誘導式合コンのススメ
ここは松平市にある希望が丘商店街ーー通称「ゆうYOUミラーじゅ希望が丘」。国会議員の重光幸太郎先生のお膝元としても有名だ。
この商店街は実に様々な店舗が入っており、店舗同様個性豊かなメンバーが揃っていて、仲が良い。
その中でも特に交流が深いのは、「喫茶トムトム」、「篠宮酒店」「JazzBar黒猫」、「居酒屋とうてつ」、「中華料理神神飯店」といった所だろうか。
「天衣ちゃんだっけ、良かったらこの後、一緒に打ち上げ行かない?」
飲み食いの代金を払うこともなくなって、そそくさと「モノトーンカフェ」を後にしようとした神神飯店の一人娘、王天衣に、さすがにこれはマズいと思ったのか、連珠の対戦相手であった井上正彦がそう言って声をかける。
「なんで、あたしが打ち上げ……」
それに対して不機嫌全開でそう答えた天衣に、
「あ、飲み代は心配ないよ。なっ、そうだろ」
と小野友樹が、そう言いながらダイサクこと岸本大介をつつく。
「友樹先輩!」
「出さないのかよ、お前?」
「出しますよ、出しますって。問題はソコじゃなくて……」
そりゃ天衣が残ってくれるのはダイサクにとっても嬉しい。嬉しいが、それは同時にむさ苦しい男共の中に、女の子をたった一人放り込むのと同義なのだ。だが、それを見た天衣は、
「あたしが連珠に勝ったからって、今度はお酒でつぶそうと思ってます?」
あたしはそう簡単につぶれませんよと鼻で笑う。元々母、玉爾譲りの酒豪である上に、天衣の想い人の仕事は酒屋。二十歳になったばかりなので、あまり公言はできないが、それなりに『自主トレ』には抜かりはない。しかし、
「やだな、そんなんじゃないよ。
なんなら、N大に行ってるお友達にも声かけてよ。その頃ならもう、ライブも終わってるでしょ」
と返されて、そういうことならと、天衣はライブに行った友人たちに連絡を取った。男共がおごると聞けば、彼女たちに断るという選択肢はなく……部員と天衣の友人たちは挙って駅裏の居酒屋チェーン店になだれ込んだ。
ダイサクは天衣が一人男共に晒されなくて良かったと胸をなで下ろすと同時に、そうか、今回学祭にこだわった先輩たちの意図は最初からそこにあったのかと、こっそりとため息をついたのだった。
そして、その言葉通り天衣は強かった。複数の部員から勧められたものを断りもせずに呑んでいたがけろっとしている。お開きになり、送ると言ったダイサクにも、
「いいよぉ。駅越えればすぐなんだからさ」
と一人スタスタと歩き出す。しかし、ダイサクとしてはたとえ場所が駅裏ではなく、すぐそばの「居酒屋とうてつ」であったとしても送るだろう。
しかし、そんな天衣の足がいきなり止まった。で、その目線の先にいたのは、篠宮酒店の店主の息子、篠宮醸。彼を見つけた途端、天衣はいきなり横道に入ろうとしたが、醸の方がそれに気づいて声をかけてきた。
「天衣、どうした? かなり飲んでるみたいだけど、気分でも悪くなったか?」
そして、その一言にダイサクは驚く。実際かなり飲んではいるが、それが分かるのは自分が側で見ていたからで、道ばたで会っただけでは飲んだことは分かっても、量を過ごしているとは気づかないだろう。
(この人は……テンテンちゃんのこんな細かい変化にも気付くのか)
「別に、気分なんて悪くない……」
天衣はただ、ダイサクと二人きりでいるところを醸に見られたくなかっただけなのだ。
(くそっ、そういう事かよ)
ふくれっ面の天衣に、
「そうか、俺の勘違いか。ゴメンゴメン、デートの邪魔しちゃったかな。じゃぁな、近いけど気をつけて帰れよ。
バイト君、天衣を頼むね」
と言って寂しそうに笑うと、醸はさっさと自分の家の方に歩き去った。
醸の耳には噛みしめるように言った天衣の、
「デートじゃ……ないもん。彼氏じゃないもん……」
という呟きは当然聞こえていない。
そして、その何とも言えない天衣の表情を見たとき、ダイサクは己が想いが届かぬ事を改めて思い知ったのだった。
はい、ダイサク君失恋決定。
次回、ダイサク特攻して、神神飯店の未来話に。




