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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~ル・ガル滅亡の真実
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王の継承

~承前




 どんな言葉でそれを表現すれば良いのか?

 城のバルコニーでそれを見ていたカリオンは言葉が無かった。


 凄まじい暴力の暴風が吹き荒れている。

 一方的な戦果が積み上げられ、彼方には黒煙が見える。



 勝利



 その一言を得たいが為に、軍人は無茶な戦闘にも挑むもの。

 たった一つしかない命を差し出し、勝利の為に努力するのだ。


「これも……魔法の効果なのか?」


 カリオンの問いに対し、胸を張って応えたのはヒトの男だった。

 相変わらずでっぷりと肥っているその男は、醜いほどに表情を歪めて言った。

 心の底から相手を嘲笑するような、そんな笑みを浮かべて。


「その通りです」


 紅珊瑚海を埋め尽くさんばかりに展開する船団は、獅子の国からの物だ。

 ル・ガルへと派遣された十万を超える大軍の為に、食糧や消耗品を満載の筈。

 それだけじゃなく、2次遠征軍となる増援も乗船しているはずだ。


 その船団に対し、ル・ガル砲兵は持てる限りの戦力で砲撃を加えている。

 旧式の砲まで動員し、集中的な管理運用を行っての砲撃。

 命中精度としてはお話にならないレベルの代物の筈だった。


 だが……


「ここまで……魔法という物は応用できるのか」


 カリオンが驚くそれは、ル・ガル砲兵の効射力だった。

 50口径を越える長砲身の砲だが、正直言えば命中精度は悪い。


 良くは無い……だとか、残念なレベルで……などと言う話ですら無い。

 装薬により放たれた砲弾は、だいたいあっち側に飛んでいく程度の代物だ。


 それが野戦であればまだマシで、目標辺りへ落ちてくれれば御の字。

 敵に対する威力よりも精神的威圧の方が重要なのだった。


「海の上を狙って撃っても、当たらなければ意味がありません」


 ヒトの男は少佐と呼ばれる例の存在だった。

 戦況図を広げ、距離計をのぞき込みながら砲撃指示を飛ばしていた。


「魔法とは……万能なのだな」


 カリオンが感嘆するそれは、ヒトの技術陣が考え出した代物だ。

 簡単に言えばホーミング砲弾そのもので、撃った後は良き隣人が導く仕組み。


 その結果、とにかく射程さえ届いてくれれば、命中率は100%だった。

 空中へ飛び出した砲弾はまるで吸い込まれるかのように船腹を貫いた。


「威力も申し分ありません。おそらく午前中でカタが付くでしょう」


 少佐は胸を張ってそう言った。

 ただ、そうは言っても俄には信じられない水準の威力だ。


 沖合に居る獅子の国の船団は次々と海の藻屑になっている。

 上陸に備え甲冑を纏った兵士達は、そのまま海に沈む運命だ。


 遠くから延々と運んできた、膨大な量の食糧や嗜好品と共に……


「これ程とはな……」


 カリオンも舌を巻く重層的な戦略と戦術。

 いま砲撃しているのは、命中精度に優れたヒトの世界の砲では無いのだ。


「私達が元の世界で運用していた砲でも、これ程に命中することはあり得ません」


 少佐は少々自嘲気味に答えた。ただ、それが事実なのだから仕方が無い。

 実際の話として、これ程までに命中させる為には電子制御のミサイルが要る。


 人口に膾炙する通り、十分に発達した科学は魔法と見分けが付かないのだ。

 そしてこの場合は、見分けではなく互換性があると言うべきだろう。

 使い勝手と能力の意味で言えば、上位互換と言っても良いほどに。


「……あッ」


 カリオンの近くに居たリリスが何かを察知して沖合を見た。

 魔力に長ける彼女が察知したのは、獅子の陣営での魔力反応だ。


 だが、沖合展開して居る面々はまだ知らなかったのだろう。

 船団の中央部付近ではとんでもない大爆発が起きた。


「転送爆弾も活躍中と言う事か」

「然様に」


 カリオンの言葉に少佐がそう応える。

 城の陣地で用意されている転送爆弾は、まだ十分に数があった。


「あの転送魔法。どんな物でも送れるのか?」


 カリオンの問いに対し、少佐は一瞬だけ考えて応えた。


「正確に言えば、送るのでは無く再構築です」


 その応えにカリオンは『さいこうちく?』とオウム返しした。

 この世界にいる者に量子もつれなどを説明したところで理解出来ないもの。


 発送元で魔法を使い、送り出すものを粒子レベルまで分解し情報のみを送る。

 受け取った側では魔法効果により同じものを再構成再構築して発動するだけ。


 大まかな説明を行った少佐に対し、カリオンは少々残念そうに言った。


「余が飛んでみる故、試せと言わなくて良かった」


 太陽王が発した思わぬ冗談に全員が乾いた笑いを零した。

 だが、そこに口を挟んだのはハクトだった。


「手前はもう飛んで見せましたぞ?」


 相変わらず良い所で姿を見せるウサギの魔法使いは、自慢げにそう言った。


「そうか。で、どうだった?」


 ハクトの言葉に反応したのは、意外な事にドリーだった。

 生粋の騎兵マインドを今に伝えるスペンサー家の男な筈だが。


「なかなか表現に難しいですな。強いて言うなら……崖から落ちたとでも言いましょうか。唐突に眼にしている世界が変わってしまうのですよ」


 ハクトの言葉にドリーは『ほほぉ』と興味深げにしている。

 その姿がおかしかったのか、カリオンは振り返って言った。


「何を企んでいるのだドリー」


 他ならぬ太陽王が興味を引いた事で、ドリーは何処か得意げになって応えた。


「いえ、手前の思い付きですが、これで何処にでも飛べるのであれば、敵勢力の最も嫌がる所へいきなり騎兵を送り込めるなと思いまして」


 どちらかと言えば思考が硬直化しがちな軍人だが、ドリーは公爵家の当主。

 政治的な駆け引きという面でも場数を踏んだ以上は異なる視点を持っている。


 とは言え、喧嘩っ早く真っ直ぐな一本気のスペンサー家なのだ。

 内容がどうであれ、いきなり弱点を突くのはフェアじゃないと考える筈。


「良いのか? 少々ずるい手だぞ?」


 どこか嗾けるような言葉を吐いたカリオン。

 だが、ドリーは意外な反応を見せた。


「銃が登場してからは戦も変わりました。もはや綺麗に勝つなどとは言ってられますまい。要は勝てば良いのです。むしろ勝たねば成りませぬ。名誉ある敗北など存在しない時代です」


 スパッと言い切ったドリー。

 同じタイミングで遙か沖合の船舶が爆散した。


 相当強力な爆弾が送り込まれたのだろう。

 その爆発は衝撃波を発生させ、周辺船舶を巻き込むほどだった。


「……確かにな。ドリーの言う通りだ」


 この世界に於いて目に見えるレベルの衝撃波を放つ爆発などそうそう無い。

 だが、今回のガルディブルク攻防ではそれが頻発している。



   ――――戦も変わった



 ドリーの発した何気ない言葉は、カリオンの胸の奥にズンと響いた。


「そうは言いますけど、でも、勝たなきゃいけないってのは……昔からじゃ無いですかね? 自分はそんな気がしますけど」


 話に割り込むようにキャリがそう漏らすと、ドリーは苦笑しつつ首肯した。


「いや、実際は若が言われる通りです。けど、それでも昔は戦の中に情がありもうした。幾多の犠牲を防ぐ為に、指揮官同士が決闘したりもしました。兵士全てを殺すなんて凄惨な戦は『ネコとの闘争以来だな』


 ドリーの言葉を遮るようにカリオンはそう呟いた。

 それを聞いたジョニーが『違いねぇ』と漏らし、盛大に溜息を零した。


「シュサ帝が戦死された戦は、銃こそ無かったが絶対に殺すって殺意溢れる仕組みだったぜ。思えばあの頃から戦は代わり始めたのかもな」


 ジョニーが言う通り、戦場には戦場の華があった。

 騎兵が風を切って平原を駆け抜け、意地とメンツと根性で戦った。

 牽制の為に矢を放つことはあったが、皆殺し目的などと言う事は無かった。


「変わりつつあったのは事実だが、銃の登場が牧歌的な風景を一変させてしまった……と言うことか」


 カリオンは少し罪の意識を漏らしつつそう言った。

 しかし、少佐と呼ばれるヒトの男がそれに口を挟んだ。


「お言葉ですが……太陽王陛下。それは一面に於いては事実でしょうが、別の面からも見る必用がある問題かと存じます」


 言葉の意味を解釈するには少々漠然とし過ぎている部分がある。

 カリオンは視線だけで『続けろ』と言わんばかりに少佐を見た。


「手前が考えまするに、そもそも戦も平和も同じ世界に存在する状態違いでしかありませぬ。要は、相手がある問題なのであります。そしてこの場合、ル・ガルという国家が存立する前提として、自主独立を維持せねば成りません」


 国家論の要諦でもある部分。

 自主独立の重要性はカリオンとて承知している。

 だが、このヒトの男は唐突に妙な事を言い始めた。


「……続けたまえ」


 その言葉の続きを求めたカリオン。

 少佐は一礼してから戦場となる沖合を見つめ、両手を広げ言った。


「いま。このル・ガルという国家が直面している現実をよくご覧じ召されよ。沖合に現れ武と威を以て征服せんと欲する彼の国家に、王陛下を始めとされる皆様方が懐かしがられるものが。義と情を挟む戦がありましょうや?」


 少佐は力強くそう言い放った。その直後、再び沖合で大爆発が起きた。

 先ほどよりかは小さいが、それでも周辺を巻き込んで被害を起こしている。


 それを見たとき、全員が同じ事を思った。

 少なくとも、彼等獅子の一族は強力な魔法を使おうとしたのだ。


 イヌを屈服させてやる。打ち負かしてやる。事と次第では滅ぼしてやる。

 その純粋な殺意と敵意がない交ぜと成り、イヌの喉元へ突き付けられている。



    ――――――殺さねば殺される



 一国のみで平和は成り立たない。一国のみで戦が出来ぬように。

 つまり、相手があるから戦も平和も存在する。そしてその中身も。


「……その通りだな」


 意味が通じたらしいと判断した少佐は、一言『恐縮です』とだけ応えた。

 ただ、まだ何かを言いたそうにしているのをカリオンは感じ取った。


 言わせるべきか、黙らせるか。


 ふと目をやったドリーは、何かを考え込んでいる。

 隣に居るキャリが何事かを話しかけ、その答えを探しているのだろう。

 遠い日の自らとカウリ卿を思い出し、カリオンは瞬時に様々な事を思案した。


「まだ何かあるのか?」


 少佐に喋らせる事を選択したカリオン。

 その配慮を見て取った少佐は軍帽を降ろして言った。


「ここから先は……軍務にある者ではなく、ひとりの人間としての言に付き、どうかヒト全体の意志として受け取られませんよう、伏してお願い申し上げまする」


 何を言い出すのか?

 カリオンを含めたル・ガルの首脳陣が意識を集中させた。

 茅街に集うヒトは既に五千人を越えているらしいが……



 ――――独立させろ……

 ――――とでも言い出すんじゃ無いだろうな?



 皆の関心事はそこに尽きた。

 ヒトの国が誕生したなら、それはある意味、無限に金を生む存在になる。

 この世界に無いものを生産し続けるのだ。それが何を意味するのかは……


「なんだね? 遠慮無く言いたまえ」


 カリオンは優しい笑みを添えた。

 だが、それは笑みだけでしかないことを少佐だってよく解っていた。


「どうか、ヒトの街を切り捨てないでいただきたい」


 思わず『は?』と言ってしまったカリオン。

 ドリーやキャリも同じ様に『は?』とか『え?』と発していた。


「我々は我々の出来る事で貢献しましょう。ですから、どうか。国家存亡の危機となった時に損切りとして茅街を見捨てないでいただきたい。ヒトの国などというものが存在し得ないのはヒトもよく解っているのです」


 少佐の発した言葉に反応したのは、意外なことにキャリだった。

 一旦カリオンを見た後でもう一度少佐をみた彼は、少し驚いた様に言った。


「ヒトはそれを恐れている……と?」


 損切り。或いは人質だろうか。

 ル・ガルがル・ガル足り得なくなったとき、ヒトを差し出しかねない。

 そんな恐怖がヒトの間にあるのだとキャリは始めて知った。


「然様に。我らは自主独立などと言うものが砂上の楼閣に過ぎぬ事を良く承知しておりまする。イヌの国家が支援してくれて、始めて我らに安寧があるのです。故に我らは……持てるものの全てを提供してゆく所存」


 それは、茅街が経験した苦難の歴史なのだろう。

 なにより、方針の激突後に導き出された今後の指針かも知れない。


「……犠牲の上に成り立つ平和と言うことか」


 何となく察したカリオンはそう言葉を掛けた。

 方針を違え仲違いまでしたヒトの街は、結果的に方針の一致を見たのだろう。


 この社会が必要とするものを供給し、確固たる地位を築き上げる生存戦略。

 ヒトを滅ぼしたなら世界社会が成り立たないようにする作戦。


 その担保となる相手にイヌを選んだのだとしたら……


「……あ、そうか」


 何かに気が付いたキャリがポツリと漏らす。

 それは次期帝王として立つ男の学びそのもの。


 ドリーは不意にカリオンを見てアイコンタクトした。

 何かを学んだのだと読み取り、ドリーはそこに満足を覚えた。


「然様にございまする。故に殿下の御代にまで我々は目と手と、なによりも血と汗と、そして足跡を残さねばならない。その覚悟は持ってまいりました」


 少佐がそう言うと、ジョニーはニヤッと笑ってカリオンを見た。


「なぁエディ。ここはひとつ、打って出たらどうだ?」


 打って出ろ。

 つまり、獅子の側に吶喊しろ。


 ジョニーは事態解決の糸口を見付けたのかも知れない。

 力勝負に出て勝てる相手ではない。だが、スタンスを取っての銃撃なら有利。

 なにより、強い攻撃魔法を使ったなら、彼等は自滅することになる。



   ――――こっちが有利だぞ!



 そう言わんばかりの姿に、ドリーも笑みを浮かべていた。

 吸収され絶望的な戦闘をしていたガルディブルクを守りきった満足感。

 間違い無くそれを味わえるのだとしたら、全ての兵士には希望となる。


「キャリ。お前はどう思う?」


 カリオンはキャリに話を振った。

 キャリの周囲にはドリーが居て、ずっと黙ってはいるがビオラも居る。

 それだけでなく、幾人かのお付きがキャリの周囲を固めている。


 時期太陽王の側近達は、黙って若王の思考を見守った。

 何をどう判断し、方針を導き出すのか。その経験の場。



          『 教 育 の 場 だ 』



 誰もがそう思ったシーン。

 太陽王は次の王となる男に経験を積まそうとしていた。


「……攻撃は最大の防御と言うけど、ここではもう少し予備攻撃を続けるべきだと思う。肉弾戦では不利だし、遠距離砲撃戦で削る事は何も恥ずかしい事じゃ無い」


 ドリーを見ずにそう言ったキャリ。

 少なくともビッグストンではル・ガルを守る兵として教育を受けてきた。

 常に誇りを胸に、正々堂々戦うべき。そんな思想があるはずだ。


 だが、現状では不利な状況の敵兵に対し、安全に攻撃すべきと判断した。

 向こうが手出しできない状況を作り、こちらは被害ゼロで攻撃する。


 少なくとも、100年前のル・ガルであれば卑怯と謗られるはず……


「手前も同意見に」


 ドリーはそれに賛意を示し、同じ様にビオラも口を開いた。


「こちらの犠牲を少なくするのは戦の常道かと」


 キャリサイドの面々がそんなスタンスで一致を見た。

 だが、カリオンは眉根を寄せて少々渋い顔だ。


「悪くは無いが、その後が続かん。予備攻撃をした後はどうする?」


 カリオンの問いに『え?』と応えたキャリ。

 焦眉のままにニヤリと笑ったカリオンは更に続けた。


「皆殺しか? それとも捕虜を取り交渉の材料とするか?」


 思わず『あ、そうか』と零したキャリだが、カリオンはまだ焦眉のままだ。


「良いか? 戦は軍人でも始められるが、後始末は政治家の役目だ。そしてお前はこれからその頂点に立つことに成る。誰にでも相談出来るが、全ての責任はお前が背負うことになる。ル・ガルの五千万余りな国民の命までをもな」


 キャリをジッと見て言葉を続けるカリオン。

 その姿はコレまで重責を背負って来た男の悲哀を雄弁に語っていた。


「戦の後始末まで考えて方針を決定しろ。戦には勝たねば成らんが、恨みは買わぬべきだ。それで俺も随分苦労した。上手くまとめて、後腐れ無く。戦には勝ちつつも相手には名誉を与える。そのさじ加減を学ばないと、戦い続けることになる」


 思えば第五代太陽王カリオン帝の時代は、対外戦争に明け暮れていた。

 他種族との闘争に次ぐ闘争で国家は疲弊し続け、国民は窮乏している。


 出来るものなら、そんな因果はもう断ち切りたい。

 輝かしい未来を掴む為には、何をすれば良いのか?


「……ちょっと思い浮かばないな」


 首を振りつつ素直な言葉を漏らしたキャリ。

 カリオンはそこで焦眉を開き、僅かに首肯しつつ言った。


「沖合の船団は全滅させるな。彼等の故国に恐怖を伝える者が必要だ。現時点で上陸している兵は西へ逃がせば良い。何処かで船団に回収させよう。その上で――」


 カリオンはバルコニーの先端に進み出て眼下を睥睨した。

 その姿には明確な威があった。


「――ネコの残党に獅子の敗残兵をぶつけると良い。ネコが何をしたのか、獅子に教えて進ぜよ。その上でネコがどう振る舞うかが見ものだ。こちらの防御線に敢えて弱点を作り、彼等に吶喊させよう。こちらの防衛線を突破したなら、彼等は一目散に走るだろう。魔法が使えぬ以上は徒で行くしか無いが、それはこちらの預かり知るところでは無い」


 獅子を丸め込みイヌにぶつけてきたネコ。

 その責任を取らすべく、獅子の敗残兵を西へ送り出す。


 思わぬ一手を見たキャリは感心するやら呆れるやらだ。

 だが、政治としては必用な事でもあるのだから、それは学ぶしか無い。


「……コレが政治なんだね」


 溜息混じりに感心したキャリ。

 それを見たカリオンは、笑みを浮かべて言った。


「次に繋がる一手だ。歴史とは流れなのだから、場面場面で最適ではなく流れで最善を尽くす必用がある」


 小さく『はい』と返事をしたキャリ。

 ひとつの学びを得た若者は、父カリオンの隣に立って眼下を見た。

 沖合で次々と海の藻屑になる船団を見つめる獅子の兵士が彼方に見えた。


「まだ俺が……本当に小僧の頃にな、シュサ帝から教えられた事がある」


 隣に立つキャリに向かい、カリオンは切り出した


「戦とは波の打ち寄せるが如し。打ちいでし時は、常に退き際を考慮せよ。勝ち過ぎる無かれ。ただ負けずにあれ。これ、常勝の極意なり。敵を殺し過ぎる無かれ。味方を殺し過ぎる無かれ。戦わずして勝つ事が至上なり。太刀をあわせ槍をあわせ騒乱に及ぶは、(まつりごと)の無策と無能故である。戦う前に勝利を決めよ。戦の極意とはこれなり」


 それは、戦争学校であるビッグストンでは教えられないもの。

 政治家としてル・ガルを背負う存在が代々申し伝える口伝のようなものだ。


「戦の極意……覚えておくよ」


 キャリは素直な言葉でそう言った。

 カリオンは短く『そうだな』とのみ応えた。


 この日、このシーンを見ていたものは、後に口を揃えてこう言った。



     『あの日、あの場で、太陽王の肩書きは継承された』



 ……と。

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