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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~忍耐と苦痛と後悔の日々
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聖導教会との戦い 12

~承前




 乱書と言うにも程がある様な走り書きだが、それでもウォークはそれを読んだ。

 しかし、何度読んでもそれを具体的立体的に理解するには酷すぎた。


 痺れを切らしたドレイク卿が『内容は?』と問うと、ウォークはハッとした表情でドリーを見てから言った。


「申し訳有りません。少々混乱しました」


 こんな場面でパッとその言葉が出るかどうか。

 太陽王の執事が如き男は、全ての面で()()が無かった。


「現時点における蜂起側勢力の総勢は3万少々。主力は聖導教会の騎兵ですが、オオカミとカモシカが加わっています。で、指揮をしているのはイヌ。間違い無く次期管長バルバトル枢機卿です――」


 ウォークは1つ溜息を吐き、心底嫌そうな表情を浮かべて言った。いや、それは嫌と言うより呆れていると言った顔だろう。実際、ウォークの表情には多分に侮蔑を感じさせる物が満ちあふれていた。


「――彼等の要求は聖導教会の第31教導区。ジダーノフ領の北西辺境部独立を承認する事。オオカミの一部とカモシカの邦が合流しつくる共和国に対し征伐遠征を行わない事。そして最後に、キャリ太子とロシリカ王子の執政官就任に同意する事だそうです」


 その要求内容があまりに低レベルだったせいか、全員が『は?』と言わんばかりの顔になっていた。独立国家になりたいのは解るが、人質を取ってそれを承認せよと要求してきた。


 それだけでなく、人質となったふたりの次期王を執政官にすると言うのだ。つまりは事実上の王なのだろう。やがて来る筈のカリオン王死去と同時に吸収合併という形にしたいのかもしれない。


「グリーン卿。それは…… 彼等は…… 真面目に言っているのだろうか?」


 室内に居た軍の高級将校がそう言葉を発した。そのあまりの低レベルさに、全員がポカンとした顔で呆れていた。どう考えても子供の駄々以上には評価し得ない内容だ。だが、現地から送られてくる情報にはそれ以上の内容が全く無い。


「……なにか謀ろうとしている。余はそう考えるがお前はどう思う?」


 カリオンから話を振られ、ウォークは首を傾げ思案に暮れた。常識的な範囲で考えれば、まともな話では無いしまともな方策でも無い。打算的なと言うには博打に過ぎるやり方を彼等は行っている。


 だが、ここでどう言葉を発するかで、事への対応の軽重が決まる。はっきり言えばル・ガルの命運をいきなり預けられた形だ。ウォーク・グリーンという1人の人間が発した言葉を太陽王は採用する筈だから、責任は重大だった。


「まず、まともな大人の発する言葉とは到底思えません。しかし、実際にこの程度の集団でしか無いと言う可能性を無視する訳にもいきません。現状では現地戦力以上の対応は不要かと思いますが、いずれにせよ――


 そこまでウォークが行った時、カリオンは首肯しつつ口を開いた。


「全くもってその通りだ。可能性は考慮せねばならない」


 眉間の皺を深くしてカリオンが思案し始めた。いつものように左手を腰に当て、右手で額を触る仕草だ。だが、ややあってその右手が顎を擦り始めた。ここしばらくの間にそれが急に出てきていた。



     ―――――内面的な変化の象徴



 不思議がったウォークに対し、リリスはそんな分析をして見せた。そして、どうやらその解釈は正解らしく、カリオンの手が止まった時には何らかの結果が出ていた。そしてここでは、何らかの作戦手順が積み上げられてまとまったらしい。


「北方軍団に動員令を出す。アッバース家の砲兵にもだ。聖導教会が事態収拾に当たる前に鎮圧する。彼等の要求は一切拒否しろ。無条件で投降しない場合は全員撫で斬りだ。武力鎮圧でよろしい」


 最後にカリオンが『掛かれ』と指示すると、全てが一斉に動き始めた。だが、そんな刹那に情報参謀がもう一通の走り書きをカリオンに差し出した。かなり切迫した表情故に、碌な事じゃ無いと覚悟を決めで目を走らせる……


「待てっ! 状況が動いた!」


 同じように硬い表情となったカリオンは、室内にいた面々をグルリと見まわしてから言った。


「聖導騎士が銃を入手したらしい」


 その一言で参謀作戦室から音が消えた。

 だが、ややあってフェリペがニヤリと笑い言った。


「当家で用意した毒饅頭ですが……上手く釣れたようですな」


 フェリペの放った言葉にドリーは表情を変えて『説明を』と言った。

 もちろんカリオンも『どういう事だ?』と詳細を訪ねた。


「実は工廠にて制作した新式銃ですが、初期の制作分が製造工程で少々寸法を間違え、僅かに銃身が長い物が出来てしまいました。試射したところ銃身の破裂や薬室の破断など問題を続出させ、魔法により焼却廃棄しようとしていたものです」


 フェリペは酷く悪い笑みを浮かべてそう言った。

 だが、それを聞いていたドリーは噛み付くように言い放った。


「それを闇ルートで流したというのか?」


 何をしやがった!と不機嫌そうな声音でそう言ったドリー。戦闘に特化した一門としては聞き捨てならないのだろうが、フェリペはボルボン一族に残る古い言葉で『ウィ』と典雅に答えた。


「茅町に出入りするカモシカの商人がいまして、例の罪人の後釜として当家に出入りしていたのですが、銃を探し求めている集団がいると聞きまして、でふと一計を思い付き、ル・ガルの刻印を入れぬ闇品として売り渡しました――」


 軍の工廠を管理するのはボルボン家の仕事ゆえにそれが出来たのだろう。

 そして、現場を預かるルイ・ディセンドではなくフェリペがそれを行ったというのが重要なのだった。


「――詳細を聞けば北方で銃を探している者がいるとかで、間違いなく聖導教会関係者だろうとカマを掛けてみたのですよ。そしたら見事に口を割りましてね。ならばしっかり金を巻き上げよ……と、一丁25トゥンで売りました」


 通常の新式銃は国家予算での買い上げ額査定が50トゥンだ。その半値で卸せば商人は嫌でも儲けを計算して動くはず。それを読んだフェリペは全部承知で銃を闇市場に流してしまった。


「……なるほど」


 全体像の見えたカリオンも悪い笑みを浮かべてそう言った。銃を危険な武器だと認識出来ない者ならば、喜んで試し撃ちをするだろう。その時、銃が暴発したり破裂してしまえば、それだけで被害を産み出せる。


「で、連中はその不安定な銃を200丁入手したと言うことか」


 ドリーは何かを思案する様にそう呟いた。

 だが、それに続いて口を開いたのはアッバース家のアブドゥラだった。


「陛下。北府への砲撃は禍根を残しましょう。如何されますか?」


 アブドゥラの危惧した内容は至極当然だった。北部山岳地帯を根城にするジダーノフ一門にとって、北府は文字通り一族の都その物だ。そこには極限環境に生きる彼等が何世代にも亘って築き上げた栄華がある。


 寒く暗く厳しい冬を乗り越えてきた彼等にとって、心の拠り所以上な存在なのだから砲撃で焼いてしまうのは忍びない。なにより、今度はジダーノフ一門が崩壊しかねないのだ。


「……そうだな。この場合は籠城されるのが最も手強い事態となるのか」


 少々手詰まりか?と思わせるような空気でカリオンがそう零す。

 だが、それに一番の反応を見せたのは、他ならぬドリーだった。


「ならば陛下。彼等聖導騎士に平原へ出てこいと誘いを掛けましょう」


 胸を張ってそう言ったドリー。その言葉に全員が苦笑を浮かべた。

 要するに、騎兵同士が激突して雌雄を決しろと誘ってやるのだ。


「少々手痛い犠牲が出ますが……宜しいのか?」


 アブドゥラは訝しがる様に言った。騎兵同士の激突ならば戦死者は夥しい量になるだろう事など火を見るより明らかなのだ。だが、騎兵による合戦を心の何処かで望んでいるのは言うまでも無い。


 戦場で華々しく馬を駆り、槍を翳し剣を振り上げ蛮声と共に激突する。そんな血湧き肉躍るシーンに憧れている戦闘狂ばかりなのがドリーの率いるスペンサー家の一門一党なのだから。


「もちろんだ。直接激突し実力の違いを身体に教え込んでやる。飼い主の手を噛むバカな犬に躾をしてやろうじゃないか。鎧袖一触に蹴散らしてくれる」


 胸を張り自信あふれる表情でそう言ったドリー。

 だが、そんなドリーに予想外の言葉をカリオンがかけた。


「なるほど。では火力支援抜きで激突してみるか?」


 思わず『は?』とドリーが返し、少々緊張し過ぎていた面々が思わずプッと吹きだして笑った。その場を和ませるくだらないジョークだが、どれ程の強弓とて弦の張り過ぎは破断の元になるのだ。


「王がお望みであれば、我らはいつでもそれをして見せましょう!」


 虚を突かれた形ではあったが、それでもドリーはそう強がって見せた。

 だがそれを聞いたカリオンはニンマリと笑って言った。


「その言葉に二言は無いな?」


 念を押すようにカリオンはそう言った。傲岸な支配者の笑みを添えて。



     ―――――王は何か決断された……



 室内に居た者たち全てがそれを認識し、ドリーですらも『もちろんであります』と胸を張って答えざるを得なかった。闘争路線を基本とするスペンサー家を少々手に余している。そんな風にも取れる雰囲気だ。


「ならばこうしよう。実はかねがね、余も一度やってみたいと思っていた」


 カリオンはそこから作戦提案を行い、作戦参謀たちの評価を待った。率直に言えば余りにも無茶で無謀で犠牲を強いる消耗戦まがいのやり方だった。だが、もしこれがバッチリ決まれば、恐らく一撃で聖導騎士を全滅させることが出来るだろう。


 それどころか、北府ウラジーヴィルに集う反ル・ガル勢力を一撃で一層出来るかもしれない。もっと言えば、聖導教会と言う組織自体を大幅に弱体化できる可能性がある。それを思えば……


「大変良い作戦かと思われます。その危険な役目こそ我がスペンサー家にふさわしい! 是非とも我らにお命じ下さい。余の為に死んでくれと……陛下」


 キラキラした眼差しのドリーは満面の笑みでそう言った。

 太陽王のために戦い、太陽王の為に死ぬ。それに勝る誉れなど無い。

 尚武の家系であるスペンサー家の主は、一切の迷いなくそう言い切った。






      ―――――同じころ






 北府ウラジーヴィル。

 ジダーノフ家の本拠としてそびえる北牙館。

 その巨大な城塞は、ジダーノフ一門が長い時間を掛けて築いた北への備えだ。


 堅牢無比を誇るこの城は、過去幾度も経験したオオカミによる侵攻を防いできた実績を誇る。記録を紐解けば、22万の大軍に半年包囲され続け、その間を凌ぎ切ったとあるのだ。


 ただ、それだけの堅城故に獅子身中の虫となった場合には対処が出来なくなる事もある。事実、城内に入ってから武装蜂起を始めた聖導教会の関係者たちを抑え込むのに難儀していた。


「流石に中心部までは飛び込んで来れないようだな」


 石積みの窓から眼下を眺めるロシリカは、腕を組んで渋い表情だ。街その物を城壁で囲った城塞都市だが、その拡張により複数の城壁がタマネギ状に膨らんでいる関係で、防塁を幾つか突破せねば中心部へはたどり着けない。


 そんなウラジーヴィルへなだれ込んだ聖導騎士達は、最外殻部のダウンタウンエリアで工房街や商人街の辺りで足止めをされていた。その内側には北部地域の市民が暮らすアッパーエリアがある。


 そこには精強を誇る北方血統のジダーノフ騎士団が駐屯する軍事エリアもあり、聖導騎士団の突入を阻んでいる状況だ。限定局面ながら銃撃戦が続いていて、イヌ同士が撃ち合う悲惨な局面になっていた。


「んで、ここからどうする?」


 タロウが軽い調子でそうたずねると、キャリは事も無げに言った。やはり何処まで行ってもキャリは支配階層だ。それ故か、時には犠牲を無視して冷徹な判断をするし、指示を受ける側の苦労を考慮せず結果だけを求める。



     ―――――それが必用ならば躊躇するな



 支配者として存在する者に必用な能力は、突き詰めればひとつしかない。

 それは、必用な結果の為に犠牲を払う事への冷徹な判断と決断だ。


「オヤジなら徹底抗戦しろって言うだろうさ。聖導教会の横槍はル・ガル一統以来ずっと頭痛のタネだ。これ幸いに粛正して禍根を残すなって言い出すと思うよ」


 ロシやタロウだって聖導教会が横槍を入れてきたのは知っている。だが、その実の部分について知識的な肉付けが為されているかと言えば,答えはノーだ。


「ル・ガルとオオカミの間のあれやこれやにも噛んでるんだろうな」


 何となく全体像を掴んでいるロシリカは探るような言葉を吐く。

 それを聞いたキャリはロシリカとタロウの2人を手招きして小声で切り出した。


「これはオヤジが見せてくれた太陽王だけが閲覧できる秘密資料の中にあった話なんだけどな――」


 キャリは大幅に省略しつつもポイントを抑えた聖導教会の暗躍を伝えた。

 そもそも、太陽王の誕生自体が聖導教会の差し金だったこと。

 しかし、その件で莫大な国家資金を教会が飲み込み続けたこと。


「――それだけじゃ無いんだよ。一番ヤベェのは何と言っても……」


 そこからキャリが切り出したのは、この400年の間にル・ガルが経験したあらゆる騒乱に聖導教会が関わっていたことだ。なにも王を支配する必要などない。王にプレッシャーを掛け続ければ良い。


 国家が騒乱状態となり、その鎮圧に走り回ってる間に疲弊するだろう。その時に耳元で神に跪けと心をへし折って、その裏では焚きつけた騒乱を納めれば良い。そうすれば国家その物を支配出来るようになる。


「回りくどいが面倒を背負わなくて済む名案だな、それ」


 ウンザリ気味にそう言ったロシリカは、ル・ガルとオオカミの間で続いていた北伐の真相を知った。戦わなくても良かった両者。死ななくても良かった若者達。それらのいわば無駄な犠牲を強いた根本こそが宗教だ。


「神は偉大だが、神を信じろと強要する奴らはクソ以下ってこう言うことか」


 タロウもタロウでウンザリ気味だ。神の名を騙り、人の持つ欲望を達成する為に世界を支配しようとする愚かな者達こそが宗教という組織を作るのだろう。権威を傘にやりたい放題な聖職者などごまんと居るのだ。


「神の教えが本当に完全なら、今頃世界は平和で俺達はどっかの畑でも耕してるだろうさ。けど、そうじゃ無いんだよな。現状は。だからオヤジはあの教会を無力化したいんだと思う」


 キャリが語った世界の真実。純粋に突き詰めれば、神は人の世界を平和にしようなどとは望んでいないのかも知れない。騒乱も貧困も差別も無くならない不完全な世界を黙認している神の意志。その根本は人には理解出来ないのだろう。


「で、まぁ、話は戻ってどうすんだ?」


 あまりに巨大な視点での話が続いていた結果、事態への対処が若干疎かになったらしい。心ここに有らずだったキャリとタロウだが、ロシリカは意識を現実に戻して話を進めた。現実主義で無ければ軍人は務まらないからだ。


「とりあえずは……まぁあれだ――


 何かを切り出しそうとしたキャリが口を開いたとき、何処からか野砲の音が聞こえた。思わず『え?』と外を見た3人は、最外殻部の辺りで大きな爆発が起きるのを目撃した。


「城壁の大扉を砲撃してるんじゃねーか?」


 ロシリカは声を上ずらせつつそう分析した。場所的には第2城壁辺りだ。最外部の第1城壁にある跳ね橋と違い、第2城壁には堀が無い関係で大扉が隔壁になっている。


「ちょっと待て。聖導教会が野砲を持ってるなんて聞いてないぞ?」


 キャリは瞬時にそう分析したが、音を聞けばそうとしか思えない。

 散々と野砲を撃ってき故か、音でだいたいの種類が分かるのだ。


「って事は、味方が使ってるのか?」


 タロウがそんな事を言ったとき、誰かが部屋の中へ飛び込んできた。驚いてキャリが振り返ると、そこには父カリオンの盟友アレクサンドロフが立っていた。






     ―――――第1街区






「これが野砲か!」


 飛び交う破片の中、聖導騎士と共に居たバルバトスは手近な建物へ飛び込んで身を護っていた。狭い城内で使う兵器では無いが、威力は十分なだけに遠慮無くぶっ放したと言う所だろう。


「主の雷と表現した者が居りましたが、どうやら間違い無いですな」


 バルバトスと共にいた聖導騎士は、老いて動きの悪い身体をいたわりつつも矍鑠と戦線を指揮していた。ただ、悲しいことにその知見と指揮は平面における騎兵戦闘のそれを脱していない。


 戦術と戦略は線上を縦横に結ぶ重要な糸だが、それだけにアップデートは常に行う必用がある。そして、それをしなければ生き残れない戦場が銃火器により砲火を交える現代戦の常だ。


「撃たれてばかりでは面白く無いな。誰ぞ突撃を線と欲する者は居るか!」


 バルバトスが叫んだそれは槍衾へと突入する騎兵戦闘の華だ。ただし、人の世界における第1次大戦と同じく、機関銃の前に歩兵を並べいたずらに戦死者を増やすだけの愚行と同じものでしかない。


 血気盛んな若者達が我先にと手を上げるが、塹壕に立て籠もって対峙した両軍兵士や203高地で屍の山を築いた日本軍と同じく、単なる人的資産の損耗行為に他ならない。


 もっとも、それを指揮命令した側とて、夥しい犠牲者を生み出し初めて学んだことなのだが……


「枢機卿! このままでは全滅してしまいます! 死にに行くような物です!」


 中年騎士のひとりがそう声を上げた。若者達に教えを授ける教導騎士だ。様々な戦場を渡り歩き、幾度かはジダーノフ家の戦闘に参戦して見識を広げたのだろう。


 銃火器の前に身を晒すことの危険性は、経験しているまで分からない。

 だが、それを聞いた聖導騎士の老人は目をまん丸にして怒鳴った。


「主の御許へ召されるだけだ! 何を恐れる! 主は見ておられる!」


 合理的思考と理詰めの戦略。その両方が失われているか根本的に無いのかはこの場では分からない。だが、勝利の為に必要な事は何でも行うと言う精神がある様には見えない。そして、それをしない軍隊がどうなるのか?と言う知見も……


「儂が先頭に立つ! 主の導きを信じる者は我に続け!」


 老人は純白の体毛を靡かせるほど大股に歩き始めた。

 その後ろには血気盛んな聖導騎士の若者達が幾人も続いている。



     ―――――お前達全員死ぬぞ?



 抗議の声を上げた中年騎士は通路を開けて彼等を送り出した。自信溢れる表情の若者達は、どこか蔑んだような顔で彼を見ていた。血気盛んに進む者達が辿り着くのは、いつだって彼岸の彼方だ。だが、彼等は何処か喜んでその愚行を犯す。


「命を惜しむな! 名を惜しめ! 主の御手に導かれよ!」


 若い騎士達が一斉に拳を突き上げ何事かを叫んだ。絞り出す蛮声は一時的に感情を麻痺させる物だが、同時に理性をも塗りつぶしてしまう。そして、そのまま真っ直ぐに死ぬのだった……

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