表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~忍耐と苦痛と後悔の日々
606/665

聖導教会との戦い 08

~承前




 エルヴィスが訪問した日の午後。

 王府の太陽王執務室には各公爵家の当主が集まり、枢密院会議を開いていた。


 キャリの国土巡回準備が進められる一方で、国政も滞りなく進行している。既に10度目となるカリオン政権の閣僚交代を終え、新たな世代は均衡の取れた国土の発展に向けグランドデザインを描きつつあった。


 ただ、そのタクトを握っているのはあくまで帝國老人倶楽部である。各公爵家の長となる当主達はカリオンの指針を基本とし、叩き台となるプランを作成しては閣僚らに指示を出していた。


 それは言うまでも無く、何らかの問題が発生した場合に責任を取る役としての存在だ。太陽王と王府諸機関の間に入り込み、何らかの致命的問題が発生した時には王に代わって陣頭指揮を執り、それでもダメな時は責任を被る役目だった。


「この資料通りであれば……我が国は最大の難関を乗り越えたと言っても良い状況でありますな」


 最初に口火を切ったのは、相変わらず全く無表情なジダーノフを預かるウラジミールだ。ウォークの配布した資料は国府統計院による正確な国内情勢の分析で、そこに現れているのは子爵家や男爵家の大幅な消滅と統廃合だ。


 この日の会議で最後の議題となったのは、この10年程度の間に頭を悩ませてきた難しい問題の最終的解決。そう。キツネの国への遠征から始まった大侵攻の根本的な目的は、貴族の数を減らすという口には出来ない案件だった。


「行軍拒否のための自主的な男爵位返上が50少々。軍令違反や逃亡行為による子爵位取り消しが100弱。そして戦死が双方合計で約300。ただ、理由は様々にせよ伯爵家が30程度入っているのは意外でしたな」


 やや不満そうな声で言うドリーだが、実際の話として戦死が一番多いのはスペンサー家傍流のようだ。そもそもに喧嘩っ早い猛闘種一門としては、一族の勢力が衰えると言う面で歓迎せざるる部分があるのかも知れない。


「あくまで結果論ですが、来年度における子爵や男爵への俸禄給付が大幅に圧縮されました。総額で凡そ1500万トゥンです。それだけでなく、各貴族家より集まる税の額が大幅に増えるでしょう。総合すれば3000万トゥンを越える財政上の余裕が生まれます」


 王府財務局のまとめた資料を読み上げたウォークは、獅子の国への遠征で相当苦しかったル・ガルの財務状況がグッと改善される可能性を示した。財政に関する実務ではアッバース家が圧倒的に秀でているが、そのスタッフらは『大幅に改善します』と言い切っているので、これは期待が持てるのだと誰もが安堵していた。


「グリーン卿。一般会計予算の予備分が1割程度は増えると見てよろしいか?」


 そう質問したのは、経済に強いアッバースのアブドゥラだ。他の公爵家と異なり所領を持たずル・ガル全域で商行為を行うアブドゥラの一門は、ル・ガル全体に金がだぶつく事こそが一門の利益だった。


「そうですね。現時点における積み増しが無ければ、国内への資金環流が大幅に進むと思われます。現時点では1割ではなく2割強です。戦死者への弔慰金も3年で大幅に圧縮されるので、国内への投資が進むでしょう」


 ウォークの発したそれは、国内全域へのインフラ投資増額を意味していた。獅子の国との抗争時から加速しているル・ガル国内の流通網再整備計画は、従来からある街道への大規模な再整備だ。


 ヒトの世界における高速道路の整備と同じく、安定した高速移動を実現する為に強力な投資を行い続けている。そしてその結果として、国内各所で国家の落とす予算により市民の収入が上向き続けていた。


「こうなってくると物価上昇が頭痛のタネだな」


 いつの間にか政治家らしい事を言う様になったボルボン家のルイが漏らすと、同じ場に出席していた前代となるフェリペがニヤリと笑った。


「所領経営はこっちに任せろ。君は王の手足になっていれば良いのだ」


 ボルボン家を乗っ取った者達は無かった事にされ、ボルボン家は公式に世代交代を果たしたようだ。ジャンヌを受け継ぐ女二人もまた微笑を浮かべて様子を伺っている。


「個人的な所見でありますが予算的に余裕があるうちに様々な事業を終えておきたいところです。大規模な農地改良などの継続的予算が必要となる事業についても、合わせてその先弁を付けたい所です」


 話に割って入ったウォークは、カリオンの治世において継続的課題となっている農地改良への提案を行った。取りも直さずそれは、茅町で研究が進む大規模な肥料生産への布石だ。


 空気からパンを生み出す秘術と説明され、農務長官や健康保険機関を預かる帝后から詳細を求めらた窒素系肥料の生産と流通に向け、事業を加速させたいとの要望が強く有るのだった。


「そうだな。例の工廠……だったか。ヒトの世界の技術がこの世界で実現できるなら相当心強い。報告にある通り、ソティスの造兵補給廠と同じように魔法技術による製造工程を検討するべきかもしれぬな」


 カリオンが言うそれは、ソティスに建設され拡張を続ける大規模な工廠での魔法利用だ。そもそもこの世界では高温高圧な代物の製造など土台無理な話。ヒトの世界における近代工業の発展とて、工作精度の向上と冶金技術の発展が重要だった。


 それ故か、ソティスではこの世界の職人達では手に負えない工作精度や工作環境を魔法によって実現させていた。この世界ではオーバーテクノロジーな銃や砲の存在は、ル・ガルにとって最も秘匿するべき技術体系なのだった。


 そも、アームストロング砲などと言った高温高圧の掛かる部分を均一な密度を持つ合金で作り上げるなど、ヒトの世界だって生中な事で実現出来るものでは無い。高温高圧タービンの製造などと同じく、工業力の基礎的な部分が問われるのだ。


「ソティスから魔法技術者を派遣しましょうか?」


 ポイントの稼ぎ時と思ったのか、ルイはそんな提案をした。

 だが、それについてカリオンが答える前にフェリペが口を挟んだ。


「それは私が言う役だぞルイ。王がそれを指示されたら君がそれを実行するんだ。もっと思慮深く慎重に振る舞いたまえ」


 手厳しく叱責したフェリペにルイが『面目ないです』と零す。だが、それを見ていたレオン家のポールがお調子者らしい言葉を突っ込んでくる。


「勉強になりますね、兄ぃ」


 近衛将軍としてこの場に参加していたジョニーにポールがそう言うと、すかさずジョニーはポールの脇腹目掛け一撃を入れた。グフッと鈍い声を上げたポールが涙目になる中、ジョニーは渋い声で言った。


「そういうのは後から言うんだボケ。この場で言う事じゃねぇ」

「……へい」


 まだまだ修行中のポール故か、こんな時には素直にジョニーの話を聞いている。

 それを見ていたカリオンは、ふと午前中に来たエルヴィスの件を思い出した。


「そうだ。そう言えば重要な話を思い出した」


 カリオンが唐突に切り出すと、全員が話を聞く体勢になった。


「今朝早くに聖導教会の長が来たんだがな――


 そう切り出したとき、枢密院会議の席にいた全員が『え?』と驚きの表情になっていた。何を今更申し開きする事があろうかと訝しがったと言う方が正しい。


「――キャリの国内巡回に合わせて教会内部で何かが起きる可能性があると報告してきた。あの男も教会内部を把握しきれていない可能性が高い。何が起きるか分からんが、武装蜂起でもしてくれるなら容赦無く根切り出来て好都合なんだがな」


 冗談めかして言葉を発したカリオンだが、それに表情を変えたのはジダーノフを預かるウラジミールだった。諜報活動などを手広く手がける一門故に、情報の集積と分析では他家を圧倒する部分がある。


「その件について1つ懸念が」


 ボロージャは目で発言の許可を求めた。

 王の言葉を遮る可能性があるのだから、その辺りの配慮は重要だ。


「拙い事か?」


 あくまで軽い調子でそう返答したカリオン。

 だが、ボロージャの言葉は大問題だった。


「先般の獅子の国遠征において当家の騎兵団に若干名の聖導騎士が参加していたのですが――」


 そこまで言葉を吐いたとき、全員が揃って『は?』と声を出した。国軍とは完全に袂を別っていた筈の聖導騎士が居るはずが無い。だが、ボロージャはその反応に一瞬だけ間を置いてから続けた。


「――……帰還時にどうやら少数ながらも銃を持って行ったようです」


 銃を持って帰った。

 言葉にすれば僅かだが、全員が表情を硬くして息を呑んだ。


 そも、ル・ガル国軍が装備する銃はソティスの工廠で製作されたもので、その全てに通しナンバーが入っている。どこの部隊にどのロットが納入されたのか。戦闘中に失われたのはどれか。その全てが追跡できるようになっていた。


 それは、取りも直さず重要な戦略兵器である銃を管理する為だ。他国への流出をもっと恐れるのだが、国内流出は同じレベルで大問題だ。射程3リーグ。有効殺傷距離1リーグに達する最新鋭の銃だと、途端に戦線が様相を変えてしまうのだ。


「どれ程の流出量か?」


 少々固い声音になってカリオンは問題の核心を問うた。

 それに対する返答は、全員が奥歯を噛みしめるのに充分な威力だった。


「……凡そ150丁ほどかと」


 150丁


 先込式で槊杖を必用とする火縄銃型ならばともかく、原始的ながらもボルトアクションを実現した銃なのだからとんでも無い火力を発揮してしまう。集中射撃を受けたなら、騎兵の突撃は自殺行為そのものだ。


 連発銃が実現されていない状況故にまだ救いはあるが、それでも射手が10発程度の銃弾を持っていたとすれば、単純計算で1500名の死者発生が確定する。そして、それ以上に問題なのは戦術戦略両面で制約が発生する事だ。


「……陛下。仮に聖導騎士が銃を持って蜂起した場合、その後始末は彼等自身にやらせましょう」


 いつの間にか手厳しい事をサラッと言える様になったルイがそう提案する。しかし、それとは異なる意見をアッバースのアブドゥラが発した。それは、銃を凌ぐ兵器での対処だ。


「いや、この場合は砲兵で対処が良いのでは? 彼等の射程外から榴弾を撃ち込み続け、人も銃も全て破壊殺傷してしまいましょう。何よりこれは、銃が流出しても問題無いという実績作りです」


 銃自体は既にオオカミの邦へ供給が始まっているし、キツネやトラの国にも旧式ながらマジカルファイヤ方式の銃が送り込まれているのだ。事にキツネの国などではあっという間に普及し、山中などで狩りをする者が使っていると言う。


 となれば、銃を使った軍隊への対処法をル・ガルが持っているのだと示す事は重要なのだ。なにより、歩兵戦力としての立場を作ったアッバース家の矜持が、それを支えていた。


「この件については即答を避ける。いざ蜂起となった場合に対処を検討しよう。ただし、銃を使っての武装蜂起は……叛乱である。これについては強力な対処を行って良い。各家の所領において応分に対処せよ」


 カリオンはそう決定し、枢密院に参加していた者達全員が『御意』と返答した。

 銃の流出自体は時間の問題だと考えていたし、率直に言えば結局は数での対処でしか無い。しかし、それが敵対的スタンスの側に流れていったとすれば大問題だ。



     ―――――碌な事には成らない……



 誰もがそれを思ったからこそ、本来は和やかに進行して終わる筈の枢密院会議が最後の最後に重い空気となってしまうのだった……






     ―――――その夜






 ガルディブルク城が寝静まり、不寝番の警備だけが城内を歩く時間帯。

 カリオンはリベラに命じて息子キャリを私室へと呼び出した。


「ひとりで来たか?」

「はい」


 太陽王個人の書斎として使っている部屋の更に奥にその小部屋はあった。

 キャリもその存在を知らなかったくらいだ。


 城の構造全てを把握しているリベラによって安全が確保された秘密の部屋。

 ある意味では、太陽王にとって最後の立て籠もり場所かも知れない……


「遅くにすまなかったな」

「いえ、お安いご用にござんす。あっしぁこれにて」


 カリオンの労いに応えてスッと姿を消したリベラ。

 その姿が見えなくなったとき、やっとキャリは素の言葉を発した。


「……ここは知らなかったけど、凄いね」


 初めて入った部屋の中、キャリは呆気にとられて四方を見た。

 部屋の六面全てに描かれているのは、複雑な魔方陣だ。

 しかもそれは、キャリの知る魔導の常識を遙かに越えている代物だ。


「初めて見るだろう?」

「はい……」


 本来平面でしか無い魔方陣が驚くべき事に積層化・立体化されている。

 これはハクトが考えついた画期的なアイデアだ。魔方陣を重ねて連続動作させ、連続作用とさせるというものだ。


 通常、魔法を詠唱して効果を発揮させられるのは1種類と決まっている。火をおこしたり風を吹かせたりと、突き詰めれば簡単なモノが多い。それを補う為に魔方陣を書き起こし、詠唱者を助けるのが魔方陣の効果だ。


 そう。魔方陣とは魔導回路による魔法機序の自動化だ。それ故か、複雑高度な魔法を使える上級者達は魔方陣を不要な物と見ていた。だが、超上級レベルにある者達は、時々とんでも無い事を思い付く。



    ―――――侵入者の時間を止める事は出来ないだろうか?



 時間への干渉は神の摂理の領域で、並の魔導師は触ろうとすら思わないもの。しかし、時の魔法使いハクトは、魔方陣を駆使する事でそれを実現している。そして有る日、彼は禁断の領域にある事を思い付く。


 1つの魔方陣が1種類の効果しか発揮し得ないと言う常識への挑戦。複数の魔方陣を同時に発動させ、連動させれば良いのでは無いだろうか? それはつまり、あの七尾のキツネ対策そのものだ。


 蜃気楼と走馬燈の世界と表現された異なる次元に奴は存在するらしい。こちらから手が出せず、向こうがアクセスして来るのを待つしかない。ならばその好機に備え、あのキツネを捕まえる仕組みを作れば良い。


 そう。如何なる次元にあっても等しく時の支配を受けるのだ。魂という器にある命ですらも時の影響を受けている位だ。だからこそ、時を武器に出来ないかと発想したのだった。


「ここに侵入した者はどんどん時間が減速して行って、やがて動けなくなる。しかもその間、範囲を限定した炎に焼かれ続けながらな」


 楽しげにそう言ったカリオンは、手招きしてキャリを座らせた。複数の魔方陣は光を透過する素材へと書かれて重ねられていた。レイヤー化された魔方陣は内側から順繰りに作動して対象者を取り殺すのだ。


「……ここまで対策しているんだ」


 素直な言葉で感嘆したキャリは、魔導知識を総動員して魔方陣の解析を試みた。だが、そこにあるのは超上級者クラスのみが知りうる領域の技ばかりだ。10人中9人が『無駄』と割り切った者を研究した1人だけが知る技……


「これは俺も全く解らん。リリスと研究したんだが、ハクトは答えを教えてくれなんだよ。曰く、考えているうちに答えへとたどり着けるそうだ」


 リバースエンジニアリングと呼ばれる手法は、行う側にも知識や理解力を要するモノ。機械や機構などを解体して構造を解析するのと仕組みは一緒だ。複数の魔方陣が連動する順序や機序を解析し、一枚ずつ分析する事で学べるのだろう。


「……算術にあった因数分解って手法だね」


 高等数学はル・ガルでも一握りの教育機関でしか教えていない代物だが、キャリはビッグストンでそれを学んでいた。もちろんカリオンもだ。


「あぁ。そうだな。ひとつひとつ解いていけば良い」


 小部屋内部の簡単な椅子へ腰掛けたキャリ。

 カリオンも事務机から椅子を牽き出して腰を下ろした。


「で、用件は何?」


 誰もいない事を確認していたキャリは、父と息子に戻って話をしている。

 そんな空気が何とも心地よく、カリオンはしばしそれに酔っていた。


「……明日からの国内巡回だがな」

「うん」


 カリオンは事務机に一枚の紙を出した。そこに書かれているのは、六波羅探題と呼称されている検非違使の補助機関から送られてきた報告書のまとめだ。


「聖導教会の次期代表……今は管長と呼称しているが、あの次の管長になろうとしている男がなにやら水面下で動いていると言う情報だ。概ね良くない事を企んでいるようだが……」


 王都から北へ馬で駆けて7日ほどの距離だろうか。

 ジダーノフ領の片隅に聖導教会の練兵場があるのは王府も把握していた。


「……こんな所があるんだ」


 キャリは手にとって報告書を眺めた。総戦力は凡そ3000程度で、最大でも5000騎は越えないらしい。凡そ騎兵戦力というものは馬の数で戦闘力がはっきりする。


「ここにあの……バルバトスと言ったか。あれが足を運んだそうだ。恐らくはもうすぐ報告書が来るだろう。今日辺り到着しているはずだから、光通信で届くだろうが、どうせ碌な事じゃ無い」


 カリオンの言葉に報告書から顔を上げ『と言うと?』と問うたキャリ。

 人の話を素直に聞ける点に関しては、もう充分合格点だとカリオンは思う。


「ここ街は聖導教会が持つ騎兵団の練兵場だ。国内各地から孤児や教会へ預けられた子供達の中から見込みのありそうな者を選抜して武芸を仕込む場だ。あのバルバトスという若者もここの出身のようだ」


 そこまで言われ、キャリにも何となく全体像が見えた。

 聖導教会内部の反管長派によるクーデターの危険性だ。


「……ジダーノフ家に訪問した頃、武装蜂起すると言う流れ……かな?」


 カリオンは僅かに首肯し、報告書を指先でトントンと叩いた。

 その指先にある文字は、キャリの背筋を寒からしめるものだった。


「武装蜂起なら良いが、事態はもっと深刻だ。聖導教会が分裂し、別の組織へと変革を試みる可能性がある。なにより、下手をすれば国家単位で独立を試みかねんとの事だ。お前を戴冠させて傀儡の王を作り、新たな王国にしようとしている」


 それが杞憂であればどれ程良いだろう。

 キャリも思わず頭を抱える事態が進行していた。


「……そんなバカな」


 絞り出すように零したキャリ。だが、カリオンは無表情のまま言った。

 幾多の苦難を経験して来たのだからこそ、言える言葉もあるのだ。


「俺だって過去幾度もそう呟いてきた。だが、結果的には予想を超える事態が幾度も発生しているし、困難に直面してきた。想像以上にでかい壁にぶち当たってしまい、幾度も途方に暮れている」


 カリオンは薄く笑いながらそう言い、キャリを真っ直ぐに見つめて続けた。


「遅くなったから長くは言わん。だがな、一瞬たりとも忘れずに覚えておけ――」


 迫力を増した顔で静かに言うカリオン。

 それに気圧されたのか、キャリは黙って首肯した。


「ジダーノフ家だけじゃなく国内のどこに居たとしてもだ。何が起きるか解らん。故に絶対に武装を解くな。危険を察知したならば全力で逃げろ。如何なる存在を犠牲にしてもだ。リリスをお前に付けるから少々の事態なら心配ない」


 僅かに首肯したキャリ。

 カリオンは傲岸不遜な笑みを浮かべて言った。


「お前は次の太陽王だ。絶対に死ぬな。アージンの血脈を受け継いでいけ。アージン一門の存続で救われる者も居るんだからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ