ノンシリアス黒面接
【ノンシリアス黒面接】
~プロローグ~
徳島県立鳴門第二高校受験二日目。
「あーもうオレ落ちた。さようなら」
加藤が嘆く。俺--塩見隆介は、とりあえず慰めることにした。
「気にすんな。俺なんて、社会四十点も行ってないんだから」
「どうせ他は九十は行ってんだろ?」
多分八十五店ぐらいだけど、頷いてみた。
・・・・・・加藤が、死んだ。
「あ、いや、公立狙いのおまえの方が、私立一筋の俺より上だって」
「・・・・・・ここ公立だけど、なんでいるの?」
俺は、自信満面の笑みで答えた。
「私立の宿題が終わったから、暇つぶしに」
「ふざけるなあぁ!」
怒鳴られました。親友(仮)に。
「大丈夫! 受かったときは公立蹴るから!」
「公立蹴るんかい! 大丈夫の理由が分からん!」
加藤が元気になったので、ボケる理由をなくしてしまった。
でもボケる! それが俺さ!
「いやぁ、ちょっと定員割れを起こしてみたかったもんで・・・・・・」
「どんな理由!?」
つーわけで、暇つぶしに定員割れを目指す、俺の公立面接が始まった。
~痛恨のミス~
大丈夫、この程度の高校に俺が落ちるはずないさ。
そう思っていた。
・・・・・・さっきまでは。
個人面接が始まり、気楽に答えるつもりだった。
「受験番号と名前を教えて下さい」
予想していた質問。
・・・・・・。
・・・・・・俺、何番だっけ? たしかゴロ合わせが・・・・・・。
「・・・・・・しにがみ」
「死神!?」
しまったぁ! 聞かれちまった。よかったよ公立の方で。
あー、やべぇ。先生たち、あきらさまに動揺してるよ。
・・・・・・俺に残された道は、
1、何事もなかったようにする。無難。
2、いつもの俺の明るさとユーモアで乗り切る。不審がられるかも。
3、ブラックユーモアに挑戦。どうせ他の高校に行くんだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・3。
「受験番号423--いえ、死神番、塩見隆介です」
ヤバい。さっきまでの先生たちの期待大な目はいったいどこに・・・・・・?
「・・・・・・志願理由を教えて下さい」
真面目に答えたら負け星に違いない。ブラックユーモアで勝負するんだ!
「成り行きです」
「成り行きとは?」
今、僅かに稼いだ時間で思いついた。
考える限り、最低な答えが。
それは・・・・・・。
~不憫な面接~
「貴校の倍率は1,47と県一です。だから、定員割れしたら大混乱しそうだなって・・・・・・」
凍り付く教師たち。一部涙目。・・・・・・トドメをさすなら今しかない!
「だから別に、この学校じゃなくても良かったのです」
「・・・・・・少しだけ待って下さい」
教師たちの、緊急会議開催。
あぁ、もうなんかどうでもいいや。
小声だけど聞こえる。まとめると、マニュアル通りの質問をさっさとやる。ちなみに、あまりにメタな答えはツッコミが入るらしい。
「・・・・・・この学校に受かったら、何がしたいですか?」
会議のおかげで考える余裕はあった。
「店員割れです!」
「突っ込めるレベルをあっさり超えた!」
そういってツッコミを入れてるあたり、やるな、この人たち。
しかし、不憫だ・・・・・・。ブラックユーモアは辛い。教室の空気がヤバい。
「何か趣味や特技はありますか?」
「私のね、趣味はね、嫌がらせね、ですよ」
「なんか文節に区切ったみたい!」
「特技は・・・・・・。人を怒らせることです!」
「納得だ!」
何この先生。いいツッコミするんだけど。
もう、俺は止まらない。・・・・・・あぁ、もう。
その後、五分に渡り、ボケとツッコミが続いた。
~面接終了~
私立入試はもっと緊張した記憶があった。なのに・・・・・・どうしてこうなっちゃったんだろう?
「・・・・・・履歴書とあなたの回答が全く一致
しないのですが」
今頃聞かれるとキツい。意外と普通に心に刺さるんだけど。
あぁ・・・・・・。
俺は、目の前の机を威圧的に叩く。大きな音に、教師たちどん引き。
「俺、不器用ですから。例え履歴書に嘘をつけても、自分に嘘はつけないッスから!」
「・・・・・・イヤイヤ、履歴書にも嘘付いちゃ駄目ですよ!」
なんか疲れたせいで、いつもの俺と、ブラックユーモアの中間を行ってる気がするよ。
「では、最後に、何か言って置きたいことはありますか?」
最後という言葉に、教室の全員が安堵する。やっと終わる、良かった・・・・・・。
「俺を受からして下さい! そして、定員割れを引き起こしましょう!」
一人、教師が悲しそうに首を振る。
「・・・・・・俺、信じてますから! 一緒に大混乱を巻き起こしましょう!」
面接、終了。
「なぁ、どうだった?」
加藤が聞いてくる。俺は、怪しく笑った。
「結果はもう決まってるよ。もう発表を見に行く必要すらないね」
「ま、マジかー!」
何も知らない加藤が崩れ落ちる。
夕暮れ時の帰り道。涼しい風が胸に突き刺さった。
それに対し、俺は小さく息を漏らすだけだった。
~結末~
暇つぶしに読書をしていると、ケータイに電話が掛かってきた。
「そうか、今頃合格発表の時間かぁ」
この着メロは「着信あり」だから・・・・・・なんだ、加藤からかよ。
『受かった! オレ、受か--ツー、ツー・・・・・・』
アララ、電話切っちゃったよ。
それにしても、何で加藤の自慢話のために他社と電話しないといけねぇの?
今度はメールが届いた。
『当然お前も受かってた。むかつく奴め』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・は?
「・・・・・・何で受かったの?」
無意識のうちに、逆に質問していた。
結果。
俺は私立の香蘭高校に進学した。しかし、国立の滑り止めに受験した人がいたらしく、定員割れは起きなかった。
俺の面接により、徳島第二高校では面接方法が見直された。
・・・・・・徳島の教育委員会では、俺は伝説らしい。ブラックリスト的な意味で。
「しかし、合格取り消し、なんてことになんなくて良かったぁ」
つーか、その事に気づけよ、俺。
定員割れが起きてたら、取り消しされてたな、危ねぇ。
因みに、翌年の受験、ウチの中学は、誰一人として、徳島第二高校には受からなかった。
もっとも、中学では徳島第二という進学先は、無いものとして扱っていたそうで、五人も受けなかったが。
取りあえず、俺はたくさんの人に迷惑をかけた癖に、得たものは特に無かった。