サンタ・ナイト・バースディ 第三話
天皇誕生日。いつものように、部屋に残っている園児に、暢子はピアノを聞かせていた。
と言っても、聞いてはくれないが。暢子は弾き終え、園児にピアノを譲る。
広場を見ようかと思うと、先生が一人血相を変えて走ってきた。
「加藤先生、息子さんが泣いてますよ!」
「えぇ!?」
慌てて、暢子は駆け出した。
~親バカ~
暢子が広場に行くと、話の通り、孝司は泣いていた。
彼の向かいで別の子が泣いていたので、彼女は喧嘩かと思った。
しかし、二人の間に立っていた人物を見て、考えは吹き飛んだ。
――塩見隆介。
彼が一方的にやったかと、暢子は直感した。
「隆介くん、二人を泣かしたの?」
強い口調で言ってから、暢子は後悔した。
全否定よりも、事情を聞く方がいい。もっとも、親の情がある彼女には酷な話ではあるが。
しかし。
隆介は頷いた。そして、何か言おうとしたが、暢子に遮られる。
「どうして泣かせたのかなぁ? 隆介くんは、嫌なことされるのやだよね? それはね――」
「せんせい、ぼくは――」
「後で聞いてあげるから、まずは、先生の話を聞こうね」
暢子は笑顔で接したが、余計に隆介を傷付けた。
それから、少しの間、説教が続き、最後に。
「……でも、最近隆介くんどうしたの? もっと元気じゃないと隆介くんらしくないなぁ」
「それで、ヒトがげんきになるとおもってるの?」
子供らしく、しかし鋭く言った隆介は、唇を噛み、手を握りしめ、寸での所で泣かずにいた。
泣かなかったのは、暢子こそ知らないが、天真爛漫な愛莉のいる家庭に引き取られたことで、発達した理性があったからだが。
「隆介くん!」
言葉が思い付かず、思わずきつく言ってしまった。
隆介は、どこかへ走って行った。暢子は、息子を優先した。
「孝司、大丈夫?」
孝司に差し出した暢子の手は、はねのけられた。
「やめてよ! ここじゃあ、ぼくはおかあさんのこどもじゃない!」
孝司も、気付けばもう一人も歩きさっていた。
暢子は、何も出来ず、ただ立ち尽くしていた。
彼女の視線の先にいた荒川は、冷たくその様子を見ていたが、直ぐに興味をなくしたかのように、目を逸らした。