表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
566/665

シンバの裏切り

~承前




 キツネの側から言い出された衝撃的な要求は、どこでどう間違ったのかネコの耳にも入ったらしい。そこにどんな政治的思惑が働いたのかは解らぬモノの、シーアン城内で頑強に抵抗していたネコの一団はあっさりと引き下がった。


 ――――泣く子は飴を一つ多く貰える


 ネコの国にはそんな諺があるそうで、要求ははっきり言いなさいと言う教えらしい。だが、率直に言えば迷惑千万だとイヌの側は考えてる。ただ、仮にも連合軍であるからして、波風を立てるのも本意ではない。


「……難しいな」


 深夜の幕屋内でグラス一杯だけワインを嗜んでいるカリオンは、眉間に皺を寄せて懊悩していた。ジョニーとウォーク。キャリとドリー。そしてアレックスが幕屋内に居た。


「率直に言うなら反対だな。連中に銃のあれやこれやを教えちまうと、あっという間にこっち以上のモノを作り出しかねねぇしよ」


 ジョニーは相変わらずな口調ながらそう言った。しかしそれは、多くの軍関係者に共通する認識だ。各方面から入って来る情報を元に情報部が分析した結果、少なくともキツネやネコの国では魔法射出式銃の実用化は完了しているという。


 だが、それは取り扱いに相当な訓練が必要で、尚且つ相当高価な仕組みになってしまうのが避けられないらしい。つまり、ル・ガルの様な国力による力技の量産体制でも整えない限り、兵士全てに装備させるなど土台無理との事だ。


「旧型を引き取るって……虫のいい話ですよね」


 控えめに口を挟んだキャリだが、そうやって少しずつ間の取り方と輪の入り方を学ぶしかない。その意味ではこの戦役でキャリも随分と学びを得ていた。ただ、同時に面食らう場面がかなり多いのも事実だ。


 父カリオンのすぐ近くにいて王たる者の責をじっと見てきたが、とてもじゃないけど自分には真似出来ないと怖気づきつつあるくらいだ。正解のない問題を突き付けられ、常に最良の不正解を選び続ける胆力と気力を要求されているのだ。


 そして今、カリオンはこの先の未来について責任ある決断をせばならない局面にぶち当たっている。常に鷹揚としていて威厳ある姿を見せる父だが、今はもう目に見えるレベルで憔悴している状態だ。


「キツネやトラにも旧式銃を公開した場合、オクルカ様は面白くないでしょうね」


 ウォークが指摘したそれは、オオカミとイヌとの関係にヒビを入れかねない懸念からだった。イヌ以外の種族で銃を装備しているのはオオカミだけ。その優越的スタンスがオオカミに実利をもたらしている。


 つまり、逆説的に言えばキツネ等の種族に旧式銃を渡す場合には、オオカミに新式銃を供給せねばならない。だが、当のル・ガルとて新式銃の配備率は30%程度でしかない。


 銃の取り扱いに長けていて、なおかつ機動力の無い歩兵を主力とするアッバース一門が集中的に装備しているそれは、ある意味で公爵家間の軋轢すらも生み出すものだ。その意味では対外的にも国内的にもカリオンは問題を抱えていた。


「……いっそのこと、戦役が全部平和的に解決してからって話にしたらどう?」


 カリオンの近くで話を聞いてきたリリスがそう口を挟んだ。単なる思い付きなのかも知れないが、少なくとも全員が一度は思った事を彼女が代弁した。そしてそれは、気心知れたメンツの集まっているこの場ですらも横たわるモノ。責任問題にもリンクするものだった。


「いや、そりゃ俺も考えたけどよぉ。一度でも口約束してしまうと、それを盾にゴネられ兼ねねぇ気がするんだ」


 ジョニーはリリスを指さして遠慮の無い口調でそう言った。まるで夢の中で話をしている時のようでもあり、既にカリオンやリリスやアレックスには違和感のない光景だ。


 しかし、ドリーやキャリは違和感が溢れまくっている状態で、少々怪訝な顔にもなっている。ただ、それと同時にカリオンがまだビッグストン兵学校に在学していた時代からこうだったはずだと思い至り、ドリーは無理やりに納得していた。


「うん。だから順を追ってこう展開するって事前に提示するのよ。まず国内戦力の整備。その次に予備部品の確保。それ位の頃には余裕も出始めるから、オオカミ側に供給を始めて、同時に旧式を順次渡すように。で、ここからが重要で――」


 リリスはニコリと笑って言った。

 それは、長く食料供給に関して実務を担ってきた女故の配慮だった。


「――まず少数を、いま余ってる分だけをキツネとトラに渡す。その時に色々と約束させる。で、反故にしたら将来的に譲渡する分については一切無しって事を承知させるの」


 保険ともいえる措置だが、見方を変えればこの世界で最初の文書化された国際条約に至る路かもしれない。そして同時に、イヌとオオカミだけでなく、イヌとキツネとの関係を一衣帯水にしてしまう一手かもしれない。


「……考えれば考えるほど名案だな、それ」


 アレックスも首肯しつつそう言った。順を追って行く手法は段階ごとに一旦停止させられるチャンスを孕んでいる。どこかで『このままだと危険』を判断した時、その場で停止出来るからだ。


 そしてこの場合は、ネコを相手にする場合にもかなり有効なのかもしれないと思われた。つまり、ネコの持つ実利主義の面を利用し、争うより協調する方が得だと教え込もうというのだ。


「……よろしい。ウォーク。草案をまとめてくれ。その方向で行く」


 ぱっと決断したカリオンの指示は簡潔で明瞭だ。『畏まりました』と返答したウォークは早速動き始め、幕屋を出て事務方の揃う幕屋へと移動していった。部下を上手く使う事も王に必要な能力で、それを垣間見たキャリは舌を巻いていた。


「さぁ、今夜も遅い。明日に備えよう。今日もご苦労だった」


 最後に全員を労い、それとなく寝かせろと要求する。そんな振る舞いこそが王の資質であり必須能力なのだ。『凄いな……』と、キャリは漏らし、ドリーは僅かに首を振ってキャリの側に意識を向けた。


「最初から出来る訳じゃない。段々と出来るようになるモノだよ。だから王も最初の側近衆は公爵家で老成した者達を御集めになられた。枢密院の正体だ。王は彼等から付き合い方を学ばれたのだよ」


 ドリーが小声で説明したそれは、カリオンがまだ若王と呼ばれていた時代にあった事の説明だ。スペンサー家を預かっていた先代当主であるダグラス卿の手記を受け継いだドリーは、これがやがて必要になるのだと思っていた。


 そして今、そのダグの親父が残していった最大の理由を知った。同時それは、若王と呼ばれたカリオン・アージンと言う男が自分に何を期待しているのかの根幹だった。武闘派の揃うスペンサー家を統括し、維持運営するだけじゃない部分だ。


「ドレイク卿も学ばれたのですか?」


 キャリは素直な物言いでドリーにそれを訊ねた。帝王学を身に付けるべくカリオンはドリーをキャリ付きの存在にした。だがそれは、キャリだけではなくドリー自身にも学ばせる為のものだとドリー本人が気が付いていた。


「勿論です。現に今でも学んでいますよ」

「ホントですか?」

「えぇ」


 カリオンと共に馬を駆り、戦場を縦横無尽に切り裂く日を夢見ていた男だ。しかしながら王の慧眼はその先を見ていたのだとドリーは打ち震えた。若き王を輔弼するその筆頭の地位を与え、同時に喧嘩っ早い部分を矯正しているのだ。


 まず足を止め、考えて考えて考えて、そして最善の結果を出す。その一連のフローをキャリに見せる事で、次期王として学ばせる。それに気が付いた時、これはこれで満足いくものだと思ったのだ。


「なにも突っ走るだけが政策では無い。ここにきて私はそれを学びましたよ――」


 王から手痛い叱責を受けケガを負ったのだが、それと同時に配慮をも受け取ったドリー。忸怩たる思いもあるが、それを塗り潰して余りある歓びが今の彼にはあるのだった。


「――さぁ、明日もまだまだ難しい局面が続きます。しっかり休んで英気を養っておきましょう」


 ドリーはキャリの専任教官としてそう促し、キャリも『そうですね』と応えて首肯を返した。若者が育っていく姿を見るのは戦場を駆け回るよりもよほど楽しい。そんな満足感を覚えつつ、ドリーは目を細めてキャリを見ているのだった。




 ――――――翌朝


 身支度を整えたキャリがドリーと共に王の幕屋へと姿を現した時、すでに幕屋内はバタバタと慌ただしく動き始めていた。事務方があちこちへと走り回り、様々な情報を集めては分析を繰り返している。


 かつては武闘派一辺倒だったル・ガルも、今では完全な組織国家に成長した。そんなル・ガルのインテリジェンスを扱うセクションは、早朝から頭を抱えている状態らしい。


「何があった?」


 手短にそう問うたドリー。

 それに対し情報連絡将校も要点を抑えた手短な回答だ。


「シンバがシーアンを脱出したらしくあります。早朝、シンバの一団がシーアンを発ったと目撃情報が寄せられました。城内の検非違使が確認していますので間違いありません」


 獅子の国を統べるシンバが市民を見捨てた。

 それは、口で言うほど簡単な事態ではない。


「王が市民を見捨てたのか?」

「そうなりますね」


 ドリーの驚きにそう言葉を返し、西方系血統と思しき若い連絡将校はぞんざい気味な敬礼をした後、書類を持ったまま足早に立ち去った。その後ろ姿を見送ったドリーとキャリは顔を見合わせ、そそくさとカリオンの元へ向かった。


 何か動きが起きる。そう確信しているのだが、少なくともそれは碌でもない事だという確信がある。そして、古今において王に見捨てられた市民が始める事は、だいたいが激情に駆られた過激な事態だ。


「何が起きるのでしょう?」


 怪訝そうにキャリが言うが、ドリーは涼しい顔で言った。


「少なくとも録な事じゃない。場合によっては凄惨な場面に遭遇する事になる。覚悟しておいた方がいいね」


 ドリーが何を言いたいのかをキャリは掴み損ねた。ただ、まだ経験浅い若者に全てを求めるのは酷と言うものだ。キャリは全体像を求め幕屋の奥へと進んでいく。その先に居たのは今にも大爆発しそうなカリオンだった。


「父上……」


 険しい表情のカリオンを前に、キャリは気圧されつつも正対した。事態が飲み込めないなら、情報が一番集まっている存在のところに行くのが最上だと思ったからだ。ただ、それを期待した自分の浅はかさを少々呪いたくもなった。


「振出しに戻ってしまった」


 最小限の言葉を吐いたカリオンは、マジでブチ切れ5秒前もかくやと言うような空気を纏い、各方面から集まって来る報告書に目を通している。何をそんなにブチ切れているんだ? ララはどうするんだ?と思ったキャリは、そこで答えにたどり着いた。あぁ……と。


 そう。父は。カリオン王はあのシンバなる獅子の王にブチ切れているのだ。ララの行方を責任もって探すと言い切った筈なのに、その約束を反故にしてシーアンから逐電(とんずら)して行った。要するに騙されたのだ。


「互いに難しい立場である事は承知していたはず。だが、ここまで舐めた事をしてくれるとは思ってなかった」


 イヌの王が軽く扱われた。それについて怒っているのかも知れない。ただ、そこまで軽薄短慮な人間でも無いはず。キャリは尚も思考を巡らせるのだが、その前にカリオン自身がその真相を語った。


「ララの行方が全く掴めない。かくなる上は――」


 血走った目でキャリを見たカリオン。

 その相貌に灯る怒りの炎はキャリの背に冷や汗を滲ませるほどだ。


「――あの街を焼き払ってでも探し出す。もはや手段は問わん」


 完全にブチ切れているカリオンは傍らにあった愛刀を掴み立ち上がった。それを見ていたヴァルターが背なのマントを短くたたみ、何処へでも付いていく姿勢となった。


「街を焼き払うって……本気で?」


 驚いたキャリがそうもらすと、カリオンは鋭い眼差しのまま言葉を返した。

 それは、ある意味では意外の極致ともいうべき言葉だった。


「あぁ、本気だ。やる時はやる。そのメリハリをしっかり付けねばならん」


 穏健的な手法を選んできたが、時には手厳しい対応も選ばねばならない。その理由を思いあぐねたキャリだが、カリオンは思考の助け舟を出すように『対外的なものの為だ』と付け加えた。そしてそれをフォローする様にドリーが言葉を継いだ。


「他の国家にル・ガルを舐めるなと見せるんですよ」


 そう。穏健ではあるが腰抜けではない。不合理や不道徳な対応をされたなら、手厳しい姿勢でそれに対処せねばいくらでも繰り返される恐れがある。誠実さを欠いた行動には、手痛い結果を突きつける事で教育を施すのだ。だが……


「陛下」


 カリオンが『行くぞ!』と動き出そうとした時、ウォークが現れた。

 毛艶を失った姿を見れば、徹夜だったとすぐにわかる姿だ。


「……どうした?」


 一瞬だけ対応を逡巡したらしいカリオンは、グッと言葉を抑えて腹心の部下が現れた理由を求めた。ただ、ウォークがそれを言う前に案件の正体が現れた。


「早朝より失礼いたす。火急の案件につき無礼をご容赦願いたい」


 そこに現れたのはキツネの将軍ヨリアキだった。幾人かの家来を連れた将軍は、完全武装の姿で太陽王の幕屋に入って来た。通常であればすぐにでも大事になりかねないのだが、それを掻き消すほどの迫力でヨリアキはやって来た。


「太陽王ならば既に既知かと思われるが、シンバが街を逐電したとの事。ならば王は姫を救出に向かわれるはず。そう思い手勢を引き連れ罷り越した。市街突入に同行いたす故、承認されよ」


 ……全て読まれていた


 カリオンはそんな事を思ったのだが、同時に最高の時間稼ぎがやって来たと思ったのだ。銃に関する情報公開を一分一秒でも遅らせる事が出来る。それは現時点においては最高の政治的判断と言えるものだった。


 ただ一つ。草案をまとめ徹夜したウォーク以下、ル・ガル事務方の苦労が水の泡に消えるという点を除けばだが。


「……ご配慮まことに痛み入る。ならば今すぐ」


 手短にそう応え、幕屋を飛び出て行ったカリオンとヨリアキ。だが、幕屋の外にはトラの王シザバが立っていた。巨大な戦斧を肩に担いだ大型種の男は、迫力ある笑みを浮かべたまま言った。


「俺たちも行かしてもらうぜ。良いだろ?」


 こうなればもはやカリオンも笑うしか無い。『歓迎する』と返答し、キツネとトラの一団を加えたル・ガルの近衛騎兵凡そ200騎は、カリオン直率でシーアン市街に飛び込んだ。


 目指すは市街中心部で、あのドーラと呼ばれた存在の私邸がある辺りだ。事前に市街へと浸透していたオオカミの調査による下調べが無ければ決断しなかったであろう突入だが、それにしたって城内で袋叩きの末に全滅の可能性を思えば慎重にならざるを得ない行為だった。


「こっちだ!」


 市街へと飛び込んだカリオン達を出迎えたのは、オクルカ率いるオオカミの騎兵達。そしてその脇に見えたのは、まだ覚醒体の姿になってない検非違使の一団だ。


 ここには太陽王の切り札がある。その事実がカリオンに決断を促したと言ってもいい。もっと言えば、他の種族国家に対する当てつけ。或いは武威を示す威示活動としての側面もあった。


「忝い!」


 瞬間的にすべてを見通した将軍ヨリアキがそう声を掛けると、オクルカは『目的必達! 子細は後に!』と応じ、シザバはガハハと豪快に笑いながら『一笑! 一笑!』と満足そうにしていた。


 だが、そんな連合騎兵団が市街の中心部へと到達した時、そこには異様な光景が広がっていた。市街の各所に様々な種族の老若男女が吊されて絶命しているのだ。その者達は皆一様に首から札を下げられている。


「……馬鹿な」


 驚くウォークがその札を確かめると、そこには獅子の国で使われる文字により大きく『裏切り者』と書かれていた。それだけで無く、女子供や種族などバラバラながら同じように吊し上げられ絶命していて、同じような札が付いていた


「総括……されましたな」


 ヨリアキがボソリとこぼしたそれは、多民族国家にありがちな民族浄化衝動の発露だった。異なる思想や目標を持つグループ同士が争い、純化を目指して敵対勢力を根絶やしにしてしまう。


 或いは新しい指導層が権威付けの為に、反対を唱える勢力を血祭りに上げる。そんな行動を総括などと呼ぶことがある。そしてそれは、往々にして反貴族だったり反権力だったりと、革命を目指す組織の内部で発生する。


 思想純化などと言うが、要するに自分達の存在矛盾を恐怖で掻き消す為の儀式であり、彼らにとっては必要な犠牲だった。


「成熟した社会であるはずの国でもこれが起きるのか……」


 カリオンは驚きをかみ殺し、無表情になってそう言った。

 いちいち感情を突き動かされていては事態の変化に対応できないからだ。


「陛下。とりあえず奥へ」


 ウォークに促されカリオンは再び城内中心部を目指した。オオカミの一団が道案内を務める中、市街各所から消し炭の臭いが漂ってきた。自棄を起こした者達に放火でもされたのか、放心状態で焼け跡を見る者が何人か並んでいるのが見えた。


 ――――恐ろしい話だ……


 そこにどんな感情が芽生えたのかは解らないが、少なくとも彼等は悲観と悲嘆に暮れている状態だった。シンバに見捨てられたという事態が引き起こしたのかもしれないし、或いはそれを望んだのかもしれない。


 裏切り者と言う批判を受けて吊るされた者たちがどんな罪状であるのか。それを調べれば理由も解るかとも思うのだが……


「注進! 注進! 陛下! 陛下は何処!」


 どこかからともなく走って来た伝令騎兵がやって来て、カリオンを見つけた時点で踵を返し近くへとやって来た。ハァハァと肩で息をする伝令兵は丸めた書状を携えていて、そこには見た事の無いマークが書き込まれていた。


「どうした?」


 足を止め話を聞く体制になったカリオン。

 伝令は幾度か深呼吸した上で書状を差し出した。


「シーアン市民会議の議長より太陽王陛下へお渡し願いたいと預かりました。シーアン市民の合議として、獅子の国を離脱しル・ガル側へ降伏するとの事です」


 思わず全員が『はぁ?』と漏らした事態。だが、それぞれの都市がひとつひとつ独立した都市国家であるとはこういう事かと得心する部分でもある。つまり、シンバは逃げたのでは無く追い出された。そう考える方が自然だった。


「……どうされる? 太陽王よ」


 将軍ヨリアキはカリオンに判断を求めた。キツネの最高責任者だが最高権力者では無い。その関係で判断を委ねざるを得ないのだろう。


「……シザバ王。オクルカ王。そしてヨリアキ公。手前を含め、この4人で市民会議の責任者と会おう。その上で判断したい」


 カリオンは極めて常識的な返答を返した。連合軍なのだから、カリオンが全ての判断をする訳には行かない。ただ、一瞬の間にそう判断し決断した太陽王の聡明さは、他の種族責任者達に好印象を与えるに充分だ。


「さすがだ。さすれば手前が案内を仕る」


 オクルカは右手を差し出し、市民議会の集会場へ案内する役を買って出た。ジェンガンやナンジンが陥落した後、各都市を脱出した市民達がシーアンへ逃げ込むのに合わせ徐々に城内へと浸透した手腕を見れば、間違い無い。


 ここが勝負所だと直感したカリオンはウォーク以下に『ネコを見張れ。勝手なことはさせるな』と釘を刺し、市民会議の集会場へと向かった。ただ、その手に余す事態に直面するとは思いもしなかったのだが……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ