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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~忍耐と苦痛と後悔の日々
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聖導教会との戦い 16

~承前




 完全包囲されてから数日、ゴラムスクの街にこの日も朝がやって来た。

 一晩中焚き続けられた篝火も消え去り、薄い煙だけが蟠っている頃だ。


 街の中心部にある小さな聖堂にも燦々と朝日が降り注ぎ、今日も暑くなると誰もが思う。ただ、北方の街は夜とも為れば冷え切り、聖導教会の内部は陽が差し込むと暖かく感じられる設計になっていた。


 そんな聖堂の中、バルバトスは一人きり聖堂の中で祈りを捧げていた。朝の早い宗教施設という事もあって、様々なセクションが活動を開始している時間帯だ。だが、彼はそれらを一切無視し、真剣に祈っていた。



    ―――――主の御手は立ち向かう者を援ける

    ―――――悪しきを退け善なる者を救う



 小声で唱え漏れる聖句の一節は、教典にある主の恩寵を解いたもの。ピンと張り詰めた空気は、司祭や助祭らが立ち入る事を憚るほどになっていた。野望に身を焦がしつつも、やはり枢機卿にまで上り詰めた実力は本物らしい。



    ―――――主に導かれた者は斃れ力を失っても再び立ち上がる

    ―――――聖なる導きは迷える者を善なる道へと誘う

    ―――――迷える魂は輪廻に磨かれ輝きつつ主を彩る



 朝食の支度が出来たと言うのに、バルバトスは真剣に祈り続けていた。

 幼年学校の稚児が報告にやって来て、声の掛け方がわからず立ち尽くすほどに。


 そんな稚児の肩をポンと叩いた男がいた。

 驚いた幼子が振り返った時、そこには教会の主であるネテスが立っていた。


「先に食堂へ行きなさい」


 笑みを添えてそう言ったネテス。稚児はコクリと頷いて立ち去った。



     ―――――我ら同胞の健やか為らんことを……

     ―――――主の恩寵があらんことを……

     ―――――主の導きがあらんことを……



 跪き祈るバルバトス。

 その背に見えるのは、危険な賭に出ようとしている痛烈な後悔だ。

 小刻みに揺れているのは、心情から来る震えだけでは無いだろう。


 もっと他に方法が会ったのでは無いか?

 そもそも抵抗しないという選択肢はあり得なかったのか?


 先々の大負けが解っているのに、絶対負けたくない。負けからは何も生まれないし、何も生み出さない。勝った者だけが報われる勝者絶対優先が原則の中で権力闘争してきた自分の愚かさ。感情から小さな勝ちにすら拘った愚かさ。


 その結果がこれなのだ。そして、管長エルヴィスはそれを教え諭そうとしたのだと気が付いた。ここで変わらなければ、至れる結末は破滅のみ。ならば素直に投降すれば良いのだが……


「そんな熱心に今更何を祈るというのだ?」


 バルバトスの背中を見ていたネテスは、そんな言葉を掛けながら聖堂へと入っていった。日の出と共に熱せられ空気が温まった筈だが、バルバトスの周囲には冷え冷えとした朝の空気が残っている。


 その奇妙さに首を傾げたネテスが見上げれば、聖堂の天窓が開かれていて、そこから冷気が流れ込んでいる状態だった。己を温める為ではなく、むしろ苦行の一つであるかのように冷えた環境で礼拝していたバルバトス……


「戦わず敗れよと嘯かれる管長の真意を知りました。戦わずに勝つ。或いは負けて勝つ。その深い意味を、己の愚かさと共に気付きました。ですが――」


 ネテスの言葉に顔を上げたバルバトスは、祭神となる神の立像を見上げつつそう言った。その内面の変化を敏感に感じ取ったネテスは、望んでいた成長がここに有るのだと内心でほくそ笑んだ。


 痛烈な後悔と現実への気付き。そのふたつを乗り越え現実に対応する事こそが成長であり大人になるという事の本質だ。なにより、乗り越えた先にのみ指導者としての理想像がある。つまり、最も必要なものに気が付いたという事だ。


「――本当に足りなかったのは勇気のようです。時には手に入れた物を捨ててでも勝負から降りる本当の意味。つまりそれば、勝ちたいという欲望を御する事の重要性なのですね。負けてこそ勝つ事もあるだと……」


 立ち上がって振り返ったバルバトスは、一回り大きくなったように見えた。青年と呼ばれる時期は子供と大人が重なった状態とも言えるが、そこから子供の部分が抜け落ちた時、人は実際の寸法よりも大きく見えるという。


「そうか…… 良く学んだな」


 ネテスは嬉しそうにそう言った。今にも尻尾を振り出しそうな程に。己の成長を恩師が喜んでいる。バルバトスはそこにも妙な充足感を持った。だが、そんなバルバトスを見ていたネテスは、唐突に膝をついて頂礼した。


「……せ、先生!」


 驚いたバルバトスがネテスを見た時、老いたる師は真っ直ぐに主の立像を見上げたまま聖句を唱えていた。


「帰命頂礼。帰命頂礼。育ちし吾子を護り給え。導き給え。帰命頂礼。帰命頂礼」


 ネテスは涙を流してそう唱えていた。人口に膾炙する通り、少年は老いやすく、学は為り難いもの。幼きを導く者は、連綿と受け継がれてきた苦い記憶を次の世代へ伝えねばならない。


 時に叱り、時に励まし、そして純粋に褒める。そんな風にバルバトスを育てて来たネテスは気が付いた。幼きを育てる事は己を育てるに等しいという事に。大切な事に自ら気が付くまでひたすら耐え続ける。それこそが己の成長だ。


「今、私の生涯は意味を得た。何故あの男に敗れたのかを知った。だが、勝ち負けなど些細な事に過ぎぬのだ。この生は君を育てる為に費やされたのだ。これも主の導きよ。嗚呼……良き哉……良き哉……」


 流れる涙はとどまる事を知らず、いつの間にかもらい泣き状態となってバルバトスも涙を流していた。自らの成長を喜んでくれる存在がいる。その事に言いようの知れぬ充足感を得たのだ。


「先生。自分に考えがあります。聞いてください」


 バルバトスは現況をリカバリーする手立てについて説明を始めた。それはある意味、とんでもないパラダイムシフトだ。だが、少なくとも現状の聖導教会が対処できる相手ではない存在に喧嘩を売ってしまったのだ。


 となれば、今現時点で現実的な選択肢は二つしかない。戦うか、死ぬか。それを突きつけられた時、バルバトスは極めて現実的かつ合理的な対処を選んだに過ぎないのだ。例えそれが破滅の危険性を孕むものだとしても……


「追認とはいえ、現状を丸呑み出来るようになったな。大変よろしい――」


 ネテスはそうやってバルバトスを褒めた。例えそれが滅びを先送りするだけのやむを得ない選択だったとしても、意地を張って突っぱねるのは褒められる行為ではないのだ。


「――己が損をする我儘。それを意地と言う。一度張った意地なら、徹底して張り通しなさい。誰を恨むことなく、己のみを突っ張り棒にしてな」


 穏やかな口調で言ったネテス。

 バルバトスは若者らしい顔になって首肯を返した。






     ―――――同じ頃






 朝食時を迎えたル・ガル陣営の前線本部には、朝食を共にしつつ意見を交わす各陣営の長が集まっていた。何事も合理的で省力的に設えらたル・ガル国軍は病的なまでに無駄を嫌う仕組みになっている。


 そのせいか、朝一番のミーティングですら何かと同時進行が基本になっていて、全員が顔を合わせ闊達に意見交換しつつ、必要なカロリーを補給する有様だ。


「で、これは王からの指令という解釈でよろしいか?」


 初っ端から怪訝なの乗りだったドリー。その物言いには剣呑さが混じっていた。前日にアレックスが差し出した城からの指令書はどうにも嘘くさくて怪しい代物でしかなく、ドリーは大いに疑って掛かっていた。


「勿論ですとも。スペンサー卿は疑り深い」


 苦笑いを浮かべながらそう言うアレックスは、内心を見透かされまいと涼しい顔でコーヒーを飲んでいた。嗅覚に優れるイヌの多くが味わうコーヒーの奥深い旨さに上機嫌を装っていた。


「……然様か」


 少々憮然としたような様子のドリーは、再びその指令書を読んだ。カリオンからの方針は単純で、投降するなら受け入れよ。抵抗するなら鏖殺せよ……だ。ただ、可能な限り聖導騎士団の戦力は吸収したいので、念頭に置けとのこと。


 そして何より重要なのは、新型銃の拡散防止に最大限留意せよとの指示だ。その為に必要な戦力の増強としてアッバース銃兵を2個師団程度送るとのことだった。


「例のキツネの件もあります。何事も疑って掛かるのは重要ですな」


 人懐こい笑みを浮かべ、アレックスはそう嘯いて見せた。だが、その腹の底ではドリーが見せる疑り深さと嫉妬深さに懸念を抱いているのだ。惚れた腫れたでぶつかり合う男女の間の嫉妬とは異なり、男が男に向ける嫉妬は承認欲求そのもの。そして、その独占欲は女のそれを軽く凌ぐ。



     ―――――危ういな……



 理屈抜きにそう考えてしまうドリーを責める事など出来ないだろう。目が眩む程の心酔は、時に眼を曇らすもの。戦場における手柄争いが死に直結するように、国家の大計を飛び越えて王の歓心を得たいと軽はずみな事をしかねない。


 そしてそれは、どうやらボルボん家を預かるルイも同じ心情らしい。黙って話を聞いていたルイだが、内心の何処かでスペンサー家への対抗心を燃やしている部分もあるのかも知れなかった。


「いっその事、増援が到着する前に構わず皆殺しにするべきでは?」


 唐突に思わぬ強硬手段を提案したルイ。だが、それを聞いたドリーは不意に真顔になってルイに言った。


「それについては思う所もあるが、それ以前に重要なのは、あの騎兵戦力は王が手に入れたい勢力なのだ。出来れば生け捕りが望ましい」


 年の功的な物言いでルイを諌めたドリー。ルイも『その通りですね』と返答し、ドリーの心の機微を思った。他ならぬ太陽王より褒められたいのだ。困難な課題を解決し、『よくやった』と公衆の面前で称賛されたいのだ。


 ただ、それ以外にも両家の考える思惑が似通っているのはやむを得ない。アッバース銃兵を王が送り込むと通告して来たのだから、ここではその銃兵の使い方について知見を手に入れておきたいのだ。


「何れにせよ、先ずはしっかり敵勢力の分析が必要だと思うが、如何に?」


 ドリーの言ったそれは、聖堂協会側勢力の全体像把握だ。イヌならぬ種族が紛れ込んでいる以上は、そちらへも対処が求められる。この場合、最も重要なのはイヌ以外を殲滅する事だ。


 今後について後腐れなくやっていく為には、他の種族が介入する隙間を作ってはいけない。溜池の堤も蟻の巣穴から水が漏る様に、王の手から漏れた水が丈夫な堤を壊す可能性だってあるのだ。


「その件ですがね、どうも思わしくありませんね」


 アレックスが零した言葉にドリーの眉がスイッと吊り上がった。ジダーノフ一門の諜報能力についてはル・ガル国内でも一定以上の評価がある。その諜報部門の中で相当深い所に関わっている男が切り出したのだから、尋常な話ではない。


「……と、言うと?」


 ルイもまたややうつむき加減な姿勢から、三白眼の上目づかいでアレックスを見てそう言った。これからどんな言葉が出てくるのか、その一言一句を聞き逃すまいと気を入れて耳を傾けていた。


「先の城内砲撃最中に教会の高司祭を捕らえまして、で、ボロージャが自ら尋問したのですが……――」


 ボロージャ。つまりジダーノフを預かるウラジミール自身が直接手を下したらしいとアレックスは切り出した。凡そこのジダーノフ家が見せる尋問の手段は、凄惨と言う言葉ですら生ぬるいのは言うまでもない。


 苛烈で容赦のないやり方はジダーノフ内部でも色々と波風が立っているらしい。だが、その全てに置いてボロージャは対抗勢力の全てをねじ伏せていると言う。それがどんな手段なのかは、もはや言うまでもないのだろうが……


「――参加しているオオカミの一団は彼の国の中ですっかり浮いてしまっているザリーツァ一門との事です。そして、そのザリーツァの中でも最も強硬な者が集っていて『彼等も手に余しつつあると?』そういう事です」


 ルイが口を挟んだが、もはや言うまでもない事の様だ。あの道徳的優位だの生まれながらにして優遇されるだのと訳の分からない優位論をまじめに語りだす頭のオカシイ連中。ザリーツァが参加しているというのは厄介だ。


 折れるに折れられない部分が生まれてしまい、あの次期管長である若造も相当な苦労をしている事が手に取るように見えるのだった。


「……なんだかアレですね。より一層のこと根絶やしにしてしまった方が後腐れが無いです。平和的解決など問題の先送りに他なりません。教会関係者とはいえ同胞ですし、オオカミ一門と事を為せば色々と面倒も増える事でしょうけど」


 溜息交じりにそう漏らしたルイ。

 だが、そこに口を挟んだドリーはとんでもない事をサラっと言い放った。


「我が王の命とあらば、この手を汚す事などなんとも思わんし、手痛い反撃にあって命を落としたところで全く惜しくも無い。だが、王以外の者が王を騙って命じたならば、先ず敵以前に王を騙る偽者を断罪せねばならん」


 ドリーの見せる無私の忠誠と滅私の精神は公爵五家の中でも群を抜いていた。他の公爵家当主が軽く引く程のモノだが、何よりの誇りとしているのだからある意味では始末に悪いのだ。


 そしてここでは、アレックスが言った情報について暗に信用できないと言ったに等しかった。王の名を騙り、偽の情報を流し、前線を混乱に陥れようとしている。そんな解釈になったとしても、責められるものでは無いだろう。


「まぁ……――」


 ドリーをジッと見て微笑みかけたアレックス。

 この男はどうにも御しがたいと痛感しているようだが……


「――彼等はもはや出口なしの袋小路に追い詰められたようなもの。じっくり攻めるなら兵糧攻めもありでしょうな。とりあえず情報収集を続けます」


 その一言を残してアレックスは前線本部を離れようとした。率直な物言いが許されるなら、もう勝手にしろと言いたい位だ。だが、立場もあってそれも出来ないのだからスマートに離れるしかない。


「あ、所で一つ聞いておきたいのですが」


 既に腰を浮かしかけていたアレックスは、ルイの一言で再び腰を下ろした。

 全く、余計な事をしやがって……と顔に出ないよう、必至の造り笑顔で。


「なんでしょう?」


 少しばかり固い声音でアレックスが問うた。

 どうやらこちらの腹の底を見透かされたな……と、アレックスは思った。


「聖導教会側の戦術ですが、直接打って出る可能性はあるでしょうか?」


 少しソフトな物言いで切り出したルイ。

 それもまた配慮なのは言うまでも無い。


「そうですね。直接対決に打って出る可能性は低いです。力勝負を挑むほど、彼等も愚かでは無いでしょう。故に考慮するべきは脱兎のごとく脱出を図る場合です」


 本来はこんな会話をしに来たはずのアレックス。

 両家の参謀陣も口を突っ込んできて聖導教会側の戦術と戦略の検証が始まった。


「盆地の溜め池は水量もあるので最も危険な戦術的弱点です。この堰を破壊されると低地部分が全て水没するので馬では移動できなくなる公算が高いです」


 そんな指摘にドリーとルイも賛同した。何処から打って出るのか。何処を脱出路にするのかについての考察は参謀陣も意見が分かれるが、ジダーノフ家から送り込まれた地勢指南の測量技師はヴォス渓谷なら馬でも通れると指摘した。


「その渓谷、馬は走れるのか?」


 ドリーの不安は川底が不安定で馬が脚を折る危険性だ。少々流れが早くとも、川底は苔やら水草やらで滑りやすい。そして、丸石が積み重なれば足元は不安定になる故に馬が嫌がってしまう。


 だが、ジダーノフ家の測量技師は『それは無理と思われる』と否定した。あの渓谷を脱出するなら、馬から下りて歩くしかない。その労を背負ってでも脱出する可能性は低いと思う……と、言明した。


「ならば、最終的には全滅覚悟で徹底抗戦しかないか……――」


 そんなバカな選択はアンタだけだよ……と、そう言わんばかりのルイがドリーを見ていた。ただ、当のドリーだけはそれが全くもって合理的な判断だと信じて疑っていないありさまだ。


「――明朝、まずは盆地へ使者を立て、降伏するのか抗戦するかを選ばせよう。そして、徹底抗戦するなら一晩の猶予を与え、最後の晩餐をせよと情を掛けよう」


 最後に暖かな食事をすれば、激戦となった時に心が折れるかもしれない。人間は畢竟なにより自分がかわいいのだ。信義大義に命を差し出す者など、そうそう居る筈もない。願望でしかないが、投降する者が続出するのを期待するのだ。


 だが……


「仮にそうなった場合でも、脱兎の如く逃げ出した者が出た際には渓谷へ追走するべきではありません。そこは徹底された方がよろしいかと」


 ジダーノフの測量技師はそう釘を刺した。

 ヴォス渓谷の危険性は、よそ者には窺い知れない物なのだった。






      ―――――その晩






 久しぶりに開催された夢の中の会議室では、カリオンがアレックスに釘を刺していた。忖度して出した偽の指示書について、ドリーが訝しがる可能性が高いと指摘したのだ。


「ドリーは少々視野狭窄している。あの忠誠はありがたいが、上手く御せねば厄介な事になりかねない。手柄争いで暴走してしまうのが一番怖い」


 本音がダダ漏れになる環境故にカリオンは率直な物言いでそう言った。アレックスは『まさかそれは無いんじゃ無いか?』と言うが、ドリーの狂信ぶりはカリオンも良く知るところなのだから危ないと思うのが本音だ。


「……山を越えて支援に入りましょうか?」


 そんなカリオンの懊悩を見かねたのか、オクルカはそんな提案をした。

 だが、それに対するカリオンの返答もまた、懊悩が滲み出ていた。


「聖導教会側に参加しているオオカミとの間で内戦状態となるのはよろしくないのでは?」


 カリオンはオオカミにも気を使っている。全てに対し気を使い、心を砕き、細心の注意を払って一手を打つ。そんな実状が解るだけにオクルカは胸を張り、遠慮無く本音を告げた。


「いや、ここでブスブスと燻っているザリーツァ一門の過激派を根絶やしにしたいものですな。オオカミ全体の利益として、あの一門はもはやただの厄介です故」


 オオカミの側にも色々と複雑な事情がある。それを知ったカリオンは、より一層難しい舵取りになる事を覚悟した。上手くまとめねば禍根を残す。それも飛びきり面倒で厄介で、なにより災厄の種になるものだ。


「……なるほど」


 首肯しつつ溜息をこぼしたカリオン。

 その隣に座るリリスは、そっとカリオンの肩を抱いた。


「そろそろ、殺し合いの螺旋から降りたいな。少しばかり疲れた。殺し殺され恨みを積み重ねて、どちらかが根絶やしになるまで終わらない哀しみの連鎖だ。その根本をどう絶てば良いのか。それが解らない……」


 王と言う肩書きの重さから逃げ出したい。

 そんな心情が見え隠れする一言に、全員が押し黙ってしまうのだった。

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