生徒会の与太話 中編
正解がないなら、聞く人は一人。
倉木さんは精神衛生的に悪い。絶対真帆の方がましなはずだ。
「おーい、真帆。これからなにが流行ると思う?」
彼女は、無表情を帯びたまま顔を上げ、今日初めて口を開いた。
「・・・・・・占い・・・・・・」
おぉ、わりとまともな意見が来た。
いや、しかし・・・・・・。
「でもさ、それっていつだって流行ってるんじゃないか?」
そういうと、彼女は動揺することなく付け足した。
「黒魔術で・・・・・・」
「なにその切り口! 異様に斬新なんだけど!」
やっぱり変だった。
占いと黒魔術のマニア、浅黒真帆。・・・・・・まともな意見が出るはずもなく。
「毎回思うんだけど、どうやって黒魔術で占うんだ?」
そもそも、黒魔術なら凶しかでないだろ。
「洗脳魔法で、行動を制限・・・・・・強制的に占いを真実に・・・・・・」
「違法だぁぁあああ!」
もう不幸しか感じられねぇ!
「・・・・・・占う度に、世界の誰かが不幸に・・・・・・」
「謝れ! とりあえず人を幸福にするために残りの人生を捧げろ!」
俺と同じ道を歩いた方がいいんじゃないのだろうか。俺たち副会長なのに。
「・・・・・・そう考えると、隆介のトラウマは・・・・・・私の占いの--なんでもない・・・・・・」
「なんだって!? 今なんと!? 俺のトラウマは黒魔術の影響だったのか!?」
新事実、発覚。こいつのせいで、俺の人生は。せっかく、薄れてきた記憶が。
「・・・・・・多分、冗談・・・・・・。ブラックユーモアだから、ブラック・・・・・・」
「黒魔術のせいでぇえええ!」
小さく笑う真帆に、俺は全力で叫ぶ。
お前のせいで、お前のせいで、おまえのせいで、オマエノセイデ・・・・・・!
「タカスケ、落ち着いて! ジョークだから、笑い所が存在しないジョークだから!」
「離してください倉木さん! こいつはジョークと称して心を荒らすんです!」
倉木さんが俺を宥めているので、しばらくお待ちください。
三十分後。
「・・・・・・で、そのトラウマの源が流行る根拠はあるのか?」
俺の心廃れました。
「・・・・・・黒魔術、当たるから・・・・・・」
「当たっても嬉しくないだろ!」
確かにこいつの予言はやたら当たる。正当率は九割といったところか。
しかし、それが黒魔術のせいなら、不幸になった人も沢山居るわけで。
「てか、当たるからなのか? 真帆が『黒占い教』とかいうヘンテコな宗教やってんの」
すると、真帆は静かに首を横に振った。
「私は、占うだけ・・・・・・。宗教は、弟が勝手に・・・・・・」
「・・・・・・姉弟揃ってダメ人間か!」
もうなんなんだろう、この生徒会。っていうか、俺の周辺。
黒占い教。
教祖姉(真帆)。開祖弟(仏)。・・・・・・ダメ人間共。
「なんか、嫌だな」
正直な感想。伴野が補足する。
「浅黒さんの弟さん、わたしのクラスにいますよ」
・・・・・・しかもこの学校にいたよ畜生が。どうか生徒会に途中参加しませんように。
と、真帆がいきなり口を開く。
「・・・・・・そうだ--」
「速攻魔法、シャットダウン発動! 真帆のターンは強制終了」
「え・・・・・・」
みんなが苦笑いする中、俺は次の発言者を探す。
聞いたのは二人。発言するつもりがないのが俺。
「塩見さん、今日は発言しないんですか?」
伴野が聞いてくる。
「うーん、テーマに沿って話すのは苦手で。この生徒会だと、必然的にツッコミになってなぁ」
彼女は何か悟ったように頷くと、呟く。
「わたしもです。個性が弱いのでどうも・・・・・・」
「そうは思えないんだが。まぁ、おとなしく聞くしかないってのが現状だな」
「そうは見えないんですけども」
・・・・・・とりあえず、伴野も発言しない、それでいいか。
あと二人。もしかすれば、小諸は参加しないかもな。
「よし。おーい、こも--ろ?」
未だ討論していた小諸と会長は、ますますヒートアップしていた。
「だから、意味わかんねぇよ、なんだ、ドルオタで廃人ゲーマーって!」
「二次元半の存在よ! 図形にしたらZ軸は45度ね」
「立体なのはわかるけど、明らかに歪んでるよな、それ!?」
「二次元の存在に留まっているあなたに言われたくないわ!」
「何度も言わせんな。俺はZ軸を引かないんじゃない。引けないんだ!」
いや、そんな堂々とカミンクアウトされてもリアクションがわかんねぇよ。
とりあえず二人を宥め、落ち着かせる。
「さて、小諸はなんか意見あるのか?」
「はい、パソコンネタは禁止されていないので」
「ッチ・・・・・・」
「塩見さん!? なんで舌打ちするんですか!」
俺はとことん無視を決め込む。すると、会長が声を上げた。
「パソコンネタも禁止!」
いや、それは無理だね。俺が心の中で笑うのと同時に、小諸が反論をした。
「今日の議題は流行。世の中で最も情報の早いネットワークは禁止できない」
会長が悔しそうに呻く。俺はビックリして小諸に尋ねる。
「小諸、なんかいつになく真面目だね」
「部活やらずに会議して、結果なしはいやですから」
「お、同感」
小諸はニコ中を除けば、生徒会一まともと言っても過言ではない人間だ。
俺もネタに走れない状態ならそれなりにまとも・・・・・・だと思う。
根本的に変人な女性陣とは違うんだよ!
俺たちはそれぞれ妖しく微笑むばかりだった。
「なぁ小諸。早速だけど、なにが流行ると思う?」
小諸は少し考えた後、話し出す。
「・・・・・・さっきの塩見さんの言うとおり、アイドル業界は廃れてます」
「俺そんなに酷いこと言った?」
いや、まぁ会長相手には言ったけども。
「メディアから攻めますが、バラエティーといえば、クイズ番組がやたら多いですね」
「確かに、バカ回答が売りでも、あざといしな」
メディアから見るのか。なら、意外と期待できるかもしれないな。
「そういえば、大抵の番組は変な改革起こして陳腐なものになってますよね」
伴野が参加する。
「そうだな、はるか。芸人も一発屋が増えてきてるしな」
・・・・・・確かに。俺は、コントの方が好きだけど、最近は使えるネタが限られて、やたらハードルが上がってるしな。
「歌手の補足をすれば、AKBとか、島田のあれとか、顔だけで売ってる感じ」
確かに、多人数で個人のキャラと歌唱力を隠してるしな。
「売れる小説は、芸人中心のテレビで取り上げられた奴か、安易な萌えに走るライトノベル。アマの書いた設定の薄いケータイ小説」
う、うーん。こう聞くと、最近はかなり危ないものになっているのかもしれない。
「さて、二次元の住民が三次元を見て出した、流行るものは?」
小諸は微笑み、高らかに宣言する。
「破滅です!」
「・・・・・・さっきの会話上納得できるけど、それが流行る世界はイヤだぁぁぁあああ!」
すると、さっきまで黙っていた倉木さんが、顔を真っ赤にして乗る。
「破滅・・・・・・いいわぁ。何から始める? 感染症? 第三次世界大戦?」
「どっちもいやです! ってか、あんたが始めるのかよ!」
「でも、戦争なんて歴女が泣いて喜びそうよ」
「泣き叫びますよ! トラウマもんですよ!」
くそ、倉木さんにターンが回ってしまったじゃないか。
救いと言えば、倉木さんの得意なジャンルじゃないことだけか・・・・・・。
「トラウマ・・・・・・いい響きだわぁ」
「あんたにはわかんない、トラウマ所持者の苦しみなんて!」
倉木さんは、つまらなそうに呟く。
「トラウマの苦しみ? あなた程度のトラウマなんて、知らないわ」
「くっ・・・・・・!」
俺は爪をかむ。どうにかしてターンを小諸に戻さないと。
倉木さんは、マイナスのファクターであれば、苦手ジャンルでも平気で荒らしてくるからな・・・・・・。