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国家を蝕む敵の正体 04

~承前






 ジョニーがそっと切り出した話。

 それは、カリオンの毛を逆立たせるのに申し分ない内容だった。

 それに気付いたのかどうかは知らないが、ジョニーの話はヒートアップする。


 話を要約すればこうだ。


 ――――あのキツネのバケモノが一枚噛んでいる


 あの晩、寝室の灯りとしていた火がキツネの形になったとジョニーは告白した。

 それは紛れもなく初めての情報だった。


 ただ、ここに至りホザン絡みで喫緊の事態となってから聞くと、意味が変わる。

 ホザンの怪物化より前なら、キツネの嫌がらせ程度で終わるのだろう。

 しかし、いま現状で考えられるのは……


「……裏で糸を引いていると言う事か」


 カリオンは殺気溢れる低い声で言った。

 ただでさえ肌寒い時間帯だが、次元の違う寒気をジョニーが感じる。


 ――リリスだ……


 ジョニーも直感でそれに気付いた。

 カリオンの何処かに魔力媒体があって、リリスはこの話を聞いているのだ。

 だからこそ、怒気溢れる彼女の魔力がその媒体から逆流しているのだろう。


「リリスも聞いてるんだろ? だからはっきり言うぞ?」


 実態を見抜いたな?とカリオンは怒りつつもニヤリと笑った。

 思えばこうやって感情を上手くコントロール出来るように成っていた。


「あぁ、遠慮は要らないさ」


 薄笑いでジョニーを見ているカリオン。

 信頼関係は未だに盤石だ。


「キツネ対策を今から本腰入れてやらねぇと……国を滅ぼす事になる」

「根拠のある話か?」

「……ここしばらくだが、急に王を批判する言葉を吐きだした奴が居るってな」


 本人の居ないところで愚痴紛いの事を言うのは良くある話だ。

 そこまで規制したところで、実益は無いだろう。

 むしろ、他に害が無い形でガス抜き出来るなら、それはありがたい事だ。


 しかし、そうでは無く、明確に反旗を翻しかねない行為の準備はよろしくない。

 この20年ほどで急速に財政状況が悪化し始めた地方貴族を思えば……


「何らかの形で影響を受けていると思って良いな」

「あぁ。実際の話として、俺はそれが一番怖い」


 睨み合うようにして見つめ合い、2人はしばし無言となった。

 カリオンの脳裏に蠢くのは、実態がどうなっているかの想像だ。

 だが、ジョニーはその解決策を考えていた。


「……なんかいい手があるか?」

「キツネの国を滅ぼしちまえ」

「……バカ言え」


 冗談めかした言葉で提案したジョニー。

 だが、その中身は半分本音だった。


「俺が思うにな――」


 声音を変えて切り出したジョニー。

 それは、想像出来る限りで最悪の事態への序章だった。


「――あのキツネは精神の弱い所を突いていると思うんだよ」

「……トウリ兄貴か」

「そうだ。アレを見て取ったからこそ、イヌは案外こころが弱いと……」


 言われてみれば正鵠かも知れない。

 イヌはある意味で簡単に折れてしまう部分がある。


 団結と連帯とがイヌの美徳だが、逆に言えばそこが弱点だ。

 1人で出来ないと成れば、徒党を組み全体でやろうとする。

 そのマインドが王の打倒に向かったとしたら……


「歓迎しない事態だな」

「だろ?」


 そんな時だった。


「ん?」


 カリオンが何かに気付いた。

 それは、僅かとは呼べぬ魔力の流れだった。


「リリスが動いたな」

「……彼女が?」

「あぁ。探りを入れるんじゃ無いか?」


 仮にあのキツネがイヌを滅ぼそうとしているなら、その原因はリリスだ。

 責任を感じているだろうし、それ以上に腹立たしい部分があるのだろう。


「どんな結果になるかは解らんが……」


 小さく溜息をこぼしたカリオンは、視線をそらし城下を見た。

 とっぷりと暮れた冬の陽は残照も弱く、街には灯りが溢れ始めた。

 花吹雪く常春の都なガルディブルクも、冬枯れ一歩前だ。


「思えば、冬場に咲く花が少なくなってきた」

「……言われてみりゃそうだよな」


 それがリリスを救う為の影響である事は明白だ。

 地脈を通じて流れる魔力の大半をリリスが吸収してしまっているのだ。


 国土全体が徐々に弱り始め、自力では回復できない状態になっている。

 現状の死の女王となっているリリスは、常に龍脈を吸っていた。

 かつての意識不明状態と比べれば、その量は微々たるものなのだろう。


 だが、常時それを行い続けているのだから、影響は必ず出る。

 それこそ、ジワジワと真綿で首を絞められるように……だ。


「キツネが何を狙っているのかは解らないが、最悪の事態は想定した方が良いな」


 カリオンがボソリとこぼしたその言葉は、ジョニーの背筋に寒気を走らせた。

 考えたくも無い事態だが、蟻の一穴からため池の関が崩れる事もある。


「……こうなると、総身がデカイってのは不利だな」

「あぁ。本当に治安警察などを考慮した方が良いかも知れんよ」


 溜息混じりにそうこぼしたカリオン。

 その姿は寂しそうで、そして、疲労感に溢れていた。


「……本当はこれを言いたくなかったんだがなぁ」

「何故?」


 ジョニーの告白にカリオンが理由を問うた。

 一瞬だけ間を開け、首を振りながらジョニーは言った。


「エディが限界ってのは解ってたのさ。もう一杯一杯だろ?」

「……そんな事ないさ」

「嘘こけ。顔なんかげっそりしてんじゃねぇかよ」


 ジョニーなりの優しさと気遣い。

 それが解るからこそ、カリオンは強がるしか無い。


「昔、父上が良く言っていた。お前は一番辛い立場に上るって」

「あぁ。親父さんは明晰な人だったからな……」


 その明晰な人という表現に、人とヒトが被っていた。

 カリオンは思わずプッと吹き出して、そしてケラケラと笑い始めた。


「まぁ、仕方ないさ。頑張るしか無い。ここから先がどうなるかは知らないけど」


 もう一度城下に目をやり、その街明かりに目を細める。

 そこに暮らす数多くのイヌは、太陽王を信じて暮らしているのだ。


「自分が必要とされている以上は、努力するさ」

「そうだな……」


 カリオンの強がりは持ち上げるしか無い。

 ジョニーだってそれは解っている。

 ただ、時には……


「やべぇと思ったらいつでも呼べよ」

「あぁ、そうするさ」


 右手を伸ばしグーパンを待ち受けたジョニー。

 その拳をカリオンはグーで叩いた。


「数少ない本音を言える存在だからな」

「……おめぇの一言で粛正が起きかねねぇからな」


 超絶に難しい立場にある太陽王故、カリオンは常に気を配っている。

 その気疲れこそが、カリオンを疲労困憊させている正体だった。


 ただ、その心労のタネは、国政だけでは無かった。


「所でよぉ」

「ん?」


 表情を変えてジョニーは切りだした。

 その表情には暗い影があった。


「ラリーの奴、どうした?」

「ガルム?」

「あぁ」


 そう。

 ここまで誰もが意図的に話を避けてきた存在。

 ホザンの一見の引き金となったガルムの存在だ。


「……城に帰ってきて自室に引きこもっているよ」


 その理由は何だろうか?とジョニーは思案する。

 恋に破れたハートブレイクなら良い。

 だが、争乱の原因となったのが自分だと責めているのなら……


「抱えきれねぇ責任は身を滅ぼすぜ」

「そうなんだよな……」


 2人が危惧する内容は、つまり、ガルムの精神的な崩壊だった。

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