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討伐2

色々と思うところありまして、謀反1~8を大幅に書き直すと同時に、謀反9を討伐1として書き起こしました。

ご面倒とは思いますが、再度読んでいただけますと幸甚です。

~承前






「見な! あのバケモノだって黒い血を流してる」


 センリは王城の上で城下を指差した。

 バルコニーの上に立ち、仁王立ちになって詠唱を始めた。

 良き隣人達を説得し、力を貸してもらう為のもの。


 だが、その効果が顕現した時、カリオンはあとずさった。

 それは、巨大な炎の柱だったのだ。


「さて、焼けるかね?」


 猛烈な熱が発生し、城下中心に向かって突風が吹いた。

 魔導による効果とはいえ、炎が逆巻けば上昇気流が起きる。

 そこに向かって周辺から猛烈に風が吹き込むのだ。


「……それほど焼けんな」

「だろうね。さて、次だよ」


 センリは再び詠唱した。先ほどとは違う詠唱だった。

 ただ、今度の威力は比べ者にならないものだった。


 ガルディブルク城の背丈を大きく越える巨大な火柱だ。

 カリオンすらも見上げざるを得ないサイズで沸き起こったのだ。


「……凄まじいな」

「さて、これで最後だ」


 センリは再び詠唱をした。

 それは不思議な言語でつづられた、韻を踏む詠唱だった。

 まるで熟達の歌姫が歌うかのような、メロディラインが聞こえてきた。


 ――なんだ?


 僅かに首を捻ったカリオン。

 ただ、その答えが出る前に、詠唱は完成していた。

 それは、見るもの全てを恐怖させる、巨大な炎の竜巻だ。


 グルグルと回転しながら、炎の柱は天を突いた。

 その炎がバケモノの身体に触れると、熱を受けた飴細工の様に解けて消えた。

 焦げたり燃えたりと言う行程の全てをすっ飛ばし、そのまま蒸発したのだ。


「いったいどれ程の熱量なのだ」

「さぁね。ただ、この街の半分を焼き払った時よりは小さな威力だよ」


 センリはヒヒヒと笑っていた。

 猛烈な威力を受け、バケモノの身体が解けてなくなったのだ。


 ブスブスと木の焦げる臭いが立ち込めた。

 石積みの建物だが、その内部は木で作ってある。

 猛烈な熱を浴び、石越しに気が焦げたのだろう。


「さて、行きましょう」


 ウィルはカリオンを誘い城下へと降りた。

 その後ろにセンリが続き、ややあってウォークが合流した。


「ご苦労だった」

「いえ、ちょっと下手を打ちましたね」

「まぁ、回復できる範囲だ」


 城下の通りを歩いたカリオンは、改めてその強力な魔導効果に驚いた。

 3発の落雷により通りに面した建物は細かく崩れている。

 また、強力な炎の一撃は、通りの花壇や街路樹全てを焼き払った。


「ゾッとしない光景だな」

「全くです」


 通りを進んでいくと、焼け焦げた石畳のど真ん中に何かが倒れていた。

 それは、半ば黒焦げになったホザンだった。


 落雷と炎の効果で小さくなったホザンは、完全な焼死体になっていた。


「絶命したか?」

「えぇ。間違いありません」


 カリオンの問いにウィルがそう答えた。

 一件落着ではあるが、困った事態でもあった。


 必要な情報が全く得られなかった。

 国軍の内部にある反王権派の情報は、完全に闇の中だ。


「手を誤りましたね」

「そうだな」


 不機嫌そうにそう言うカリオンとウォーク。

 だが、この一連の動きを見ていた市民は、全く違う感情だった。

 市民の避難誘導に当っていたジョニーが見たものは、多くの市民の歓声だった。


 正体不明のバケモノを退治した王の魔導師たち。

 こんな事態を予見していたのか?と、その深謀遠慮に賞賛の声を上げていた。


 ――これなら良いだろ……


 ジョニーはそんな事を思いつつも、市民の整理誘導に当り続けた。

 そして、ここからが大変だと舌を巻いていた。







 ――――――――その晩






 リリスの開いた夢会議の中、思わぬ人物が現れていた。

 騒乱の主であるホザン・レガルドだった。

 半ば泥のような姿になり、リリスに捕まっていたのだ。


 リリスに捕縛されたホザンの魂は、その会議の出席者に曝された。

 カリオンとサンドラ。ウォーク。イワオとコトリ。

 

 そして、ウィル。センリとハクト。ジョニーとアレックス。

 茅街からはトウリが出席し、さらには、遠くフレミナからオクルカが来た。


「さて、知ってる事を全部言ってもらうわよ?」


 死んだ筈なのに死に切れていない。

 しかもそれは、生きているとは言いがたい姿だ。

 死者にとってそれは、猛烈な苦痛を伴うものだった。


 だが、リリスの魔力は不可能を可能にする。

 実際の話として、ホザンの力ではリリスに対抗出来なかった。


「どうか殺してくだされ……」

「これからのあなた次第ね」


 腕を組み、冷たい眼差しで見ているリリス。

 その姿は文字通りの女帝だった。


「ここは私の夢の中。私が何でも差配できるところ」


 リリスの言葉に冷たい棘が混ざった。

 ホザンはその言葉に表情を引きつらせていた。


「さて、最初になにを言ってくれるの?」

「……は?」


 抜けたような声で返答したホザン。

 だが、リリスは右手の指をパチンとスナップさせた。


「グオッ! ググググググッ!!!」


 突然痛みに呻き始めたホザン。

 リリスの目に狂気の色が宿るのを皆が見ていた。


「私の聞いた限りでは蒼いオオカミとの事だが、それは誰だ?」


 オクルカも興味深々にそれをたずねた。

 もはやどうにもならない現状になって、ホザンは諦めたような顔になった。


「ホザン。そなた、誰かに操られたのか?」


 カリオンは静かな声でそう言った。

 皆が驚きの表情になる中、痛みに呻きながらホザンは首肯した。


「あの男に……あの男に騙された」

「あの男とは?」

「名を知らぬ男だ」


 何を言っているんだ?とカリオンの表情が変わった。


「もう一度問うぞ。それは誰だ?」

「知らぬ……本当に知らぬ男だ」


 カリオンはチラリとリリスを見た。痛めつけろと顔に書いてあった。

 だが、そんなカリオンの指示とは関係なく。リリスは再び指をスナップさせた。


「グォォォォォォォ!!!!」


 痛みに呻きながらジタバタと暴れるホザン。

 リリスはそんな状態でもう一度パチンとスナップさせた。


「この世界では死ぬ事も気絶する事も出来ない。もちろん狂う事もね」


 リリスの手が伸ばされ、ホザンを掴むように伸びた。

 そして、まるで雑巾に爪でも立てるかのように、掌を握った。


 ホザンはギリギリと身体を絞られ、全身からボキボキと酷い音を立ていた。

 ただ、何があっても死ねないのだから、もはや抵抗するだけ無駄だった。

 もし、地獄と言う物があるなら、それはきっとこんな世界だと思った。


「いくらでも苦しませてあげるわよ? きっと好きなんでしょうね」


 リリスはつめた声音でそう言った。

 ホザンは痛みに呻きながら、恨めしそうな目でリリスを見ていた。


「どうするの?」


 リリスは再びそう言った。

 ホザンは小さく『殺してくだされ』と呟くのだが……


「まだわかんないの? 全部言ったら、楽にしてあげるわよ」


 リリスは天使のような笑みを浮かべ、悪魔のような一言を吐くのだった。

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