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ル・ガル帝國興亡記 ~ 征服王リュカオンの物語  作者: 陸奥守
中年期~憎しみと苦しみの螺旋
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射殺

~承前






「では、その時点であの武装強盗が入っていたと言うんだな?」


 ギンの話を聞いていたカリオンは、もはや武装強盗扱い状態だった。

 やや唖然としていたギンとタカだが、首肯しつつ話を続けた。


「そうです。最初は10名程度の小集団が遠慮せず街に入ってきたのですが……」


 ギンは話を振るようにタカを見た。

 そのタカは首を振りながら言った。


「話ののっけからおかしかったんです。それこそ、問答無用で全員連行すると」


 タカの言った内容にウォークが『連行?』と裏返った声で応えた。

 いったい何の権限があって連行なのだ?と、全員が訝った。


「そうです。全員連行するからここに集まれと。で、すぐ近くに居た者が、いったい何の権限でと抗議したのですが――











 街の入り口で話を聞いていたタカは、その馬上にいた男を見ていた。

 北方系の一門であるガッシリとした体格の男は、まるで巨岩だった。


「なぜこんな事を?」


 震える声でタカは抗議した。

 恐怖では無く怒りと憎しみとが心の中に渦巻いた。


 その足下には、胸を槍で貫かれたヒトが転がっていた。

 いったい何の権限で!と抗議した瞬間、問答無用で刺されたのだった。


「ふむ…… 全くまぁ、ヒトと言うのは始末に悪い」


 周囲からリヴァノフ様と呼ばれているそのイヌは、どうやら貴族らしい。

 ただ、国家の要職たる公爵家や侯爵では無く、良くて伯爵だろうと思われた。


「お前達はただの奴隷だ。奴隷の分際で貴族と対等に話が出来ると思っている時点で、考え違いも甚だしいのだが……非常識に過ぎるな――」


 リヴァノフと呼ばれた男のすぐ隣に居た男は、何とも嫌そうに吐き捨てた。

 そして、その周囲にいたイヌ達もまた、せせら笑う様な顔だった。


「――まぁ、大人しく連行されろ。痛い目に遭いたくなかろう」


 冷たい口調でそう吐き捨てた男は、手にしていた太刀でタカを小突いた。

 まだ鞘に入っている剣先故に、血を流す事は無い。

 だが、強く突かれれば骨が折れる事もあるのだ。


 茅街南西側の入り口付近で対峙するイヌとヒト。

 ヒトの側の代表となったタカは怒りを噛み殺して言った。

 あくまで平和的解決を図るべきだと言うナオの進言故だ。


「……この街が太陽王の手配によって作られた街と知っての事か?」


 タカは怒りを噛み殺してそう言った。

 知らぬはずは無いと思うのだが、念のための措置だった。

 ただ、その問いに対する回答は、醒めた嘲笑の様な笑い声だった。


 集団の真ん中にいたリヴァノフは肩をすぼめ両手を広げた。

 その戯けた仕草に周りの者が大爆笑した。


「聞いたか諸君――」


 安っぽい芝居を演じる役者のように、上品ぶった声でリヴァノフが言う。

 その声に周りの者は再び大爆笑し、タカを指さしてまた笑った。


「――あの偽の王が手配したんだそうだ。怖いなぁ。実に怖い。恐ろしいねぇ」


 あくまで小馬鹿にするようにリヴァノフは言った。

 そして、その言葉に続き、タカを小突いたイヌが言った。


「偽の王が手配した偽の街だ。全て焼き払いましょう」

「そうですとも伯爵様。本来なら我々貴族が得るべきだった富ですぞ?」

「そもそも奴隷の為に国費を使うなど許されませぬ」

「我等の血税がこんな無駄な事に使われていたとは」

「奴隷を再び換金し、還元されるべきです」


 リヴァノフの周りにいた者は、口々に不平不満の声を上げた。

 ここに至り、タカは和解の道は無いのだと覚悟を決めた。


「そうだな。諸君らの気持ちは良く解った。ならばそうしよう――」


 リヴァノフはすぐ近くいた者に声を掛けた。


「――グスタフ。ロープだ」

「はい。伯爵様」


 グスタフと呼ばれた者がロープを撮りだし、それをタカへと投げつけた。


「おい、お前だ。全員しばって並べろ」


 グスタフはあくまで高圧的な口調で言った。

 だが、タカはそのロープを明後日の方向へと投げてしまった。


 その様子にリヴァノフ一派全員の顔付きが変わる。

 だが、タカは平然とした口調で言った。


「おいおい、寝言は寝て言えバカイヌ。そんなに縛りたきゃ自分でやれ」


 啖呵を切ったタカに対し、グスタフはグルグルと喉を鳴らしながら言った。


「おぃ…… 余り俺を怒らせるなよ」

「おー おっかないねぇ~ 聞いたかよ。怒らせんなだってよ――」


 上目遣いになったタカは三白眼になって睨み付けた。


「――怒らせたらどうなるんだよ。面白そうじゃねぇか。やってみな」


 ペッと地面に向かって唾を吐きだし、タカは尚も啖呵を切った。

 その様子にまずグスタフがキレたらしい。


「ヒトの分際で!」


 シュウィンと音を立てて太刀を抜き放ったグスタフは頭上に振り上げた。

 躱す余地の無い一撃を受ければ絶命は免れず、誰だって絶望するものだ。


 ある意味、その最後の表情は勝者のみの愉悦なのだろう。

 だが、タカは全く動じる事無く笑っていた。


「だからお前らはバカなんだ」


 タカは懐に手を突っ込むと、中から何かを取りだした。

 それはリヴァノフ一派の誰も見た事の無い鉄の塊だった。

 グスタフはその様子に勝利を確信したらしい。


 ただ、その直後にパンッ!と乾いた音がした。

 鼻を突く異臭が漂い、リヴァノフが顔を顰めた。


                             ドサッ……


「さて……次は誰が死ぬ?」


 グスタフに向け手を付きだしていたタカ。

 その手にある物は、ヒトの世界の必殺兵器だと皆が知った。

 馬上から地面に落ちたグスタフの眉間に穴が空いていたのだ。


「貴様!」


 リヴァノフの周りにいた者達が一斉に激昂したが、タカは冷静だった。

 一歩足を引き、グスタフを射殺した拳銃を構えていた。


 8ミリの拳銃弾だが、至近距離における殺傷力は充分なものがある。

 それこそ、鉄兜の類いが一切無い騎兵相手では、一撃での射殺が可能だ。

 獣人の頭蓋骨はかなり頑丈だが、それを貫通するに申し分ない威力なのだった。


 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!


 乾いた銃声が続き、自動拳銃特有の動作で薬莢が地面に落ちた。

 リヴァノフの取り巻きだったイヌが全て射殺され、馬から落ちた。

 そのどれもが眉間に穴を開け、角度的に不味い物は頭蓋後方を吹き飛ばした。


 威力が中途半端に弱い関係で、頭蓋後方まで貫通出来ないらしい。

 だが、結果としてその低威力により脳そのものが完全に破壊され絶命した。

 こうなった場合、エリクサーでも復活出来ないのだった。


「さて、なんて言ったっけか? そこの貴族さんよ」


 タカは手にしていた拳銃のマガジンを抜き、新しい物を装填した。

 浜田二式と呼ばれる自動拳銃は南方のジャングルでも使える代物だ。

 皇軍士官や准士官の腰にあった拳銃は、その多くが私物となる。


 自費調達を求められた拳銃とはいえ、その威力は十分な軍用品だ。

 支給された8ミリ弾は年月を経たとは言え、まだまだ使える状態だった。


「何とか言ったらどうなんだ?」


 立場が逆転し、今度はヒトの側がセラセラと嘲笑っていた。

 タカの隣にやっていた何人かのヒトは、不思議なデザインの槍を持っていた。

 円筒形の棒が木製の台に乗っている弩弓のような物だ。


 それが銃というヒトの世界の武器である事は間違い無い。

 威力はいま見た通りであり、それがこの場に5個程度ある。


 リヴァノフは体勢の逆転を感じ取ったが、慌てる様子も無く平然としていた。


「……奴隷の分際で威勢の良い事だな」

「そうだな。空元気ってやつさ」


 タカの隣に居たヒトは、その銃と呼ばれる武器を操作した。

 カチャカチャと機械的な音が響き、少なくとも戦闘態勢になったらしい。


「今ここで失せるなら見逃してやる。ただ、あくまで連行だの何だのってイキってんなら死んでもらう。好きな方を選んで良いぞ」


 最後通牒と突き付けるようにタカは言った。

 突き刺さるような鋭い声で、憎しみを込めた眼差しで……だ。


「なら、こういうのはどうだ?」


 リヴァノフも懐から何かを取りだした。それは小さな短冊状の紙切れだった。

 その短冊をバリッと破り、クシャッと丸めたリヴァノフはタカへと投げた。


 なかば無意識レベルでタカはそれを避ける。

 頭の中にイメージされたのは、着地した瞬間に爆発する手榴弾だ。


 しかし、実際には……


「あっ!」


 その場にいた全員が声を上げた。

 クシャクシャに丸められた短冊が地に着いた瞬間だった。

 凄まじい音が鳴り響き、眩い光が視界を染めた。


 ――なにっ!


 タカの身体が痺れた。電撃を受けたようだと思った。

 そしてそれは、どうやら正解だったらしい。


 無理矢理に吹き飛ばされた身体を起こすと、地面が見事に焦げていた。

 そこに落雷があったのは間違い無い。身体中に鉛が詰まったようだと思った。


「そんなバカな……」


 超常的な一撃が繰り出され、それは魔法と呼ばれるものだと気付いた。

 ヒトの世界の銃と同じように、この世界には魔法がある。

 ただし、それは誰でも使える代物では無いのだが……


「大丈夫ですか!」


 慌ててタカに駆け寄る者達が居た。

 しかし、その全てを手で制したタカは、強引に立ち上がった。

 気が付けばリヴァノフが随分と遠くに離れていた。


「やられたな……」

「え?」

「逃がした」


 口惜しさと歯痒さにタカは震える。

 しかし、それとは別に『やっちまった……』と後悔もあった。


「まずはこの死体をどうにかしよう」


 いま射殺したばかりの死体を処分するべきだ。

 そう思ったタカは、大八車を呼んで死体を運ぶ事にした。

 何となくだが、必ずまた彼等が来ると、そう確信していた。

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