にある兵は威力3倍という。

 気合と勢いで押し切られるのだ。


「敵の魔導兵が防御の魔法を使っています!」


 その言葉にル・ガル陣営の首脳陣全員が絶句した。

 強力な防御魔法を使えばあっという間に転送爆弾の餌食になる筈だ。


 この世界の全てで普遍的に存在する魔素なるもの。

 その高密度点を探し出し、特定のエリア内で自動的に送り込まれる魔術。

 仕組みを考えればこれ以上陰湿な攻撃手段は無く、また確実な手段も無い。


 だが、現実には敵側の兵がぶ厚い魔法障壁を展開しているらしい。

 銃兵による猛烈な射撃に怯む事無く障壁を展開し、力任せに前進している。

 そのカラクリが見えたのは、正に敵の前線が指呼の間となった時だった。


「あれ……空間を歪ませているのね」


 カリオンの脇に居たリリスがその正体を見破った。

 半ば偶然であったが、湾曲した空間により背景の景色も歪んだのだ。


 強力な魔法の壁を作れば、そこに転送爆弾がやって来る。

 魔法科学が発展している獅子ら故に、恐らくはそう仮定したのだろう。

 その為、魔素そのものを壁とする魔術は使わぬ方法を編み出していた。


 現場で対策を考えたのだろうが、その辺りも中々に百戦錬磨。

 やはりどんなものであっても学問的体系化と経験の積層化は重要だ。


「……なるほど。それならば合点が行きます」


 リリスと共に立っていたウィルもそう独りごちた。

 要するに、障壁を作って弾き返そうとするから駄目なのだと学んだ。

 それならば飛んでくる物体のベクトルをねじ曲げよう。


 音速を超える銃弾は障壁の直前でクイッと進路を変えて空に消える。

 転送爆弾では魔法規模が小さすぎて反応しない。

 こうなるともはやホーミング転送しか無いのだろうが……


「お嬢! 出番だ!」


 リリスの脇に立っていたリベラが声を上げた瞬間だった。

 獅子の陣営側からとんでもない突風が襲ってきた。


 重層的な殺し間の段列が吹き飛ばされ、火線に切れ目が生まれた。

 強力な風というものは、時に銃弾すら吹き飛ばしてしまうもの。

 そして、そんな暴風を生み出すのは生活魔法と呼ばれるシンプルなものだ。


 かまどの火を猛らせる為に風を送り込む魔法。

 だが、そんな魔法を基礎魔力高い者が一個師団レベルで使ったら……


「フンッ!」


 リリスはグッと意識を集中して魔法障壁を作ろうとした。

 空間に断裂を生み出す強力な魔術で、主に熱の遮断に使われるもの。


 だが、その直前にウィルがその魔法構築に介入して妨害した。

 魔術師同士の戦いではメジャーに使われる魔導妨害術である乱魔術だ。


「ここに爆弾が来てしまう!」


 ウィルの言葉にリリスが『あっ!』と叫んだ。

 そう。強力な魔法に反応する仕組みの魔法攻撃なのだ。


 リリスが練り上げた魔素の渦など転送爆弾の目標に最適。

 敵側は仮定の検算も兼ねて、ル・ガル側に強力な魔法を使わせようとした。

 その辺りに見え隠れする戦いのセンスは、少々を通り越すレベルで上手かった。


 ただ……


「全員伏せろ!」


 悠長な事を言っている場合では無い。

 カリオンはリリスを抱き寄せてその場に伏せた。


 その直後、猛烈な突風が本陣の辺りを突き抜けていった。

 土埃と小石や様々な物が風に乗って飛んできた。


 握り拳大の石とて、高速で直撃すれば命に関わる。

 なにより、視界を奪われ反撃の芽を潰される攻撃だ。


「……やられたな」


 苦虫を噛み潰し立ち上がったカリオン。

 その隣で立ち上がったリリスがカリオンの衣装から埃をはたく。


 見れば戦線は混乱し、各個反撃に移っている中で敗走している小隊がいた。

 どう見たって認めたくは無い、負け戦の光景でしか無かった。


「なぁエディ」


 ジョニーは首を振りながらカリオンを見た。俺達も後退しようと言う進言だ。

 そしてこれは、ジョニーしか言えない事だった。


「……あぁ、そうだな――」


 濛々と立ち上った砂塵を見つつ、カリオンは言った。

 敵側の攻撃が僅かに収まり、太鼓の音に合わせて前進が開始されていた。


「――負け戦は久しぶりだ。良い勉強になった」


 それが負け惜しみだと思うものは指揮官に向かないのだろう。

 敗北の中から何かをつかみ取ることも大事な能力なのだから。


 戦の趨勢など時の運と言われるもの。

 だが、如何なる形態であろうと、戦闘指導者に運任せは許されない。

 太古より人口に膾炙する通り――――



   ――――――勝ちに不思議の勝ちあり

   ――――――負けに不思議の負け無し



 ――――――これを理解していない者は指導者足り得ない。

 敗北を受け止め、対策と改善を考え、それを実行してこそ指導者。

 そこを理解せねばならないのだ。


「ジョニー 全軍に後退を発令しろ フィエンまで一気に下がる 後退戦だ」


 パッと方針を転換する事も王の努め。ここで朝令暮改を謗る者はバカの極み。

 ジョニーは首肯しつつ右手を挙げて返答した。一切の迷い無く……だ。


「あぁ。しんがりは俺がやる。サッサとフィエンに行ってくれ」


 ジョニーは拳を突き出し笑みを浮かべた。

 その拳に己の拳を突き立て、カリオンが言った。


「死ぬなよ」


 小さく『あたりめぇだ』と返答したジョニー。

 その笑顔が何処までも爽やかである事に誰もが不安を抱くのだった。











   ――――――3日後






 戦線を離脱したカリオンは一目散にフィエンの街へ向かった。

 目的は単純で、迎撃拠点の再構築と補給の一本化だ。


 王都から軌道線が延びているフィエン故に、大量輸送は問題無い。

 そして、その軌道は人員輸送にも役に立っている筈だ。



   ――――――全員急いで動いてくれ



 カリオンの言葉に全員が忙しなく動き回っていた。

 そんな中、カリオンは顔役となっているエゼキエーレと会った。


 父ゼルが復興を命じた美しい街を焼くのは忍びないが必用な事だ。

 それ故に最大限の便宜を図るべく、エゼへ通達しに来たのだった。



『フィエンで決戦を行う。ついては、希望者の全てを王都ガルディブルクへ後送する事とする。希望者及び選別はそなたの都合に任す』



 仮にもネコであるからして、ル・ガル後方への移転には抵抗のある者も居よう。

 それに配慮した太陽王の言葉だが、凡そこの街に関しては杞憂だった。


 太陽王カリオンの父ゼルによって復興された街。

 現太陽王にとってバカンスを過ごす隠れ家的な場所。

 そんな評価の全てが街の住民にとって自慢の種なのだ。


 ネコの国にあってイヌに敵意が無い唯一の街。

 そんな街の住人がカリオンの言葉に抵抗するはずが無かった。



『それはありがたい。全員後退するのでよろしく頼む。私はここに残るがね」



 福々しい笑みでそう言ったエゼキエーレは、クワトロ商会本部を提供した。

 フィエンの街でも指折りの強靱な建物で、事実上の城だった。



『ならば、ここを本部とする』



 カリオンの決定で全てがスムーズに回り出す。

 最上階の見晴らしが最も良い場所に大量の銃火器が運び込まれた。


 城であると同時に強力な攻撃拠点でもある。

 なにより、暴風や火炎の魔法に対しての抵抗力が尋常では無い。


 そして、そもそもに非合法活動の拠点だった建物なのだ。

 重層的な魔法対策が施されていて、ここでは転送爆弾の心配がなかった。

 王都ガルディブルクにある転送爆弾発送拠点では禁忌座標に指定されていた。


 つまり、ここでは強力な魔法が使い放題だった。



『ここなら魔術を使えるわね』



 カリオンと共にフィエンへ入ったリリスは、遠慮無く建物の中に拠点を持った。

 言うまでも無く、遠慮無く魔法を使う為の拠点だった。


 カリオンは最上段で陣頭指揮に当たっている。

 だからこそリリスはその支援ポイントが必用だったのだ。


 そして……


「オッター。王は何処に?」


 ル・ガル国軍本部となったクワトロ商会本店の中は少々混乱気味だった。

 そんな中、エゼは手下のオッタービオを呼んだ。

 遠い日、リリスの母レイラこと琴莉に手を出しそうになった若者だ。


「太陽王は屋上で軍議のようです」

「そうか」


 少々肥り気味なエゼだが、それでも流石のネコだけあって身のこなしは軽い。

 混雑気味の建物内部をスルスルと通り、リリスが陣取っている部屋へと来た。


 部屋と言うよりは大広間と呼ぶべき場所。

 クワトロの女達を束ねるエリーが使っていた広い部屋だった。


「見える?」


 部屋の中心部。人の頭より少し大きな水晶玉を覗き込むリリスとウィル。

 その傍らに立っていたリベラが最初にエゼに気が付いた。



   ――――待て



 リベラがリリスに声を掛けそうになった刹那、エゼはそれを手で止めた。

 魔術師が意識を集中している時に声を掛けるのはマナー違反だからだ。

 ただ……


「まいったな……」


 小声でそう漏らしたエゼキエーレは、ジッとリリスを見ていた。

 ウィルと共に遠見術を使い始めたリリスの姿は誰が見たってヒトの女だ。

 物憂げにリリスを見つめたエゼキエーレは、何かを思いだしたらしい。


 いつの間にか手下の筆頭に育ったオッタービオを呼び寄せ、小声で言った。

 ブルーグレイのしなやかな毛並みと青い瞳の若者は、妖艶に育っていた。


「オッター。フィオのトランクを持って来い」


 エゼの妻フィオが使っているトランクは幾つもある。

 だが、オッタービオはたったそれだけですぐに主の思考を理解したらしい。


 機転が利いて気も利いて、何より状況判断が正確で抜かりない。

 巨大な犯罪組織でもあるクワトロ商会の番頭役は無能には務まらない。


「はい。すぐに」


 ややあって大きなトランクが静かに運び込まれ、リベラが少し笑みを浮かべた。

 自らの主と定めたエゼキエーレの内側が些かも変わっていないと知ったからだ。


 そんな刹那、リリスの集中力が僅かに落ちた。

 遠見術で一定の結果を得たのだろう。

 声を掛けるには良いタイミングだった。


「リリス君」


 水晶玉の前でウンウン唸っていたリリスは唐突に声を掛けられ驚いた。

 必用な情報は得られた後なので問題は無いが、少しばかり気分は悪い。


 しかし、カリオンの妻となって訪れた時以来、リリスにとっても特別な男だ。

 纏っていたメイド衣装のエプロンを直して振り返った。


「どうしましたか?」


 僅かに笑みを混ぜてそう言ったリリス。

 その姿にオッタービオが表情を変えていた。


「君の母親が使っていたドレスを取ってあるが、袖を通してみるかい?」


 それは、遠い日にクワトロ商会のレストランで唱っていた琴莉のドレス。

 今は茅街となった僻地の河原で命を落とした母レイラの衣装だ。


「え? ま、まだ…… まだ、残っていたのですか?」


 少し声を詰まらせてそう言ったリリス。

 エゼキエーレはトランクを開けて豪華な設えのドレスを取りだした。


 声楽を学びレストランで唱っていたのはリリスだって知っている。

 だが、そのドレスに僅かに残る着崩れた痕跡は、母の身体その物だ。


「あぁ。私にとっても大切な存在だったからね」


 それは、貧しいと言われるネコの国では想像も付かない様な仕立てだ。

 一目でイヌの国製だと解る代物で、それが出来るだけの財力を持っていた。


 そう。売れば金になった筈。だが、手放さなかった。

 エゼキエーレにとって、これは大切な代物なのだ。

 ただのドレスではなくアチェイロとの(よすが)がそこにあった。


「私に着れるかな」


 まだ僅かに母の匂いが残っているかも……とドレスを抱き締めたリリス。

 その姿をウィルは黙ってジッと見ていた。遠い日の光景を思い出しつつ。


 ただ、そんな中でも構わず下着姿になったリリスは、そのドレスを纏った。

 ボディラインが露わな胸周り。優雅なマーメイドラインのスカート。

 飾り袖を手首に付ければ、優雅な姿の出来上がり。


「アチェ……」


 ぼそりと呟いたオッタービオは、それ以上の言葉が無かった。

 そしてそれ以上に言葉を失っていたのはエゼキエーレだった。


「困ったな。目から汗が出てきた」


 老眼鏡のモノクルを外し、ハンカチで涙を拭いたエゼ。

 その姿を見ていたリベラは、僅かに震えながら言った。


「お嬢…… あっしもそばに置かせていただいて長いですが…… アチェイロと呼ばれた母君と見間違えるようでさぁ…… 不調法ですいやせんが……」


 皆が感極まっているのを見れば、それが何を意味しているのかは解る。

 リリスはニコリと笑って部屋にあった大鏡の前に立った。


「母さまはこれで唱ってたのね」


 王都の歌劇場で見た女優を思い出す姿。

 もう少し髪を何とかしたいなと思うのは女心故だろう。

 何か帽子でも……と思ったのだが、実際は……


「リリス。入るよ」


 その一言で部屋にやって来たカリオンは、思わず足を止めてリリスを見た。

 ドレスアップしたその姿に、男としての何かがムクリと顔を出した。


「……やっぱり綺麗だな。参った」


 手短な言葉を吐き、そのまま歩み寄って抱き締めたカリオン。

 本当ならエゼもやりたいのだが、やればカリオンがブチ切れるだろう。


 そんな周囲の視線に構わず、思う存分抱き締めたカリオン。

 自らの埃臭さに混じり、何処か懐かしい臭いが鼻の奥に届いた。


「忙しい時にゴメンね。けど、皆が見たがったのよ」


 それを聞けばエゼ以下の者達が何を考えたのかは解る。

 この鉄火場に……とも思うが、これはやむを無い事だった。


「カリオン王。私の我が儘で邪魔をしてすまない」

「いや、これは仕方が無いな」


 エゼはそう謝ったが、カリオンとて怒るに怒れない部分もある。

 苦笑いでその場を納め、すぐに気持を切り替えた。


「で、現状では何が見えていた?」


 城で見た遠見術をスッとコピーしたリリスだ。

 今はより強力な魔力で状況を把握出来ていた。


「今はジョニー君が後退中。敵勢との距離は500リューって所ね。被害は出てるけど全滅はしてないよ。流石に戦上手って褒めてあげないと」


 リリスがそう言う通り、ジョニーは要所要所で反撃しつつ後退中だ。

 一分一秒でも時間を稼ぐ為、遅滞戦闘の極みに達していた。


「わかった」


 柔らかくそう応えたカリオンは、リリスを解いてもう一度しげしげと見た。

 遠い日、まだリリスが帝后の座にあった日々を思い出し奥歯を噛んだ。


「また後で来る」

「うん」


 ふたりの柔らかい会話にエゼは再び涙していた。

 苛烈な運命などと言うには厳しすぎる現状に憤りつつ……

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