塩見家の食卓
目と鼻の先には。
「・・・・・・食べる?」
「食べるかぁ! なんぞよこれ、ここは爆心地か!?」
我が妹、愛莉は、少し考えた後、頷く。
「そうね。アタシにとってはキッチンは戦場だもの。爆心地よ」
「うるせぇよ! これ、本当に料理か!?」
なんだよ、このラブコメのヒロインが作ったみてーな料理。
「手を加えてあれば、例えほこりくずでも料理よ」
「せめて食わせろ!」
全く・・・・・・。俺は、皿の燃え残りを三角コーナーに捨てる。
愛莉が文句を言ってきたが、無視する。・・・・・・てか、言う資格なくね?
「ったく。女のくせに料理一つ出来ねぇで」
「いいんじゃない? 隆介だってエネルギー使う方向間違ってるじゃない」
ボランティアは必要だと思うけどなぁ。
そもそも、事の発端は三時間前。親が休日デートとやらで外出中。で、飯をどうするかって話。
「全く、お前に任せたのが間違いだったぜ。素直に出前頼もうか」
「そこに頭が働いていながら、アタシに料理作らせたの!?」
「止めたらつまんないし」
愛莉が痛烈なボディーブローを放ってくる。とりあえず右手でガードすると、俺は出前のメニューをテーブルに並べる。
「お、これなんて良くね? ポカリのデリバリー」
「何が良いの!? それに、メニュー一択しかなくない!?」
「ん、以外とメニューに富んでるなぁ。『ポカリ』『赤ポカリ』『青ポカリ』・・・・・・」
「なんかカラフル! 怖い!」
まぁ、頼まないけどな。今度は、愛莉がメニューを漁る。
「あれ、アクエリアスのデリバリーってものがある--」
「うん、他にないか?」
「あ! アクエリアスのポカリ割りってのがある!」
「何で!? なんで割っちゃったの!?」
なんだよ、この出前。まともなのはどこにあるんだ。
「いいの見つけた~」
愛莉が笑う。あぁ、まとものがないな、このパターン。
「ポカリかアクエリアス関係ないよな・・・・・・」
「大丈夫。その名も、スポドリ軒!」
「ひとくくりぃ!」
「えっと、ゼロナナゴの・・・・・・」
「電話すんな! 却下だ却下!」
愛莉の手から、携帯を奪い取る。・・・・・・つーか、何でこいつはこんなに乗り気なんだ?
「そろそろ真面目に出前探そうや」
俺の提案に、愛莉は首を振る。
「ん、いや、もうちょっと遊ばせて」
「自覚はあるんだな! ていうか、実際にある出前を遊びとか言うな!」
その時、愛莉の腹がグルルと鳴った。
「・・・・・・出前探しましょ」
「お前の腹優先かよ!」
まぁ、探すんだけどな。
「うーん、まともに食べられそうなのが、『世界三大珍味デリバリー』」
「くぅぁぁああ! 食いてぇけど、そんな金はない!」
「『金箔のデリバリー』というのも」
「だからそんな金はねぇ! つーかなんだそのデリバリーも! あとお前真面目に出前探すって言わなかったか!?」
突っ込みが忙しかった。
「分かったわ。でも、隆介・・・・・・」
「何だよ?」
「もう出前ないわよ」
「・・・・・・ノォオオオ!」
なんだよこれ、徳島のデリバリー業界、大丈夫なのか!?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
部屋に漂う重い空気。
・・・・・・しょうがない。
「愛莉」
「なぁに?」
「・・・・・・俺、腹減ったから、普通にメシ作るわ」
「・・・・・・ふざけないでよ!」
ふざけてねぇって。俺は頭を掻きながら呟く。
「いや、腹減ったし。メシ作るぐらいなら千羽鶴折りてぇところだが、メシなしはいやだしな」
「あー! なんかムカつくから今日の夕飯はコンビニ弁当ね!」
・・・・・・。
「・・・・・・最初からそう言えやこのアマァ!」
「わー隆介がキレた! 意味なく怒鳴る最近の若者コワイヨー」
「年下が言うことでもないだろ!」
「オニーチャン、ホントハオコッテナイデショ?」
「あぁ、そうだな。しかし・・・・・・」
俺はとりあえず、台所の包丁を全力で握る。
最後に妹との思い出を思い出してみようとしたが・・・・・・。
・・・・・・。
「・・・・・・まともな思い出がねぇじゃねぇか!」
「ほ、包丁しまってよ! 分かった、私はコンビニ弁当で、隆介は自分で作ってね」
「あ、俺は自分で作るんだ・・・・・・」
しかし、ここでコンビニに逃げたら負けな気がした。冷蔵庫を覗く。
・・・・・・焼酎の瓶が一本、転がってきた。その他には、なにも入っていなかった。
「愛莉、俺カルビ丼ヨロ」
「自分で買いに行きなさいよ!・・・・・・まぁいいわ、ダイエットシリーズでいいわね」
「良くねぇ!」
なんだかんだで、今日も塩見家は賑やかだった。