琴莉の試練
それは唐突な遭遇だった。
「あれ? 見ない顔だね?」
フィエンゲンツェルブッハの午後。
メインストリートにあるオープンカフェでニョッキっぽい物を食べていた琴莉。
向かいには最近すっかり仲良くなったヒトのミーナと灰イヌのニコラ。そして茶ネコのメリッサが居た。
この街の娼婦は外出時に首飾りをするのがルールだ。まるで王族のお姫様の首を飾るような、有名宝飾店のデザインした首飾りをミーナもニコラもメリッサも持っている。
本来はヒトの男女が誰かの持ち物である事を示す首輪だったのだけど、いつの間にか娼婦の証のようになってしまっていた。
だが、クアトロ商会は娼館で無いのだから、彼女たちはそれで首元を飾る義務は無い。それゆえに、街中でクワトロの女を見分けられるのは、相当の遊び人で、尚且つ高給取りの富裕層だと証明することでもあった。
「誰かと思ったら……」
ミーナの声に帽子をあげて挨拶したのは、クワトロ商会でも指折りの太客だった。
前にどこかで名前を聞いたはずだと琴莉は思い出そうとするが、名前は出てこない。
ミーナの隣に座っていたニコラがそれを察したのか助け舟を出した。
「バルトロメオさんよ。この通りの先で馬車のお店をしている人」
陽気で明るい調子なバルトロメオは、ニコニコしながら琴莉を見ていた。
「興味津々だけどこの子は店には出てないわよ」
「え? そうなの? こんなに器量良しなのに?」
「あたしたちとは住んでた世界が違うのよ」
エヘヘと笑って誤魔化したメリッサ。ふと思い出した琴莉も、困ったように笑った。
バルトロメオはミーナをお気に入りにしている客の一人だった。
「名前だけでも教えてよ!」
にこっと笑って首を振った琴莉。
チェッ!と聞こえるように口を尖らせたロメオは、悔しそうにミーナを見た。
「なぁ教えろよミーナ」
「内緒なの。ばれたらウチの社長に何されるかわかったもんじゃない」
「え? エゼさん??」
「そうよ! 社長の箱入り娘に手を出したらどうなると思う?」
ワキワキと琴莉へ伸ばしていたバルトの手を爪で摘んで引き剥がすミーナ。
「でも、今夜お店に着てくれたらこっそり教えてあげても良いけどね」
「ホントか!」
そんな話を聞いたバルトロメオは浮ついた足取りで街へ消えていった。
なんとも遊び人なその後姿に、琴莉は思わず苦笑いを浮かべる。
「しかしあれだね。アチェは人気があるね」
「歓迎しない事態だけどね」
冷やかすようなニコラの言葉に琴莉は棘のある言葉で答えた。
実際問題として、この何週間かは同じような事態に何度も遭遇している。
街中で遭遇する店の常連達は、店に出ている女たちと一緒に居る琴莉を目撃して居るのだ。
だが、クワトロ商会のどこへ行っても琴莉の姿は無い。
街では姿を見るのに、営業している所では姿が無いのだ。
気になって後をつけた男は、クワトロの黒服に半殺しにされたらしい。
だから、常連の間では琴莉がクワトロの中に住んでいるのは公然の秘密になっている。
一見の客では遊べないクワトロの中にいる、常連も顔を見ない未知の女。
クワトロのオーナーであるエゼキエーレが手に入れた、落ちたばかりのヒトの女。
そして、フィオやエリーがカーテンの向こう側に居る女をアチェと呼んでいる。
いくつもの不確定な情報を総合すれば、謎の全体像が浮かび上がってくる。
クワトロの女と昼間に通りで食事をしているのは、エゼが手に入れたヒトの女。
名前はアチェィロかアチェーロで、皆からはアチェと呼ばれている。
その女はクワトロで客を取ってないし、通りでステッキガールをしている事も無い。
つまり、不用意に手を出したらエゼの裏の顔で間違いなく死ぬ。
驚くほど美人じゃないが、十人並みな顔立ちで街を歩けば一人や二人は振り返る。
派手な遊女の服装じゃないし、男を誘うきわどい化粧もしていない。
流し目で秋波を送るような事は無く、声を掛けても絶対に名乗らない。
そんなミステリアスな存在に祭り上げられていた琴莉。
気が付けばこの街へ来て半年が過ぎていた。
「さて、帰ろうかね」
「そうだね。今夜も忙しそうだ」
基本的に定休日の無いクワトロだ。
レストランは毎日店を開けるし、二回のテラスも多少顔ぶれは違うが毎晩女が揃う。
そんな楽しくて賑やかな街。だが、琴莉はその賑やかな平穏が砂上の楼閣であることを知ることになる。
クワトロのビルへ戻るとエゼが女たちを集めて話をしていた。
女たちの表情は一様に固い。不思議に思ったミーナはエリーに中身を聞いた。
「どうもこうも……」
吐き捨てるように言うエリーは明らかに不機嫌だった。
「さっき街の徴税官吏がやってきてね、戦に金がいるから税を倍にするっていきなり言われたのよ」
不機嫌なエリーに代わり、フィオがそう答えた。税が二倍と言うことは、単純に言えば女たちがクワトロに払う金も二倍と言うことになる。勿論、琴莉が払っている部屋代も倍だ。
毎日五十ダトゥン必要なのだけど、それ位は問題なく払える位の貯蓄はある。
一年は黙って払える位に貯めてあるのだ。つまり、問題はそんな場所では無い。
「戦って言ったけど……」
少しだけ不安そうな琴莉。実際、不安なのは琴莉だけじゃ無い。
ある意味で、こんな浮ついた業界が安定して回っていくのは平和だからだ。
例えそれがフェイクで見せかけ騙しの平和だったとしても……
「で、だ。要するにウチの払いは倍になる。だが、君らから集める金は倍にはしない。それは約束する。ただ、いままでのやり方だとお茶を引いた日は部屋代無しにしてきたが、来週からはお茶を引いても一トゥン貰う。それと、一夜の稼ぎが五トゥンまでは一トゥンで良いが、五トゥンを越えたら十トゥンまでなら二トゥン貰いたい。そこから先、五トゥン増えるごとに一トゥン増えていく」
エゼキエーレはアナログ式の計算機を弾きながら女達に新しいやり方を説明していた。
納税額の増加分を丸々女にかぶせないやり方で、これならまぁ、ギリギリで文句が出ないとも言える金額設定だった。
「社長。このゾウゼイっていつまでなんですか?」
アリサは単刀直入に聞いた。
そのうち戻るか?と思った節がある。
「さぁな。俺に聞かれても分からない」
エゼは素直に応えた。
こういう部分は本当に紳士だと琴莉も驚いた。
解らない事はハッキリ解らないと答える。
そう言う部分で表裏が無いからこそ、エゼはみんなに信用されていた。
「なんでお金が要るんですか?」
何とも納得か無い様子のニコラ。
だが、イヌの彼女はなんとなくきな臭い臭いをかぎ分けているのかも知れない。
ネコの何倍も鼻の効く彼女達だ。燎原の火のように、燃え広がる戦火をイメージしているのかも知れない。
「俺もさっき聞いたんだが、なんでも戦に備えて騎士団が訓練するんだそうだ」
「そんな連中の為にねぇ……」
再び吐き捨てるように言ったエリー。
どこか軍隊嫌いでもあるエリーは、何とも納得いかない様子だった。
「まぁ、仕方が無い。それに、騎士達はここの近くで演習を行うそうだ。客が増える」
困った様な笑顔で両手を広げたエゼ。
客が増えると言う事場に、皆が一様に微妙な表情だった。
「我々の仕事は変わらない。必要な人に必要なものを提供する。君らにちょっと負担の増加をお願いする事になるが、これまで通りに私を含めてクワットロの男達は君らを護る事を約束する。安全に暮らし、安全に稼ぎ、安全に眠る。ここに居る限りはね」
そんな調子で女たちに負担をお願いしたエゼ。
話を聞いていた琴莉だが、フィオはこっちへおいでと呼び寄せた。
「アチェ。あなたの払いも今まで通り五十ダトゥンと言う訳には行かなくなった」
「えぇ、そうでしょうね。ねぇさん方が頑張るんですから」
「週二トゥン。これでなんとかしておくれ」
「はい」
今までのほぼ半分。そんな実入りになった琴莉。
チップを貯めた金は軽く五百トゥンはある。
そんな意味では何も問題ないのだが。
「そんな訳で、色々と面倒を掛ける事に成るが、頑張って乗り越えていこう」
エゼの言葉でお開きになったミーティング。
なんとなく重い空気を感じて居た琴莉は、それとなく部屋を見渡していた。
女たちの表情は一様に硬い。鉛を飲んだように押し黙っている。
騎士団だけが戦に出れば良いのだが、一般兵士まで動員されるとなると……
「男が減るってのは、あたし達にゃ死活問題だね」
「まぁ、いざとなりゃ子供の一匹や二匹くらいは産んでやるさ」
「その前に、商売女でも貰ってくれる男探さないとね」
「難しいわな。それが一番」
口々に愚痴を言って女達は自分の部屋へと帰っていった。
琴莉も今夜の激戦の仕度を始めながら、何とも胃の辺りの不快感を感じていた。
その晩
「ミーナ!」
バルトロメオは約束通りにクワトロの店へやってきた。
呆れた表情でロメオを出迎えたミーナ。だが、実際呆れているのはミーナだけではなかった。
「ヘレナ。その新しいヒトの女の子ってのは!」
「そうだよ。今夜はヒトの女の子が御披露目だって聞いたから来たんだ」
「最近じゃ街でも話題だったからな。で、その子はどこに居るんだ?」
クワトロの太客だけでなく、常連一同まで押し掛けて大賑わいの二階テラス。
だが、琴莉は相変わらずの舞台裏だった。
頑なにデビューを回避してきたのだが、そろそろ限界に近いと琴莉自身も思い始めていた。
「はいはい。おまえさん達、鼻息荒すぎるよ。なんてザマだい」
呆れてモノも言えなくなったフィオ。
一つため息をついて、そしてカーテンの向こうに居る琴莉をこっそりと呼んだ。
「アチェ。みんなあんたに期待してるけど、客を取るつもりはないよね?」
「出来ればしたくないです」
「わかった。悪いようにはしないから出ておいで」
格子窓の向こう側に黒山の人集りとなっているのがチラリと見えた琴莉は、背筋にゾクリと寒気が走った。
俗に視線で犯されるというが、視姦とはこんな事を言うのかと思った。
「ホントは見せたくないんだけどね、こんだけお客さんが来てるんじゃ仕方ない。今夜は特別に見るだけだ。いいね!」
鉄火の勢で口上を述べたフィオは、客にも聞こえる声で呼んだ。
「アチェ! ちょっと出ておいで!」
フィオに呼ばれて琴莉は観念した。だけど、一瞬足が前に出なかった。
そんな琴莉の耳にエリーの声が聞こえた。いつものような鉄火肌の姉御口調だった。
「アチェ! 舐められんじゃないよ!」
その一言が琴莉の背中を押した。
一つ強く息を吐いて、そしてカーテンを開けて姿を表した。
その姿に格子窓の向こうからどよめきの声があがった。
個室で給仕する女中の格好ではなく、普段着にエプロンをしただけの裏方姿だ。
「なんだ、アチェちゃんてやっぱり君だったか!」
ずいぶんと体格の良いトラの男が吠えるように言う。
そんな言葉にあちこちから賛同の声があがった。
「なぁフィオ。この店じゃ誰でも指名出来る筈だよな」
随分と年嵩なネコの旦那がフィオに声を掛ける。
みな、期待しているのが手に取るようにわかった。
「そりゃ間違いないが、あたしを指名する物好きはいないだろ? それと同じだよ」
格子窓に張り付く男達を向こうに回し、フィオはニヤリと笑った。
「うちの旦那がたいそうお気に入りでね。最近じゃあちこちで私の娘だって言いふらしてる。それに、よしんば店の女にしたってまだ水揚げ前の禿だよ。水揚げするにしたって百や二百の安い金じゃ無い」
居並ぶ男達からため息が漏れる。
ガッカリだと言わんばかりの落胆が流れてきた。
「あの、フィオさん」
「なんだい?」
「お店のお客さん。減りませんか?」
琴莉は心配そうにフィオを見た。
だが、フィオは胸を張って言い切った。
「そりゃ、あんたが心配することじゃ無いよ」
エリーもどこか楽しそうに琴莉を見た。
「この街ではうち以外だと面倒な大籬ばっかりだ」
「でも……」
「ちょんの間ならいざ知らず、気楽に遊べる店は他に無い」
フィオは少しだけ凄みのある笑みを見せて琴莉を見た。
そこには気の良い女将さんではなく、権力と戦う商売人のフィオがいた。
「そんな訳で、アチェ目当てで店に通っても無駄だからね!」
勝ち誇った様にフィオは啖呵を切った。
そんな言葉にあちこちから常連の不満が漏れてくる。
「そんな殺生なこと言うなよなぁ」
だが、フィオは遠慮なく琴莉をカーテンの向こうへ押し込んだ。
はいはい、帰った帰った!と言わんばかりだ。
「アチェ! 仕事に戻んな!」
琴莉を裏方に押し込んだフィオは、カーテンに顔だけ突っ込んで声をかけた。
「あんたは店に立たなくて良い。後は何とかしてあげるよ。心配しなさんな」
ニコッと笑ったフィオ。
琴莉は深々と頭を下げた。
「まぁとんでも無い事でも起きない限り大丈夫さ」
裏方に下がった琴莉。
女たちは目当ての男を釣り始めた。
全てがうまく回って居る。
そう思う時は罠だと思わなきゃいけない。
ふと。琴莉は五輪男がいつも言っていた口癖を思い出した。
何事もなければ……
そんな期待をしたのだが。
事態は琴莉の、予想の斜め上に展開するのだった。
数日後
開店前のクワトロ店頭に、ネコの官吏が幾人も押しかけていた。
その官吏と一緒に居るのは、警察機構を司る騎士達だった。
「エゼキエーレというのはあなたの事だね?」
上等な服を着た徴税官吏は、羊皮紙を丸めた書類を持って立っていた。
その向かいには、いつものように上等な背広をぱりっと着こなしたエゼが居た。
「さて。税制官吏な皆様方のお手を煩わせるような事など、手前には身に覚えがありませんが、いかなご用件でしょうか?」
貧しいネコの国ではあるが、エゼキエーレが身を包む背広はホームスパンの三つ揃えだった。頭にはネコ耳を隠すように中折れ帽を被り、手には飴色に仕上げられた藤のステッキを持っている。
誰が見たって恐ろしい殺し屋組織の親玉だなんて思わないだろうし、いかがわしい性風俗産業の元締めだとも思わないだろう。どこかのまっとうな商社なり会社なりの社長か会長か。それとも取締役のエライ人だと思うはずだった。
「あなたの会社。ちょっと査察に来ましたよ」
「へぇ。そりゃぁ剛毅な事で。まぁ、隠し立てするような事は一切ございやせん」
エゼは余裕風を吹かせて官吏を迎えた。
ネコの法からみれば、何処をどう突いても困るような事にはならない。
エゼにはそんな勝算があった。
だが。
「あなたのこのお店。どうも職業売春をしているようですね。ここ数日、各方面より垂れ込みがありましたので、査察いたします。いいですね?」
エゼキエーレはニコリと笑って言った。
「どうぞどうぞ。手前には隠し立てするような事は何もありません」
その言葉がきっかけとなり、建物の中に何人もの調査官が入っていった。
彼らが探すのは、客を取る女たちがエゼの世話になっている証拠だ。
商売女の七つ道具とも言えるものをエゼから買ったり売ったりしている。
それの尻尾を掴めば、エゼが女を沢山囲って売春させている証拠になるのだった。
だが、女達は基本的に個人事業主で、たまたま客と懇ろになったのだから。
つまり、エゼの関与は『レストラン』と『女の居室』しか無い。
官吏は様々に調べるだろうが、これと言って問題ないはずだった。
少なくとも、半年前までは……
「いかなる種族でもネコの国で相手に行為を強制するのは違法です」
「それは勿論存じておりますよ」
「なら話は早い。女性を慰み者の道具にするのは宜しくない」
「いやいや、全く持って同感です。そんなものは無い方が宜しい」
「例えそれにお金が絡む営業行為だったとしてもです」
「その通りです。対価を前提に身体を売るなど有ってはならない」
紳士と官吏の化かし合い。
そんな空気の中、穏便を装う暗闘は続いた。
「所でエゼさん。こちらの給仕女性達が住まう部屋ですが」
「えぇ、なんでしょう?」
「掃除をさせているのはあなたの……親族ですね?」
「まぁ、親族というと烏滸がましいですが、ヒトの世界から来た娘がいましてね」
「ほぉ」
「彼女は生活の手段が無かったので、女達の部屋掃除をね、その娘にやらせて小遣いをやってました」
「あぁ。なるほど」
「で、彼女はこの世界のやり方を知らないモンですからね」
「でしょうなぁ」
「彼女に私の方から色々と『斡旋』していた形ですねぇ」
琴莉の存在によりエゼは逃げ切れる筈だった。
少なくとも今まで問題になっていた部分は、合法で回避出来るはずだった。
だが、この日は風向きが違った。
「つまり、そのヒトの女性は、あなたに奴隷扱いされていると」
「奴隷というのは余り穏当な表現ではありません。それに対価を得ていますし」
「では、給与を得ている以上、あなたの事業の一環として使われている形で良いですよね?」
「……そうですね」
この時点でエゼは敗北を悟った。
無給と言えば奴隷を証明する事になる。
有給と言えば女たちを支配する道具だと証明する事になる。
つまり、この時点でエゼがとれる選択肢は三つ。
先ず一つ目は、琴莉を売って『彼女が自主的にやった』と知らぬ存ぜぬで押し通す。
二つ目は、全部自分で被って『彼女は関係ない』と言い切り、自分が懲役刑に沈む。
三つ目は、今すぐ手下を動かして、官吏と騎士を皆殺しにする。
だが、現実に三番は使いづらい。そして二番だと後が困る。
つまり、現状では琴莉を売るしか無い。自分で収入を得るために始めたのだから……と、琴莉に全ての罪をかぶせてしまう。
結果、琴莉は風俗産業の片棒を担いだと言う事で逮捕され投獄される。だが、それはネコなどの場合であってヒトの場合は違う結果になる。
評定委員会に掛けられ罪状を金額に換算し、それに見合うだけの対価を罰金として納付しなければならない。出来ない場合は競売に掛けられるか、或いは何処かの物好きに買われるか。いずれにしても、あまり明るい未来ではない。
そしてエゼは気付いた。
この官吏はそれが目的だったんだと言う事に。
つまり、どこかの誰かが琴莉を色町に沈めようと、売ったんだという事に。
「つまり、私は……」
「まあ、好きな方を選んでください」
ニヤリと笑った官吏は、勝ち誇った様に建物を出て行った。
クワトロの女たちがその官吏を苦々しく睨み付ける中、琴莉だけは小刻みに震えていた。