生徒会の与太話 後編
俺は倉木さんを眺める。小さな魔女だ。
いや、まぁ真帆は中身的な意味で魔女だけどな。
「大体、あんな男前な戦国武将がいるのは戦国BASARAぐらいよ」
会長がショックを受けていた。ゲーマー乙です。
「だからって、トラウマ植え付けるのは違うでしょうよ。破滅のベクトルがおかしいですよ」
「まぁ、確かにそうね。不幸って言うのは美味しいけど、度合いによっては不味くなるものだしね」
ふぅ、流石にそれぐらいは分かっているよな。
「でも、どれくらいの範囲なんですかね?」
「人それぞれね。不味さは私なら大体見当はつくけど」
「へぇ、どのくらい不味いですかね?」
言ってから気づいた。墓穴掘った。
「そうね。挽き肉に玉葱と塩胡椒を加えて、練ったものをフライパンで焼いて、ケチャップとソースをブレンドしたものをかけたもの位不味いわね」
「ハンバーグでしょ! ハンバーグっていうでしょ、それは! 普通に美味しいじゃないですか!」
俺が力の限り叫ぶと、倉木さんは残念そうに首を振る。
「私、トマト駄目なの」
「デミグラスソース駄目だった! 倉木さん基準で駄目だった!」
「あ、でも、ケチャップは好きよ、私。よくあるじゃない、そういうの」
「じゃあ、普通に美味しいものを普通に美味しく頂いているじゃないですか!」
確かにトマト嫌いでケチャップ好きな人多いけども! ここに応用する必要ありますかねぇ倉木さん!
「そうそう、私がトマトが駄目っていうのは、見ると赤色の液体を--」
「吸血鬼かなんかかアンタは!」
えっと、話を戻して。
「じゃあ、度合いとか最早関係ないじゃないですか」
倉木さんは、また首を振る。
「甘いわ、ムカデとゴキブリを練ったものを飴に練り込んで。まぁそれは兄にあげるとして、綿飴に蜂蜜かけて食べる妹くらい甘いわよ」
「あぁ、確かにそれは甘い! てか胃もたれ起こすだろ! つーか、兄!」
倉木さんは悲しそうな眼で俺を見つめる。
「残念ね。私のタカスケへの評価は苦くなってくわ。ニコニコしながら見てくる妹の前で、さっきの綿飴を舐める兄くらい苦いわ」
「それはどっちかというと妹の人格構成の方に問題がありませんか!?」
やべぇよ、どうしたら倉木さんのターンが終了するんだ、これ。
・・・・・・しょうがねぇ、あの戦法使うか。
ツッコミ疲れた。
なんとかしてターンを小諸に戻さないと。
要はあれだ、下手にツッコミを入れるからこうなるんだ。
「・・・・・・倉木さん、話を戻しますが」
冷静に対処するため、声を抑える。
「どうしたの? 大好きなジョン・レノンのCDを買ったら、嫌いなビートルズの絶版CDが入っていたような顔をして」
「そうですね。破滅というのは一般には受け入れがたいものですよね」
「・・・・・・」
倉木さんが悔しそうに唇をかむ。・・・・・・眼がとてつもなく怖い。スゴく突っ込んで欲しいんだろうな、なんでジョン・レノンが好きでビートルズが嫌いなんだって。
「でも、流行る理由が流行んないんですよね。どっちかといえば、マイナスの感情が発生するものでしょう?」
「無視しないで。残念よ、蜂に刺されそうで逃げてたら通り魔に刺されたくらい残念だわ」
「うーん、俺にはよくわかんないです。倉木さんわかるなら教えてください」
「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・」
ヤバい、倉木さんが泣きそうだ! 普段がアレなだけに可愛いかも!
しかし、倉木さんもやっぱり無視には弱かったか・・・・・・。
「だけど、破滅とは面白いものよ」
「なにがですか!」
いや、話が進みそうだ。あえて目を瞑ろうか。
「20正規少年や漂流教室、デスノート・・・・・・意外と終末ものは流行るわ」
ふむ、確かに。
「ドラゴンボールとか」
「違うでしょう!? 終末もの違うでしょう!?」
目を離したらこれか。
倉木さんが流石に軽く謝る。もちろん口先のものではあるが。
「でもあながち間違ってないわ。魔神ブウなんて、負けたら全世界が滅ぶところだったのよ」
「まあそうなんですけど! そうなんですけどね!」
反論が出来ないのはとても息苦しいことだったりした。
生徒会室のみんなが苦笑いしてくる。
ちなみに、俺の生徒会での役割といえば、避雷針かもしれない。
「そもそも、物語ってそういうバックボーンがあるから、逃げられない状況下で、緊迫感がでるものなのよ」
「なんか言ってることが意味不明なのに、なぜか言いくるめられてる自分がいるぜ!」
駄目だ、相変わらず倉木さんには勝てる気がしない。
「そうねぇ・・・・・・。案を出したのは閑だし、続きは彼に言ってもらうわ」
俺はハッとし、倉木さんを見る。彼女の目は、慈悲の光が宿っていた。
生徒会のペアだからこそできる、アイコンタクト発動。
【ど、どうしたんですか?】
【だって、タカスケ疲れてるでしょ?】
【まぁ、この生徒会役員の聞き役やってますしね】
一番疲れるのは倉木さんだって。目を逸らしていたので、伝わらなかったようだ。
【まだ閑がいるし、これくらいで勘弁しておくわ】
【・・・・・・あぁ・・・・・・】
【どうしたの?】
【・・・・・・別に】
アイコンタクト、強制終了。
倉木さんの優しさでなんとかのこりのターンを小諸だけに固定出来た俺。
「・・・・・・で、その流行の『破滅』の具体案はなに?」
小諸は少し考えた後、笑顔で話す。
「そうだなぁ・・・・・・この前読んだweb小説なんですけど--」
「成る程、じゃあ小諸はその世界で頑張ってください」
「どの世界!?」
ぶっちゃけた話、俺がホラー苦手とはいっても、それを上回る嫌な話だった。
「面白い話だから、最後まで聞いてくださいよ」
「まぁ、いいけど・・・・・・」
俺は溜め息を吐くと、耳を傾ける。
「ある日、彼女とデートに行っていたら、空から何かが降ってきてですね・・・・・・」
暗いトーンで語り出す小諸。俺と同学年以上の誰か教えてやれ、俺のホラー嫌い。
「黒くてゲルみたいなものが雨みたいに降ってきて、慌てて二人はタクシーに乗るんですけど・・・・・・」
うう、ここで話を飛ばすという、怪談の話し方の上等文句を使われると、かなり怖いんだが。
いや、まて。小諸は会談話をしているわけじゃない。つまり、順を追って話すはずだ。
「タクシーで、彼女は急にゲルを貪り食うように舐め始める。男は聞くんだ、それは何か。彼女は答える。『コーヒーゼリー』と」
・・・・・・。
俺は邪道の倉木さんと、敵対視する会長の三人で軽く顔を見合わせ、同時に口を開く。
『続きはwebで』
「全部ウェブだよ! 今からその終末ものの話をしようと思ってるの!」
俺たちは呆れ、適当に小諸を滅多打ちにすることにした。
「それだけ言えりゃ満足だろ?」
「なんでそう思ったんですか! なんで彼女がゲル舐めたこと言って満足すんですか!」
「ゲル・・・・・・舐める・・・・・・じゅるり」
「倉木さん!? ついに趣味丸だし!?」
「・・・・・・『女子×コーヒーゼリー』。うん、私はいけるわ!」
「何が!? あと現実世界でその方程式は成り立ちませんから!」
「あんたに現実を語る資格はないわ」
「あんたらにもねぇ!」
「今回は、諦めろ」
「そんな某Mさん的なこと言われても!」
「そうね。そのサイトなら『時限の狭間』の方が面白いわ」
「知ってた!? 倉木さんこのサイト知ってました!?」
「分かった。じゃあ後で舞に聞いて見ておくから」
「はぁ・・・・・・そうですか」
「よーし、隆介、帰ろ」
「聞く気ないよね!? 見る気ないよね!?」
「夢、この小説はね、私好みのジャンルよ」
「!?」
「小諸・・・・・・サイテー」
「何で!? てか多分そんなジャンルではないですよ! てかじゃあ倉木さんもサイテーに入らね!?」
「小諸・・・・・・女性をサイテー呼ばわりするなんて、サイテー」
「塩見さん!? くっ・・・・・・女の子には勝てない!」
小諸・・・・・・撃沈。
九月の中旬。放課後の生徒会室にて。
小諸が机に突っ伏していた。
「もういい、なんか疲れた・・・・・・」
力のない声。少しばかりやりすぎたかな。
しかし・・・・・・。
「それだけじゃ困るんだよな・・・・・・」
何故かなんて決まっている。
なぜなら、今日の会議は・・・・・・。
得るものが、何もなかったんだから!
どうするよ? 今日の会議の結果どうするよ?
「会長ぉ」
そう言い、会長を見てみる。暴走して壊れたマリオネットを彷彿とさせる眼をしていた。
ジャニーズが気になって変な議題を出したくせに。彼女は駄目だ。
「・・・・・・倉木さん」
そう言い、書記長を見てみる。妖しく高笑いするウィッチの眼をしていた。
苦手ジャンルとはいえ、好き放題荒らし、テキトーな終わり方をしたくせに。彼女も駄目だ。
「・・・・・・真帆ぉ」
そう言い、女子副会長を見てみる。人を羨ませ、巻き込むキリストの目をしていた。
終始自分の趣味を貫き通したが、他人の心を抉るジョークをしたくせに。彼女も駄目だ。
「・・・・・・。・・・・・・小諸ぉ」
そう言い、書記助手を見てみる。自我のために社会を捨てたニートの眼をしていた。
ウェブサイトの話で、魔女の侵入を許したくせに。彼も駄目だ。
「・・・・・・。・・・・・・伴野ぉ」
そう言い、会計を見てみる。身を犠牲にし、戦う戦友の眼をしていた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・あれ?」
生徒会全員の視線が俺に向けられる。
そうだ。そうだった。
「例え今までの話が無駄でも。俺たちには最後の切り札がある!」
みんなの目が、大きく見開かれる。その視線は、伴野に向いていた。
俺は宣言する。
「俺たちには、伴野がいるんだよ!」
『!』
そうだ、出来ない。こいつがいる限り話は無駄になり得ない。
「いや、塩見さん、そんなことは・・・・・・」
「よし、伴野、これからは何が流行ると思う?」
伴野の動きが止まる。人差し指を顎に添えて、何かを考えるようなポーズを取る。
「う、うーん・・・・・・」
そうして伴野は考えて。
考えて。
考えて。
そしてたっぷり十分。
「流行って、何が流行るかその時には予測できないから流行なんじゃ・・・・・・」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『ですよねー』
というわけで、しっくりこないまま今日の生徒会は終わるのだった。