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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
大侵攻~征服王リュカオンの誕生
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父親らしいことを・・・・


 年の瀬も押し迫った12月の初頭。

 王都ガルディブルクは久しぶりに活気のある年末商戦に入っていた。

 

 ――――さすがは太陽王だ!


 そんな声がアチコチから漏れている王都中心部の商店街は、各商店の店主が趣向を凝らした商品構成を心掛け、目抜き通りには周辺都市からの買い付けも含めて客がごった返していた。


 キツネの国とのイザコザは一段落し、南方種族の侵攻も撃退した。ネコやクマと言った種族国家は既に一戦交えるほどの余力など無く、ル・ガルは安定と言う名の平和を久しぶりに満喫している状態だった。


「年末商戦はどうやら順調です」


 執務室の中でそう報告したウォークは、カリオンの満足そうな顔に安堵した。

 東方地域から帰還だけで1ヶ月を要した大軍勢だが、それを構成していた兵士達は各々の故郷へと帰郷しつつあり、新年を我が家で迎えさせることが出来るとカリオンはほくそ笑んでいた。


 思えばこの数年は戦また戦の連続で、正直に言えば心休まる日など無かったし、夫や父の帰りを待つ家族にしてみれば心労の絶えなかった事だろう。そしてもちろん、自分自身を含めた家族の件でも同じ事が言えるのだった。


「やっと……父親らしいことが出来るな……」


 カリオンは数ページの報告書を読みながら、そう独りごちた。ただ、その言葉はサンドラの耳に届いたようで、すかさず口を挟む事も忘れていなかった。


「終わってみるまで解りませんよ?」


 サンドラがそう口を挟んだのも無理はない。

 いまカリオンが読んでいるのは、ララの件に関する膨大な報告リストだった。


「……だな」


 アレックスの書いたその報告書は、王直属である諜報部隊のまとめたララの嫁ぎ先リストだった。サンドラとトウリの間に生まれた最初の娘であるサラの時は内々に済ませた関係でこれがなかった。


 だが、マダラで生まれ対外的には男だった筈のララウリが、実は女だった事を王府は公式に認めた。そしてそれは太陽王の配慮だったと。女しか産めないと陰口を叩かれる事がないようにしたのだと。公式にはそう発表されていた。


 そしてそれは、帝室より臣下の者へ嫁に出される運命を意味している。太陽王から見て功績のあった者や家に対し、その褒美としてアージン一門と縁戚関係になれることを意味する。


 それは、厳格な爵位制度を飛び越えて家名をあげるまたとない機会だ。歴代太陽王のうち、シュサ帝までは王の庭に後宮を作り女を囲っていたので、それなりに供給源があったし、機会も多かった。


 だが、ノダ帝は公式に妻を娶ることはなく、行きずりの女に手を出して子をはらませたという話もなかった。つまり、事実上百年ぶりの機会が降ってきたようなものだ。


「……しかしまぁ、すごいものだな」


 アレックスの纏めたその資料は、内々に調査された動きのある存在を網羅したものだった。その数実に760名を数え、そこにはフレミナ一門の者ですらピックアップされているのだった。


「大人気ね」


 ボソリとそう呟いたサンドラだが、どこかその様子がおかしいのだ……


「不満か?」


 カリオンもどこか慎重に瀬踏みをしている。

 公式非公式を問わず、サンドラは妻でありララの母なのだ。


「不満じゃないけど……」

「けど?」


 続きを促したカリオンの姿勢にウォークが薄く笑う。ライオンやピューマを退け、キツネ相手に一歩も引かぬ戦いをし、ネコを封じ込めた希代の武帝にも弱い部分があるのだった。


「……婿を取れないかしら」


 サンドラが言ったその言葉にカリオンは絶句した。

 それは、過去にル・ガルが経験した事のない、前例の無いことだった。


「サンドラ様。お気持ちは分かりますが、それは……難しいかと」


 ウォークは絞り出すよにそう言うのが精一杯だ。権力の分散や拡散を防ぐ為にノーリが考えた仕組みは、ル・ガルに内乱や国家を二分するような争乱を防ぐためのものだった。だが……


「私にだって今の仕組みの理由は理解できます。ただ、現状の方策であっても実際に反乱が起きた以上は、次の反乱が起きても磐石なように仕組みを改善するべきじゃないかしら」


 サンドラは迷う事無くきっぱりとした口調でそう言いきった。

 その自信溢れる物言いに、カリオンとウォークが顔を見合わせてしまった。


「……婿を取るにしたって……どこから取るのだ?」


 頭から否定も出来ないゆえにカリオンはそう問うた。

 ただ、そこから先の展開は正直予想外のものになるのだった。











 ――――――――帝國歴393年 12月 4日 夕刻

           王都ガルディブルク











「どこって……それはこれから考えましょう。けど、あなたの身に何かが起きたとき、すぐに助けてくれる存在を近くに置いときたいじゃない」


 サンドラは心配そうな顔になってカリオンを見ていた。

 正直言えば、すぐ近くに腕の立つ者を常時侍らせておくのは得策だ。


 覚醒体になってしまえばはっきり言って無敵の存在になりうる。

 だが、公衆の面前でそれは出来ない相談だ。どれ程国民に理解があろうと、化け物を王に頂くことなど出来やしまい……


「……ならばもはやフレミナ側から婿を取るしかありませんね」


 ウォークは顎に手をやりながら考えて、そう結論を出した。

 ル・ガルの王位継承権に抵触せず、それなりの出自で、国内の緒勢力。要するに公爵五家から独立している一定以上の勢力となると、もうそれしか無い。そうでなければ他の種族から迎えるしかないだろう。


 公爵家のいずれかから婿をとれば、それはそれで将来の禍根となる可能性がある。各家の微妙なバランスが崩れるのは、どこの家だって歓迎しない。ましてや今回の争乱で各家は相当に無理をしているのだ。


「いずれフレミナとル・ガルがよりいっそう混じり合う時代となるでしょう。ならばその布石を打っておくのも大事かと」


 ウォークは将来を見据えた選択肢としての提案を行った。

 それを聞いていたカリオンは『ふむ……』と唸って考え込んだ。


 迂闊な手は打てない。だが、現状で良しとするのは危険だ。

 正直に言えば、サンドラがそう提案しなくとも、可能性としての考慮はしていた。

 フレミナを預かるオクルカの息子。ビッグストンで学んだロシリカだ。


「可能性としては……オクルカ殿の息子しかあるまいな」


 カリオンは思い口ぶりでそう言った。

 だが、その言葉にサンドラもウォークも得心したような顔になって居た。


「イヌの国の王を輔弼する者はオオカミの王。それがル・ガルの伝統でしたね。そう言えば」


 そう。考えれば考えるほど、それはストンと丸く収まる事だった。

 いまはキャリと名乗るエルムが次の王となる。そして、共にビッグストンで学んだロシリカが相国の座につく。そして、次の検非違使の別当にタロウが座る。カリオンは引退し、トウリは検非違使安主としてタロウを輔弼指導する役となる。


 そうなった時、サンドラはやっと自由の身となるだろう。そして、トウリの元へ帰れる。全てが元サヤに収まるのだと二人とも思っていた。


「まぁ、出来るものならお前の妻に送り込みたいくらいだがな」


 カリオンは冗談混じりにウォークを見ながら言った。

 その言葉に『実は私もそう思ってました』とサンドラが続けた。


 最初の娘は嫁に出してしまったのだ。大家族主義のフレミナで育ったサンドラにしてみれば、正直言えば娘だって手元に置いておきたいのだろう。


「やめてください!」


 抗議がましい口ぶりでウォークは言った。

 そこには迫真の空気が混じっていた。


「……ララは嫌か?」

「そうじゃないです。ただ、これ以上各方面から煙たがられたくないんです」


 そう。

 太陽王カリオンの側近中の側近として存在するウォークは、本人が望まぬ形で要職に就いたとも言える。そして、ここへ至までに本当に苦労を重ねてきたのだ。


「……そうだな」


 カリオンは苦笑いしながらそう答えた。

 ただ、本音の所では、ウォークに妻を娶らせたい部分があったのだ。


「まぁいずれは……だな」


 それがカリオンの本音だと気が付いた時、ウォークは内心でため息をこぼすのだった……

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