サンタ・ナイト・バースディ 第一話
保育士をしていると時々興味を持つ。
子供はいつまでサンタクロースを信じるか。
多いのは、小学校入学前後辺りに、寝付けなかったのが原因で、親がサンタをしているのを知ることだと思う。
私――加藤暢子の息子がそうだった。
でも。
もし、サンタを信じない幼稚園児が集まったら、どうなるんだろう?
そして、その一人が問題を起こしたら――
今回は、そんなお話。
~それらしい始まり~
戸を開けると、十二月の風が吹きすさぶ。暖房になれた手が、瞬間的にかじかむ。
徳島でも毎年そうだと、手に息を吐きながら、暢子は砂場の辺りにを見る。
「みんなー! お遊戯室に入りましょ!」
物分かりの良い子や、寒い子はすぐ来る。遊び足らない子は、手腕で勝負。
「もうすぐ、何の日か、知ってるかな?」
担当の組の園児が集まったのを確認して、暢子は問い掛ける。
皆は、先を争うように声をあげる。
『クリスマス!』
元気いっぱいな声を聞いて、暢子は笑顔になる。でも、目はある子たちに向かっていた。
荒川聖柊。塩見隆介。加藤の息子の孝司。
息子はもうサンタを信じてないから、しょうがないと思う。
荒川はいつも幼稚園――特に行事に興味がない。
それはそれでいいというのが彼女の方針だ。
しかし……。
「せんせー! どうしたの?」
少しの間に、他の園児が暢子をじっと見ていた。彼女は慌てて笑顔になる。
「大丈夫だよ。じゃあ、今日は皆がサンタさんにお願いするものを描いてみようよ!」
「おれはゲーム!」
「おにんぎょうさん!」
そんなことを皮切りに、皆が騒ぎだす。暢子は慌てて、
「欲しい物を紙に絵で描こうね」
と付け加える。
『はぁーい!』
運良く皆動いてくれた。手が空き、隆介と話せる。
「隆介くんは、何が欲しいのかな?」
「……いい」
見向きもされずに返される。いつもは、寧ろ他の子より活発なんだけど。
困ったが、繰り返すしか思いつかなかった。
「なにかあるんじゃないかなぁ? ゲームとか、絵本とか――」
「いいよ。ぼくにはサンタさんこないから」
「そんなこと――」
全ていう前に無視されてしまった。
隆介は、普通では考えられない不機嫌さで加藤を睨み、荒川の方へ歩いていった。
それでも尚、彼は笑うことがなかった。