これで良いのだ
――見えたっ!
距離にしてまだ500メートルはあろうかという距離だが、ゼルの目は他の誰でもないレイラを捉えた。グッと顎を引き右手の太刀をダラリと下げ、だらしなく構えるのはゼルのやり方だ。
「思案している時間は無い! 一撃で全て殺せ! 生かしおくな!」
左右へ大きく展開せよと手を左右へ振り抜くゼルは、抜き身の達を大きく払って血糊を払った。もう何人斬ったか判らない。太刀の刃先にはべっとりと脂が付いていた。
「突撃!」
ゼルの目には太刀を抜いて女に襲いかかろうとしていた兵士が映っていた。
問答無用で中心部へと突入を図ったゼルは遮る者達を遠慮無くバッサバッサと斬っていく。夥しい血煙が舞い上がり、阿鼻叫喚と断末魔の悲鳴が解け合って混ざり合って中洲を埋め尽くしていく。
突入してくるル・ガル騎兵に気が付いた中洲中心部の兵士は、抜き放っていた太刀を持ち替え騎兵に対抗する構えを見せた。騎兵に対し歩兵が太刀を抜いて切りかかる図式だが、これが案外手強いものだとゼルは知っている。だが……
「邪魔だッ!」
直前で馬を僅かに左へ流し、歩兵を削るように首を刎ねていく。
ポンポンと首が舞い上がり続け、その先頭をゼルが駆け抜けていった。
「右旋回! 再び斬り込む! 我に続け!」
ゼルの背を護る騎兵たちはトップスピードを維持したまま上手に旋回を決め、再びフレミナの兵士が固まる中洲中心部へ斬り込んでいく。だた、その僅かな時間がフレミナ兵に立ち直る時間を与えてしまった。
中洲の奥。カリオン率いるル・ガル中央軍団を眺めていたフレミナの予備騎兵が動き出したのだ。ゼルは一旦旋回を中止し、僅かに川面を踏んで大きく旋回を決めると、敵騎兵ごと斬り捨てるべく再び中州の中心へと突入していった。
「刈り取れッ!」
剣を翳し前方へ振り抜いたゼル。
全員が一気に速度を乗せ突入を図った。
だが……
「待っていたぞゼル! 勝負だ!」
――なん…… だとッ!
そこに姿を現したのはカウリだった。
すべてはカウリの書いた画だとゼルは気が付く。
「どけ! カウリ! 女たちが先だ!」
「やかましい! 押し通れ!」
カウリは完全にやる気だ。
ゼルは全身に走るビリビリとした殺気を感じた。
カウリは死ぬ気だ。間違い無く死ぬ気だ。
自分が死ぬ事で兵に諦めさせる大義名分を与えるのだ。
――カウリッ! バカなことを!
危うく『カリオンをどうするんだ!』と叫び掛けて言葉を飲み込んだ。
カリオンにはカウリが必要だ。
まだまだ小僧なのだから、誰かが先達にならねばならない。
齢百を超えるまで、イヌの人生は修行とも言えるのだから。
だが、だからといってここで手を緩めるわけには行かない。
カウリを斬らねばその先は無い。
手を伸ばせば届くところにレイラが居るのだ。
泣いて馬謖を斬る辛さをゼルは感じた。ただ……
「応ッ! その首もらい受けるぞ! カウリ!」
売り言葉に買い言葉。
ゼルは無意識に啖呵を切っていた。
そして同時に覚悟を決めた。
――カウリを…… 斬る!
――レイラ!
――いやさ! 琴莉!
――いま行くぞ!
太刀を下手に持ち、振り上げ方向で剣を振るう。
すれ違いざまに最初の一撃を入れたのだが、カウリの一撃をネックガードに受けたゼルは太刀筋の邪魔をされ、気合いを入れた一撃はカウリのヘルメットをかすっただけだった。
「ッチ!」
舌打ちしつつも再び馬を加速させたゼルは、右手へ旋回させ二激目に及ぶ。
今度は上段に構え、渾身の力を込めてカウリの眉間を狙い打ち降ろした。
だが、その一撃は振り上げられたカウリの太刀に邪魔をされ、鉄火を放ってはじき返された。全身の膂力は全く次元が違うのだ。
ヒトの身体が生み出す一撃としては充分脅威になり得るゼルの太刀捌きでは有るが、イヌの強靱な肉体が生み出す暴力的な力と比べれば次元が違う。
「ハッハッハ! 楽しいな! ゼル!」
「……バカを抜かせ!」
双方決定打を欠いている状態で勝負の決着は付かない。
だが、三度四度と打ち合いつつも中洲を駆け抜けていくゼルは、中洲の中にいたフレミナの歩兵を幾人も斬り捨てていた。そして、目に見えて数が減り始め、中洲の中で立ち上がっているものが減り始めていた。
――よし!
――こんどこそ!
意を決したゼルは馬の腹を蹴って速度を上げた。
だが、ゼルの跨がる馬の速度はみるみる落ち始めていた。
――限界か……
中洲の中心部へ向かって進み始めたゼルだが、馬はやがて大きく息をしながら走るのを止めてしまった。軍馬とは言え生身の馬だ。体力が無尽蔵と言う事は無い。
「アッハッハッ! この時を待っていたぞ!」
中洲の真ん中辺りでは、女たちを背にしたトウリが仁王立ちになっていた。
「ここへ来て勝負しろ!」
「バカを抜かせ!」
「ならば儂の手で一人ずつ斬っていくぞ!」
ブンブンと太刀を振り回すカウリは大声で笑っていた。
その傍らにいたフレミナ兵は突然何を思ったか『閣下のお手を煩わせるのは!』と女たちに斬り掛かった。
――アッ!
慌てて馬を飛び降りたゼルだが、それと同じタイミングでカウリはそのフレミナ兵を一刀両断に斬り捨てた。
「邪魔をするな! 儂はこれだけが楽しみだったのだ!」
カウリの振り下ろした大太刀は凄まじい威力を見せていた。
さすがのゼルも一瞬腰が引ける。だが、ここで怯んでいる訳にはいかない。
「カウリ! あの世に行く準備は良いかァ!」
「いつでも良いぞ!」
馬を下りたゼルはゆっくりと歩き出した。
肩に掛けていたマントを取り、太刀の鞘も辺りに投げ捨て身軽になったゼル。
年齢を重ねたというのに驚く程細身の身体は、『本当にヒトなのか?』と辺りに思わせるほどだった。
連日の合戦で終始晴れ渡っていた空がにわかに曇り始め、厚い雲が見る見るうちに天を覆っていった。
「イザッ!」
「応!」
カウリの剣は大きく重く、そして長い。さらには、膂力に勝るカウリだ。
その嵐のような太刀捌きに対し、ゼルは受ける事をせず躱すか受け流し続ける。
「さすがだな!」
「抜かせ!」
ヒラリヒラリと太刀筋を躱すゼルは、早く鋭いカウンターを仕掛けてカウリの身体の弱点を狙った。美しく勝つことなど求めないゼルの剣は、ただただ太刀行きの速さと精確さを持って人間の身体の弱点を狙う。
内ももや二の腕の内側。
頸動脈。アキレス腱や膝の腱。
そして、鎖骨。
次々と繰り出されるゼルの鋭い踏み込みは、さすがのカウリも受けるので精一杯だ。だが、逆に言えばゼルの剣術を見てきたカウリ故に、ゼルは悉く決定打を外している。
「ゼル! 一度お前と斬り合ってみたかった!」
巨大な大剣を小枝のように振り回し、カウリはゼルに迫った。
傍目に見ればその巨大な鉄の塊を自在に振り回すカウリに付けいる隙は無い。
だが……
「……冗談じゃ無い!」
そのカウリの剣をヒラリヒラリと交わすゼルは、次々とカウンターを繰り出す。
だが、その剣の威力は決定的にカウリに劣っている。それでもゼルは剣を振る。勝つ為には剣を振るしか無い。
「一撃の威力は俺の勝ちだな!」
「……フンッ!」
威力に勝るカウリの打ち込みをひらりと躱したゼルは、最短距離で剣を走らせカウリの首を狙った。威力で劣るなら効果で補うしか無いのだ。
「当らなければどうと言う事はない!」
ゼルの鋭い剣先がほんの僅かにカウリの頬を掠めた。
一筋の血が流れ、カウリはその血をペロリとなめた。
「その通りだ!」
激しい斬り合いが続き、剣と剣のぶつかる度に火花が散った。
それでもゼルは剣を振った。勝つ為には戦うしか無いのだ。
「覚えているかゼル! あのカリオンの初陣を!」
「忘れたことなんか無かったさ!」
混じりけの一切無い殺意を漲らせ、ふたりの男は斬り合った。
カウリもゼルも一切遠慮すること無く相手の命を狙っていた。
「俺はあの時、いつかお前を斬ってやりたいと願った!」
「はぁ?」
「この世でお前だけが俺よりも強いと思ったからさ!」
「それは俺の台詞だ!」
返す刀の太刀行きの速さだけでゼルはカウリに迫る。
だが、アハハと笑ったカウリは大きく踏み込んで横薙ぎに剣を振った。
そんな姿勢でもカウリの剣は威力に溢れていて、カウンター狙いで踏み込み掛けていたゼルは下がることも出来ず、剣の持ち手を変えて受けようとした。
ただ、カウリの振り回すブロードソードをまともに受ければゼルの細身の剣など折れてしまう。その一瞬の逡巡がゼルの貴重な時間を全てすり潰し、ゼルはなすすべ無く剣で受けざるを得なかった。
――ングッ!
激しい衝撃が身体を突き抜けた。
意地を張って立ち続けたかったが、余りの威力に数歩よろめき片膝を付いた。
カウリから目を切るのは悪手だと思っていたが、嫌でもゼルの目は剣を見た。
間違い無く剣を折られたと思った。
――ウソだろ?
この世界へと落ちて何度も驚いていた筈だが、それでもゼルは驚愕した。
驚く程細身の剣だというのに、刃こぼれどころか僅かな曲がりすらも無かった。
暴力的な衝撃をしなやかに受け流し、何事も無かったかのように鈍い光を放っている。
「さすがだな!」
剣を一度下に降ろしたカウリは、ゼルが立ち上がる間を作った。
仕切り直しを計ったカウリは感心するように言った。
「ダーの下賜したオリハルコンの太刀だ! こんな程度で折れたりはせぬさ!」
普通に考えたって金属工学的に言えばあり得ない靱性を持っている太刀だ。
過去幾度も敵の身体を鎧ごと斬ってはピンチを救われていた。
強靭な鉄製の甲冑ですらも太刀筋さえ誤らなければ豆腐のように切り裂く。
「思えばシュサ帝にも世話になった!」
「お前はそれだけの事をしているからな」
「良かったよ。まだ足りぬと言われなくて」
どこかふざけあっているようで、それでも間違い無く真剣勝負の殺し合いだ。
僅かな時間であったが息を整えたゼルはジッとカウリを見た。
その視線が居た堪れなかったのか、くるりと辺りを見回して呟くように言った。
「さて…… 辺りも静かになってきたな」
あくまで余裕風を吹かせるカウリ。
ル・ガル騎兵の敵執心を煽る事を忘れない老獪な策士は、そろそろ頃合いだと言わんばかりに剣を握りなおした。
中洲にいたフレミナ兵は、ふたりが死闘を繰り広げていた間に悉くル・ガル騎兵が討ち取っていた。
手の空いた国軍騎兵は遠巻きに二人の戦いを見守り、何人たりとも邪魔はさせないと言う空気が漂っていた。
「さぁ! 決着を付けるぞ!」
「どうしても駄目か?」
「くどいぞゼル! 賽は投げられた!」
再び上段から撃ち込んできたカウリ。
ゼルは横っ飛びに飛び退いて、それから鋭くカウンターを放つ。
剣先はカウリの左手を掠め、僅かな血をまき散らしていた。
「年は取りたくないもんだな!」
「全くだ!」
「前はこの程度躱せたもんだが」
「年寄りが無理をすると後で祟るぞ!」
冗談を言い合っているようで真面目に斬り合ってもいるふたり。
ゼルは何とかカウリが剣を収める大義名分を探した。ただ、どう考えても自分が死ぬ事以外には、カウリを収める手立てが思い浮かばない。
――まったく……
――馬鹿正直な男だ
どうあっても収まらないと気がついたゼル。
再びカウリは大きく横薙ぎを打ってきた。
ゼルは軽やかにバックステップで躱し、鋭く一歩踏み込む。
――ッ!
絶好のチャンスだったのだが、ゼルの剣はカウリの鼻先をかすめて終わった。
カリオンの未来のためには、カウリを斬りたくない。積み重ねて来た経験が必ず役に立つはずだ。
そんなゼルの逡巡を見抜いたのか、カウリは次々に大技を放ってくる。
体重を乗せた一撃はゼルを吹っ飛ばすのに十分な威力だ。
「どうしたゼル! もう疲れてきたか!」
「呆れてるんだ馬鹿野郎!」
「それだけ言えればまだ大丈夫だな!」
アハハと笑いながら多くき振りかぶったカウリは、威力十分な上からの振り下ろしをうった。
それをギリギリで躱したゼルは、カウリのヒゲが掴めるところまで踏み込んだ。
この立ち位置なら一撃で絶命するだけの斬り方ができる。
一瞬で様々な事を思ったゼルだが、無意識にカウンターを狙った剣を止める事はできなかった。
これで終わる。そうゼルが確信した時、中洲の中に鋭い声が響いた。
『機動防御! 何人たりとも通すな!』
ル・ガルの国軍騎兵は突然に叫んだ。
カウリとゼルは本能的に『何事だ?』と辺りを見回す。
立ち上がっていたカウリの目は、ル・ガル騎兵の向こう側にフレミナ騎兵の新手を見た。トウリを先頭に飛び込んできたフレミナ騎兵は、僅か数十騎しかない少数精鋭だった。
――ばっ! バカッ!
一瞬だけそっちを見たカウリだが、その1秒の半分にも満たない時間が命取りだった。当然のように躱すと思っていたゼルの刃は、カウリの胸甲ごと逆袈裟に切り裂いた。
――なぜ!
瞬間的にゼルの思考が加速した。
世界の全てがスローモーに流れ、ブチブチと鈍い手ごたえがゼルの手を揺する。
カウリの身体から鮮血が飛び散っていくのが見え、痛みに表情が歪んだ。
──なぜぇぇぇ!!!
どこかで誰かが悲鳴をあげた。その金切り声は聞き覚えのある声だった。
ただ、誰がその悲鳴をあげたのか確認する暇はなかった。
逆袈裟に斬られたカウリの目はまだ生きている。
利き腕一本で振りかざし、鋭く太刀を振り下ろしてゼルを狙った。
「流石だなゼル!」
「カウリ! バカなことを!」
「さぁとどめを刺せ!」
「バカを言うな!」
ならばとカウリは再び太刀を振りかざそうとした。
だが、その身体はかなり深く斬られていて、もはや言うことを聞かない
「ゼル! 痛くてかなわん……」
切り口から吹き出した血はあっと言う間に血だまりを作った。
その中に立ち尽くしたカウリは、薄笑いを浮かべたままゼルを見ていた。
「そうだな。儂だけ楽に死のうなどと、そんな虫のいい話しなどないわな」
長年使い込んだ愛刀を手放し、カウリは中洲荒地に崩れて斃れた。
ル・ガル国軍騎兵が一斉に歓声を上げ、フレミナ騎兵は押し黙った。
そんな中、ゼルはカウリの兜を取り、カウリの懐をまさぐった。
「カウリ! エリクサーは何処だ!」
「……そんな物など持ってないさ」
「なんだと!」
カウリは穏やかに笑った。
遠い日。まだ幼かったエイダと遊んでいた、カウリ叔父さんの顔だった。
「ゼル…… お前の手に掛かって死ぬなら本望だ……」
「バカを言うな!」
「儂は初めから死ぬ気だった。すべて儂の書いた絵だ。これで良い」
グハッと血をはいたカウリはヒューヒューとのどを鳴らして息をしている。
まだ死にきれないカウリは痛みをこらえ、ゼルに微笑みかけた。
「あいつの! カリオンは! カリオンとトウリはどうするんだ!」
「お前の…… お前の全てを奪った儂を怨んでくれ」
「おい! バカ! 死ぬな!」
グハッと血を吐いたカウリは、痛みなど感じぬよう静かに笑った。
生の全てを諦めたような清清しい笑みに、ゼルはカウリが最初から死ぬ気だった事を知った。
「これを持って心中よりの謝罪としたい」
「……カウリ ……なんて事を」
「儂も…… 気が晴れた……」
「死ぬんじゃない!」
「これで良いのだ」
血だまりに横たわったカウリはゼルの手を握った。
「……あぁ ……わかった わかったよ」
「……良いのだ これで」
生涯三百余戦を戦った武帝の右腕には、もはや人の手を握りつぶす力もなかった。
「ゼル……」
「なんだ」
「妻を…… 頼む……」
「カウリ……」
「レイラだけじゃ無い。ユーラも頼むよ。そして……」
カウリの顔に愛妻家の色が浮かんだ。
不幸な身の上の女たちを拾っては、誰かしら騎兵の妻にと気を揉んでいた男だ。
なにより、残していく妻が心配なのだろう。
「なんだ、早く言え」
「出来ればシルビアもオリビアも…… 次の人生を世話してやってくれ。あと」
再びケパッと血を吐いたカウリは優しい笑顔で遠くを見た
「リリスを頼む」
「バカを言うな! カウリ! しっかりしろ!」
ゼルは騎兵たちに声を荒げた。
「誰か! エリクサーを持っていないか!」
超高級品であるエリクサーなど並の騎兵が持って居るほうがおかしい。
それこそ将軍級の一握りが持つものだ。
「たの…… む……」
最期にそう呟いてカウリは事切れた。カウリの身体から力が抜けていく。
脈動していた出血がパタリと止まった。そして、青い瞳から焦点が消えた。
「カウリ!」
ゼルは思わず叫んだ。
「死ぬな! 死ぬなカウリ!」
ただただ。
叫ばずにはいられなかった。
「まだやるべき事が山程有るじゃないか! お前だけ勝手に抜け落ちるな!」
同じタイミングで空が鳴き始め、ポタポタと滴が降り注ぎ始めた。
どこまでも清廉潔白な生き方を貫いた男の死を、天が嘆くように……
「カウリ……」
そう呟いたゼルは天を仰いだ。ポツポツと涙のような雨が降り始めた。
ゼルの発したエリクサーは無いかの声に反応したのか、クラウスがやって来た。
そして、その向こうにはトウリを含めたフレミナの僅かな騎兵もだ。
「父上……」
馬から下りて歩み寄ったトウリ。
ゼルはカウリの亡骸の脇へペタリと座り込んでいた。
「ゼル様」
「スマン…… カウリを…… カウリを……」
雨に打たれるゼルは隠す事無く涙を流した。
その姿を見ていたボリスは突然、雷に打たれたように叫んだ。
「きさまらっ!」
驚いて振り返ったトウリ。
だが既にボリスは剣を抜いていた。
「すべて仕組んだ事かぁ!」
「まて! 落ち着け! 待つんだ!」
「よくも! よくも騙してくれたな!」
半狂乱になったボリスは、すぐ近くにいたクラウスをいきなり斬りつけた。
瞬時に絶命したクラウスを踏み越え、ボリスはトウリに迫っていった。