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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~ル・ガル滅亡の真実
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発想の限界 或いは常識という枷

~承前




 キャリに召喚された魔術師の卵は無駄にハイテンションだった。

 今までは見上げるだけだった王都の城に自分が呼び出されたのだ。

 それも城の中の特別な場所。ガルディブルク城にある太陽王の執務室に。


 一般人は元より、ル・ガル中枢に居る人間以外はまず立ち入れない場所。

 逆に言えば、太陽王が認めた者しか立ち入れないプライベートゾーン。

 そんな場所にやって来た平民だ。舞い上がって当然だった。


「いやいや、これは本当に凄いですな。父上」

「あぁ。魔法の可能性は無限大だな」


 次の太陽王であるキャリ公が現太陽王カリオンと談笑している。

 その内容は自分が導き出した遠見の魔法で、望外の評価を受けている。


 まだ若い研究者だ。それで浮かれ上がるなと言う方が無理な話だろう。

 もはや終始笑みを浮かべ、地に足のつかない状態だった。


 だが――


「……陛下」


 太陽王の側近筆頭で執事の如き存在。グリーン卿は太陽王の耳元で何かを囁く。

 貴族階級では無いが、城詰めの誰もが『グリーン卿』と呼ぶ切れ者だ。


 城の中では全員がこの人物に敬意をもって接しているのを直接見ている。

 そんな男が手にしているメモ帳には、何事かがビッシリとメモされていた。


「ロナ君。今少し前に写った所。もう一度良く見せてくれたまえ」


 太陽王よりロナと呼ばれた青年――ロナルド――は有頂天だ。

 カリオン王は自らの臣下に親しみを込めて愛称を付けるという。


 ロナルドならば誰もがロナと呼ぶのだろうが、そんな事はどうでも良い。

 他ならぬ太陽王から(親しみを込めて)ロナと呼ばれた事が重要だ。



 ――――――俺も王宮魔術師の仲間入りだ!



 そこがどれ程に実力のある集団なのかは論を待たない。

 魔法工学科はとんでもない才能が集まっているのだが、比較にすらならない。


 長年の研究と研鑽により各々がそれぞれの道を極めた者ばかり。

 特に太陽王へ魔術の手解きをしたという三人の『魔法使い』がいるのだ。


 市井にあって地道な研究をする者達なら、王宮魔術師の肩書は憧れの対象。

 その『箔』の重さは、魔道に携わる者なら自慢のタネになるのだった。


「こちらでございますか?」


 ロナルドは僅かに魔法を操作して見ている光景を変化させた。

 巨大な水晶玉には、遙か彼方で行軍に難儀するネコの軍団が写っていた。


「そうだそうだ。うむ。なるほど」


 ことのほか上機嫌な太陽王は、薄笑いで水晶玉を見つめている。

 その隣にあって長いマズルの顎に手を添えているキャリ公も笑っていた。

 水晶玉に見えるのは、ネコの騎士達が獅子の兵士に跪いているところだ。


 跪く騎士達の前に立つネコの男は将軍か、さもなくば文官だろう。

 立派な身形をした少々太り気味な、貫禄のある初老のネコ。

 ヒゲ周りも丁寧に撫で付けられている。


 それがどんなシーンなのか、音が無いから詳細は見えない。

 だが、何をしているのかは音が無くとも十分に解った。


 詰問。或いは尋問。

 何故そうなったのかの説明を求めている。

 納得いかねばこの場で殺すぞ……と、そんな迫力を添えて。


「……ネコも災難ですな。父上」

「そうだな。大方、ネコに騙されていたのだろう」


 朗らかに会話しているのだが、カリオンとキャリ以外は顔が引き攣っていた。

 それは、ガルディブルクから敗走した獅子の軍勢が写っているからだ。


 彼等はそのまま一気に敗走し、フィエンの向こうでネコと出会った。

 どうやらガルディブルクに上陸し損ね、水死体とならずに済んだ者もいる。

 そんな獅子の兵士をも収容したらしい彼等は、数万の規模だ。


 そうなれば食糧や消耗品にも難儀するだろう事は想像に難くない。

 そもそも軍属と言う存在は普通に生きているだけで糧秣を消耗するのだから。


「ネコが取り込まれますな」


 低い声でそう言ったヴァルターは、それ以上の言葉が無かった。

 獅子の兵は太刀を抜いて突き付けている状態だった。


 こうなれば、もはやネコの遠征軍を飲み込むのは間違いない。

 気力と体力を回復させた集団が反転攻勢してくる公算が高くある。



    ――――――反撃してくる!



 その恐怖がジワジワと沸き起こりつつあるのだが……


「ロナ君。これは……何処まで遠く見えるのだね?」


 カリオンは不意にそんな事を言った。

 水晶の中に写ったネコの騎士を見て、そう思ったのだろうか。


 あの年嵩のネコに何の意味があるのか?とロナは思う。

 だが、問われたことには答えねばならない。


「試したことはありませんが……そうですね。シーアンくらいでしたら」


 ロナが発した言葉にグリーン卿が顔色を変えた。

 遠く彼方の街まで見通せるなら、それはとんでもない技術革新だった。


「可能であらば試しても貰えませんか?」


 太陽王の頭越しにそう言ったグリーン卿の目が恐ろしい程に鋭い。

 怜悧な官僚の頂点でもある卿の言葉は、事実上太陽王のそれだ。


「はい。承知いたしました」


 少しばかり気圧されたロナは魔力を操作して水晶玉のシーンを変えた。

 中に写る景色がどんどん変わっていき、まるで鳥のように視界を変えている。

 やがては激しいズームアップのように視界が流れ、その動きが止まった。


「……………………これは」


 キャリ公は言葉を失って顔色を変え、父カリオンに視線を注いだ。

 その視線の先、カリオン王は顔の表情を全て失い、額に手を添え立ち上がった。


 右手を腰に添え、左手は額を押さえている。

 そのままツカツカと水晶玉に歩み寄り、そのシーンをジッと見た。


 まるで薄絹越しにも見えるそれは、魔力到達限界故だろう。

 だが、それでもカリオン王にはそれが何だか理解出来たらしい。


「陛下」


 少しばかり重い空気の時間が長くなり、グリーン卿が太陽王を呼んだ。

 その時ロナルドは見た。太陽王の表情が鬼にも羅刹にも変わっていた。


「……なるほどな」


 ル・ガルの首脳陣であれば水晶に写った存在が誰だか解るだろう。

 シーアンで国体移動の為に奔走しているはずのエデュ・ウリュールだ。

 と言うことは……


「ロナ君。もう一度、先ほどの獅子とネコの写っているところ。あそこを見せてくれまいか」


 無表情のままのカリオンはそんな指示を出した。

 腰に添えてた右手を挙げて、思索を深めているらしいが……


「し、承知しました。こちらです」


 水晶玉の中に浮かび上がる情景には、獅子とネコが映し出された。

 何事かを歓談しているようだが、その雰囲気は先ほどとは一変している。


「……なるほど。解った。ありがとう」


 カリオンの言葉が異常に手短だ。

 こんな時には頭の中で様々な事がグルグル回っているのだ。


「ロナルド君。また君に協力を依頼するかも知れない。その時まで研究に勤しんで欲しい。先にも言ったが支援は惜しまないよ。ご苦労だった」


 カリオンに代わりキャリがそう労った。

 太陽王は何事かを思案し、真剣に思索している。

 正直、声を掛けるのが憚られる雰囲気だ。


「ありがとうございました」


 頭を下げて謝意を示したロナルド。

 それを見てとったカリオンは慌てること無く付け加えた。


「ロナルド君」


 直接の声が掛かり、ロナルドは顔を上げた。


「君の導き出した技術。これは我がル・ガルを勝利に導く鍵になるやも知れぬ」


 思わず『は?』と聞き返したロナルド。

 カリオンは静かに歩み寄り、その肩に手を置いて言った。


「息子キャリも気に掛けているようだが、余はこれを国家で研究する代物に引き上げても良いとすら考えている。君にとっては成果を横取りされるようで甚だ面白く無いだろうが『とんでもありません!』


 他ならぬ太陽王の言葉を遮り、ロナルドはそんな事を叫んでいた。

 国家研究レベルに引き上げられるのであれば、それはもう研究者冥利だ。


 しかし、例えそうであっても太陽王の言葉を遮るなど不敬の極み。

 ロナルドはそれに気が付き、慌ててて数歩下がり頭を下げた。


「た!たいへんもうしわけございません!」


 どこか呂律がおかしくなっているロナルドは完全に舞い上がった。

 言うなれば意識だけが空を飛んでいる状態だ。


 そんな姿を微笑ましく見ていたカリオンだが、すっと表情を引き締めていった。


「後日、仕度が整い次第、君を改めて召喚する。研究に励んでくれ」


 一歩進んで肩を抱かれ、視線を直接合わせ、太陽王から直に口説かれた。

 その現実にロナルドは今にも失神しそうだった。


「この後も話を聞きたいところだが、今は火急の対応を検討するべく少々込み入った話をせねば成らん。後日またここへ来てくれ。頼むぞ」


 要件だけ一方的に伝え、カリオンは歩き出した。

 その姿を目で追ったキャリは、ロナルドへ歩み寄った。


「君の研究を国家が支援するだろう。どうか、喜んでくれ」


 この時点でもはやロナルドは言葉が出なかった。

 どちらかと言えば貧しい階層の出である彼にとって、予想外の事態だからだ。


「勿論であります。全身全霊を以て研究に当たらせて頂きます」


 そう返答し、ロナルドは再び頭を下げた。

 キャリは『じゃぁよろしく』と部屋を出て行き、ロナルドはずっと夢見心地だ。


 ただ、彼はまだ知らない。

 今ここで行った魔術でル・ガルの運命が決したことを。

 終わりの始まりの、その最終章はこの時だった……






 ――太陽王私室




 ガルディブルク城の最奥にある太陽王の私室は魔法防壁の要塞だった。

 リリスを筆頭に魔法使いの三人が尽くした魔法障壁の厚さは異次元だ。

 そんな場所に揃ったル・ガル首脳部は、全員が硬い表情だった。


「エデュがふたり居るな。どちらが……あのキツネだ?」


 普段より一段低い声でそう発したカリオン。

 その声音の時は怒りを噛み殺している時だと全員が知っていた。


「常識的に考えりゃぁ、シーアンに残ってる方が本物だろうさ」

「あぁ。俺もそう思う。獅子と折衝している方が例のキツネだろう」


 ジョニーとアレックスは最初にカリオンへ声を掛けた。

 学友時代から気の置けない会話をしてきたふたりだ。

 公爵家の当主達が間を掴み損ねているのだから、率先したに過ぎない。


「となると、ネコの女王ですら謀られた……のか?」


 相変わらず一段低い声でカリオンはそう言った。

 ネコの都シュバルツカッツェへ攻め入った時、女王は不在だった。

 何処かへ逃げたはずで、古都と呼ばれる街か、さもなくば保養地だろう。


 そんな場所へエデュがフラリと顔を出せば信じてしまうかも知れない。

 若しくは、何らかの魔法作用によって一気に騙されたのかも知れない。

 理屈の如何はともかく、ネコの女王が謀られた可能性は高い。


 或いは……


「いや、むしろ好都合だつって共闘してたら面倒だぜ?」


  だつって


 『だと言って』を口語にした形のステップ地方方言がジョニーの口から出た。

 それを聞いたカリオンはニヤッと笑ってジョニーの内心を思った。


「おいおい、油断しすぎだ」

「あ、いけね」


 気の置けない会話でカリオンの声が元に戻った。

 それを見ていたアレックスは内心ホッとしていた。


「けど、ジョニーの言う通りだ。あの女王がネコ以外の事を気に掛けているとは思えない。相手の事なんか耳かき一杯も考えない性格だし、好都合となれば敵とも手を組むのに躊躇無いだろう」


 その時点時点、場面場面で最適な行動をする。

 支配者とはそれが正解なのかも知れない。


「して、如何されますか?」


 ドリーは最初にそれを切り出した。

 この場に於いて最年長である存在故に行った事だった。


「……まずは向こうの出方を見守らねばならん。ネコの軍勢が何を目的に移動しているのかは掴めぬが、獅子の軍勢が合流した形ならば反転攻勢は必然だろう」


 戦の常道として、それはもはや当然の流れだった。

 少なくとも現時点では獅子の国への無事な帰還など望めないだろう。

 ならば反転攻勢を仕掛け、当初の予定通りにル・ガルを攻め落とすしかない。


「まずは予備的に行軍しては如何でしょうか?」


 ボロージャはそう提案し、予備的な進軍を考えた。

 常識的に考えて、戦線は王都よりも遠い方が良いからだ。


「そうですね。自分もそれに賛成です」

「手前もですわ。喧嘩は他所でやれって言いますもの」


 ボルボンの夫婦は穏やかながらもそれに賛同を示す。

 コレだけ王都が荒れてしまった以上、気にする事も無いとは思うのも事実。


 だが、壊せば壊すほど復興にも手間が掛かる。

 ならば戦は遠くが良い。被害を出しても気に病まずに住む場所だ。


「いっそ先にフィエンまで行っておくか」


 ジョニーがそう提案すると、そこにポールが口を挟んだ。


「むしろフィエンより向こうが良いんじゃないですか? こちらはフィエンまで補給路が確保されてますので、それよりも遠くに戦線を設置して向こうをすり減らすのが肝要かと。その方が安く済みますし」


 すっかり経済ヤクザになったポールだが、逆に言えば最重要課題でもある。

 現時点でのル・ガルには、国内のどこにも戦費など残ってはいなかった。

 戦費調達国債の発行額も限界に近く、もはやまともな形での償還は不可能。


 こうなった場合、残された手段はふたつしかない。

 国家規模で破産するか、国民を破産させるか……だ。


「僭越ながら申し上げます」


 話を聞いていたヒトの男が口を挟んだ。

 カリオンの招請によって王都へ来た、例の少佐だ。


「遠慮なく言いたまえ」


 カリオンではなくアレックスがそう言うと、少佐は一礼してから切り出した。

 例によって醜く肥ったヒキガエルが如き表情を歪めた笑みを浮かべて。


「行軍など不要でありましょう。我々は遠隔地を最大効率で攻撃する手段を得たのです。魔法を使い、先に見た軍団へ先制攻撃を仕掛けます。距離と時間を飛び越えられるのですから使わない手はありません」


 それを聞いた誰もが言葉を失った。

 新しい兵器の登場は新しい使い方と新しい戦術を要求する。

 だが、その両方を誰も想像しえなかった。思い浮かばなかった。


 つまりは、ここがル・ガルの限界。

 人の考察は人の想像が及ぶ範囲に限られるのだ。

 そしてここでは、新しい兵器はヒトが最も上手く使えるという事だ。


「具体的に」


 カリオンは手短にそう言った。

 すると少佐は両手を広げつつ戦術提案をした。


「先に拝見した、魔法を使った転送爆弾の誘導技術の応用です。先ずは狙った所へ爆弾を転送します。当然彼等は魔力防御を試みるでしょう。今度はそこへ爆弾を転送すれば良いのです。自動で行われるでしょうからこちらの労はありません」


 ヒトの世界で例えれば、巡航ミサイルによる遠隔地攻撃だ。

 それを衛星や無人偵察機で観測し、今度はロケット弾を撃ち込む。


 相手が防御を固めれば固めるほど泥沼に陥る悪魔の仕組み。

 なにより最大の利点は、こちらはほとんど費用が掛からない。


「遠隔地より相手を粉砕するという事か」


 ドリーは少々不機嫌そうにそう言った。

 もはや戦の形態が変わったのだと突き付けられた形だ。

 だが、それを聞いたヒトの少佐は首を振りつつ返答した。


「いえいえ、粉砕するのは相手ではありません」


 再び醜く歪んだ笑みを見せた少佐は、広げた両手をパチンと閉じた。

 まるで蚊でも潰すかのような仕草だが、つまりはそう言う事だった。


「我々は敵とは戦いません。また粉砕もしません。ただ、狙うのは輜重隊や補給部隊です――」


 その言葉には隠し切れない愉悦が入り混じっていた。

 どんな生物にでも備わっている本能的な愉悦。或いは快楽。

 己より弱い者を力尽くでねじり潰し、断末魔の悲鳴を上げる姿を見て嘲笑う。


 それを隠すことなく開陳しているのだ。

 社会的、道義的には悖ると言われる行為を。


「――予備的に前進しつつ、道中の食糧は全て焼いておきます。井戸には毒を入れておきましょう。馬の糞でも良いです。そして後退します。毒を混ぜた食糧を置きつつです。彼等は生物が最も苦しむものと闘う事になるのです」


 ほの暗い……などと言う言葉ですら生ぬるい空気。

 勝利者が持つ後ろめたい願望でもあるのだろう。


 跪いて許しを請う。或いは命乞いをする。

 仲間を差し出してでも自分が生き残ろうとする姿。

 それを見て嘲笑うのだ。


 『無様だな』と。


「あまり……褒められるものでは無いな」


 少しばかり不機嫌そうにドリーは言った。

 歴戦の武人には耐えられない事なのかもしれない。

 だが、現状のル・ガルでは、それしか手が無いのも重々承知していた。


「勿論であります。飢えと渇きは如何ともしがたい責め苦でしょう。ですから、前進も後退もままならなくなった時、今度はとどめを入れましょう。砲撃による遠隔攻撃です。これも魔法を使います」


 話を聞いていた全員が言葉を失う恐ろしい仕組み。

 だが、現状のル・ガルにおいては最も評価できる戦い方だった。


 金が掛からない……


 残念だがル・ガルに継戦能力はない。もはや短期決戦しか道は無い。

 その短期決戦で全て血祭りに上げ、相手を強引に屈服させるしか無い。

 或いは……


「全滅させるより……他ないと言う事ですか」


 キャリは少しばかり辛そうに言葉を吐いた。

 それを聞いたドリーもまた同じ様に言った。


「鏖殺してしまうのは……少々残忍に過ぎる……と思う」


 そんなドリーの言葉に少しばかり違和感を持ったのだろうか。

 カリオンはやや不思議そうな顔でたずねた。


「珍しいな。ドリーがそんな事を言い出すとは」


 勝ちきってしまえば良い。或いは、皆殺しでも良い。

 ドリーはよくそんな事を言っている。勝利に勝る結果は無いとも。

 だが、ここでは皆殺しは良くないと言うのだ。


 カリオンでは無くとも『何故だ?』と気掛かりになるもの。

 普段とは異なる方針を示した以上、何か裏があるはずだった。


「いえ、純粋に戦となれば勝ちきる事こそ大事でありますが、獅子の国に遠征を断念させるならば、こちらの強さを持ち帰る者も必要でありますれば……」


 それを聞いてキャリは『なるほど』と独りごちた。

 ル・ガルが持つ底力や打たれ強さと言った部分を獅子の国が知る必用がある。

 その為には皆殺しでは無く適度な生還者が必要になるのだ。


「なるほどな。ドリーの言う通りだ」


 カリオンは素直にそう賞賛し、ドリーも満更じゃ無いと言った顔になっている。

 だが、同時にカリオンは腹の底で唸っていた。唸ると言うより訝しんでいた。

 どうにもおかしいと言う違和感、或いは場違い感と共に。


 そう言った、言葉では表現出来ない違和感は往々にして正鵠を射るもの。

 カリオンが感じたその違和感は、実は非情に深刻な事態の発露なのだった……

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