サンタ・ナイト・バースディ 第四話
隆介は、裏門から幼稚園を抜け出そうとしていた。良くないってことは、隆介にも分かっている。
特に、この場に居場所が見付からない――なんて、高度な理由があったわけじゃない。
ただ、居心地が悪い。それだけだった。
でも、彼くらいの歳の子には、それだけでも充分だった。
「りゅうすけ!」
急に呼ばれて立ち止まる。見れば、荒川が裏門の所に寄りかかっていた。
~脱走~
顔を強張らせていた隆介だったが、その人物が荒川だと分かると、顔をほころばせた。
「あ、せいちゃん」
隆介が走り寄ると、荒川がハンカチで、隆介の顔を拭った。
「あ、ありがとー」
「いんや、ごくろーだったね」
荒川は、幼稚園児に似付かわしくないことを喋る。
隆介も、その影響で、多少は詳しかった。
「うん。つかれた~」
「そっか。でも、ホントにさいきんヘンだよ、りゅうすけは」
それは隆介自身が一番分かってることだったが、反射的にとぼけていた。
「そうかなぁ?」
聞いて、荒川はうんうんと頷く。
「それと、さっき、いおうとおもえばいえたんじゃない? ホントのコト」
近くにいたので、ああなった理由を当然荒川も知っている。
しかし、この言葉自体は、荒川が意図的に使った牽制ではあったが。
そんな、歳不相応な薫りを共有している所が、隆介が荒川と親しい理由だった。
荒川は、隆介を面白い奴としか捉えてないが。
「……おとなって、いつもそうだもん」
大人は子供のことを理解しようともせず、都合のいいように解釈する。
それを、隆介は理由にしていた。
荒川は楽しそうに笑い、隆介に言った。
「そと、いけば?」
隆介は、笑顔で裏門から外にでる。
「じゃあ、ちょうじりあわせぐらいはしとくよ」
荒川の言葉も、大して隆介の耳に入らなかった。
それほどに、隆介は浮かれていた。
ただ、聞こえてはいたので、
「ちょうじりあわせってなんだろ? ゲーム?」
なんてことを呟いていた。