中原シナ子の『小動物』観察日記(前編)
醸兄の天衣捕獲作戦の裏側、シナ子視点です。
王天衣-テンテン
は、かなり惜しい小動物だ。
肩まである髪は少しウエーブがかかって風になびき、色白の肌と、蕾のような唇、いつも何かを探しているようにせわしく動く目。鼻が低めなのを本人は気にしているようだが、寧ろそれが彼女の小動物っぽさを尚引き立てている。
では、なぜ惜しいのか。それは、彼女が168cmという、女性としてはかなり高い上背を持っているからだ。単独で見る分には非常に可愛いのだが、小柄な男性とのツーショットはまるで白雪姫と小人になってしまって残念感満載だ。いや、本人たちが良いというのならそれで何も問題はないのだが。あくまで私たち本人を除く仲間内で、
「残念だ」
という嘆きが日常的に交わされるだけのことだ。
そもそも、私中原シナ子ががテンテンと会ったのは高校3年。選択家庭のクラスだった。
選択家庭と聞いて首を傾げる方も多いかもしれない。だが、元女子校だったウチの学校、日本史・化学にブッキングされているのは何故か家庭科で、しかも家庭科とついてはいるが中身はほぼ料理一択で、ごく普通の家庭料理はもちろん、果ては老人食・離乳食まで作る。栄養士を目指していた天衣は最初からこのクラスに入るためにこの学校を選んだと言い、初めての授業の時、同じ班になった私たちに、DHAを滔々と語って聞かせ、どん引きさせたのがすべての始まりだった。どっちかと言えば学者っぽいその発言に、
「なら、化学でもよくね?」
と言ったのもいたが、彼女はそれを、
「栄養素じゃないものに興味なんかないもん」
と一笑に伏した。
大体、栄養学を学ぼうと思ったきっかけも、家業が中華料理屋だからだという。
「外食の中で一番野菜が摂れるのは、中華だよ」
と彼女は力説する。中華でこそ理想のダイエット食が構築できると息巻く。
……話がそれてしまった。
そんなテンテンにある日、
「ねぇシナちゃん、シナちゃんって今フリーだよね」
と言われた。確かに私はフリーだけど。この女の園で課題漬けの毎日だもの、彼氏なんてできるわけないじゃん。同じ学校に行ってるんだから、念押しなんかしないでよと思ってると、
「あのさ、〇大の法学部の子なんだけど会ってみない?」
と言われた。
「法学くんって言うんだ」
法学部で名前が法学って……なんだその、学部まるごと背負ってるような名前はと思ってよくよく聞くと、法学は渾名で、本名は御法山学というらしい。まぁ、紹介してくれるって言うんだからって会いに行ったんだけど……
現れたのはなんかギラギラしたおっさん系。弁護士志望らしいけど、どう見ても秤のバッジ付けて裁判所にいるというより、そのバッジ付けてる人に土地転がした件で弁護されてるって感じだ。ムリ! って思った時にはテンテンと彼氏(あの子は全力でそれを否定してたけどね)は既に消えていて、いるのは悪徳不動産業者だけ(ため息)
だから、
「ねぇ、あの二人似合わないと思わない?」
と言ったのは、偏に間を持たせるためだけだった。
「だよな、あんな可愛い子はダイサクにはもったいない」
でも、それに対して食い気味にそう言った法学。そんな力説するほど似合わない? サラサラヘアに童顔で、ある意味お似合いっちゃお似合いって気もするけど? ……いや、顔的にはそうだけど、私には決定的に許せないことがある。
そう、テンテンの彼氏モドキくん(彼女が全面否定するので、モドキということで)は164cm、テンテンより4cmも低いのだ。
それで勢い盛り上がっちゃったのが悪かったのか、法学は私があいつを気に入ったと誤解して、つきあってほしいと言ってきた。イヤぁ……ないし、それ。
彼氏モドキくんのサークル仲間だって言うから、私もテンテンとの関係にヒビ入るかなとも思ったんだけどね、悪い奴じゃないのよ、悪い奴じゃないけど、なんか生理的にムリ……てな訳でお断りを入れたんだわ。
でも、それがあんなことになるなんて……
シナ子余計なことをペラペラしゃべるので、二回に分けます。




