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ホンマの味

今回のテーマは天津飯です。

 ここは松平まつひら市にある希望が丘商店街ーー通称「ゆうYOUミラーじゅ希望が丘」。国会議員の重光幸太郎先生のお膝元としても有名だ。


 この商店街は実に様々な店舗が入っており、店舗同様個性豊かなメンバーが揃っていて、仲が良い。

 その中でも特に交流が深いのは、「喫茶トムトム」、「篠宮酒店」「JazzBar黒猫」、「居酒屋とうてつ」、「中華料理神神シェンシェン飯店」「美容室まめはる」といった所だろうか。


 賄いに出された韓国冷麺をダイサクが食べられないと知って神神飯店は一瞬どよんとした空気に包まれたが、その中で開はいち早く立ち直り、厨房に戻ると鍋を振るい始めた。

 しばらくして戻ってきた開は、

「ダイサク、ならコレ食うアルね」

とダイサクの前にに今出来たばかりの料理を置いた。

「天津飯……」

開が置いたのは具入りの卵焼きをご飯に乗せてあんをかけたどこにでもある天津飯だ。だが開は、

「コレがホンマモンの天津飯アルね」

と胸を張ってダイサクにすすめる。ホンマモンってそもそも天津飯に偽物ってあるのか? ダイサクは内心そう思いつつ、出された天津飯を口に入れて目を見開いた。

「こ、こればーちゃんの天津飯だ!」

それは子供の頃母の実家で食べた天津飯の味だった。

「バーチャン?」

一方玉爾は耳慣れない呼称に首を傾げる。

「オンマ、ハルモニのことだよ」

天衣がそう説明すると、

「ハルモニ! ダイサクのハルモニも中華作られるか」

と興奮気味に冷麺の鉢を置いて立ち上がった。

「いや、正確に言うとばーちゃん家の近所の中華料理屋のですけど」

「なんだ、違うんだ」

残念と天衣。だが、どういう意味で残念なのだろう。ダイサクがそう思っていると、

「ダイサクの婆婆は大阪か?」

と開に聞かれた。

「いえ、松阪ですけど」

「ひぇ? 松阪??」

その答えに対して開ではなく、天衣が反応する。要するに天衣だけがその漢字一字違いの町の距離感がつかめているということだ。聞いた当の開は隣町ぐらいにしか思ってはいないようだ。

「ポク日本来たのは横浜アルね。

コレ教えた『ホンマ』が大阪アル。

ホンマ、ウチで天津飯一口食って『コレ天津飯違う』

言ったアルね」

そして開は神神飯店で、この天津飯が出されるようになった経緯を話し始めた。


 開がこの店を始めた頃の事である。ある日、いかにも血の気の多そうな青年が店を訪れた。青年は行儀悪く椅子に座り、

「おっさん、天津飯」

オーダーしたが、出てきた天津飯を一口食べたとたん、

「おっさん、何考えとんやこんなもん天津飯とちゃう!」

と関西弁で怒り出した。

「そんな訳ないあるね。ポク、横浜の老師ラオツーにそうやって作り方習ったアル!」

大体、そもそも中国にいた頃には天津飯など見たことがなかった。開自身がそのまさに天津出身であるにも関わらずだ。青年は開の言い分も聞かず、

「大体、中に入ってんのがカニかまやて、それアカンやろ。あれはカッコだけはカニやけど、味は思いっきり魚やんけ。本ちゃんのカニが高いっちゅうねんやったら、100歩譲ってもそこはエビやろ。

んで、一番許せんのが『あん』や。酸っぱいのは反則技やで。卵焼きの繊細な味がみな死んでしまうやんけ」

開の作った天津飯にあーでもないこーでもないとダメ出しする。その講釈を一通り聞いた開は、腕組みをして青年の前に立った。

「なんや、やるんか!」

その姿に少しビビりながら虚勢を張る青年に、開は腕組みしたまま、

「教えろ」

と言った。

「作り方言え。ポクがその通り作るアル」

「作ってくれるんか?」

驚いた様子で聞き返す青年に、開は真顔で頷く。

 どうせ、本来天津にはない料理なのだし、そんな別の地方の料理も吸収したいがために自分はこの日本にやってきたのだから。料理の幅を広げるためのダメ出しなら、寧ろ大歓迎だ。

 そして、青年はこのできあがった天津飯を彼を捜しにきた彼の相方と争うように完食し、以来松平周辺に仕事があるときには必ず寄るようになった。


「けど、ホンマ最近来てないね。

元気はわかってるけど、あんなに仕事して大丈夫か」

と言う玉爾に、

「えっ、来ないのに元気だってわかるんですか」

とダイサクは首を傾げた。

「うん、解るよ」

それに対して、天衣が指さしたのは店の壁。そこに掛かっていたのは、お笑いコンビ「カウントダウン」のサイン。カウントダウン自体は解散してしまったが、ツッコミ担当の本間祐司は、それから司会業に転向し、今や毎日顔を見ない日はない位の売れっ子だ。

それを見て、ホンマって、大阪弁のホンマじゃなくって名字の本間かとダイサクが妙に納得したのは言うまでもない。


日本を知らない開ちゃんとの絡みなので、書ききれませんでしたが、天津飯は日本が発祥の料理で、天津では数年前までどこにも販売してなかったとか。


なのに、天津飯。謎です。


あと、静岡辺りを基準にして西と東で鶏ガラ醤油と甘酢にあんの味が変わります。


これも理由は謎。


ま、一般庶民は美味しければいいですけどね。

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