表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
540/665

見つけたものと見つからなかったもの


~承前


























                    ――――――――――カリオン!



























         ――――――――――――カリオン!



























 ――――――――――――起きてよカリオン!































「リリス!」


 パッと目を覚ましたカリオンは、あの霧の草原のど真ん中に居た。

 暦の上では既に12月が訪れた頃だが、この草原だけは常に初夏だった。


「大丈夫だったのか! 心配したんだ!」


 目の前に現れたリリスを思わずギュッと抱き締めたカリオン。だが、ふと気が付いたらそこに居たのはヒトの姿をしたリリスで、しかもその衣装は何とも扇情的な踊り子の衣装だった。


「色々あったの! 話すと長いけど、そんな事より――」


 満面の笑みで切り出したリリスはカリオンの手を取って言った。


「――見つけたのよ! 居たの! 私も驚いたけど、でも間違い無い! 私達にはすぐにわかるはずだから。それにリベラを使って接触もしてある! 後はどうにか回収するだけよ! こんな所に居るとは思わなかった!」


 一方的にハイテンションで喋り続けるリリスだが、カリオンは首を傾げた仕草を見せて、まずは落ち着かせることから始めた。


「待った待った。いっぺんに言われても話が繋がらないよ――」


 もう一度ギュッと抱き締めてからスッと放してリリスの顔を見た。

 笑みを浮かべているその表情にグッと来るが、どう見てもヒトの姿だった。


「――先ず今どこにいるんだ?」


 カリオンが見せた僅かな苛立ちの仕草にウフフと笑ったリリス。昔からどこかそう言う部分を持って居たのだから、彼女らしいとカリオンは思った。ただ、色々と確かめなければいけない事が沢山ある。


 夫であり相方であり、そして同じ呪われた生物でもある。だが、その前にカリオンは王で有り支配者なのだ。その責務を一秒たりとも忘れることは出来ないし、忘れてはいけないことだった。


「今はジェンガンの西方、だいたい10リーグくらいかな。シーアンという街に居るの。ここは獅子の国の西方最大都市で、ガルディア方面への出発点ね。本当に凄い街よ。あなたにも見せたいくらい」


 ニコリと笑ったリリスはカリオンの手を牽いて瀟洒な椅子の所へとやって来た。夢の中なのだから全てはリリスの想いのままだが、一度は完全に壊れてしまったのだ。それ故か微妙なリニューアルが行われていたらしい。


 ――――作り直したのか……


 カリオンはその正体をすぐに見抜き、そしてリリスと共に椅子へと腰を下ろした後で、改めて恋女房の顔を見た。


「で、見つけたのはララか?」

「……え?」


 カリオンが発したララと言う言葉にリリスの表情が曇った。


「いや、ララの消息が不明なんだ。つい先日……一昨日かな。キツネの国の……えっと、なんて言ったっけ。あ、そうそう。シモツキ。あのキツネの間者が現れて、ララを探しに行くのに手を貸すと言ってきて」


 カリオンの言葉にどんどん表情が厳しくなっていくリリスは、唇をワナワナと震わせながら何かを言おうとした。ただ、それが相当厳しい言葉である事は明白だったので、間を持つ為にカリオンは続けた。


「トウリがほぼ戦支度で獅子の国へと向かったんだけどね。検非違使を連れて。そこにキツネの連中が絡んでいるんだ。シモツキの他に何人か相当な手練れの者を引き連れて合流するって言っていたよ」


 リリスは厳しい表情で首を振りながら慌てふためき、声を落として『あの子は立派だったのよ?』と切り出した。ちょうどそこへサンドラが現れ、少しだけ驚きながらも『良かった』と言葉を失った。だが……


「サンドラ……ごめん……あの子が……ララが……」


 口元を手で隠しながら、リリスは事のあらましを説明した。その場で殺されそうになった国軍兵士を奴隷として救う為に自分が犠牲になった事。毅然とした態度で苛烈な処置を甘んじて受けた事。


 そして、獅子の国の何処かに連れて行かれ、その後は一切把握出来ないこと。少なくともシーアンにはララは居ない筈で、今の自分は魔力を極限まで絞っていたので、ララの魂を認識出来ないのだ……と。


「やはりあの子を出すべきでは無かったか」


 蒼白な顔のサンドラをチラリと見たあと、ギュッと握りしめた両手を振るわせつつカリオンは奥歯を噛みしめた。実際の話としてどうにもならない状態なのだからやむを得ないのだろうが、それでも悔しさに身を震わせるのだ。


「……そんな……バカな……」


 それ以上の言葉が無かったサンドラだが、それでも気丈な表情となってリリスを見ながら『タリカはどうなったの?』と問うた。ある意味でフレミナの社会的常識が染みこんでいるのだから、女の存在価値など余り考慮しないのかも知れない。


「キャリは逃げたけど、多分大丈夫だと……思う」


 リリスは険しい表情のままそう言った。その言葉にカリオンが首肯を返し『アイツからは続々と情報が届いている。無事だよ。心配ない』と応えた。その言葉に少しだけ安心したような表情のリリスは、一つ息を吐いて続けた。


「タリカは……行方不明なの?」


 恐らくは情報の認識に齟齬がある。それを確信したカリオンは、手持ちの情報を一気に説明した。キャリは逃げおおせ、現場最高指揮官として状況維持に当たっていること。ジェンガンは事実上占領状態にある事。ララとタリカが行方不明になっていて、全く手掛かりが無い状況である事などだ。


「……そうなんだ」


 ボソリとこぼしたリリス。だが、そんな所に黒い影がボワッと浮かび上がり、スーッと小さくなって、やがて人の形になった。そんな影の中にディテールが浮かび上がり、やや経ってからそれがオクルカである事が見て取れた。


「オクルカ殿」

「カリオン王。済まぬ、勝手に邪魔をした」


 一礼を返したカリオンは、拳を胸に当てて赤心を示し『タリカが』と漏らす。だが、オクルカは首を左右に振りながら言った。


「あの子には次期太陽王の身代わりになれと教えてきた。それを守ったのだから褒めてやらねばなるまい。ただ、親としては子を探したいのが本音だよ。故に今は王都へと向かっている」


 一度はフレミナの郷へ戻ったオクルカは王都へ向かっているという。それが何を意味するのかなど、考えるまでも無かった。


「ロシリカはフレミナの郷に残っている。私に万が一のことが起きた時は、アイツが時期王として取り仕切れと命じた。色々と経験し良い男に育ってくれたと思っているし、各氏族も概ね問題無く支持してくれている。オオカミは心配ない――」


 訥々とそう放すオクルカの表情は、今まで見た事の無いレベルでの硬さだった。ただ、自分の子供がそんな状況に合っては心配するなと言う方が無理だろう。


 その胸中を思ったカリオンは心底申し訳無いと思ったのだが、オクルカはそれを理解してか少し声音を明るくして続けた。


「――タリカはキャリに必用だろうからな。我がオオカミ一門にとっても決して軽い存在では無い故に、自分も獅子の国へ向かう。どうか黙認して欲しい」


 なし崩し的な戦力の暫時投入は避けろ。

 やるなら一気に投入し、一気に前進した方が良い。


 ヒトの参謀が示した格上との戦い方では、そこが重要なポイントであると説明を受けていたカリオンだ。オクルカの言う『黙認』という部分に引っ掛かりを感じるのが正直なところだった。


「いや、実はララも行方不明でね。今は実の父親が向かっている」

「……トウリ君か」

「あぁ。検非違使を連れて行ったよ」


 オクルカは僅かに思案し、不意に顔を上げて言った。


「ならばそこに我らも合流しよう」

「それが良いでしょう。実はキツネの一団も合流することになっている」


 キツネが来る……


 その言葉にオクルカの表情が若干曇った。キツネとオオカミは不倶戴天の敵だ。ただ、贅沢を言っている場合じゃ無いのはよく解っている。一番大切なのは行方不明の若者ふたりを探し出すことで、出来る限り安全に連れ帰ることだ。


 その為にはいかなる犠牲も惜しまないつもりだが、気持ちだけでどうにかなるモノでも無いのだから難しいところだった。


「所でリリス。最初、何を言いたかったんだ?」


 不意にカリオンはリリスの最初のテンションを思いだした。あのはち切れそうなハイテンションぶりがすっかり消えたリリスは、それでも少しだけ表情を明るくしてから切りだした。


「そうそう。見つけたの。ずっと探してたリサ!」


 ……はぁ?


 一瞬だけポカンとしたカリオン。サンドラもオクルカも同じようにポカンとした表情だ。だが、スーッと顔の変わったカリオンは、驚きの表情になった後、大きな声で言った。


「どこに居たんだ!」

「私が居る置屋の中に居たのよ。シーアンへヒトの芸妓として売られたみたい」


 リリスの説明では最初のリサから4世代目になっているらしい。ネコの国から流れたリサは獅子の国で芸妓の仕込みを受け何処かに売られる準備段階だという。まだ12才ほどの少女だが、その芸は驚く程に一流だと言う事だ。


「……なるほど。解った。ならば街ごと焼き払って手に入れよう」


 カリオンの表情がクワッと変わり、鬼そのものになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ