女体研究同好会設立に向けて
少年は提案に対し、少し考える素振りを見せてから、笑顔で健吾を正面から見据える。
「はい、いいですよ。私の目的はあくまで同好会設立ですし、君のような厳つい顔がずっと同好会にいると、イメージが悪くなりかねないですから」
何だかさらりと毒を吐かれた。なんかもう、どうでもいいや。この少年から逃げられるならどんな手段も厭わないと、心に誓う。
「……そういえば、どんな同好会か聞いても無かったな。一体、何をやる同好会なんだ?」
少年はきょとんとした顔で、健吾を見つめる。あれ? まだ言ってなかったっけ? と言わんばかりの表情は、健吾の殺意を増幅させる。
「設立するのは、女体研究同好会。私は会長の鬼瓦 誠。よろしくお願いします」
目の前にいる少年の言葉に、頭がくらくらしてきた。
今、何と言った?
女体研究同好会?
一体、何をする同好会だというのだ。しかも、男同士で……。
「女体研究同好会にようこそ、古代 健吾くん」
呆然としていると、再び誠の声に耳を疑う。
今、オレの名前を言わなかったか? 何で、どうして知ってるんだよ。
もしかしたら、全てお見通しだったって事なのだろうか。
「あ、そうそう。さっき君が拾ったグラビアだけど、入会記念にプレゼントします。鞄に仕舞い込むほど気に入ったのですよね?」
誠の笑顔が、いやに眩しい。ここまで会話を続けて確信した。オレは絶対にこの先輩に敵わない。そして、逃げられない。
「いやぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
気が付けば乙女のような悲鳴を上げていた。
こうして、女体研究同好会設立に向けて動き出した。
翌日、健吾は誠と共に中庭で待機していた。植え込みの茂みに体を隠すようにして、息を潜めている。そして、二人の目の前には前回と同様にグラビア写真集が置かれていた。
昨日の物とは違い、開かれているページには色白で、黒いワンピースタイプの水着を着用した少女が微笑んでいる。体型的には少し小柄で何処となく幼い印象を受ける。
その大きな理由は胸が洗濯板の如く起伏に乏しい所だろう。だが、そんな彼女の魅力を十二分に引き出しているポーズと笑顔は、昨日の娘に勝るとも劣らない。
昨日の少女が姉系であるなら、今日の少女は妹系といったところだ。昨日の少女とは全く違う可愛い系の魅力を最大限に発揮している。昨日のグラビアがこの写真でも、健吾は写真集を手にとっていただろう。
ちなみに、この写真集は誠が用意したもので、その慧眼には驚かされるものがある。一度蔵書を拝んでみたいものである。恐らく、自分の想像を遥かに超える代物が山のようにあるに違いない。
「撮影失敗しないように気を付けて下さいね」
ボーっとする健吾に誠が注意を促す。誠に言われるまでもなく、失敗などするつもりは無い。失敗、それすなわち入会への第一歩である。それだけは避けなくてはならい。
「ああ、任せておけ。映像はバッチリ押さえて見せるぜ。それより、獲物が来なくちゃ意味ねーんじゃねーのか?」
中庭で張り込む事、三十分。未だに誰も通らない。まだ四月の中旬だと考えれば、何処に入部しようか決めかねている新入生も決して少なくない筈だ。だが、問題は新入生がこの中庭への道を知らないという事に尽きる。
それに、大半の新入生は何処に入部しようかと、胸をときめかせている最中である。自分のように捻くれていなければ、今頃体験入部を楽しんでいる事だろう。
今頃、利明も何処かの部活動で、体験入部をして楽しんでいるに違いない。
「そうですね。こんな所を通るなんて、入部する気がなくて勧誘を嫌っていた何処かの誰かさんぐらいですよね」
再び毒を吐かれた。この先輩は本当に性質が悪い。気を抜くと息をするかのごとく毒を吐く。気弱な外見とは違って、本当にドSだ。正直、一緒にいるだけで精神衛生上よろしくない。
「そいつは悪ぅございましたね。本当にすんません」
適当に返事をすると、誠はエアマウスを操作する。暗にあのデータを流すぞと脅している。健吾にはささやかな抵抗すら許されないらしい。あんな画像がインターネットに流出したら、某掲示板の人気者になるのは目に見えている。本当に勘弁していただきたい。
「まぁ、そんなに簡単に会員を確保できるわけ無いじゃないですか。これから一ヶ月間はこうやって釣り餌をたらして、獲物がかかるのを待つんですから」
正直、釣りというレベルではない。趣味が釣りの人でも裸足で逃げる拷問である。
「ちなみに、オレはどれぐらいで引っかかったんだ?」
「そうですね、健吾の場合は入れ食いでしたね。正に一瞬、いい引きでした」
何故かやたら口惜しい。別段気にする必要も無いが、負けた気がした。
健吾は疲れた果てた様子で、ずっと写真集にかかる獲物を待っていた。それは忍耐力と、胃袋の耐久力をガリガリ削っていった。何も喋らなくても、誠の口撃が矢のように降り注いでくる。忍耐力が尽きるのが先か、胃袋に穴が開くのが先かという問題だった。
そんな時間を一時間ほど耐えると、誠の様子に変化があった。日は沈みかけて遠くの喧騒も随分と落ち着いてきた頃だったので、予想外の出来事だった。
「健吾、誰か来ますよ。準備はいいですか?」
健吾は慌ててデジカメを構えると、液晶のディスプレイを覗く。そこで、ふとある事に気付く。
「なぁ、写真撮ったら、普通音鳴るよな? でも、オレが撮られた時気付かなかったぜ?」
「それは君が夢中になっていたからですよ」
誠は当然とばかりに答えるが、何となく腑に落ちない。確かに夢中になっていたことは認めるが、音には細心の注意を払っていたはずだ。
それに、デジカメのシャッター音は結構大きいはずだ。聞き逃す事なんてあり得ないと思いつつも、デジカメを構えて獲物を待つ。




