結婚式の招待状
醸兄と天衣が結婚して2年後くらいのお話です。
「オンマ、まりちゃん結婚するんだって」
あたしは、遊びに来たオンマに招待状をひらひらさせながらそう言った。
まりちゃんというのは、あたしの専門学校の時の友達で佐藤まり。食べることが本当に大好きで、学校を卒業した後もちょこちょこウチの店に来てくれていたので、卒業した後は、オンマの方がよく会っているかもしれない。
「そ言えばまり、最近あまり来てなかったな。結婚するか。いいな。相手誰ね」
するとオンマはそう聞いてきた。
「ん? 醸兄の高校時代の友達だよ。結婚式で同じテーブルに座ったのがきっかけ」
ふふふ、あたしたちが恋のキューピットなんだよ。
そう言えば最近来てないってのは、ダイエットしてるからか。と言っても、結婚するためにダイエットを始めたって訳じゃない。ダイエットを始めて結婚することになったのだ。あたしから言わせれば中華は立派なダイエットメニューだと思うんだけど、お店じゃどうしても単品デカ盛りにならざる得ないしね。また、まりちゃんの顔みると、パーパもがっつり盛っちゃうしさ、また、まりちゃんもそれ、完食しちゃうから……
話がそれちゃった。
旦那さんになる浩さんは、某有名酒造メーカーの開発部に勤めてる人。
結婚式のテーブルでの自己紹介のとき、糀loveを滔々と語って女性陣をどん引きさせ、あげくの果てにまりちゃんに、
「発酵食品でダイエットしませんか」
と言ったとか。
「まったくデリカシーってものが欠落してるのよね。頭良すぎて逆にバカってみたいな?」
と、シナちゃんが呆れながら言ってたよ。
そう、まりちゃんはぽっちゃりをやや上に振り切った体型なのだ。普通なら気にすることもないと思うんだけど、あたしたちが目指してたのは管理栄養士。
「管理する側がその体型じゃ説得力がない」
とはっきりいうセンセがいて、結構肩身の狭い思いをしてたんだよね。
ダイエットの成果はどうだったのかまだ知らないけど、とにかく恋の成果は上がったってことだよね。良かった良かった。
だけど、その顛末を笑って聞いていたオンマに、
「で、まり何(名字)になる」
と聞かれて、
「えっ、佐藤のまんまだよ」
と答えると妙な顔をして、思いついたように、
「そうか、まり夫が佐藤なるか」
と婿養子かと聞くが、
「ううん、浩さんもおんなじ佐藤さんなんだよ。だからそのままってやつ」
と言うと、
「醸の高校友達なら、松平ね。それで、どうしてどっちの親も止めない!
小天も小天ね、なんで二人を会わせた」
といきなりキレた。会わせたもなにも、同じテーブルに座らせただけじゃん。にしたって、名字が同じってだけで結婚できない?? んなバカな。
冗談かと思ったけど、これが実際韓国ではそうらしい。儒教な考え方というのか、韓国では血縁関係というのに厳格で、つい最近八親等以上の結婚が認められたけど、一般的にはまだまだNGで、それどころか同郷の同姓でも大反対されるらしい。
「親戚かもしれないね」
とオンマは言うけど、ひいじいちゃんくらいま遡っても関わりなければ、もうそれ親戚のカテゴリーに入れなくていいと思うけど。
大体、佐藤さんって日本で一二を争う多い名字だよと言ったら、
「韓国も石投げたら李さんに当たる言われるね。けど、結婚聞かないよ」
と返ってきた。すごっ……
とにかく、日本では同じ名字でもぜんぜん問題なく結婚できると懇々と説明して、オンマは渋々理解した。もし苗字が王だからって理由で醸兄との結婚反対されちゃってたら、絶対に家出てたよ、あたし。
で、後日お祝いのリクエストを聞く時にまりちゃんにこの話をした。そしたら……
「へぇ、韓国ってそうなんた。ウチなんてお母さんとお母さんの妹なんだけど、ぜんぜん親戚じゃない佐藤姓の人と結婚したからね。んで、今度私が浩さんと結婚でしょ。家中で大笑いよ。佐藤ばっかで、どっちの親戚かわかんないって」
けど面白がられても反対はされなかったなぁと、まりちゃんから返ってきてまたビックリ。
……それも逆にすごいな。田舎の小さな村なら村中同じ苗字ってきいたこともあるけど、ここ東京だよ。
実はこの苗字は砂糖のお裾分けの意味も込めて佐藤にしたのですが、ファーストネームが決まらない。
そこで、サトウと言えば……ということで、白い黒猫さんから「サトウヒロシ」さんを借りてきました。
佐藤さんではありませんが、妹と同姓のところに嫁いだ知り合いの娘がまた同姓の人と結婚した話も実話です。(大阪ですよ)




