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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~忍耐と苦痛と後悔の日々
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聖導教会との戦い 04

~承前




  ――――聖導教会が太陽王に謁見を願い出たらしいぞ!



 太陽王の折檻状から1週間。

 市民の間にそんなうわさ話が流れ飛んでいた。


 人の口に戸板は立てられないというが、そんな噂話の拡散スピードは常識を凌駕するものと決まっている。先の折檻状に対して聖導教会が返答した公式回答は『太陽王陛下へ謁見を申し込む』だった。


 そしてそれは、どこからか意図的にリークされたものであることなど自明の理だった。



  ――――へぇ……

  ――――謁見ったぁ随分と下手に出たもんだな



 王都の市民が口々に噂するそれは、聖導教会が急に態度を変えた事への嘲りや蔑みが多分に混じった感心だ。何処か高飛車に振る舞っていた教会関係者が見せるその振る舞いは、市井の人々にとって微妙な怒りを呼び起こしていた。


 神の教えこそ至上かつ最上のもので、世俗の事など薄汚れた些事に過ぎぬ。マダラやケダマは神の怒りその物で、生まれてこの方の不幸や不遇は前世の罪なのだと説いてきた教会の変節。それ自体が許されない事なのだ。そして……


「おい! 公示が出たぞ!」


 ミタラス広場にいた誰かが声を上げた。

 王府による広告が行われ、太陽王の方針が市民に示されたのだ。



 ―――――ひとつ。近日太陽王は聖導教会法主へ謁見される

 ―――――ひとつ。王は近衛師団をもって賓客をもてなす

 ―――――ひとつ。王は私室へ法主と主席枢機卿を招く

 ―――――ひとつ。市民各位は街路の清掃に尽力せよ



 それを読んだ市民らは悪い笑みを隠そうともせず、口々に噂し合った。

 曰く。太陽王の勝ちだとか、或いは聖導教会の中身がどれ程腐っているのかを。


 先の王都騒乱だけでなく獅子の国との祖国戦争においても静観を決め込んでいた聖導教会だが、実際には様々に糸を引いていたのも公然の秘密。カリオンではなくトウリを太陽王にしようと聖導騎士が奔走したのを市民は見ていた。


 つまり、ここにきて太陽王は聖導教会へ何らかの政治的工作をしたのだ。太陽王の折檻状が公開されていないので、市民らはその実情を知る事は出来ないでいる。しかしながら政治的闘争による結末でもない限り、こんな事にはならないはずだ。


「……また戦かのぉ」


 老いたイヌが公示を見上げて呟いた。国難に疲弊する国家を思えば、国費に頼ることなく戦力を動員できる聖導騎士の存在に目を付けたと言うのが実情なのだろうと喝破したのだ。


 幾多の血を捧げて来た国家防衛と言う巨大事業も最終段階なのかもしれない。世界の奴隷であったイヌが如何なる摩擦や衝突をも許容し、自主独立の為の戦いを繰り広げ尊い犠牲を払ってきた。


 それを傍観する者など絶対に許さないし、その中で権益確保の為に暗躍する存在など認めない。そんな国民感情をも利用する太陽王の手腕が如何なく発揮されたのだった。






     ―――――同じ頃






「市民の反応はどうだ?」


 ガルディブルク城の執務室から空を眺めていたカリオンは、彼方に聞こえる市民のどよめきに聞き耳を立てていた。


「そうですね。概ねこちら側に好意的かと――」


 各方面から上がってくる報告をまとめたウォークは、いくつかの資料を差し出しながらカリオンに説明していた。ここに来て急に態度を変え謁見を申し出た聖導教会を訝しがりつつも、カリオンはそれを了承したのだ。


 同時に各方面へ聖導教会が遂に折れたと噂を流した。今までの対立は聖導教会が取って来た態度が原因だと工作したのだ。しかし、そんな事をするまでもなく市民の内部にあった対立の芽を作ったのが聖導教会なのを市民は理解していた。


「――で、本当に良いのですか? 彼等をここまで招き入れても」


 ウォークが懸念するのはカリオンの示した方針だ。法主と主席枢機卿に謁見する場所は王の庭で、法主と首席枢機卿だけが来いと条件を付けた。王府の魔導師や魔法使いたちによる強力な魔法防御だけでなく次元の魔女リリスが防護する城だ。


 しかしながら、その内へ法主と枢機卿を入れてしまっては、内部から破壊される危険性を孕んでいる。もし仮に聖導教会が全面戦争を覚悟しており、如何なる犠牲も問わずに内部破壊を試みた場合には対処が出来なくなるだろう。


「構わんさ。こちらの主眼はあの河童ハゲ共の心をへし折る事だ。その為にはこちらが殊更に警戒している様子など見せぬ方が効果的だろうしな」


 あくまで鷹揚と振る舞うカリオン。だがそれは、怒りに震える両の手を必死に隠した静かな闘争の表れだ。サンドラの示した方針を採用し、あくまで国家を主とする太陽王の義務を果たしているにすぎない。


 出来るものならば一人残らず首を刎ねてやりたいが、国家を守る盾としてすり減らす事を選んだのだ。彼等にとっては決して受け入れ難いのだろうが……


「教会派は面白くないでしょうね」


 ウォークはやや懸念を示した。この男は常に自分を勘定に入れずに客観的な視点でものを言う。それ故にカリオンは常にこの男を手元に置く事を選択していた。如何なる聖人君子といえど、客観視ほど難しいものは無い。


 そもそも、歴史に名を残すような存在であっても、己の姿を第三者的視点で評価するなど不可能だ。仮にそんな事が出来る存在が在るとすれば。それはきっと神にも等しい存在なのだろう。


「まぁ良いだろう。むしろ不平不満を表立って言ってくれる方が助かる」


 腕を組んだまま空を見上げたカリオンは、何処か遠い所へ思いを馳せた。思えばここまで数々の困難を乗り越えて来たが、その全てに聖導教会の差し金が見え隠れしている。


 彼らの教義にあるマダラ差別という愚かな方針により、カリオンだけでなく父ゼルや多くのマダラがル・ガル内部で居場所をなくしているのだ。つまり、親子二代に亘る復讐劇でもあるのだ。


「その方が対処しやすいのは同感です」


 ウォークは少しだけ笑みを混ぜそう言った。少なくとも不平不満を溜め込んだまま平然といていられる方が困る。国政という部分でのやり易さを思えば、この方が手間が無いのだ。


「さて。彼等はどう出るかね。あの法主のお手並み拝見だ」


 腕を組みウォークを見たカリオンがそう言うと、近くに立っていたヴァルターがニヤリと笑った。いや、その笑みはヴァルターだけでは無い。同じ様に立っていたキャリもまた悪い笑みを浮かべていた。


 従来、法主が出向く時には必ず聖導騎士が護衛に付くのだが、カリオンは近衛師団を護衛に送ると返答していた。そもそも、城の中に国家戦力とは異なる戦力を入れる訳にはいかないからだ。


 国府の所轄下に無い戦力は、全て敵だ。聖導教会の大聖堂に国軍が入れないように、城の中へ聖導教会の騎士団を入れるわけにはいかない。それ故、カリオンは息子キャリを総団長として臨時編成した近衛騎士団を送り込むと通達した。


 これにより聖導教会は聖導騎士団の取り扱いに一層苦慮する事になるのを織り込み済みで……だ。法主が丸裸で行くわけには行かないが、聖導騎士団もル・ガルの一部である筈などと抗議しようモノなら、その全てを国家に召し上げられかねないやり方だった。


「交渉ごととはこうやってやるものなのですね」


 キャリが言うそれは、父カリオンが見せた相手を飲んで掛かる交渉事の極意だ。戦上手で交渉上手な王府の手練手管を前に、法主と大司教達は間違い無く言葉を無くすだろう。


 必要な結果の為にひとつひとつ実績を積み上げていく。後になってグダグダと言われた時、サラッと『前回はこうだったが?』という為の重要な一手。だが、相手にしてみれば目の前の難題をやり過ごす為に気が付かないだろうし、縦しんばそれに気付いても対処出来ないやり方だ。


 こうやってひとつひとつ手順を示し、キャリを教育していくしか無い。自分自身の学びと経験を次の世代へと引き継がせる為に、カリオンはキャリを近くに置いていた。


「お前の責任は重大だぞ?」


 カリオンがそう言うと、キャリは胸を張って応えた。

 誰もが目を見張るような、堂々たる姿で……だ。


「必ずや父の期待に応えます。国家と国民の為に」


 キャリは明るい声でそう言った。

 そんな息子キャリへと歩み寄ったカリオンは、その胸を叩いて言った。


「訂正しろ――」


 驚くほど真剣な声音で言ったカリオン。

 キャリは黙って頷いた。


「――国家と国民では無い。国民の為にだ。国家など国民の集まりに過ぎぬ」


 それこそがカリオンの国家観であり、イヌの国の本質だ。事の善し悪しなど関係無い。国民であるイヌが幸福であるように。他の民族や種族に虐げられることが無いように。


 このガルディアに暮らす全ての種族の奴隷では無い……と、自主独立を保てるように。太陽王がイヌの頂点として君臨する、君臨を赦される最大の要件こそがコレなのだ。


 太陽王の座にある者が一瞬たりとも忘れてはならない最大の要件。カリオンはそれをキャリに刻み込んだ。やがて来るキャリ政権の時代に、ル・ガルが道を誤らないように。


「……また一つ。大切な事を学びました」


 キャリの返答にカリオンは頷く。

 運命の時は迫りつつあった。






      ―――――数日後






 それは、始祖帝ノーリの即位以来、ル・ガル史上2回目の画期的な事だった。

 よく晴れた週末の朝、カリオンは息子キャリに選りすぐりの精兵1万を与えてガルディブルク城より迎えの一団を差し向けた。


 聖導教会法主による王府訪問。その為に揃えられた特別編成の一個師団は、全員が見事なまでに磨き上げられた甲冑を身につける美装ぶりだ。対外的には賓客をもてなす為のもの。だが、王都の民は皆一様に口を揃えていった。



      ―――――太陽王の勝ちだ……



 ……と。


 威風堂々に王都を征くキャリ。その姿を見た市民は大歓声を上げている。

 曰く、次期帝に相応しいと。或いは、ル・ガル万歳と。

 しかし、その裏にあるものをキャリも気付いていた。



      ―――――マダラでは無いイヌが王位に就く



 聖導教会が数百年を掛けて行って来た市民への思想統制と矯正は、恐ろしい程に根深い差別感情として存在している。その全てを破壊してやりたいと願うキャリは道々モノを考えながら進んだ。


 そして、その考えが何となくまとまった頃、王都郊外の大聖堂へと到着した。ずらりと居並ぶ聖導騎士達は沓を並べ見事な隊列を披露している。それ自体が威示行為なのだが、キャリは法主エルヴィスを前に遠慮せず言い放った。


「聖導教会法主、エルヴィス猊下!」


 近衛師団の一群を引き連れたキャリは、馬から降りることなく口上を切り始めたのだ。本来ならば下馬して切り出さねばならぬ事で、馬上よりモノを言うなどトンでも無く失礼なこと。


 だが、キャリはその全てを承知しつつ、平然とそれを行った。どちらが上なのかを思い知らせる為の行為。そして、次期法主となる首席枢機卿を前に、次期太陽王となる男が釘を刺した形だった。


「この大陸に栄えしイヌの国。世界に冠たる我がル・ガル帝國を統べる太陽王の命により参上仕った! 我ら一団、太陽王の庇護せし臣民を迎えに上がった。王府ガルディブルク城まで参内頂きたい!」


 物言いとしてどれほどに失礼なのかは、露骨に顔色を変えるバルバドスを見れば解ろうというモノ。人民を導く最高指導者として君臨してきたはずの聖導教会責任者がただの客として城へ召し上げられようとしている。


 始祖王ノーリを太陽王の職に任じた際、神の代理として戴冠させた教会の法主。しかし、ここに来て聖導教会がカリオン王の王権を認めず、その手で戴冠させなかった事実が重くのし掛かっている。


 自分達の振るまいが結果的に自分達の首を絞める。そうやって政敵を一つずつ確実に撃破してきた結果として、バルバトスは奥歯を噛みしめていた。だが……


「わざわざのご足労を賜り、大変恐縮だ。どうか城までご案内頂きたい。太陽王の私室へ招かれるなど光栄の極み。これもまた主のお導きでありましょう」


 胸の前で両手を合わせた法主は、笑みを浮かべつつキャリに謝意を述べた。そして、王府の用意した豪華な馬車の中に乗り込んだ。その後には首席枢機卿であるバルバトスが続く。


 ややあってキャリは頭上に手槍を二回翳し、隊列の出発を告げた。それを見越したのか、大聖堂の鐘が鳴らされた。そして同時に居並んだ凡そ2000騎の聖導騎士達が一斉に拍手し始め、やがて誰かが声を上げた。


 ――――賛美歌だ……


 キャリがそれを認識したとき、近衛騎兵の中からも誰かが声を上げた。聞き覚えのある声だなとキャリは思ったが、すぐに考えるのを止めた。神を称え聖導教会の繁栄を祈る賛美歌が始まる直前、2000騎程の聖導騎士達が息を呑んだ。



 ―――――あぁ慈しみ深き全能なる神よ



 近衛師団の騎兵が最初にそれを叫んだ時、近衛騎兵の全てが雄々しく雄叫びを上げて拳を天へと突き上げた。幾多の戦場で絶叫と共に戦ってきた騎兵達の声は強く大きく野太い。


 ただ、その叫びが自然に収束したとき、大聖堂にまで詰めかけていた市民達をも巻き込んだ凄まじい合掌の大洪水が沸き起こり、聖導騎士達を飲み込んでいた。



 ―――――我らが王を護り給へ



 神でも法主でも無く、ただ純粋に太陽王を護って欲しい……と。

 多くの市民が一斉に声を上げたのだ。


「見給え…… 我らの負けだ……」


 苦虫を噛み潰した表情でそう言った法主エルヴィス。

 バルバトスはヒゲを振るわせながら奥歯を噛みしめた。



 ―――――勝利をもたらし給へ

 ―――――神よ我らが王を護り給へ



 市民の為に、国民の為に、全てのイヌの為に。粉骨砕身の働きをしてきたのが誰であるのか。他人の銭を少しでも多く巻き上げて贅沢をしてきた教会関係者達が総毛だって見守る先には、文字通り『市民の声』があった。



 ―――――我らが気高き王よ

 ―――――永久(とこしえ)であれ



 多くの市民達が両の拳を天に突き上げて歌っている。叫んでいる。

 法主と首席枢機卿に見せ付けるように、大きな声を響かせている。



 ―――――おぉ 麗しき我らの神よ

 ―――――我らが君主の勝利の為に

 ―――――我らに力を与え給へ



 何に勝とうというのか? これ程の戦力があるのに。

 何と戦っているというのか? これ程に味方が居ると言うのに


 バルバトスは硬い表情で馬車の外を見た。

 そこに居た市民達が天を仰いで叫んでいた。



 ―――――王の御世の安寧なる為に

 ―――――神よ王を護り給へ



「教会に来て祈る者は、みな己の利益を祈る。だが、彼等は違う。彼等は王の為に神に祈っている。これこそが純粋な祈りの力というものだ。覚えておくと良い」


 他者利益。或いは他人の為の努力。自分以外の誰かの為に汗を流す事。涙を流すこと。血を流すこと。それらはぐるりと一周回って、己の為に働く。聖導教会の教えの根本が純粋な形で現れている。


 バルバトスは思った。勝ち負けなどでは無く、共存を考えねばならない。いや、共存以外に選択肢は無い。到底勝てない存在が目の前にあるのだと、これ以上無い形で突き付けられたのだった。


「さぁ、行こう。過去400年。歴代法主が遂に為せなかった事だ。あの城を乗っ取り神の国を作ろうとしたが、祈りでは国は作れぬ。故に――」


 バルバトスは真っ直ぐに法主を見ていた。

 怒りと恥辱と敗北感に打ち拉がれるエルヴィスが小さくなっていた。


「――儂が跡を託すそなたには、特別な苦労を掛けるであろう。だが、それに打ち克ち、我ら教会中興の祖として未来へと続く礎を築くのだ。100年200年という時間を掛けて、我らの悲願を達成する為に」


 聖導教会の中で秘匿され続けた最終目標。それを教えられた日から、バルバトスもまた生臭い世俗坊主に堕ちていた。国家を乗っ取ると言う目標を果たす為に、歴代法主と枢機卿達は国家の様々な所へ浸透を果たしてきたはずだった。


 だが、未曾有の国難を前にマダラの王が見せた手腕は驚くべきものだった。そして、教会はその目標を見失いつつあった。


「……果てしなく難しいです」


 力無くそう言ったバルバトス。エルヴィスもまた同じように、力無く笑った。

 馬車は郊外からガルディブルク中心部へと進み、ミタラスの中へと入っていた。


「ここは初めてじゃな」

「……えぇ」


 ふたりは初めてミタラス島内へと歩みを進めた。恐ろしく魔素の濃いところで、尚且つ凄まじいレベルで『力』が渦巻いている所だった。


 そんなミタラスの最上流部。巨石インカルウシにそびえるガルディブルク城の真下でふたりは馬車を降りた。彼等を出迎えたのは太陽王の側近中の側近であるウォーク・グリーンと妻のクリスティーネだ。


「お待ちしておりました法主猊下。我らの王がお待ちです。手前がご案内いたしますれば、どうぞご遠慮なく」


 ウォークの口上に満面の笑みを添え『忝い』と応えた法主は、生涯初めてガルディブルク城へと入った。豪華な装飾が施されたエリアを抜け、階段を上がって王府の行政エリアを通り過ぎた。その先にあるのが太陽王のプライベートエリアだ。



     ―――――これ程とは……



 面食らってはいるが、それでも法主のプライドが彼を支えている。笑みを浮かべつつ余裕のある態度を取っている。ただ、その余裕も王の庭へと続く階段に飾られた何枚もの絵画により打ち砕かれた。



     ―――――そうか……



 僅かに足を止めて見上げたそれは、かつてリリスが居た地下宮殿へ続く回廊に飾ってあった絵画だ。カリオンの初陣から始まり、様々な困難を経て市民の前で戴冠したシーンがこれ見よがしに飾ってあるのだ。


 その全ては、この100年ほどの間に聖導教会がしくじった太陽王との関係悪化そのもの。それを思えば激しい後悔の炎が法主エルヴィスの胸中に燃えさかっていて、必死でリカバリーを考えた。だが……


「おぉ! 来たか。ご苦労だったなウォーク」


 太陽王カリオンは正装で法主を出迎えた。

 傍らには同じく正装の帝后サンドラがいた。


「ようこそ我が庭へ。そなたらを歓迎する」


 傲岸な支配者の笑みを添えた鷹揚たる態度でカリオンは法主に語りかけた。

 だが、法主は太陽王とその后では無い存在に腰を抜かさんばかりに驚いていた。

 太陽王夫妻のすく近くに立っていた存在に目を剥いたのだ。


「……お、お招きに預かり光栄にございます。太陽王()()。並びにサンドラ帝后()()。そして――」


 法主エルヴィスは絞り出すような声音で言った。


「――リリス帝后()()



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