表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

ノンシリアス黒面接

【ノンシリアス黒面接】


 ~プロローグ~


 徳島県立鳴門第二高校受験二日目。

「あーもうオレ落ちた。さようなら」

 加藤が嘆く。俺--塩見隆介は、とりあえず慰めることにした。

「気にすんな。俺なんて、社会四十点も行ってないんだから」

「どうせ他は九十は行ってんだろ?」

 多分八十五店ぐらいだけど、頷いてみた。

 ・・・・・・加藤が、死んだ。

「あ、いや、公立狙いのおまえの方が、私立一筋の俺より上だって」

「・・・・・・ここ公立だけど、なんでいるの?」

 俺は、自信満面の笑みで答えた。

「私立の宿題が終わったから、暇つぶしに」

「ふざけるなあぁ!」

 怒鳴られました。親友(仮)に。

「大丈夫! 受かったときは公立蹴るから!」

「公立蹴るんかい! 大丈夫の理由が分からん!」

 加藤が元気になったので、ボケる理由をなくしてしまった。

 でもボケる! それが俺さ!

「いやぁ、ちょっと定員割れを起こしてみたかったもんで・・・・・・」

「どんな理由!?」


 つーわけで、暇つぶしに定員割れを目指す、俺の公立面接が始まった。


 ~痛恨のミス~


 大丈夫、この程度の高校に俺が落ちるはずないさ。

 そう思っていた。

 ・・・・・・さっきまでは。


 個人面接が始まり、気楽に答えるつもりだった。

「受験番号と名前を教えて下さい」

 予想していた質問。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・俺、何番だっけ? たしかゴロ合わせが・・・・・・。

「・・・・・・しにがみ」

「死神!?」

 しまったぁ! 聞かれちまった。よかったよ公立の方で。

 あー、やべぇ。先生たち、あきらさまに動揺してるよ。

 ・・・・・・俺に残された道は、


 1、何事もなかったようにする。無難。

 2、いつもの俺の明るさとユーモアで乗り切る。不審がられるかも。

 3、ブラックユーモアに挑戦。どうせ他の高校に行くんだから。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・3。


「受験番号423--いえ、死神番、塩見隆介です」

 ヤバい。さっきまでの先生たちの期待大な目はいったいどこに・・・・・・?

「・・・・・・志願理由を教えて下さい」

 真面目に答えたら負け星に違いない。ブラックユーモアで勝負するんだ!

「成り行きです」

「成り行きとは?」

 今、僅かに稼いだ時間で思いついた。

 考える限り、最低な答えが。

 それは・・・・・・。


 ~不憫な面接~


「貴校の倍率は1,47と県一です。だから、定員割れしたら大混乱しそうだなって・・・・・・」

 凍り付く教師たち。一部涙目。・・・・・・トドメをさすなら今しかない!

「だから別に、この学校じゃなくても良かったのです」

「・・・・・・少しだけ待って下さい」

 教師たちの、緊急会議開催。


 あぁ、もうなんかどうでもいいや。

 小声だけど聞こえる。まとめると、マニュアル通りの質問をさっさとやる。ちなみに、あまりにメタな答えはツッコミが入るらしい。

「・・・・・・この学校に受かったら、何がしたいですか?」

 会議のおかげで考える余裕はあった。

「店員割れです!」

「突っ込めるレベルをあっさり超えた!」

 そういってツッコミを入れてるあたり、やるな、この人たち。

 しかし、不憫だ・・・・・・。ブラックユーモアは辛い。教室の空気がヤバい。

「何か趣味や特技はありますか?」

「私のね、趣味はね、嫌がらせね、ですよ」

「なんか文節に区切ったみたい!」

「特技は・・・・・・。人を怒らせることです!」

「納得だ!」

 何この先生。いいツッコミするんだけど。

 もう、俺は止まらない。・・・・・・あぁ、もう。

 その後、五分に渡り、ボケとツッコミが続いた。


 ~面接終了~


 私立入試はもっと緊張した記憶があった。なのに・・・・・・どうしてこうなっちゃったんだろう?

「・・・・・・履歴書とあなたの回答が全く一致

しないのですが」

 今頃聞かれるとキツい。意外と普通に心に刺さるんだけど。

 あぁ・・・・・・。


 俺は、目の前の机を威圧的に叩く。大きな音に、教師たちどん引き。

「俺、不器用ですから。例え履歴書に嘘をつけても、自分に嘘はつけないッスから!」

「・・・・・・イヤイヤ、履歴書にも嘘付いちゃ駄目ですよ!」

 なんか疲れたせいで、いつもの俺と、ブラックユーモアの中間を行ってる気がするよ。

「では、最後に、何か言って置きたいことはありますか?」

 最後という言葉に、教室の全員が安堵する。やっと終わる、良かった・・・・・・。

「俺を受からして下さい! そして、定員割れを引き起こしましょう!」

 一人、教師が悲しそうに首を振る。

「・・・・・・俺、信じてますから! 一緒に大混乱を巻き起こしましょう!」

 面接、終了。


「なぁ、どうだった?」

 加藤が聞いてくる。俺は、怪しく笑った。

「結果はもう決まってるよ。もう発表を見に行く必要すらないね」

「ま、マジかー!」

 何も知らない加藤が崩れ落ちる。

 夕暮れ時の帰り道。涼しい風が胸に突き刺さった。

 それに対し、俺は小さく息を漏らすだけだった。


 ~結末~


 暇つぶしに読書をしていると、ケータイに電話が掛かってきた。

「そうか、今頃合格発表の時間かぁ」

 この着メロは「着信あり」だから・・・・・・なんだ、加藤からかよ。


『受かった! オレ、受か--ツー、ツー・・・・・・』

 アララ、電話切っちゃったよ。

 それにしても、何で加藤の自慢話のために他社と電話しないといけねぇの?

 今度はメールが届いた。

『当然お前も受かってた。むかつく奴め』

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・は?

「・・・・・・何で受かったの?」

 無意識のうちに、逆に質問していた。


 結果。


 俺は私立の香蘭高校に進学した。しかし、国立の滑り止めに受験した人がいたらしく、定員割れは起きなかった。


 俺の面接により、徳島第二高校では面接方法が見直された。

 ・・・・・・徳島の教育委員会では、俺は伝説らしい。ブラックリスト的な意味で。

「しかし、合格取り消し、なんてことになんなくて良かったぁ」

 つーか、その事に気づけよ、俺。

 定員割れが起きてたら、取り消しされてたな、危ねぇ。

 因みに、翌年の受験、ウチの中学は、誰一人として、徳島第二高校には受からなかった。

 もっとも、中学では徳島第二という進学先は、無いものとして扱っていたそうで、五人も受けなかったが。


 取りあえず、俺はたくさんの人に迷惑をかけた癖に、得たものは特に無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ