【商店街夏祭り企画】決戦は金曜日(前日)
ここは松平市にある希望が丘商店街ーー通称「ゆうYOUミラーじゅ希望が丘」。国会議員の重光幸太郎先生のお膝元としても有名だ。
この商店街は実に様々な店舗が入っており、店舗同様個性豊かなメンバーが揃っていて、仲が良い。
その中でも特に交流が深いのは、「喫茶トムトム」、「篠宮酒店」「JazzBar黒猫」、「居酒屋とうてつ」、「中華料理神神飯店」「美容室まめはる」といった所だろうか。
「じゃぁ、テンテンちゃん、俺と祭り回らない?」
と、ダイサクから祭りに誘われて、一瞬醸の顔を思い浮かべた天衣だが、醸とは6歳もの年の差があるので子供の時ですら一緒に回ったことがない。
「ダイサク君と回るの……うーん、どうしようかな」
天衣は少し困ったような表情をしたが、
「別に、良いけど?」
と言う。待ったって、つきあってもいない醸からは誘われることなどないのだ。だが、
「良いね、ダイサク、小天デートしてくるアル」
とニヤニヤ笑いながら父、王開が言うのを聞いて、しまったと思った。天衣は、
「で、デートってそんなんじゃないよね。あたしとダイサク君は家族……そう家族みたいなもんでしょ!」
と慌てて付け加える。(大体あたしの方が背も高いし……)天衣は女性では背の高い部類の168cm、一方ダイサクは164cm。自分より背の高い人じゃなきゃ絶対にダメだとは言わないが、対象外だ。
「けど、ダイサク・小天年同じね。あ、似てない双子の話もあるか」
すると、母、梁玉爾が何か明後日の方向で返してくる。どうせ、ネタ元は往年のアニメだろう。一言ツッコんだ途端、機関銃のように天衣にとってはどうでも良いアニメのうんちく話が始まるのは必至。ここはスルーが正解だ。
そうして安請け合いをしたものの、祭りの日が近づくにつれ、天衣にやっぱり断った方が良いのかなという気持ちが膨らんでいった。そう、例えば「Bar黒猫」の東明透と「Blue Marrow」の澤山璃青のように、このお節介焼き満載の商店街でカップル認定されてしまったら最後、きっと全力で『応援』されるに決まってるからだ。醸兄にそう思われるのもイヤだし、縦しんば『応援』なんかされたら軽く死ねると天衣は思った。
だからと言って、今更花火のときみたく学校の友達を誘うのももう変だ。なんであんな簡単に約束しちゃったかなぁ……いっそのこと、ダメ元で醸兄誘っちゃおうかなと思いつつ、祭りの前日ため息をつきながら商店街を歩いていると、天衣は篠宮酒店の裏に軽トラとは別の車が停まっているのを見つけた。あれは確か篠宮家の長女、吟の車だったはず。
(吟さんもお祭りに帰ってきているんだ)と思いながら店先を覗くと、果たして吟は中にいて、醸はその彼女と横にいる男性にに対して喜びを露わに、何か話しかけている。
(そうよね、醸兄の理想は昔も今も吟さんだもんね……)
醸のシスコンっぷりは昔からよく知っている。彼は年上が好みなのだ。こんな小学校すら一緒に通えなかったガキんちょなんて目じゃないよね。
いいよ、あたしはあたしでダイサク君と祭り楽しんじゃお。
天衣は一度ぐっと拳を握りしめた後、顔を上げ、
「ただいま!」
と大きな声で神神飯店のドアを開けた。
今年の祭りの日程がちょうど金曜日になるので、思わずタイトルに使っちゃいました。
で、次やっとお祭り当日になります。




