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半次元の差 中編

「しっかし……」

部屋を見回す。ポスターにフィギュア、CDコンポ。あるのは、それくらいだ。

まぁ、なぜ机がないかはさておいて……。

「本当にゲームはないんだな」

「えっと、押し入れ開けてみて」

従ってみる。

「……」

――想像を完全に超えた範囲で酷いものを見てしまった。


簡易テレビ、ノートパソコン二台、ゲーム機、ゲームが入ってるであろう段ボール。

押し入れって、そのためのもんだったか?

「スゲーなぁ。ゲーム見てここまで露骨にテンション下がったの初めてだ」

田尾が呻くが、どーでもいい。帰りたい。

突然、彼女がパソコンを一台立ち上げる。

「……重くね?」

「ネトゲはね。んーと」

デスクトップのネトゲのアイコンを無視して、マイコンを開く彼女。

あるフォルダでカーソルが止まる。

「データ保管フォルダ、ねぇ」

「そ、捨てたゲームの大抵が、プログラムで入ってるの」

「マジかよ……」

 そりゃ俺よりパソコンが重いわけだ。

「勿論駄作は消すけど、こうやってキー設定すれば……」

スタート画面が開く。試しに、プレイしてみる。……不自由なし。

俺は溜め息を吐く。なんだよ、この会長。

「もう一台には何が入ってんだ?」

彼女は、もう一台を立ち上げ、やはりマイコンを開く。さっき以上のゲーム欄があった。

それらの中の一つを開くと、エクセルらしきものが映される。

「こ、これは……!」

思わず今使っているパソコンから手を離す。

ゲームオーバー画面を見ることなく、もう一台に釘付けとなる。

ゲームのプレイ時間、キャラ、レビューを始め、そのゲームについて深く並んでいる。

ページを変えると、ワードに切り替わり、モンスターや武器、ストーリーやキャラのセリフ、選択肢、果ては何かの計算式。

「……廃人の域超えてねぇか、これ?」

「ブログに使うから」

彼女は照れたように笑った。


まぁ、いつプレイしてるかについては触れないでやろう。

「ゲームの資金はどこからきてるんだ?」

会長という役職柄、ゲーマーの性。バイトの時間はないだろう。

「し、知らない方が身のためだよ、うん」

明らかに慌てている彼女を見て、本能的に頷く。

アフィリエイトぐらいなら、ブログついでにやってそうだが、他にもなにかありそうだ。


「で、そこまでする必要のあるゲームの良さを教えてくれ」

呆れて言った俺だが、これからもっと呆れることになるとはな。

田尾は、目を輝かせて切り出す。

「まず、発売前日に並ぶ所から始まるわ」

「そっから始まるのか」

先は長いな。

「一日を耐え、脱落する人を見下す達成感がたまらないのよね」

「いや、皆が欲しくて堪らないのはゲームだと思うが。お前以外の誰も列に並ぶ達成感は欲してないと思うが!」

「袋を大事に抱えて、買えなかった人にウインクして帰るの」

「お前最低だな」

「喫茶店でツイッターを更新」

「早く家帰れ」

「ブログも更新」

「二回も言わせるな」

「帰宅後、パッケージの包装を取る」

「ホッ、やっとか」

「記念撮影」

「なんの!?」

「そしてパッケージを全力で愛でる」

「その辺は飛ばせ。いや、本気で」

「ゲーム買うとついてくるポイントの紙をこの箱に」

「うっわぁ。スゲー数!」

「応募ハガキを書く」

「あぁ、あれか。それプレイ前にやるもんだったっけか?」

「ポストへダッシュ」

「行くな!」

「山を越え谷を越え」

「俺の記憶では藍住町は平地のはずだが……」

「そして郵便局を越え」

「越えんな! ポストである必要ねぇから!」

「ポストを探して三千里」

「余程運が悪くねぇとそうはならねぇだろうな」

「ようやく辺鄙なところにポスト発見」

「ヤレヤレだぜ」

「しかし、一日一本で、時間が過ぎてたのでやりなおしに!」

「いいから出せよ! 消印が明日でもいいだろ!」

「しかし、五時になったので、結局郵便局へ」

「諦めんなよお前! どうしてそこで辞めちゃうんだよ!」

「あんたどっち側!?」

「駄目だこいつ、早くなんとかしないと……」

「何よそれ! あたしが悪いの!?」

「実際問題そうだろう。ほれ、続き」

「くっ……。じゃあ、家に帰って説明書を――」

「ゲーム始めろや!」

ゲーマーってメンドクセー。


えらく起こっている田尾が俺を睨むが、怒るのは俺じゃないか?

「待ってよ、ディスクを入れる前にシャドーゲーミングがあるわ」

「なんだシャドーゲーミングって! 新しい単語作んな!」

「え、準備体操だけど……しないの?」

「当然のように言われても……」

まぁ、俺もパソコンの起動中に指のマッサージはするが、それとは違うよな。

で、まぁ続き。

「オープニングが素晴らしくて何度も見る!」

「分かる。俺も修造MADは――」

「一緒にしないで! ……五十回見た後、歌を聞くためにもう五十回」

「確かに一緒にすんな! 確実に四時間は経ってるよなぁ!」

「夜一時半ってところかしらね」

なんだろう……自分以上の存在なのか、自分以下なのかわかんねぇや。

「デモプレイを見る。二回見たら、別パターンが」

「まぁ、一種ってことはねぇだろうな」

「五十回見る」

「お前は異常だ!」

「朝になったので、重い体を引きずり、学校へ」

「急に現実入ったな」

「水曜日課は楽で助かったわ」

「ちょっと待て! 学校サボったろ! 昨日火曜だったろ!?」

「倒れるあたし」

「フヒ、馬鹿キター!

」 「全く、誰のせいよ」

「確実にお前だろう、自業自得だろぅ」

「どういう意味!?」

「あ、悪い。俺、馬鹿相手にこんなこと。……本当に、サーセン」

「むきゃぁぁああ!」

頭を掻き毟り、絶叫する田尾。……俺、なんか悪いこと言ったか?

「もういい! 中身はノータッチ!」

拗ねるなよ。この程度のことで。

しかし……。

「小諸?」

「……ドナルドはね、嬉しくなると、ついやっちゃうんだ。ほらね、ランランルー!」

「きゃっ!」

右ストレートを頬にくらった田尾は、床に涙目で座り込んだ。

「二度もぶったね。父さんにもぶたれたこと――」

「殴って何が悪い!」

「何その言い方! どこの宝塚の男役ですか!?」

「それ宝塚の男役じゃねぇか?」

全く、バランスが悪いと思ってわざわざ逆側を殴ってやったのに。ふぅ。

「何その溜め息! 吐きたいのはこっちよ!」

「サーセンカッコワラカッコトジ」

「(笑)とか言うなぁ!」

その後、田尾は自分で左頬に湿布を貼りました。

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