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プロローグ

 ここは松平まつひら市にある希望が丘駅前商店街ーー通称「ゆうYOUミラーじゅ希望が丘」。国会議員の重光幸太郎先生のお膝元としても有名だ。


 この商店街は実に様々な店舗が入っており、店舗同様個性豊かなメンバーが揃っていて、仲が良い。

 その中でも特に交流が深いのは、「喫茶トムトム」、「篠宮酒店」「JazzBar黒猫」、「居酒屋とうてつ」、「中華料理神神シェンシェン飯店」といった所だろうか。


 そし、今日も「居酒屋とうてつ」がまだ仕込み中だというのに、神神飯店の一人娘、ワン 天衣テンフェイが、

「籐子ママ何か食べるものない?」

とやってきた。

「だって、今ウチの冷蔵庫にキムチしか入ってないんだもん」

天衣はぶーたれながらそう続ける。神神飯店の名誉の為に言えば、これはあくまでも自宅の冷蔵庫と言う意味だ。決して、店の冷蔵庫(あるいは冷凍庫)という意味ではない。ただ、縦しんば店のであったとしても、野菜はともかく、肉や魚介は業務単位の冷凍食材が主なので、解凍したら最後、天衣一人で食べきれないこと必至ではあるが。そして、天衣は母親が韓国人だというのに、キムチが全く食べられないのだ。

「あら、開さんは? そうだ、今日は月命日だったわね」

一旦首を傾げた藤子は、カレンダーを見てそう言って頷いた。

 神神飯店は毎週水曜日の定休日の他、29日には必ず休みを取っている。それは、天衣の父、ワン カイをこの日本へと誘ってくれた先輩料理人の命日だからだ。

『日本では地方の垣根などないから、客の注文を聞くだけで毎日が満貫全席だ』と言い、志半ばで客死した彼のことを、料理の修行という面ではもちろん、韓国人の妻、ヤン 玉爾オクシと日本語学校で出会わせてくれたことも含めて、本当に感謝している。だから、そんな『恩義ある先輩』に、月命日には花を手向けるのが開のお決まり事になっているのだ。

「玉爾さんは?」

しかし、花を手向けに行くのは、開だけだ。玉爾はどうしたのかと籐子が聞くと、

「オンマは、いつもの14歳ショッピングだよ」

天衣は首を竦めながらそう返した。そう、天衣の母、玉爾はアニメ好きが高じて、アニメ先進国日本にやってきたオタクである。そして今日も夫の居ぬ間に大好きなアニメの聖地に出かけているのだ。

「にしても、小天シャアオティエンちゃん、うちもまだ仕込みが終わってないからねぇ。納豆ぐらいしか」

済まなそうにそう言う籐子に、

「納豆! 食べる食べる。籐子ママんとこのお米って魚沼産のコシヒカリでしょ。コシヒカリに納豆があれば他には何も要らないよぉ。あ、でも味噌汁があったら、それもお願い」

天衣は納豆と聞いて目を輝かせる。(ホントにこの子の味覚って日本人より日本人よねぇ)

籐子は苦笑しながら冷蔵庫から納豆を取り出したのだった。


饕餮さん、大したことないメニューしか作らせないでごめんなさい。

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