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ビッグストン王立兵学校

 鼻と口からから血を流し、頬には青いあざを作ってなおカリオンは立っていた。

 幾人もの少年達が地面の上に寝転がっていた、士官学校の裏庭のそのまっただ中に。


 ビッグストン王立兵学校入学から五ヶ月。

 

 王都郊外の学校は周囲を森に囲まれていて、少々の騒ぎでも周りには伝わらない。

 暖かくなり始めたこの日。裏庭に呼び出されたカリオンは『マダラである』と言う理由だけでリンチにあった。シウニノンチュにいる時には知らなかった差別の根深さを、カリオン自身が身をもって痛感していた。


 いわれのない差別を受け、理屈の通らぬ誹謗中傷の対象であるマダラだ。そこに居るだけで酷い扱いを受けるのが宿命とも言えるマダラが、よりにもよって特別待遇で入学してきた。

 しかも、この五ヶ月の間にカリオンが見せた破格の能力は、全ての面で他の学生を圧倒していた。十五歳の時点で馬術教練の講師を凌ぐほどの馬術を持ち、剣技ならば剣術指導の教官八人を同時に相手にしても全て圧倒してしまう。学術においてもその頭脳は明晰で、かつて在籍した太陽王シュサを超えると教官たちは評価している。


 全ての面で他の学生を圧倒する才覚の持ち主。

 当然。厳しい競争を勝ち抜いて合格した者たちは面白い筈がない。

 貴族子弟枠で入学してきた者だって、マダラに劣ると言われれば面白くない。


 上級生に呼び出され裏庭へやってきたカリオンは、全く対応出来ぬ間に頭から麻袋をかけられた。視界を奪われ両腕の自由を奪われ、走る事も動く事も奪われた。次の一手がない状況下でカリオンは焦る。だがその時、父五輪男(ゼル)の言葉を思い出す。


 ――――水は必ず楽なほうへ流れる。その流れを見極めるんだ。


 背中に焼け付くような一撃。脇腹へ挿すような一撃。側頭部へ重い一撃。

 たった三発の一撃で前に倒れたカリオン。その後頭部を誰かの足が踏みつけた。

 額へ石の感触が有った。だが、紛れもなくチャンスであった。

 

 頭をひねり下へと抜け出たカリオンは一瞬で袋を抜け出した。

 全身の筋力に余裕のあるカリオンだからこそ出来る動きだ。

 咄嗟の機転でホールド体制を抜け出たカリオンは、並み居る上級生や同級生二百人近くを()(わま)す。


 自分の感情を制御できず、気に食わないと言うだけで仲間に手を出す下らない連中だ。

 だが、仮にも士官学校の候補生だ。殴り殺すのは拙い。投げ殺すのも拙い。

 まともな方法では生きて帰れないかもしれない。

 しかし、やられる一方では命の危険がある。ならば最善の一手を打つしかない。


 この場合。とにかく動くしかない。動いて動いて自分で場所を生み出すのだ。

 そして、手近な者から一撃で沈めて行く戦い方だ。


 ――――水の流れは理に逆らわない。

 ――――あっちを先にこっちを後になどとも考えない。

 ――――器が四角なら水も四角に。それが円なら水も円くなる。

 ――――戦いも同じ。戦も同じ。水は少しでも低ければそこへ流れ込む。

 ――――見るとは無しに全体を見ろ。少しでも弱い所は必ず潰す。

 ――――大勝ちを欲張らず小さな勝ちを積み重ねろ。

 ――――全てが終った時。お前は誰よりも勝っているだろう。

 ――――勝ち方に正解など無い。だが、負ければ死ぬんだ。

 ――――いいかエイダ。これは絶対に忘れるな。


 カリオンの耳に五輪男(ゼル)の言葉が鮮明に甦った。


 ――――正しいから勝つんじゃない。勝ったから正しいんだ。


 まず勝つ。この意識こそがカリオンを支えている。

 取り囲むように並んでいた同級生や上級生の中へ飛び込んで行き、少しでも弱い者から一撃で動けなくしていった。


 父ゼルの教えに有るとおり、人間の身体に最初から備わっている致命的な弱点を正確に突いて動けなくする。息を吐くタイミング。足を踏み込むタイミング。全てに気を配り、そして最大効率で最大威力を出す。


 左手の薬指と小指を骨折し、なお相手に立ち向かったカリオン。

 僅か三十分ほどの間に百五十人近くが地面の上でのた打ち回っていた。

 至近距離から足を使った重い一撃を受け、血を吐いて苦しむ者もいた。


 だが、カリオンはいっさい手を抜かない。

 むしろ生き残っている者へ、更に容赦の無い攻撃を加え続けた。


 戦術講師エリオット・ビーン子爵は、教官宿舎の屋上からその乱闘を見ていた。

 そして、声を漏らして感心したのだと言う。


 ――――理想的な機動防御と画に書いた様な一撃離脱! あの子は大物になる!


 校内の治安と風紀維持を旨とする学生自治委員が、この乱闘に八人も混じっていた事から大問題になりかけた。だが、不思議と学生指導委員会以上の議題に上る事は無かった。

 カリオンは四年生の大隊長に引率され、医務室で手当てを受けた。そしてその晩。問答無用で寮指導教官の部屋に呼び出されていた。

 その部屋に入ったカリオンは酷く驚いた。ビッグストン王立兵学校の学生指導長。エリオット・ロイエンタール伯爵と共に叔父カウリ卿がそこにいたのだった。

 この学校では学長の事を学生指導長と呼ぶ。この学校は王立大学であり、本校の学長はル・ガル王だからだ。


「……おいおい」


 カリオンの酷いなりに呆れたカウリは失笑を禁じえなかった。

 だが、その向かいでカリオンも笑っていた。


「叔父上さま。まさかわざわざ()()()()()()でお越しに?」


 精一杯の強がりでも意地を張った負け惜しみでもない。

 そこに居たのは完勝を誇る若き士官候補生だった。


 大乱闘の後始末を行った学生自治委員会からの報告では、骨折かその疑いのある者は百名以上。うち、自力歩行困難な者が二十五名。学生生活に支障を来たすと判断された者が四名。その他にも内臓へのダメージによる吐血や喀血。また、口内裂傷や犬歯欠損など、口内傷害が五十名以上いた。


「徹底的にブチのめしたか? 物分かりの悪い馬鹿者をちゃんと躾けたんだろうな?」

「勿論です。父の教えどおり。ただ」

「ただ?」

「出来る限りやった筈ですが。生憎と左手の骨が砕けまして」


 カウリはカリオンの左手を確かめた。

 砕けた骨を癒した治療魔術師の腕は確かだったようだ。

 いまは完全に骨がくっつき、問題なく動いている。


「右手は使えたんだろう?」

「はい、まだ何とか。ですから最後の二十人位は右手一本で」

「そうか。そうか。そうか。ならよろしい。良くやった」


 カウリは頼もしそうにカリオンの肩を叩いた。


「十人や二十人くらいなら遠慮なく殺してしまえ。ケツなら俺が拭いてやる。私怨で仲間に襲い掛かる愚か者などル・ガルの士官には必要ない。そんな奴は纏めて処分したほうが良いに決まってるさ。ビッグストンで死人が出るのは珍しい事じゃない」


 ニヤリと笑ったカウリの口元にイヌの鋭い牙が見える。元々にしてイヌ/オオカミの中でも好戦的で獰猛な血統といわれる黒耀種の一族だ。軍務につくならこの血統が一番良いと昔から言われているのだ。カリオンはそれを証明しているに過ぎない。


「カウリ卿のお手を煩わせる事はありますまい。後は小職にお任せいただきたい」

「あぁ。頼むよ。わしの甥っ子をもっともっと鍛えてくれ」

「お任せあれ。して、一年生(ポーシリ)・カリオン」


 ロイエンタール伯は倣岸な笑みを浮かべつつカリオンを見た。


「首謀者は誰であった?」

「さぁ。生憎そこまでは。ただ、余り組織だった動きではありませんでした」

「士官候補生がそれでどうする! 敵の司令官を見抜くのも仕事のうちだぞ!」

「次からはそうします」


 ロイエンタール伯はカリオンが仲間を売るかどうか試したのだった。

 そして、カリオンは全部承知した上ですっとぼけ、上級生の名誉を護った。


 ただ、被害者として医務室で手当てを受けたカリオンはともかく、カリオンに返り討ちにされた上級生や同級生達は医務室で手当てを受けるわけにも行かず、歩行困難な者などはそうとう困っていることだろう。

 医務室で手当てを受けるには、怪我を負った理由を正確に申告する必要がある。その理由を『一年生をリンチしようとして返り討ちにされました』とは書けない。また、カリオン自身が四年生に引率され『被害者』として医務室へ運ばれた以上、本来は事件にならない方がおかしい事なのだ。

 勿論、その手引きをしているのはカウリ卿であり、そしてロイエンタール伯なのだが。


「で、お前はどう始末をつけるべきだと思うか?」


 カウリ卿はカリオンの手並みを見極めるべく、始末のつけ方を決めさせた。戦を指揮するものなら勝つだけで良い。徹底的に勝って相手を撃ちのめせば良い。だが、カリオンは将来、戦の後の始末を付けなければいけない立場になるのだ。


「そうですね」


 この考える事こそが一番重要なのだ。

 少々のリンチなどカリオンにしてみればどうと言う事は無い。シウニノンチュで乱戦を走り回ったエイダなのだから、カウリも全く心配はしていないし、する必要すら無いと思っているフシがある。

 カリオンはしばらく考えてからロイエンタール伯へ向き直って胸を張った。


「敷地に野生馬が入り込んで皆で取り押さえようとしたと言う事でどうでしょう」

「フンッ! 馬並みか! 大きく出たな!」


 大声で豪快に笑ったカウリ卿はロイエンタール伯へ首肯を送る。

 その仕草に学生指導長はカリオンの成長を感じ取った。


「よろしい」


 一言呟き、そしてカリオンへ『立て』と言うジェスチャーを送った。

 何かを察したカリオンは素早く立ち上がってソファーの脇へ控える。

 それを確認したロイエンタール伯はテーブルの小さな鈴を鳴らした。

 ややあって、士官候補生旅団長。フレネルが部屋へと入って来た。


 将来、軍の中枢を担うことになる士官を育てる学校であるからして、学内における様々な立場の呼称には、軍と同じ名称と制度を利用している。

 講師や教師などはそれぞれに戦術教導団や馬術教導団と言う名称が付けられ、学生指導長ロイエンタール伯は学生から第九〇一学生師団の師団長と呼ばれている。


「師団長閣下。お呼びでありますか」


 寮長である連隊長を束ねるの立場のフレネルは、『テケーシェ』と呼ばれる兵学校独自の階級で最上位となる六本線を右腕の袖部に巻いている。軍隊階級で言うならば大佐待遇となる最上級の階級を持っていた。

 品行方正で成績優秀。しかも、堅実な人間が選ばれる学生自治委員会の長でもある。

 線無しの一年生に始まり、三年生の二本線から学生たちの出世争いは始まる。そして、人物評価や学業や実技で成績優秀な者は線が増えていくのだ。その評価が六本線ともなると、教官らの変わりに外出許可を出したり授業計画の変更を提案出来たりする。学内における諸問題の解決は、まず軍の自助努力を持って解決すべし。その教えを学生に植え付けるために、少々際どい問題でも内々で片付けてしまう。

 だが、今回カリオンにやられた学生は災難だ。身体が不調でも勤まるほど士官学校は生易しいものではない。骨にひびが入った状態で馬術の練習でもすれば、落馬したほうがマシなほどの痛みを感じる事だろう。


「フレネル大佐。今回の『騒乱』についてだが」


 話を切り出した師団長を真っ直ぐに見ていたフレネルは、横目でチラリとカリオンを見た。カウリ卿の領地出身である彼はカウリ卿自身からカリオンの話を聞いていた。故に、カリオンの正体を飲み込んでいて、どう期待されているのかも承知している。つまり、とんでもない士官候補生が彼の任期中に来たと言うわけだ。


「准士官カリオンの報告では、学生寮裏手に野生馬が入り込み、有志により取り押さえる最中の『事故』であったと言う事だ。貴官は立ち会わなかったそうだが、残念な自体である事に変わりは無い。明日より各授業において負傷者の一時休養を認める旨、裁決を出しておく。貴官の判断で授業進行に齟齬が無いよう取り計らうように」


 カチリと音を立て踵を合わせたフレネルは、背筋を真っ直ぐに伸ばし敬礼した。


「承りました! さっそく授業計画を勘案し、教導団の方と調整を行います」


 敬礼の手を下ろして一歩下がったフレネル。


「各位の()()()でこうなったのだから、各々が()()()()()()()()()()()()()。痛いのも辛いのも自己責任だ。それが軍隊だ。行軍の支障になると判断した場合は、貴官の判断で全体の進行を最優先に処断せよ。良いな?」


 もう一度背筋を伸ばし、胸を張ってフレネルは答える。


「承りました! そのように進めます!」

「うん。よろしい」


 ロイエンタール伯はニヤリと笑った。その意味するところをフレネルが理解する様に。獅子のように金色に輝く体毛をした大柄の教官は、カリオンに一度指を向けてからドアを指さし『帰っていい』と指図した。


「失礼いたします」


 カリオンは腰に佩いた太刀を押さえると器械体操の様にクルリと背を向けまっすぐに歩き、ドアの前でもう一度スピンして前へ三十度正確に頭を下げ外へ出る。その一連の動きは一年生の一年間、徹底的に教え込まれる士官の振る舞いの基礎だ。

 カリオンに続きフレネルが部屋を出て、静かに戸がしまる。廊下の外で小声の会話がいくつか聞えたが、すぐに静かになった。


 それを確認したカウリとエリオットの二人は報告書に目を通す。戦術講師ビーン子爵の書いた戦闘所見報告では、常識に捕らわれない自由な発想と数的不利を機動力で補う戦術眼に優れていると評されていた。

 そんな報告書をニヤニヤと笑いながらカウリが眺める中、ロイエンタール伯は葉巻に火をつけた。南方産の薫り高い煙が部屋の中に流れ、濃厚なバニラ臭にカウリも手を伸ばした。


「明日からの授業が楽しみだな」


 何処までも傲岸不遜な笑みを浮かべたロイエンタール伯は、美味そうに煙を吐き出す。

 授業に付いて行けず単位を落とせば放校。自己判断で授業を休めば放校。意地を張って授業に出ても、成績が悪ければ進級できず放校だ。全ては自己責任。仲間をリンチするのに加わった者になど救済措置は無い。

 フレネルは言いたい事をちゃんと把握しただろうか?と、ロイエンタール伯は天井を見上げ思案していた。


「アレに戦い方を教えたのはゼルだからな」

「例の()()殿()ですか?」


 カウリもまた美味そうに葉巻の煙を吐き出した。

 そんなカウリへエリオットは確認する言葉を投げた。


「そうだ。正直に言うと、かなり恐ろしい人間だ。少なくとも軍勢を率いているなら敵に回したくない。三倍の戦力があってもひっくり返されるだろうな」

「それが事実なら本校の戦術教官に欲しい位ですな」


 そんなエリオットに向かってカウリは無理無理と手を振った。


「あぁ。だが、手放したくは無いだろうな。ノダもエイラも」

「そうですなぁ……」


 静かに笑ったカウリとロイエンタール。


 同じ頃。

 遥か遠く。シウニノンチュに居る五輪男は、説明の付かない寒気にくしゃみをした。


「なにそれ。ヒトみたい」

「いろいろ練習してんだよ」


 チャシの中でゆっくりと夕食を楽しむゼルとエイラ。

 夫婦水入らずと言った風な空気だが、エイラの膝の上には幼い女の子が乗っていた。

 耳と尻尾の無いその幼女。歳の頃なら三歳か四歳か……


「よく寝てるわ」

「寝る子は育つってな。ヒトの世界じゃそう言うんだ」

「ふーん…… エイダは元気にやってるかしら」

「便りが無いのは元気な証ってな」

「それもヒトの世界の話?」

「そうだ」


 大人達の様々な思惑をすり抜けながら、カリオンは成長しつつあった。

 カウリの目論み通り、厳しい試練を幾つも乗り越えながらだが。


「カウリ卿はカリオンの叔父なのか?」

「はい。父の弟に当たります」

「……そうか」


 カリオンの話を聞いたフレネルは言葉を失った。フレネル・マッケンジーはカウリ卿が所領とするエルバスターニュの出身だった。

 他の地域に比べ水と晴天に恵まれた広大な農村地帯の荘園主の息子で、平民出身でありながら豊かな才覚を持って士官学校を駆け上がってきたタイプだった。


「実はカウリ卿に前から聞いていたんだが」

「自分の事ですね」

「そうだ。俺も平民出身で色々面倒が多かったが、カリオンは俺以上だな」

「でも、ここは毎日が楽しいです」

「そうか。逆境を楽しめれば一流だ。まぁ、なんだ」


 カリオンの背中を叩いたフレネルは笑う。

 輝墨種と呼ばれる黒耀種とは違う黒い体毛の一族だ。

 そんなフレネルにも、カリオンは親近感を感じて居た。


「明日も通常通り授業を行ってもらう。歩けない連中も居るだろう。だが、お前は普通にしていれば良い。自分のしでかした事は自分が責任を取らなきゃいけないんだ。愚かな連中にはそれを痛感させる必要がある。まぁ、そんな所だ」

「はい、了解しました」

「じゃ、後は上手くやれ」


 寮の入り口まで送ったフレネルは自分の寮へと帰って行った。

 その背中へ敬礼を送ってから寮へと入ったカリオン。

 階段を登り始めた時、上のほうから声が掛かった。


「よう御曹子! 待ってたぜ」

「その呼び方やめろよ」

「良いじゃねーか。事実だろ?」


 自分の部屋へ戻る途中のカリオンを呼び止めたのは、大きな体躯の少年だった。

 マホガニーレッドの体毛に覆われた、ル・ガル西部地域を出身とする緋耀種の名門レオン家の少年。

 彼の血統『緋耀種』は、カリオン達『黒耀種』より更に古い時代から一門を名乗ってきた、イヌ社会の名門の一つだった。そして、ル・ガルの国内でも僅か五つしかない公爵家として、西部地域に根を下ろし栄えている一党であった。

 統一王ノーリに抵抗し、最後までイヌの統一国家誕生に抵抗した名門中の名門。

 ホンの僅かに歴史の歯車が違う噛み合わせだったなら、レオン家から統一王が生まれていたかもしれない。

 そんな名門の中の名門。有史以前から続く古い貴族をル・ガルでは公爵家と呼んでいる。


「普通にカリオンって呼んでくれよ」

「そんな事言ったって、テメーだって俺をレオン伯とか呼びやがるじゃねーかよ」


 汚い言葉で遠慮無く話をする少年は、持っていたリンゴをカリオンに渡した。


「晩飯喰損ねたらしいじゃねーか」

「あぁ。ロイエンタール伯に絞られてきた。正直助かる」

「手負いで空きっ腹の奴をぶちのめしても面白くねーからよ」


 緋耀種の少年は遠慮無く笑った。

 カリオンより一回り大きい身体を器用に畳んで階段へ腰掛けカリオンを見ている。

 カリオンはその前でリンゴにかじりついた。

 ボリボリと食べながら、カリオンも緋耀種の少年を見ていた。


 交差する二人の視線には、ライバルを睨め付ける火花がバチバチと飛んでいた。

 ビッグストンにおける学年、および階級について



一年生:ポーシリ

二年生:ローアシ

三年生:フシコ

四年生:ポシフコ







 袖線持ち/テケーシェ(いわゆるストライパー)


六本 四年生/大佐 イワンペス・テケーシェ連隊長(士官候補生長) 

五本 四年生/中佐 アクシネプ・テケーシェ大隊長(寮長) 

四本 三/四年生/少佐 イネッペシ中隊長(階長) 

三本 三/四年生/大尉 レペーシェ小隊長(室長)

二本 三年生/中位  トペーシェ班長 

一本 二年生/少尉  シネーシェ

ゼロ 一年生/准士官 サケーシェ







 ビッグストンの学生生活について



 一年二年は基礎学力、基礎体力練成が重点。

 三年になると二本線持ちとなり班長に任命されるケースがある。


 三年生のうち、全期間で優上(評定平均4.5)であった場合、四年生昇格と同時に五本線となり、大隊長に任命される。線の数が多くなるにつれ、役職の階級が上がっていく。


 毎月成績評価が壁に張り出され、中隊(各部屋)の成績平均が優秀なところは発表と同時に善行表彰を受ける。その中隊の中で個人成績が六ヶ月続けて秀評価を受け、同時に中隊が善行表彰を三ヶ月受けると進級時に線が増える。自分だけ高成績と言うだけでは軍隊は評価されず、周囲への指導が良かったと評価され、四年生進級と同時に寮長か士官候補生旅団長となる。


 論理的には六本線が最高位


 成績評価は学業・実技・人物評価の三系統でそれぞれ、秀>優>良>並>外となる。

 一年を通じ秀評価が五名以上居た場合、その最高点を取ったものは特秀評価を受ける。

 逆に三ヶ月続けて外評価だったものは、学生審査委員会に呼び出される。


 三年四年は各学科により必要な成績単位がことなっている。

 最難関の参謀学科や主計経理学などで優以上を取ると一目置かれるケースが多い。

 参謀学では戦略に正解は無いという思想の為、基本的に秀評価は出ない。

 その為、参謀課で大隊長や連隊長になる者はめったに居ない。


 各寮における四本線以上を上席在学生と呼ぶ。三本線までは自動で線が増えるため、四本線以上は本人に努力が絶対不可欠なのだった。

 四本線以上のうち、卒業時までに線が五本か六本になった者は首席卒業権利を持つ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 進級


 ・十月一日より六月三十日までの九ヶ月間、学業での大怪我以外で休業三日以内。

 ・成績評定平均四(優)以上は無条件で進級。

 ・三(良)未満で二(並)以上は学業成績評価審議会で要審査。

 ・実技授業中の事故(馬術/剣術/弓術等)で休業した場合も審議委員会の要審査。

 ・審議委員会が許可した場合のみ、一年生だけもう一度やり直しが出来る。

 ・二年生は放校となり、三年後もう一度入学審査を受ける。

 ・三年生四年生の場合は放校となり、下士官として二年間兵役義務を負う。

 ・成績評価二(並)未満の場合は、特別な事情が無ければ問答無用で放校

 ・下士官推薦枠の場合、選考学科以外の成績は無視される。

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