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半次元の差 後編

 両頬に湿布を貼った田尾が頬を擦る。

「痛ったぁ……」

「喧嘩でもしたのか?」

「あんたとね!」

俺がせせら笑いすると、怒鳴られた。

打開策を一つ提案。

「鼻にキズバンは?」

「まだ殴るの!? あたし小諸の三個上だよ!」

「来週には二個上だから大丈夫だ、問題ない」

「大問題よ!」

流石に朝三暮四は通じないか。


田尾ってリア友と二人プレイとかすんのかな?

「田尾」

「どしたの?」

「やらないか」

「何を!?」

彼女の甲高い声を丸無視して、パソコンを漁る。

「いいのかい? こんな誘いにほいほいとついてきちまって」

「ついてきた覚えは全くないわよ!」

「俺はノンケだって、構わず喰っちまう男なんだぜ」

「喰っ……!? それ異性間だとただのセクハラ!」

「ごめんなさいと小諸は田尾に謝ります」

「何故説明口調?」

アニメには通じてないのか。まぁ、俺もネタしかわからんが。

と、田尾が自分を棚に上げて呟く。

「何のネタかは分からないけど、セクハラは辞めてよね」

「ボク、お母さんにそんなこと言われなかったもん!」

「そりゃ言う必要がないからねぇ!」

「六法書に書いてないもんね!」

「それ何歳の設定!? 罪なら書いてあるけどね」

うーん、一般社会を外れた人間は、意外と三次元を捉えているから困る。

言葉のあやで誤魔化せると思ったんだが……。

「で、なにやるの?」

うーん、マリオ系統はありきたりだし、一人でもできる。

ふむ……。

「アイスクライマー」

「あ、それ一人二役でやれるから」

「どんな超レベルプレイヤーだよ!」

恐ろしい。二人でも大変なのに。

「じゃあ簡単なところでスマブラは?」

「あぁ、あたし一回で大会優勝して飽きたから」

「……強いんだな」

俺は肩を落とす。才能が傾き過ぎだ。

まぁ、変則ルールならいいかな。

「ぶっ飛びMAX、アイテムMAX、東MAX、ボム限定なんてどうだ?」

「東MAX!? ……いいでしょう。あたし、そのルールで死んだことないわよ」

「えぇー」

速攻で負けました。


「もぅ対戦飽きたから、パソコン返して。曲ダウンロードする」

他人がいるときにするなよと言いたいが、所有権上渡す。

ダウンロードしているのを見て。……もう頑張ったよね、俺?

「いい加減にしろ、このニコ中がぁ!」

「えぇぇぇええ!?」

二度あることはなんとやら。今度は腹にアッパーが決まった。


咳こみながら、田尾が反論する。

「なんでよ! あたしはYouTubeで普通の歌を――」

「詳細を見てみろ」

画面をスクロール。そして一行。


『※ニコニコ動画より、転載』


「な、なんですってぇ!」

「ふはは、アニメを除く動画の八割がニコニコと言っても過言ではない!」

ニコニコ動画もYouTubeも同じさ。

「くっ……無駄に熱い!」

「まぁ、ニコ動のMAD職人だからな」

田尾の顔がきょとんとなる。そして一言。

「そうだったんだ。家ってどうなってるの?」

「ん。パソコン三台とスキャナー、録画録音器具系統……そんなもんかな」

他の家よりは変だが、この家よりは綺麗だ。

「どうして三台なの?」

「一つがニコ動、ツイッター、2ちゃん用。一つがダウンロード、保管用。一つが制作用」

「成る程。フィギュアでいう鑑賞用、保存用、御使用ってことね」

「てめぇて一緒にすんな! つーかなんだ、御使用って!」

一緒にされるのはすげぇ嫌だった。

「やっぱ、お前ニコ中の素質あるわ。YouTubeでサンヘルプさんのゲーム実況でも見てみたら?」

「そんな素質ない方がいいよ! ……でも、ゲーム実況、かぁ」

何か考え込んだ表情をする田尾。……やっぱ揺れるのか。

「つーか、むしろやってみるのはどうだ? ブログの延長で、より多くの人に伝わるだろ」

「うん、一理あるわね。……でも、やり方わかんないよ」

「やるのかよ」

田尾が頷く。俺は溜め息を我慢する。

出来るかよ。

あんなに笑顔の会長の前でさ。


動画の撮影、編集、投稿のやり方を簡単に教える。

「分かったか?」

「うん。で、その、小諸……」

頷いた後、田尾が顔を染めて小さく言う。

「ゲーム実況でコラボとか……してくれる?」

俺は頭を掻く。

「全国単位で俺をいじめたいのか、この外道が」

「そうゆう解釈されるんだ……」

田尾はがっくりと肩を落とした。……どうした?


ケータイが鳴ったので、手に取る。

『ハァーイ、元気』

 その瞬間、俺は「生徒会でのおどおどした僕」になってしまう。

 これは残念ながら、自然となってしまうものだ。

「……倉木さん、どうして休んだんですか?」

理由は大体分かるが、一応はっきりさせたい。直ぐに、倉木さんの声が聞こえる。

『面白そうだから』

絶句。

どうしつ塩見さんといい、変人の行動原理っていうのは……。

『でもねぇ、予想外に盗聴器の電池が切れちゃったのよ』

「なっ……!」

それって、今までの筒抜けってことか?

 隠すことがなくても、これはくる。

逃げないと。

「……会長には?」

『つけたのが随分昔だから、波長が合いにくくて』

やばい、蝕まれる。

取り敢えず電話を切り、田尾の腕を引っ張る。

「行くぞ」

「えっ、どこに?」

俺は瞬間的に考える。学校に持っていくもので、盗聴するなら、携帯。

俺は、田尾のケータイを奪い、ゴミ箱に捨てる。

「あ゛ー! なにするのよぉ!」

「うるせぇ!」

家から出て、街路を二人で走る。

「……で? どこに行くのよ?」

疲れからか、息を弾ませる田尾が聞いてくる。

「決めてねぇ」

「喫茶店……とか?」

 俺は立ち止まる。隣には頬を染めた少女。

 今日、こいつといた時間は、なんだかんだで楽しかった。だが……。

「だが断る」

「むぅ、ムード台無し」

「知るかよ、んなもん。……まぁ、今度は俺ん家来るか?」

彼女の顔が輝く。足元で響く波紋の音が、やけに明るかった。


 まぁ。


……俺の家に倉木さんが先回りしてなかったら、余計に良かったろうが。

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